【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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白のクウガ・グローイングフォーム登場!…で引き

どうでもいいけどグローイングフォームっておデブに見えます
首から下はマイティーフォームと色が違うだけなはずなんですが



EPISODE 1. 緑谷出久:リユニオン 3/3

 勝己がズ・グムン・バと名乗る怪人を追っているのと時を同じくして、出久と桜子は九郎ヶ岳周辺を管轄する警視庁黒水署を訪れていた。

 

「………」

 

 ほとんどことばを失った状態の桜子。その顔色は、研究室で刑事に囲まれていたときにもまして青くなっている。無理もないことだと、出久は思った。

 

 到着早々、ふたりは視聴覚室に案内され、とある映像を見せられた。九郎ヶ岳遺跡に残された、調査団所有のビデオカメラに記録されていた映像である。

 それは、あまりに凄惨なものだった。石室内に安置された石棺が、ひっくり返され――奥から、禍々しい異形のシルエットが姿を現したのだ。

 逃げまどう調査団の面々を、異形は暗がりの中で抹殺していく。断末魔と何かが潰れる音が断続的に響く。その中にあって、異形はベルトのような形状の装飾品を拾い上げ、

 

――クウガ……!

 ぞっとするような低い声とともに、地面に叩きつけた。

 その後も虐殺は続き、最後に異形が去っていったところで映像は途切れていた。調査団の面々と直接の面識がなく、男である出久すらあまりの酷さに目を背けたほどなのだ。中止を求めることもなく、最後まで見届けた桜子は、それだけ気丈な女だった。

 

「沢渡さん……今日はもう、帰って休んだほうがいいよ。僕、送ってくからさ」

 

 出久がそう気遣うが、意外にも桜子はかぶりを振った。

 

「ううん……研究室に行くわ。託された"これ"の古代文字、解読しなくちゃ……」

 

 桜子の視線が、アタッシェケースに滑る。その中にしまわれているのは――映像の中で異形が叩きつけていた、ベルト状の装飾品であった。

 

「そのベルト、一体なんなんだろうね?石棺に葬られていたミイラが身につけてたって、刑事さんは言ってたけど……」

 

 実物を見せられた瞬間、単なるアクセサリーの類ではないと、直感的に出久はそう思った。バックルに埋め込まれた漆黒の宝石を目にした途端、なんだか吸い込まれそうな錯覚を覚えたのだ。

 

「解読してみないと、なんとも言えないわ。……ただ、側面に書かれた古代文字だけは、わかったかもしれない」

「え、なんて書いてあったの?」

「……"力"」

 

 力――それはかつて、出久が渇望していたものだった。それさえあれば、自分だってヒーローになれるのに。

 

「……力、か」

「出久くん?」

「ううん……なんでもない」

 

 もう、そんな日々は遠い思い出でしかない。それに、"力"と言ったって、まだ個性もなかった時代の古代人たちの書き残したものだ。きっと実用的な意味ではないのだろう。出久は一瞬浮かびあがってきた、幼い憧憬の情を振り払った。

 

「研究室なら、僕も行くよ。いまはひとりにならないほうがいい。……まあ、コーヒー淹れるくらいしかできないんだけどね」

「……ありがと。十分助かるわ、出久くん、コーヒー淹れるの上手だし」

「あははは……別に、ふつうだと思うけどなあ」

 

 冗談を言えるくらいには、桜子の気分も浮上したようだった。よかった。出久はほっと胸を撫でおろした。

 

 しかし――彼らにもまた、魔の手が迫っていた。

 

「……リヅベダ」

 

 警察署を出、歩くふたりの頭上――建物の屋上から、人の形をした怪物が、四肢を使ってゆっくりと這い下りてくる。ふたりはそれに気づかない。しかし、その怪物――ズ・グムン・バは、蜘蛛に似た瞳でじっと彼らを狙い澄ましている。

 そして、

 

「ゴパシザ、クウガ――シャアァァッ!!」

 

 ついにグムンは壁を離れ、ふたりの背中と一気に距離を詰めていく。ふたりはまだ気づかない。いや、いま気づいたとしても、もう――

――刹那、横っ面から放たれた爆撃が、グムンを吹き飛ばした。

 

「ッ!?」

 

 背後数メートルの爆音・爆風、これには流石に気づかないわけもない。ぎょっと振り向いたふたり――とりわけ桜子は、地面を転がるグムンの姿を目の当たりにして「ひっ」と息を呑んだ。

