【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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「勝ってッ!!オールマイト――!!」
昨日の放送は涙なしには見られなかったヨ……。オールマイトの「次はキミの番だ」って台詞、ウインスペクターEDの歌詞「今日の地球は俺達が守る、明日は君がつくってくれ!」を思い出しました。

やっぱりヒーローソングはヒロアカに合致してるものが多いですね。「英雄」なんかは言わずもがな、ウルトラマンメビウスなんかもキャラ皆に聞いてほしいなぁ…と思う次第。あと仮面ライダー3号の「Who`s that guy?」の2番冒頭はなんかすごいかっちゃんへのアンチテーゼを感じます。「Winnerでいることしか~」のところ。

ちなみに拙作の出久とかっちゃんの関係性はガイアの後期ED「Beat on Dream on」をヒントにしてたりします。元がガイアとアグル……我夢と藤宮のことを歌った曲だしね!


EPISODE 25. デク 1/4

 ずっと心の奥底にしまい込んでいた記憶があった。

 

 小学五年生の秋、自然学校。欠片も親しくはない、かえって自分に悪意をもっているクラスメイトたち。そんな彼らと四六時中行動をともにしなければならない緊張感から、おねしょをしてしまった――轟焦凍にも語った、緑谷出久の最も恥ずべき記憶。

 実際そのときの出久はひとり目を覚まして、自分に個性がないとわかったときの次くらいには絶望した。こんなことがクラスメイトたちに知れたらどうなるだろう、まして一番自分を馬鹿にしている幼なじみに――

 

『デク……?』

 

 気づけば紅い瞳がじっとこちらを見上げていて、出久はいよいよ自分の人生は終わったのだと思った。

 でも、彼は――

 

『……おまえはほんと、"デク"だな』

 

 いつもと変わらぬ嘲ることばが、そのときだけはどうしてか、ひどく穏やかに響いていたのはなぜだろう?

 

 十年が経ったいまも、その答えを出せずにいる。

 

 

 

 

 

 戦場にて、ふたつの白が対峙していた。

 一方はグロンギ――イカ種怪人 メ・ギイガ・ギ。烏賊ゆえにもともと純白の表皮をもつ彼に対し、

 

「なん、で………」

 

 呆然とつぶやくもう一方の異形の戦士――クウガ。彼の純白の鎧は、不完全な姿であることの証左だった。

 その姿に困惑を隠しきれないのは、彼自身ばかりではない。先に戦場に到着し、ギイガと戦っていたアギトこと、轟焦凍。そして、

 

「デク………!?」

 

 たったいまこの場に現れた覆面パトカー――そこから降り立った、爆豪勝己もまた。彼の困惑には「デクがなぜここにいるのか」という疑問も同等に含まれてはいたが。

 いずれにせよ……白――グローイングフォームもまた、本来なるはずがない姿。変身しうるのはペガサスフォームの制限時間を超過して体力を使い果たしたときや、メ・ギノガ・デに相対したときのように病み上がりであった場合など、身体が弱っているとき。さもなくば、

 

『ちゃんとした姿にすら、なれなかった……』

 

 

――あのときと、同じ。心に生じた迷いが……クウガの力を、抑え込んでいる。

 

「う――」

 

 

「――うぁアアアアアアアアッ!!」

 

 そんな自分の心のうちを、出久は受け入れることができず――選んだのは、特攻だった。

 

「緑谷!?無茶だッ、よせ!!」

 

 制止の声も聞かず、クウガは突っ走る。止まらない……いや、止まれないのだ。

 そして何より性質が悪いのは、受ける側であるギイガがまったくそれを阻むそぶりを見せないことだ。むしろ両腕を広げ、迎え入れるような姿勢をとっている。

 

 そこに――不完全なクウガが、飛び込んだ。

 

「あああああああああああああ!!」

 

 絶叫にも近い咆哮とともに、殴る、殴る、殴る!重い打突音とともに拳が胴体にめり込み、ギイガは後退していく。それを追ってまた、殴る!

