【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
昨日は20~23話と計4話も観ちゃいました。クウガはまだ2話ごとに物語内の日数が飛ぶんでストップしやすい(ついでに何百回も観てるのでまとめて観る必要がない)んですが、アギトの場合アンノウンはほぼ2話ごとに倒しても物語自体は延々続くのでやめどきがなくなっちゃいます。
フォームチェンジはクウガほど使い分けできてないのがちょっと残念なんですが、溜めの動作がカッコ良すぎて許せてしまう。作者はストームフォームすこです。
――かっちゃん!
また、あの呼び声だ。
――すごいなあ、かっちゃんは。ぼくもかっちゃんみたいなすごいヒーローになりたいな!
ハッ、どんくさいおまえじゃ一生かかっても無理だわ。
そんな所感とは裏腹に、不思議と悪い気はしなかった。だってこいつは、いつだって俺を見ている。憧れだけを映したきらきらとした瞳で、いつも。
それなのに、
――だいじょうぶ?たてる?
――これいじょうはっ、ぼくがゆるしゃなへぞ!
なんでおまえは、俺を
募る苛立ちが憤懣へと変わって、いつしかこの幼なじみが憎いと思うようになっていた。たいせつに思っていたはずの絆がぐちゃぐちゃに歪んでいく。互いのことが、ますますわからなくなる。
その果てに、
――……僕、ヒーローになるのはあきらめるよ。
――いままでごめんね、嫌な思いさせて……。もう、きみの邪魔、したりしないから……。
そう告げる昏く沈んだ翠はもう、自分を映してはいなかった――
「………」
爆豪勝己が一時間きっかりのまどろみのなかで見た夢は、ひどく鮮明なものだった。
それは夢というより、過去の記憶のフラッシュバックであるせいかもしれない。消せない過去。一度なくしてしまったものはもう、この手には戻ってこない。
(あいつはもう、独りじゃない)
いまの出久には沢渡桜子がいる、轟焦凍がいる。ポレポレのマスターや麗日お茶子、心操人使、椿秀一――少年時代にはいなかった、出久を大切に想う者たちが。……幼い出久を傷つけ、独りになるよう仕向けてきた男は、そこにはいない。
必要、ない。
「身体のほうは大丈夫なのか?」
会議室に入って着席するなり、塚内管理官が訊いてきたのは勝己の体調だった。憎しみによって暴走したクウガ――その一撃を勝己が喰らったことは、居合わせた捜査員たちを通じて既に報告がなされている。
「平気です」断言する。「ある程度は相殺したんで」
クウガの拳に打ち勝つことはできなかったといえど、勝己は爆破によってある程度その勢いを削ぐことには成功していた。そうでなければ、いかにタフネスを誇る勝己といえどただでは済まなかっただろう。命もなかったかもしれない。
「それならいいが。一応は35号事件も終息したし、ゆっくり休んでくれ……と、言いたいところなんだが」
管理官のことばを、上司である本部長が引き継ぐ。
「4号が暴走を起こしたらしいことと……その素顔が判明したこと。これらについて改めて、きみに問いたださねばならないワン」
「………」
面構と塚内だけではない、すべての捜査員の視線が勝己に集中する。これまでとは違う、完全に姿かたちを、そして"緑谷""デク"という呼び名を把握されてしまった以上……最後のワンピースを差し出さないことは、許されないのだった。
俯く勝己に助け舟を出すように、元同級生が口火を切る。
「……実は私も、以前一度だけ彼に会っています。あかつき村と渋谷区で同時に事件が発生した日……科警研で」
「!、話をしたのか?」
「はい。と言っても彼が私のファンだと言うので、サインを行った程度ですが。ただ、その際に彼の身分と名前も聴取しました。彼は――」
「――もういい、飯田」
ついに勝己が口を開き、飯田を制した。彼にすべて暴露させてしまうくらいなら、自分が。それが責任だと思った。
「……あいつは、緑谷出久。城南大学の学生で……俺の、幼なじみです」
幼なじみ――その関係性は、本部の面々に驚きを与えるに十分らしかった。皆がざわついている。
わざとらしく咳払いしながらつぶやいたのは、森塚だった。
「幼なじみかぁ……なるほどねぇ、そりゃ守ろうとするわけだ」
訳知り童顔をわずかに睨めつければ、彼は「あれ?」とのたまいながら肩をすくめた。
「僕、なんか間違ってた?」
「……別に。幼なじみっつっても、仲良しこよししてたわけじゃねえ。それだけは言っときます」
そんな私的なことを言い募ったとてこの場ではなんの意味もないことは、勝己自身よくわかっていたが。
「まあ、きみたちがどの程度親しいかはこの際置いておくとして……。つまり彼は未確認生命体とは違う、まぎれもない人間だということだな?」
「……はい」
「あれが彼の個性ということ?」