 出久だって、寸分あれば何かしらの声をあげていただろう。だが、彼の驚愕は、爆撃の仕掛け人を認識した途端、さらに深まることとなった。

 

「ッ、追いかけっこは終わりだ、このバケモンが……!」

「――!」

 

 桜子が「爆心地」と、そのヒーローの名を呟く。しかし、出久は違った。

 

「かっ、ちゃん……」

 

 彼が呼んだのは――本名・爆豪勝己をもじった、幼いころのあだ名だった。

 それを耳にした勝己も、はっとした様子でこちらに視線を向ける。覆面から覗く紅い瞳が、ゆっくりと見開かれていくのがわかった。

 

「……デク?」

 

 まるで、時間が停まったように。対照的な色をしたふたりの瞳が、交錯する。

 

 しかし現実には、彼らの周囲をめぐる時は容赦なく動いていた。勝己の隙を突き、グムンが口から糸を吐き出した。

 

「ッ!?」

「かっちゃん!?」

 

 勝己の両腕がぐるぐる巻きに拘束され、身動きがとれなくなる。勝己の顔が焦燥に歪むが、グムンは彼に対しそれ以上の攻撃を加えようとはしなかった。

 なぜなら、

 

「シャアァァッ!」

「!」

 

 グムンは執拗に桜子を狙っていたのだ。再びその殺意に晒された彼女は、足がすくんで身動きがとれない。いや、仮に俊敏に逃げ出したとしても、グムンの人間離れした速さには敵うわけがない。

 

「沢渡さん――!」

 

(このままじゃ、沢渡さんが……)

 

(でも、僕なんかに何ができる……?)

 

(僕には、何もできなかったじゃないか……。あのときだって、僕はかっちゃんを見殺しにした……)

 

(僕は、しょせん何もできない無個性のデクなんだ。まして、あんな化け物が相手じゃ、何も――)

 

 グムンの爪が頭上に振り下ろされ、死の恐怖に耐えかねた桜子は、目を固く瞑った。

 

 

 

――刹那、肉が裂け、血飛沫が飛び散る音が響き渡った。

 しかし、その惨たらしい音に反し、桜子の身体にはいつまで経っても痛みも何も襲ってはこない。怪訝な思いとともに、恐る恐る目を開けた桜子が目の当たりにしたのは……いっそ、自分がそうされたほうがよかったと思わざるをえない光景だった。

 

 出久の、背中。たったそれだけのことだった。たったそれだけなのに、息が詰まり、足先から全身が冷えきっていく。だって血飛沫は、出久の身体から際限なく噴き出しているのだから。

 

「ッ、……」

 

 声にならないうめき声とともに、出久は血の海に倒れ伏した。

 

「いやぁあああああっ、出久くん――っ!!」

「デ、ク……」

 

 桜子の悲鳴。勝己もまた、呆然とその光景を見つめていた。

 

「フン……ザボグ」

「……!」

 

 爪に付着した血を意に介することもなく、グムンは再び桜子に迫ろうとする。だが、唐突にその進軍は止まった。

 脚を、出久の手が掴んでいたのだ。深傷を負ってもなお、桜子にだけは、危害を加えさせないために。

 

「さわ、たりさ……逃げ、……ッ」

「リントゴドビグッ!!」

「がっ!?は、ぐ……っ」

 

 邪魔された怒りをぶつけるかのごとく、グムンは出久を蹴りつけ、裂かれた腹を踏みにじる。骨が軋み、激痛が全身を襲うが、出久はもう絶叫することもできなかった。

 

「ギベ――」

 

 グムンが彼にとどめを刺そうとしたとき、その頭上に、黒い影が差した。

 次の瞬間、爆発。グムンはまたしても吹っ飛ばされる。

 

「……ッ!」

「この……ッ、化け物が……!」

 

 ヒーロー・爆心地の――勝己の声は、怒りに震えていた。いつものようにがなりたてるのではなく、低められ、かすれてすらいる。それは、力なき市民を、目の前にいながら守れなかったやりきれなさか。それとも、

 

 いずれにせよ、勝己はその激情のままに個性を振るった。怯んだグムンは桜子を襲うことをあきらめ、この場を離れていく。当然、全力でそのあとを追っていく勝己。

 桜子の目の前から脅威は去ったが……悪夢のような現実は、その場に残されたままだった。

 

「――出久くんッ、出久くん!!」

 

 アタッシェケースをその場に放り出し、桜子は仰向けに倒れた出久のもとへ駆け寄った。

 