 

(デ、ク………)

 

 勝己はただ、その背中を呆然と見つめることしかできなかった。完全なクウガになれなくなってしまった、それでもなお正面から敵を殴り続ける出久。それは勇敢さなどではない、彼が心のうちで独り育ててしまった強迫観念でしかないのだ。いまはそればかりが、彼を突き動かしている――

 

 

 何発、何十発殴っただろう。疲労により拳の力が弛み、クウガはついに殴ることをやめてしまった。対するギイガが、ゆっくりと顔を上げる。

 

「ビパ……グンザバ?」

「――!」

 

 嘲るような声をあげるギイガ。わずかな痛みすら感じてはいないことを、如実に示していて。

 

「あ………」

 

 その現実を受け止めきれず、硬直するクウガ。そんな哀れな戦士のなり損ないに……ギイガは、情け容赦ない拳の一撃を浴びせた。

 

「がッ!?」

 

 顔面を殴りつけられ、吹き飛ぶクウガ。地面を転がる彼に対し、ギイガはさらに墨の弾丸を浴びせかけ――

 

――爆発。爆炎に呑み込まれたクウガは純白の鎧が黒く焦げつき、耐久力も限界を迎えてその場に倒れ伏した。

 そのシルエットがゆっくりと萎み……苦悶に歪む緑谷出久の貌が、露わになる。

 

「ぐ、ぁ……ッ」

「緑谷……!」

 

 助けに入ろうとするアギトに対しても墨を浴びせかけ――当然防御はされてしまうが――動きを封じたうえで、ギイガは出久に迫る。

 

「ゲババブザ、クウガ。――貴様も、花火にしてやる」

 

 後頭部から生えた触手がうねうねと蠢き、その鋭い先端を出久に差し向ける。

 その光景を目の当たりにして――焦凍も勝己も、瞬時に、ひとつの事実にたどり着いた。

 

(まさか……!)

 

「緑谷ッ!!」

 

 個性では駄目だ、出久を巻き込んでしまう――咄嗟にそう判断したアギトは躊躇うことなく跳躍……ギイガに背中を向ける形で、出久を庇いに割って入った。

 その結果、

 

「ぐ――ッ!?」

「!?、轟く――」

 

 触手が、アギトの首に深々と突き刺さる。何かが体内に注ぎ込まれる感覚――やはり、これは。

 すべてが完了したとばかりに悠々と触手を引き抜いて、ギイガは肩をすくめるようなしぐさすらしてみせた。

 

「わざわざ自分から死にに来るとは……リントはやはりよくわからない」

 

 それは小馬鹿にするような響きをもってはいたが……心底からの疑念が多分に表れてもいた。自分が楽しめれば、強くなれさえすれば他者など踏み台でしかない彼らにとって、自分の命を賭して誰かを庇うなどそもそも思いつきもしないことだ。

 

「あぁ……お前らには、わからねえだろうな……ッ」

 

 だから背中を向けたまま、吐き捨てるようにして焦凍は声を振り絞った。

 

「他人だろうがなんだろうが、関係ない……!そいつを救けたい……その気持ちが、俺たちを強くしてくれる……。お前らには、永遠に手に入れられない強さだ……!」

「………」

 

 黙って聞き届けたギイガは……小さく、鼻を鳴らした。

 

「意味がわからない……。まあいい、――ギベ」

「……ッ!?」

 

 呪詛のことばが吐かれた途端、体内を燃えるような烈しい熱が蹂躙する。変身も保っていられなくなった焦凍は、ドサリとその場に倒れ伏した。

 

「と……轟、くん……!」

 

 出久がかすれた声でその名を呼ぶ。焦凍はもはや応えることもできず、胸を掻きむしるようにして苦しむばかりだ。

 だがそれは、全面的にギイガの意図したとおりになったわけではなかった。

 

「バゼ……ダブザヅギバギ?」

 

 ギイガは考える。――本来、自分が念じた時点で焦凍の身体は破裂、大爆発を起こしているはずなのだ。既に触手を介し、爆発性の墨を体内に送り込んだのだから。

 その答えはすぐに出た。焦凍の"右側"から全身に凍結が拡がり……すぐに融けて滝のような水、いや熱湯に変わって滴り落ちていく。体温もろとも墨の温度を下げることで、爆発を抑え込んでいる――

