【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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アンコントロールスイッチ!

ヤベーイ!!


EPISODE 23. 血染めの生物兵器 4/4

 メ・ガルメ・レの予告した時刻まで、あと五分。

 

 施設周辺、および内部を警備する警察官たちはいよいよ緊張を強いられていた。ぴりついた空気が場を支配している。

 施設の入口あたりに配置された森塚駿巡査もまた、その小柄な体躯に不釣り合いな長大なライフルを構えて辺りを見回している。普段は軽薄な彼も、警察側の捜査員では最年少の身で抜擢されるだけの能力と信念は持ち合わせているのだった。

 

(出入り口は全部固めている。透明になっていようがこちらに気取られず侵入なんてできない。だとすれば、奴がとりうるのは……)

 

 無論、こちらより上手という可能性もある。何せ九郎ヶ岳遺跡から目覚めてたった三週間ほどでほぼ完璧に日本語を習得していた怪物だ、その頭脳は侮れない。

 それと同時に、彼らの目的がゲームであること、ルールと目標人数をあっさり暴露してしまう迂闊さも持ち合わせている。自らの能力への絶大な自信といえば聞こえはいいが、そこがつけ込む余地を生み出すかもしれない。森塚はそう考えていた。

 

 そしてそれは、見事に的中した。

 

「うぐッ!?」

「がッ!?」

 

 警備していた警官たちが突然うめき声をあげ、壁に叩きつけられた。そのままずるずると昏倒する。

 

「!」

 

 警官たちの吹き飛んだ方向から瞬時に"敵"の居所を推察し、銃口を向ける森塚。その対応の素早さは見事なものだったが、やはり透明な相手に対する不利を覆すには至らない。

 

「――ぐぁッ!?」

 

 結局銃弾が発射されるより早く、ライフルもろとも森塚の小柄な身体は弾き飛ばされてしまった。だがフルアーマーのインゲニウムの下敷きになっても一時的な気絶で済む程度には見かけによらず頑丈な森塚である、宙を舞いながらも即座に個性を発動、黄色を基調としたバイクに変身する。

 

「うわッ、ウザい乗り物になった!?」

 

 かの少年の声だけが響く。わかってはいたことだが、やはりそこにいるのだ。駿速(レーザーターボ)のSD調のツインアイが、着地と同時にギラリと光る。

 

「それも"個性"ってヤツか……。キョーミはあるけどさぁ………いまは遊んでらんないんだよッ!!」

「!」

 

 ことばとともに、封鎖された扉の片方が吹っ飛ばされる。ガルメが蹴破るか何かしたのだろう。当然追尾したいところだったが……変形したとて視力が変わるわけではない駿速では、もはやそのあとを追うことはかなわない。

――駿速、では。

 

「舐め腐ってられるのもここまでだ。――オトナの本気、見せてやるよ」

 

 仮にゲームだとしてやるなら、まだクリアには程遠い。ここからが本当のステージだ。――それもウルトラハードモードであることを、仕掛けた側である森塚駿はよく知っていた。

 

 

 というわけで侵入を果たしたメ・ガルメ・レであったが、その行動は逐一監視されていた。透明化しているとて、鷹野藍の"ホークアイ"ならばその動きを追うことができる。そこまではガルメも学習済みだったが、頭上にある監視カメラ越しに見られていることまでは看破できないのだった。

 

『35号は現在1F廊下、A-3カメラ前を通過』

「――爆心地、了解」

 

 鷹野のアナウンスを受け、ガルメに迫る爆心地こと爆豪勝己。彼だけではない、インゲニウムこと飯田天哉に他の捜査員たち、静岡県警から応援で派遣された警官隊もまた、着実に包囲網を狭めていく。

 そうとも知らず、ガルメは既に勝利を確信していた。この建物の中にターゲットが一緒くたに集められているのだ。そこに殴り込みをかけて大混乱を起こせば、60余人などあっという間に狩ることができると。

 その絶大な自信は幼くして"メ"階級の一員であるという根拠に裏づけられたものであることに間違いはなかったが、幼稚なメンタリティからくる慢心であることもまた真実で。

 

 つまるところ、冷徹な大人たちの"本気"とやらの前に、その幼さは命取りとなる――森塚の考えたとおりに。

 