「出久くん……っ」

「さわ、たりさん……ごほっ、ゴハッ!」

 

 出久の口から、ごぼりと赤黒い塊が吐き出される。内臓まで、致命的な損傷を負ってしまっている――素人である桜子にも、それがわかった。わかってしまった。

 

「いや、いやぁ……っ」

 

 パニックを起こした桜子は、ただ、嗚咽することしかできずにいる。そんな彼女の顔をぼやける視界に捉えながら、出久は生まれてはじめて感じる強い達成感に満たされていた。

 

「よかっ、た……沢渡さん……無事で………」

「そん、な……」

 

 これでいいんだ。なしえることが見つからない、無個性の自分の命を、他人の命を守るために使うことができた。まるでヒーローになったようではないか。

 惜しむらくは、目の前の女性にこんな顔をさせてしまっていること、故郷に残してきた母に究極の親不孝をしてしまうこと。――そして、ヒーローとなった幼なじみの記憶に、救えなかった人間として刻まれてしまうこと。

 

(悪いこと、しちゃったな……あやまら、ないと………)

 

 だが、それはもう不可能だろう。痛みはなく、ただ真冬の雪山のような極寒が全身を包んでいる。意識が急速に遠のいていく。

 訪れる"死"に抵抗する気力はもうなく、出久は眠気に身を委ねて瞼を閉じようとする。

 

――そのとき、ふと、アタッシェケースが目に入った。桜子が落とした衝撃で口が開き、ベルト状の装飾品が露わになっている。

 

 刹那、出久の意識は現世に引き戻された。ベルトの石を目の当たりにした瞬間、鮮烈な、不可思議なイメージが、頭に叩きつけられたのだ。

 それは――ひとりの青年が、異形の戦士へと姿を変える光景だった。真っ赤な瞳、真っ赤な鎧を光らせ、先ほどの怪物たちと死闘を繰り広げている。その腰には、あのベルトがあった。

 

 そして不意に、頭の中に声が響く。淡々とした、女性の声が。

 

――心清く、身体健やかなるもの、これを身につけよ。さらば戦士***とならん。

「……!」

 

 出久は、悟った。もう余計なことを考える思考力も失われているぶん、かえって素直に、純粋に。

 

("力"……そうか………)

 

 きっとこのベルトが、自分に力を与えてくれる。たった一回の使いきりで終わらない、何度も、大勢の、人々を救けられるだけの力を。ずっと、欲しかったものを。

 

 だったら、まだ死ねない。最後の力を振り絞って、出久はベルトに向かって手を伸ばした。

 

「出久、くん……?どうしたの……?」

「あ、あぁ……うぅ……」

 

 意志を伝えたくとも、声がかすれて、ことばが出ない。……だめだ。このままでは、届かない。せっかく、自分にもできることが見つかったかもしれないのに――

 だが、運命は、出久を見捨ててはいなかった。桜子が、恐る恐る訊いてきたのだ。

 

「……ベル、ト?」

「!」

 

 出久は、力を振り絞って首を縦に振った。困惑した様子ながらも、桜子はそれに従う。

 彼女の手からベルトを受け取り、

 

「――――!」

 

 全身全霊の力をこめて、裂けた腹部にそれを叩きつけた。

 

「が、」

 

 刹那、

 

「ぐぁ、あ、ああああアアアア――ッ!?」

 

 全身を襲う激痛と身を焦がすような灼熱に、出久は絶叫した。

 

 そして、桜子も。

 

「いっ、いやぁあああああ!!」

 

 彼女の悲鳴は、恐怖と驚愕からくるものだった。出久が苦しんでいるから、それだけではない。ベルトは、出久の身体に触れた途端、侵入を開始したのである。臓器(なかみ)をぐちゃぐちゃにかき分けて。

 

「グァ、ア、がぁああああ――!」

 

 わめき、転がりまわる出久。想像を絶する痛みと苦しみの中で、しかし出久は思った。こんな苦痛がなんだ、このまま終わるくらいなら――何より、自分以外の誰かが傷つくくらいなら。

 

(僕は……(みんな)を守りたい………!)