 

「バサジャザシ……クウガバ」

 

 ギイガの目が……再び、出久に向く。「轟くん、轟くん」とその身を揺さぶる彼は、自身の危機になんの反応もできない。そんな彼を守る者は、もう――

 

 

「オラァアアアアアアアアッ!!」

「!」

 

 出久たちの頭上を飛び越え……漆黒と白皙のヒーローが、ギイガに躍りかかった。

 

榴弾砲・着弾(ハウザー・インパクト)ッ!!」

「ガッ!?」

 

 真正面から、しかしながら広範囲に及ぶ爆破を、ギイガは回避することができなかった。その炎をまともに浴び、その身は大きく吹き飛ばされる。

 "爆心地"の名を冠するヒーローは、そのぎらついた紅い瞳を敵味方両方に差し向けた。

 

「邪魔だッ、すっこんでろクソナード!!」

「……!」

 

 出久がひゅ、と息を呑むのがわかる。しかしその表情をそれ以上見ることもなく、勝己はギイガを睨めつけた。焼け焦げた表皮……案の定、それが再生していく。

 そこまでは想定していたが、

 

「グ、ウゥ……グォアァァァ……ッ」

「……?」

 

 ギイガは苦しげなうめき声をあげ、よろめいている。――その身体から、白煙があがる。

 

「ゴセ、ゾ……ダギサゲダバ………!」

 

 絞り出すような声とともに、勝己に触手を差し向けるギイガ。しかし構えを解いていない勝己の肉体にそれが届くはずもない。咄嗟に爆破を放ち、吹き飛ばす。

 しかしその爆炎が失せたとき……ギイガの姿は、既にそこにはなかった。

 

「……ッ、」

 

――逃がした。

 

 勝己は拳を握りしめたが、いつものように悪態をついたりはしなかった。ちらりと振り向けば、そこにはグロンギにも及ぶ力をもつふたりの青年の姿。どちらも、とても戦える状態ではないが……。

 

「………」

 

 勝己が彼らのもとに歩み寄ろうとしたとき……ようやくと言うべきか、複数台のパトカーが進入してきた。

 

 

 

 

 

 城南大学・考古学研究室には、重苦しい空気が流れていた。

 デスクトップの前で座り込み、俯いている桜子。そんな彼女と距離をとり、気まずげに立ち尽くすジャン。――沈黙に耐えられず、彼が口を開いた。

 

「ゴメンナサイ……桜子サン。ボクまた、無神経デ………」

「……いえ」

 

 ジャンとはそもそも碑文の内容以上の情報共有を図っていなかったのだ。桜子自身の責任もある――少なくとも、彼を責めることはできない。

 でも、

 

(出久くん……)

 

 "凄まじき戦士"――その危険性を碑文を通じて知ったであろう出久。それなのに戦いに赴いたことは、ニュースサイトからの情報で既にわかっている。戦場現れたのが4号でなく2号……つまり、白のクウガであることも。

 いかなる恐怖に苛まれていようが、迷いがあろうが……出久にはもう、目を背けるという選択肢はないのだろう。

 

 でもそれはきっと、とても哀しいことで――それをずっと間近で見せられてきた爆豪勝己の気持ちが、少しだけわかった気がした。その暴力性を受け容れがたいのは変わらないが。

 

 

 

 

 

 ギイガの攻撃によって重態に陥った轟焦凍は、関東医大病院に搬送されていた。

 

「ッ、う、ぅ………」

 

 朦朧とした意識のなか、苦悶に表情を歪ませる焦凍。それでも彼は"右側"を発動させ続けていた。氷結の力が、際限なく上がり続ける体温――そして体内の墨の温度を抑制している。それすらできなくなったときが自分の命が終わるときだと、焦凍は本能的に理解していた。

 そしてその病室の外では、焦凍に係る面々が、椿医師から状況説明を受けたところだった。

 

「……助かる、のですか?轟くんは………」

 

 すべてを聞いたあとの飯田天哉の懇願するような問いに……しかし椿は医師として、無責任なことは言えなかった。

 