「いえ、あいつは元々"無個性"です。九郎ヶ岳遺跡から出土したミイラの身につけていたベルトを身につけた結果、4号――超古代において"クウガ"と呼ばれていた姿に変身できるようになった」
「クウガ……超古代においてはそれが未確認と戦っていた戦士だったというわけか」
エンデヴァーが納得顔でうなずいている。彼もまたあかつき村事件をきっかけにクウガ=出久だと知りはしたが、その力の出処まで詳細に知っているわけではなかった。
「だが、なぜ彼"も"暴走してしまったのか……その理由がわからないことには、身元が判明したとて信頼はしがたいワン」
面構のことばは、この場のほとんど総意と言うよりほかになかった。何度も窮地を救けられ、既に全幅の信頼を置いている飯田天哉、そして息子のことで密かに恩義を感じているエンデヴァー――例外はせいぜい彼らくらい。
どれほど功をあげ固い信頼を築いていようが、そんなものたったひとつの失態の前には脆く崩れ去るのだ。勝己自身そのことを身に染みて実感していた。信頼を取り戻せるとは限らないにせよ、説明を尽くすことから逃げられないことも。
――結局勝己は、桜子の発見した件の碑文について語らざるをえなかった。霊石アマダムによって身体が作りかえられ、それが脳にまで影響を及ぼすかもしれないことも。
「……もう、彼を戦わせるべきではないんじゃないか?」
すべてを知ったあとの飯田のつぶやきが、何より勝己の脳裏に焼きついた。
*
夜が明け朝が訪れた。
既に本格的な夏を迎えた東京の夜明けは早く、人々が活動を始める頃にはもう太陽がずいぶんと天高く昇っている。
その激しい太陽の光によってつくり出された蒸し暑い空気に辟易しながら、出勤に臨むサラリーマンたち。本音ではエアコンの効いた涼しい自宅でごろ寝していたいのだが、そういうわけにはいかない。生きる糧を得るためには働かねばならないし……何より、愛する家族を養うという使命がある。実際にたった数分前、彼もまた妻と幼い子供に送り出されたばかりなのだ。
今日もがんばろう。そう心するかの男は、駅まであと数メートルというところで不意に首筋にわずかな痛みを覚えた。何か棘が刺さったような……。
「……?」
反射的にそこに触れるも、何も刺さってはいない。この時期増加の一途を辿る蚊の類でもなさそうだ。
つまりは、気のせい。さほど悩むこともなくそう決めつけた男は、数分後には痛みのことなどすっかり忘れて電車に乗っていた。
「……ビベングデビ、パパンビンレザ」
――もう二度と、家族の顔を見ることができないとも知らずに。
*
早朝のうちに関東医大病院から退院した出久は、いったん自宅アパートで着替えたあと城南大学を訪れていた。心のうちの鬱屈は絶えることはないが、薬品のにおいがする部屋に閉じこもっていてもそれがなくなることは決してない。だったら学生の本分として、講義に出席して勉学に励んだほうがいい……集中できるかはまた別の話だが。
それでもとっている講義まではまだ時間があったので、出久は考古学研究室に顔を出すことにした。昨夜わざわざ関東医大にまで顔を出してくれたのに、結局ひと言もことばをかわすことなく帰してしまった。せめてお詫びとお礼くらいは、しておかなければ。そのためには。
(ふつうに、しなきゃ。ふつうに……)
トイレの洗面台でばしゃばしゃと顔を洗い、鏡に向かう。そこに映る、相変わらず冴えない童顔。でもそれが夢に見たあの黒いクウガと重なって、ひとりでに身震いがした。
「……ッ」
その記憶を強引に抑えつけて、無理矢理口角を上げる。そうしてつくった笑顔はひどく歪で、とても自然に笑えているとは言い難い。溜息すら吐き出せないままに、出久はハンカチを顔に押しつけながら薄暗い廊下に出た。
と、
「アレ、緑谷クン?」
「!」
ちょうど用を足しに来たらしいフランス人考古学者――ジャン・ミッシェル・ソレルが声をかけてきた。
「あ……おはよう、ございます………」
「Bonjour!桜子サンに会いに来たノ?でもザンネン、今日はマダ桜子サン来てないヨ」
「!、………」
「そう、ですか」――そう応えるのが、精一杯だった。桜子はいつも、朝早くから夜遅くまで研究室にいる。事前の連絡も必要なく、ふらりと訪ねればいつでも出迎えてくれると思っていた。
彼女もまた、出久が昨日何をしたのか聞かされているはずだ。憎悪に囚われ、闇に堕ちかけた自分……そんな自分に、彼女は何を思っただろうか。
「緑谷クンどうしたノ、元気ないヨ?」
「!、あ、い、いえ、そんなことは……」
「イヤ……わかるヨ。あんな碑文出てきたラ、不安になるに決まってるよネ」
「……あんな、碑文?」
怪訝な表情を浮かべる出久。それを目の当たりにして、ジャンはしまったと思った。
(ボク……また余計なコト言っちゃっタ?)