 

 その瞬間、緑谷出久の肉体から、眩い閃光があふれ出した。

 

 

 

 

 

 

黒水署から出動した警官隊を背後に従えながら、爆豪勝己は怒りにまかせた猛攻を続けていた。

 

「死ね、死ねッ、死ねぇ――ッ!!」

 

 マグマのように、とめどなく怒りがあふれ出してくる。プロヒーローとなって数年、民間人を目の前で死なせてしまったことはこれが初めてではない。そのときだって自分の不甲斐なさに怒りを覚えたし、しばらく無力感に苛まれもした。

 だが、ここまで憎悪を抑えられず、暴れても暴れても止まれないこんな状態になったのは、初めてのことだった。何なんだ、これは。そのときと一体何が違う?

――本当は、気づいていた。違う、唯一の点。救けられなかった相手が幼なじみ(デク)であること。

 

 勝己の猛爆に苛立ったグムンが、ぐるると唸り声をあげる。

 

「ボギヅ……グドドグギギ……!」

「グギグギ言ってんじゃねえええッ!!」

 

 右の大振り、からの爆破。全身が黒焦げになったグムンが吹っ飛んでいくが、表皮はすぐに再生していく。やはり、さほど怯んでもいない。

 それどころか、グムンは糸を吐き出して電柱に巻きつけると、一気に勢いを殺して着地。さらに、

 

「ヌゥゥゥッ、――ギベェェ!!」

「!」

 

 太く硬い鋼のような糸の締めつけでもって、電柱を根元からぼっきりと折り――勝己目がけて、投げつけた。

 

「ッ!」

 

 電柱ごとき、爆破で――実際にそれを実行した次の瞬間、勝己は怪人に出し抜かれたことに気づいた。

 グムンは電柱から寸分遅れて跳躍し……勝己の背後の、警官隊に襲いかかったのだ。

 

「う、撃てっ!」

 

 おののく彼らは一斉に銃弾を撃ち込むが、グムンの身体に跳ね返されることは既に証明済みであった。

 

「く、そが……っ!」

 

 救けなければ。しかし、グムンのスピードには追いつけない。出久に続いて、彼らまで、俺は救えないのか――

 そのとき、だった。

 

 疾風が、勝己の傍らを吹き抜けていったのは。

 

(……な、に?)

 

 振り返った勝己が目の当たりにしたのは、白と黒で構成された、人間大の影。それがグムンへと飛びかかり、地面へと突き落としている。

 その静止とともに、勝己は影のディテールを捉えた。白い甲冑に、黒いボディー、真っ赤な目。額から伸びた、一対の短い角。あれは、人間?ヒーローコスチュームをまとったヒーロー?いや、こんなヒーローは知らない。それに、コスチュームにしては、全身があまりに生々しい質感に覆われていた。

 

(なんなんだ、こいつは……?)

 

 グムン――蜘蛛の怪物と同類か?だが、だとするならなぜ、警官隊を庇うように飛び出してきた?

「ゴラゲパ……」飛び退いたグムンが首を傾げる。「ゴン、ギソギバ、サザパバンザ?」

「………」

 

 白き異形の戦士は答えず、ファイティングポーズをとる。だが、勝己は気づいた。その姿勢はまったくなっていない、素人のそれだ。しかも、脚がわずかに震えている。

 その姿に、勝己は遠い記憶を呼び覚ました。

 

――これ以上は、僕が許さゃなへぞ……!

 無個性のくせに、そうやって自分の前に立ちはだかった、幼なじみの姿。

 

 そして、

 

「う、ウォオオオオオッ!!」

 

 怪物に向かっていく瞬間に発した雄叫びまでもが、もういないはずの彼の姿を、勝己の瞳に映し出していた。

 

 

 

 

 

つづく

 

 




麗日さん「 ゜(゜´Д`゜)゜ウワァァァン 」
かっちゃん「うるせーぞ丸顔!騒いでんじゃねえ!!」
麗日さん「だってデクくんが、私のデクくんがァァァ!!しょっぱなから年上美女といい雰囲気になってるぅぅぅ!!私というものがありながらァァァァ!!!」
かっちゃん「この話ン中じゃテメーとデクは面識ねえからな。テメーはアイツにとっちゃしょせんモブヒーローPだ」
麗日さん「Pて!そんな後ろのほうなん!?……まあええわ、私もきっと次回には登場して『頑張れって感じのデク』イベントでフラグがブツブツブツ……」
かっちゃん「テメーの出番はまだ先だ」
麗日さん「!?、ゲボロロロロロ……」
かっちゃん「吐くな」


次回
EPISODE 2. 緑谷出久:クウガ

かっちゃん「さらに!」
麗日さん「向こうへ!」

かっちゃん&麗日さん「「プルスウルトラァァァ!!」」



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