「――そこにいんのはわかってンだよ、カメレオン野郎がァ!!」

「!」

 

 突如目の前に現れた漆黒の衣裳のヒーロー。昨夕に鬼神ぶりを見せつけられたがゆえにガルメにとってはクウガ、アギトと並んで相対したくないリントにカテゴライズされていた。しかしなぜそいつが、姿を消している自分の位置を掴んでいるのか――あの鷹の眼の女刑事ならともかく。

 リントにとっては"個性"より遥かに伝統のある"科学"の賜物――彼が愛好している携帯ゲームと同様に――などと親切に教える爆心地であるはずもなく、

 

「ゲームオーバーだ、閃光(スタン)――」

 

 

「――(グレネード)ッ!!」

「!?」

 

 辺り一面を強烈な閃光が覆い、ガルメは一時的に視界を潰された。勝己が爆炎を操ることはわかっていても、まさかこんな応用技を隠しもっているなどとは思いもよらず、完全に虚を突かれる形となってしまった。

 そして光が治まったときにはもう……取り返しのつかない状態に、陥っていたのだ。

 

「……!?」

 

 視界にはっきり飛び込んでくる、暗い緑色をしたカメレオン種怪人の肉体。傍らのガラスにもまた、その姿が映り込んでいる。

 つまりは、透明化が解除されてしまった。

 

「バ、バゼ……ッ」

「知らなかったみてぇだな、自分の弱点」

「!」

 

 爆破の構えを解くことのないまま、勝己が不敵な笑みを浮かべている。

 

「テメェは強ぇ光浴びっと透明になれなくなっちまうんだとよ。ま、超古代にゃンなモンねえからわかるわけねえわな」

「……ッ!」

 

 自分でも知らなかった、致命的な弱点。それをリントどもが暴き、トラップとして利用した?

 自分が陥れられたのだという事実は、ほかの何よりガルメに強烈な屈辱を味わわせた。困惑が身を焦がすような憤怒に変わっていく。

 

 だが、それを晴らすにはあまりに分が悪すぎた。相手は単独でも厄介な爆心地ひとりに留まらないからだ。

 

「やったな、爆豪くん!」

「時間がないわ、一気に殲滅するわよ!」

 

 飯田、鷹野、その他捜査員らが一斉に駆けつけてくる。ヒーローたちはもちろんのこと、警官隊も抜け目なく武装している。――彼らと戦い殺害したとて、ガルメにはなんのメリットもないのだ。ゲゲルのターゲットは"高見沢小学校の児童"に絞ってしまったのだから。

 

「~~ッ、ア゛ァアアアアアッ!!」遂に癇癪を起こし、「ゴセゾリダロボパ、ババサズボソグッ!!」

 

 罵倒のことばを吐くとともに――グロンギ語なので伝わっていないが――踵を返し、背後から迫る警官らの頭上を跳び越える。皆、攻撃されるのではないかと反射的に身を硬くしたために、対応が遅れてしまった。

 

「ッ、外に逃げるつもりか……!」

「ハッ、好都合だわ!」

 

 警護している子供たちから引き離すことができるし、何より外なら本気で爆破をかますことができる。――一応借り受けた施設だから、ここで本格的な戦闘を行うのはなるべく避けたいところだった。

 何より、

 

「……ッ」

 

 浮上しかけた他人頼みの思考を強引に抑え込み、勝己は仲間とともにガルメの追跡を開始した。

 

 

 施設の塀を飛び越え、ガルメは一目散に逃走を続けていた。その臆病ともとれる行動とは裏腹に、内心ではあらん限りの呪詛を吐きながら。

 

(クソクソクソクソクソォッ、あいつら殺す!次は絶ッ対殺してやる!!)