後悔先に立たず。「じゃあコレデ……」とトイレに逃げ込もうにも、出久は進行方向に立ちはだかっている。
「詳しく、聞かせてください」
「イヤ、デモ……」
「お願いします!」
気迫に圧され、結局ジャンは出久にすべてを伝えた。"聖なる泉、枯れ果てしとき……"――その碑文を知ってしまった出久の心は、さらに曇ることとなった。
*
「ふぁ、あ~……終わったー!やっと休める!」
警視庁玄関にて、森塚駿は大きく伸びをした。35号事件の処理もようやくすべてが終わり、捜査員らは一部を残してつかの間の休暇を得たのだ。完全週休二日といかないのは刑事ともなれば皆同じだが、彼らは尚更だ。休日というのは貴重なものなのだった。
「………」
だが、同じく休暇を得た飯田天哉の表情はすぐれない。どこか未練の残る表情で、庁舎を見上げている。
「どした、飯田クン?」
「……いえ」
「ま、今回は事件も事件だったし、何より4号くんたちのこともあるからね。引きずる気持ちはわかるよ」
「――でもさ、だからこそ切り替えていかんと。休んでるときはそれこそ仕事の記憶なくすくらいじゃないと、特にきみみたいなタイプはもたないよ?」
「そう、ですね……。わかってはいるのですが……」
昔から兄をはじめ周囲に何度も言われたこと。そうして休むときはしっかり休むのが精神衛生上重要なのは理解しているつもりなのだが、やはり根っからの生真面目である飯田天哉、なかなかうまくいかないものである。
「ま、無理はしなくていいけどさ」逞しい背中をポンポンと叩きつつ、「じゃ、最後にひとつだけ仕事の話していい?」
「?、なんでしょう?」
飯田の背中に当てていた手をそのまま顎に持ってきつつ、森塚はつぶやく。
「4号氏のことはともかくさ……ショートの件についてはお偉方、前々から知ってたと思わない?」
「!、……森塚刑事も、そう思われますか」
飯田もその可能性は疑っていた。面構も塚内も、4号――クウガについては前のめりの姿勢で勝己から情報を聞き出そうとしていたのに、もうひとりの4号――アギトに関してはそれがなかった。だから、父親であるエンデヴァーの言動と併せるとそう考えるのが自然だとすら思われた。
だが、だとしたらなぜ、彼らは「アギト=轟焦凍」の事実を自分たち捜査員に隠してきたのか。
それはきっと、焦凍がアギトへの変身能力を得た理由と無関係ではない――飯田はそう考えた。それが、彼が一度失踪を図ったわけにも繋がることも。
(もしかすると、オールマイトとのことも、何か……)
高校時代、いつからかオールマイトと急速に親しくなっていった焦凍。その理由を尋ねてもはぐらかされてばかりいたが、いまにして思えば――
「いーいーだークン?」
「!」
我に返ると、森塚が下からこちらを覗き込んでいて。
「どーする?いまから戻って、塚内さん問い詰めてみる?取調室にでも引っ張り込んで、"オラ吐けコラァ!!"ってさ」
古い時代の典型的な鬼刑事をイメージしたのだろうが、飯田からすると元同級生かつ同僚の爆ギレヒーローの物真似にしか見えない。
少し思案したうえで、飯田は答えた。
「……いえ、それは明日にしましょう。今日は気持ちを切り替えてゆっくり休むべきかと!」
「ハハッ、オーケーオーケー。そんじゃ、また明日――」
森塚が別れのことばを紡ぎかけた途端、彼の携帯がポケット内で振動した。
「はい森塚。――!、わかりました。すぐ戻ります」
通話開始から終了まで十数秒、その間に森塚の表情は大きく様変わりしていた。
「――インゲニウム、戻ろう」
「奴ら、ですね」
「うん。まだ確定じゃなさそうだけど……大丈夫かな?」
「聞かれるまでもありません!」
帰宅するなら気持ちを抑えるよりほかにないが、職務に戻るならその必要もない。むしろ瞳を輝かせながら、ふたりの青年は来た道を引き返すのだった。
――そして、およそ一時間後。
事件発生現場は中央区にある企業のオフィスビル内。そこには凄惨な光景が広がっていた。
「ひっでぇなこりゃ……爆弾テロかよ」
森塚がごちたとおり――その一室はデスクや書類の類がことごとく吹き飛び、黒焦げになっていた。爆破された……ようにしか見えないし、事実そのとおりだった。