「さっきもお話ししたとおり……彼の体内にある墨は、36号の意志によって操られている可能性が高い」

「つまり、36号を倒せば……?」

「おそらくは。――だが……」

 

 椿の視線が一瞬、出久を捉える。その翠の瞳は、普段の宝石のような輝きがほとんど鳴りを潜めている。早朝に一度別れを告げたときよりさらに悪化しているように、椿には感じられた。

 ひとまずはそれには言及せず、

 

「それまでもつかは……彼の、気力と体力次第です」

「……ッ」

 

 飯田の拳が、固く握り締められる。その感情は、やり場のないもので。

 

「相当困難ではあるだろうが……外科的に取り出せる方法がないか検討はしてみる。腕のいい医者は何人か知ってるからな」

 

 そう言って爆豪勝己の肩を軽く叩くと、椿は颯爽と去っていった。……ほとんどゼロに近い可能性でも、最初から目を背けるわけにはいかないのだ。

 

――残された、青年たち。

 

「……僕の、せいだ」

 

 ぽつりと、出久がつぶやく。

 

「僕を、僕を庇ったせいで、轟くんは……ッ」

「………」

 

 何も言わず、その姿を冷たく一瞥する勝己。それに対して飯田は、出久の真正面に立った。握られた拳が、ゆっくりと振り上げられ――

 

 

――解かれた掌が、出久の両肩に置かれた。

 

「あなたの、せいではない」

「………」

 

 親友の危機を背にしているとは思えないほど、彼の声は穏やかだった。

 

「彼は……轟くんはヒーローなんだ。ヒーローとして当然のことをしたまでだ」

「……ッ、」

「緑谷さん……だったな、あなたには本当に感謝している。あなたが戦ってくれたおかげで、多くの人々の命が守られた。無論、俺たちもあなたに、何度も救われた」

 

「――だが、」

 

「あなたはもう、戦場には出ないほうがいいのかもしれない」

「――!」

 

 そのことばだけは、ひどく反響して聞こえた。

 

「あなたのような心優しく善良な人間が、平和に暮らすことのできる社会をつくる……そのために俺たちヒーローが存在しているんだ。――あとは、任せてほしい」

「………」

 

 俯く出久に微笑みかけたうえで、今度は勝己に向き直る。

 

「爆豪くん、俺はこれから36号捜索に出る。きみはどうする?」

「あ?俺も出るに決まってンだろうが」

「……そうか。ではまた、戦場で会おう」

 

 飯田が去っていく。それを見届けたのちに、勝己もまた歩き出そうとする。立ち尽くす出久に背を向けて。

 そんな折、

 

「……かっちゃん」

 

 弱々しい呼び声。立ち止まる。

 

「僕は……」

 

 

「僕はもう……いらないの……?」

「………」

 

 

「……とっくの昔にお互い様だろ、んなモン」

「……ッ」

 

 出久はそれきりもう、完全に口を閉ざしてしまった。――それでいい。

 

 幼なじみ()()()無個性の青年をその場に置いたまま、ヒーロー・爆心地は足早に去っていった。

 

 




キャラクター紹介・リント編 バギングドググ

夏目 実加/Mika Natsume
個性:???
年齢:14歳
身長:155cm
好きなもの:フルート

備考:
中学三年生。城南大学考古学研究室の夏目幸吉教授のひとり娘である。
父が復活した未確認生命体第0号に殺されたことで傷つき、遅々として捜査が進まないことに苛立っていたが、出久、そして勝己からかけられたことばによって立ち直った。現在は「自分が何かするとき」のために、受験勉強と父の教えてくれたフルートに励んでいるぞ!ガンバレ、実加ちゃん!

作者所感:
かわいいよね……。小説版のアレは正直まったく予想してなくて、当時読んでて「エッ」てなりました。
クウガどおりに行くなら今後かっちゃんとの絡みがあるはず。お饅頭の話題は絶対出したいなぁ~。(『現実』より)
「夏目(棗)」の「実」を「加」えるって名前なんで、個性もそれ関連だと予想。

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