 

 弱点を暴かれ、ゲゲルクリアを台無しにされ。――それでもガルメは、次があると思っていた。具体的な次善の策があるわけでもないのに成功を信じて疑わず、"ゴ"になって次なるゲゲルでこの借りを返すのだと。

 超古代、幼くしてカメレオン種怪人としての能力を使いこなし、最年少の"メ"となったグロンギのエリートであるガルメにとり、獲物であるリントに出し抜かれるなど万に一つの可能性としてもありえないことだった。ただ、クウガに封印されたことだけが唯一の失敗――

 

――そう、クウガ。

 

 鋼の馬の嘶きが辺りに響き渡り、次の瞬間ガルメは側面から弾き飛ばされていた。

 

「グァッ!?」

「………」

 

 前輪の一撃をその顔面に喰らわせた、漆黒のマシン。それを操るライダーはその場に舞い降り、メットを脱ぎ捨てた。ぎらりと光る翠の瞳が露わになる。

 

「バビギジャガンザデレゲェ!!」

 

 やはりグロンギのことばで、口汚く青年を罵るガルメ。かの青年はそれに一切応えることなく、「……変身」とつぶやくように言った。

 たちまち下腹部に銀色のベルトが出現する。その中心の水晶が真紅の輝きを放ち……青年を、赤い鎧の異形へと変貌させた。

 

「!、クウガァ……!」

 

 邪魔に次ぐ邪魔。元々脆いガルメの堪忍袋の緒が、遂にぶち切れた。

 

「ギベッ!!」

 

 得意の長く伸びる舌による一撃を繰り出す。昆虫を絡めとるオリジナルのカメレオンよろしく目にも止まらぬ速度は、しかし容易く避けられてしまった。

 そして、

 

 

「――ウォオアァァァァッ!!」

 

 獣のような雄叫びとともに、鋭い拳の一撃がガルメの頬に突き刺さった。

 うめき声とともに、よろよろと後退する。そうして、ようやくわかった。

 

 フー、フーと荒い息を吐き続けているクウガ。戦いはいま始まったばかり、決して疲弊しているわけではない。……それに、固く握り締められたまま解けることのない拳。

 

 怒りだ。怒りによって昂ぶった身体が、それ相応の反応を示している――

 

 それを理解したガルメは、痛む頬を押さえながら吐き捨てた。

 

「何キレてんだよ……キレたいのはこっちだっつの!!」

 

「どこまでも邪魔邪魔邪魔邪魔ッ、邪魔ばっかしやがって!こっちはテメェらなんの価値もないゴミクズどもを点数稼ぎに使ってやってんだぞッ、ありがたく殺されろよ!!」

「――――ッ!」

 

 

『――どうして……どうしておれたち、殺されなきゃなんないんだよぉ……ッ!』

 

 友人と弟を殺された悲しみに打ちひしがれ、そして自分もまた殺されるのだという恐怖に怯えていた、かの少年の声が甦ってくる。

 

 その瞬間、クウガの視界が真っ赤に染まった。

 

 

「――ガァアアアアアアアアッ!!!」

 

 彷徨とともに、再びガルメに襲いかかっていく真紅の獣。その動きが尋常でないことをようやく感じとったガルメは背中を向けて逃亡を図ろうとしたが、何もかも遅かった。

 

 後ろから飛びかかられ、強引にその場に引き倒される。背中や後頭部をフルパワーで無茶苦茶に殴られ、ガルメの脳は激痛に悲鳴をあげた。

 

「グァァァァァッ!?ボン、ジャソグゥゥゥゥッ!!」

 

 クウガの体重がわずかに弛んだ隙を逃さず、ガルメは身体を仰向けにする。起き上がれないまでも、顔面さえ敵に向けることができれば得意の舌の一撃を喰らわせることができるからだ。

 

 だがそれすらもクウガの掌の上なのだと、()()瞬間までガルメは気づくことができなかった。

 

「ッ!?」

 

 あっさりと躱されたうえ、舌の根元を掴まれ、

 

 

 力いっぱい、引きちぎられた。

 

「@$#!■&○¥%※▲!!??」

 

 声にならない悲鳴とともに、鮮血が噴き出す。どばどばとあふれ出すそれが喉に逆流し、それがまたさらなる苦痛をガルメの脳に注ぎ込む。

 殺意も憤怒もそれらの前には容易く萎縮し、合わせて体長2mのボディが縮んでいく。人間体――まだ幼い少年の恐怖に歪んだ顔が露わになる。

 

「ひゅ、ひゅるひへ……ッ」

「………」

 

 口からは血反吐を、目からは涙をこぼしながら必死に許しを乞うガルメ。哀れなる少年の懇願を沈黙とともに聞き届けたクウガは、

 

 組んだ両手を、ハンマーのようにその顔面に振り下ろした。

 