だがその詳細は、彼らの当初の想像を遥かに超えたものだったのだ。
「しかし、爆発したのがまさか人間だなどと……」
人間が爆発した――もはや言うまでもなく、それは比喩でもなんでもない。実際に人体が爆発し、こんな惨状をつくり出したのだ。
「ガイシャは涼木颯司34歳、ここの従業員だってさ。……もっとも、ガイシャは彼だけじゃ済まないわけですけど」
オフィス内がこんな状態になっている以上、そこにいた人間も無事で済むはずがない。……死んだのだ、手の指では数え切れないほどの人間が。
「……ッ」
拳を握りしめる飯田。彼と同じ想いを抱きつつも、森塚は表向き冷静に、所轄の捜査員に尋ねた。
「生存者は?爆発が起こった際の状況は把握できてますか?」
「偶然トイレに立っていて、巻き込まれずに済んだ者がひとりいます」
ゆえに、爆発の瞬間自体は目撃していないが――そう前置きしつつ、捜査員は得た証言について語った。被害者は爆死の直前まで、体調が悪そうにしていた。熱があるようだった……とのこと。
それと、もうひとつ。
「これを見てください」
そう言って捜査員が差し出してきたのは、透明な小袋に入った暗い緑色をした粉状の物体。
「これは……灰、ですか?」飯田が訊く。
「はい。被害者の遺体から採取されたものです」
ひとりでに人間が爆発するなんてことありえない――爆豪勝己のような個性はともかく――。しかし、人間の体内からこんなふつうでない灰が検出されることはもっとありえない。で、あれば……以前ならヴィランの犯行と決めてかかっていたところ、いまの彼らは既に未確認生命体による事件であると確信していた。だから捜査本部の面々が呼ばれたのだ。
「……36号か。だとしたら、今度のヤツはある意味いままでで一番ヤバそうだ」
もっと人が密集しているところで、同じことが起きたら――その懸念は、いまこの瞬間に実現していてもおかしくない。そしてその可能性を、少しでも現実から遠ざけるためには……茫然自失としていたかの翠眼の青年の姿を思い出し、飯田天哉は唇を噛んだ。
キャラクター紹介・リント編 バギンドゲギド
蛙吹 梅雨/Tsuyu Asui
個性:蛙
年齢:20歳
誕生日:2月12日
身長:152cm
血液型:B型
好きなもの:雨、ゼリー
個性詳細:
面構本部長などと同様、動物の姿かたちと能力を先天的に得た"異形型"の個性だ!
外見はそこまででもないが、能力としては蛙そのもの!舌を長く伸ばしたり壁に吸着したり水中でスイスイ活動したり、なんと保護色まで使えちゃう!カメレオン種怪人?知らないなぁ。
備考:
ヒーローネーム"フロッピー"。爆豪勝己らとともに雄英高校を卒業したのち、水難救助・海賊取り締まり専門のヒーローとして活動している。三年目にして早くも独立し、フリーでそれなりの地位を築いているぞ!
勝己や焦凍のような派手さはないながら高い実力と常に落ち着いた大人びた性格を持ち合わせており、雄英時代から一目置かれていたが、ヒーローになってさらに磨きがかかっている。まだ世間的にはクウガ=未確認生命体の同類と思われていた頃に正体を知っても出久を疑うことなく、共同戦線を張ることのできる度量の広さも持ち合わせているぞ!
好感をもった相手には決まって「梅雨ちゃんと呼んで」とお願いするらしい。雄英時代に勝己以外には一度は呼んでもらえており、メ・ビラン・ギ撃滅作戦への協力と引き替えについに勝己にも呼ばせることに成功した!よかったな、梅雨ちゃん!
作者所感:
現在登場しているメインキャラはひととおり紹介し終えたのでゲスト紹介に突入しました。
ヒロアカ女子の中でもぶっちゃけ一番カワイイと思います。性格もexcellent。峰田とは名コンビだと勝手に思ってます。
実は初期案では、高校時代かっちゃんと付き合ってたという設定がありました。ボツにはなりましたが……芦戸さんの「梅雨ちゃんのこともあるしぃ~」が名残だったりします。なんかお互いちょうどいい距離感でお付き合いしてそうですこのふたり。かっちゃんも梅雨ちゃん相手だとあまりイライラしなさそうだし。