「ぶげぇ!!」

 

 爬虫類は爬虫類でも、蛙の潰れたようなうめき声を発するガルメ。いくら強化されたグロンギの肉体といえど、人間体の、まして成熟しきっていない頭蓋がクウガの拳とコンクリートにサンドイッチにされて無事で済むはずがない。

 びくびくと痙攣する小さな肢体。馬乗りになってそれを押さえ込むクウガ。――駆けつけた捜査本部の面々は、そんなおぞましい光景を目撃する羽目になった。

 

「!、4号、くん……?」

「……!」

 

 飯田も鷹野も森塚も、他の面々も、ただ呆気にとられたような表情でその一部始終を見つめている。ずっと一緒に戦ってきた。ことばもかわした。――こんな獣のような、血塗られた戦い方を見せつけられるのは未だかつてないことだった。

 何より、クウガが緑谷出久だと知る……出久を幼い頃から知っている、爆豪勝己。

 

 それと目の前の赤い怪物がどんどん乖離していくのを、心のうちで感じていた。

 

 何度も何度も組まれた拳が振り下ろされ、その度に反射でガルメの四肢がびくんと跳ねる。それ以外に抵抗らしい抵抗もない。もはやほとんど意識がないようだった。

 

「ハハ、ハ………」

 

 

「ハハハハハッ、アハハハハハハハッ!!」

 

 不意に響く、笑い声。……それはまぎれもなく、クウガの口から発せられたものだった。

 

「ほんとにアレ、4号なのかよ……」

 

 森塚のつぶやきがすべてだった。もはやこれは、ヒーローの戦いではない。ただの殺戮だ。その行き着く先はきっと、グロンギと何も変わらない。

 

 それを体現するかのように――ガルメを見下ろす赤い瞳が、黒く染まろうとしていた。

 

「――!」

 

 それをはっきり認知した途端、勝己は跳んでいた。

 

「もうやめろやッ、デク―――!!」

 

 掌から爆破を起こし、浴びせかける。勝己らの存在をまったく意に介していなかったクウガは、あっさり吹き飛ばされた。

 

「!、爆豪くん……」

 

(いま……"デク"と呼んだのか?)

 

 勝己の行動自体が予想外のものだったが、それ以上に呼ばれた名が飯田の耳に残った。"4号"ではなく、"デク"――それが、彼の本当の名?

 飯田が考え込んでいる間に、クウガは早くも態勢を立て直していた。ほとんど光を失った赤黒い瞳が、今度は勝己へと向けられる。殺意をこめて。

 

「ウガァアアアアアアアッ!!!」

「!」

 

 「邪魔をするな」とばかりに、クウガは怒り狂った。そして――襲いかかる。刹那、その拳にバチバチと電光が奔るのを、勝己は見せつけられることとなった。

 

「ッ、ンの、クソボケナードがァ――!!」

 

 避けようとするでもなく、掌を突き出す勝己。それが爆破を起こすのと、クウガの拳が振りかぶられるのがほとんど同時だった。

 

 結果、敗北を喫したのは漆黒のヒーローのほうだった。地面に叩きつけられ、転がり、倒れる。「ぐ、ァ……」と、弱々しいうめき声が漏れた。

 

「爆心地!――くッ、」

 

 仲間を攻撃されたことで、戸惑うばかりだった鷹野らも腹を決めるほかなかった。皆一斉にライフルを向け、ヒーローたちは個性を発動し、戦闘態勢をとる。

 「待ってください!」と、飯田がそれを押しとどめた。

 

「彼は自分が止めます!皆さんは下がって!」

 

 4号は仲間だ、何度も自分たちを危機から救ってくれた。たとえ暴走しようがその事実は変わらないのだ、万が一にも傷つけたくはない。……それが我が侭でしかないとわかっているから、飯田は独り身体を張ろうとする。

 そんな彼の想いすら、一匹の獣と化したクウガには届かない。全身に電光を纏いながら、標的を移し替える。飯田は覚悟を決めるほかなかった。

 

 そんなときだった。――もうひとつの異形が、戦場に飛び込んできたのは。

 それは暴走するクウガに飛びかかると、もつれ合ってともに地面を転がる。やがて引き離され立ち上がったのは……トリコロールの五体をもつ戦士だった。

 

「何、やってんだ………ッ」

「グゥゥゥゥゥ……!」

 

 戦士――アギト。彼を救けた身でありながら、それすらも忘れてしまったかのように躊躇なく襲いかかるクウガ。差し向けられた拳を左の赤い掌が受け止める。アギトの身体が、ずりずりと後退した。

 

(ッ、こんな、パワーが……)

 

 この電撃を纏うクウガの拳は、普段のそれより遥かに重い。憎しみがリミッターを外している――その事実にたった数週間前までの自分を重ねた轟焦凍は、拳を受け止めながらも堪らず声を絞り出していた。

 

「おまえッ、俺に言ったじゃねえか……!」

 

 

『きみがやるべきことは、これじゃないだろう……!』

 

『思い出せ!きみは何になりたかったんだ!?――オールマイトみたいなヒーローだろう!!だったら……だったら憎しみに囚われちゃ駄目だ!!』

 

 

「――俺にそう言ってくれたおまえが……俺をもう一度ヒーローに戻してくれたおまえがッ、俺なんかよりずっと強いはずのおまえが!そんなモンに、なってんじゃねえ!!」

「ぐ、グゥゥ、ガァァァ……ッ」

 

 目の前で揺れる大きな虹色の瞳が、ほとんど漆黒に変わろうとしていたクウガの複眼にわずかな彩りを与える。かと思えば、また黒に堕ちて……その繰り返し。それに終止符を打つために、焦凍は叫んだ。

 

 

「なりてえモンちゃんと見ろッ、緑谷―――!!」

「――!」

 

 そのことばに身を硬くしたのは、クウガばかりではなかった。――飯田天哉。それはかつて、彼にも向けられたものだったのだ。

 そして、

 

(緑、谷……?)

 

 勝己の呼んだ"デク"に続いて、4号の人間としての名であろうか。だがこちらに関しては、なぜか聞き覚えのある飯田。それもそう昔のことではないような――

 

 そうこうしているうちに、クウガの様子に異変が起こった。

 

「ウ、ウゥ……」

 

 震える声で唸りながら、よろよろと後ずさる。複眼が激しく明滅し……やがて、赤に戻った。

 クウガが力なくその場に膝をつく。黄金の角が、筋肉質な黒い肢体とそれを包む赤い鎧が、ことごとく萎んで人間のそれに戻っていく。

 

「………」

 

 青年の姿をした彼は、赤いクウガとは対照的なエメラルドグリーンの瞳の持ち主だった。俯くそれはひどく澱んでいたが。

 

「彼が、4号……?」

 

 鷹野らはただ呆気にとられるばかりだったが、飯田はその姿に見覚えがあった。

 

(そうだ……思い出した)

 

 数週間前、あかつき村と渋谷区で惨劇が起きたあの日。その直前に、科警研の発目明のもとにいた青年だ。緑谷出久と名乗り自分を称賛してくれた彼に、恐縮しながらサインを書いてやったことを覚えている。

 

「まさか、彼が……」

 

 それに、

 

「……きみは、轟くんなんだな」

「………」

 

 わずかに振り向いたアギト。その腹部にあるオルタリングから光が放たれ……彼もまた、飯田の確信したとおりの青年の姿を露わにした。

 

 

――遂に真実の姿を衆目に晒した、ふたりの英雄。

 ただ、その片割れの両手は……血に塗れたまま、地に投げ出されていたのだった。

 

 

つづく

 




物間「ハハハハッ!轟が仲間になってちょっと調子づいてたかと思えば暴走しちゃって、ざまあないね緑谷……ウゴッ!?」
拳藤「流石に空気読めおまえは。……大丈夫かな緑谷。あと爆豪も、今度は本気で殴られちゃったみたいだし」
物間「痛たたた……あいつらがどんな状態になろうが未確認生命体は出てくるだろ。えーと……今度はイカの奴?」
拳藤「イカ……。未確認生命体もより上位の奴らが次々姿を現してるし……次回は正念場かもな」

EPISODE 24. 英雄アイデンティティー

物間「かくなるうえは緑谷からコピーして僕がクウガに……そしてプルスウルトラさぁ!!」
拳藤「色々言いたいことあるけど……まずこれを100万回読め つ『心清く(後略)』」

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