【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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感想で要望があったので番外編が一番↑に行きました。なので話数に混乱が生じてましたすみません。まだあまり仕組みがよくわかってないです。


EPISODE 26. ネクストステージ 3/3

摩天楼立ち並ぶ都内上空を、翼を広げて悠々と飛翔するひとつの影があった。

 その体長はおよそ2m――通常、日本に生息する鳥類の比ではない。もっと言えば、その形状も鳥とはまったく異なっていて。

 

 それもそのはず……彼は鳥の特徴をもっているというだけで、どちらかと言えば人間に近い存在だ。明晰な頭脳をもち、言語を操り――巧妙に殺人を企図する……グロンギのひとり。

 彼――フクロウ種怪人 ゴ・ブウロ・グはそのフクロウそのままの口許に筒状の物体を当て……何かを連続で吐き出した、さながら吹き矢のように。地上に向かってそれらは射出されていき、そこを行きかう人々の一部に突き刺さる。

 

 ククッ、と笑いを漏らしながら、ブウロは手近なビルの屋上に降り立った。筒で軽く肩を叩きつつ、眼下に目を遣る。――先ほど狙い撃った人々がばたばたと倒れ伏していくのを認めて、彼はさらに笑みを深めた。人数は、()()()()9人。

 仕留めた人数のカウントは、彼自身の役割ではなかった。――仮面の男、ドルド。斃れた人々とそれに困惑する人々の間を縫って歩きながら、算盤"バグンダダ"を操る。直接手を下したブウロに劣らぬ、冷酷な姿だった。

 

 

 

 

 

 新たなゲームスタートを世界は未だ認知せず、それゆえ"彼ら"の時間も平穏に過ぎていく。

 緑谷出久ら四人がポレポレに到着したのは午後一時を過ぎ、客の入りも落ち着いた頃だった。四人中三人がヒーローであることから、騒ぎになるのを避けたのだ。とりわけ焦凍は表向き隠遁を貫いていることであるし。

 

 ともあれ代表して出久がドアを開ければ、からんころんとカウベルの音が鳴り響く。まず鼻腔をくすぐるカレーの香りが出迎えてくれる。そして、

 

「おっ、待ってたぞ~四人衆!」

「いらっしゃい皆!」

 

 カウンター内外から朗らかな歓迎のことばをかけてくれるのは、店主であるおやっさんと、出久に次いで働きはじめた麗日お茶子だ。うまく隙間時間に滑り込めたおかげで、他に客の姿はないようだ。

 

「お邪魔いたします!!」

「どうも」

「……っス」

 

 続々入店してくるヒーローたち。既に全員と顔見知りでありながら、おやっさんは子供のように目を輝かせた。

 

「こんなぁ……こんないっぱいのヒーローが……誰が来店すると思いまっか?」

「何ですかそれ?よしよし四人とも、こっち座って!ちゃんとカレー用意してあるから!」

 

 おやっさんのマイナーなギャグをあっさりスルーしたお茶子によって席に通される四人。左から飯田、焦凍、出久――そして勝己。まったく同じタイミングです、と椅子に腰掛ける様を見て、お茶子はくすりと笑った。

 

「どうしたの?」

「いやぁ、なんかいいなぁと思ってこの組み合わせ!友だちってだけじゃなくて、仲間感もあって!」

 

 出久は一瞬ぎくりとした。プロヒーローの三人組は当然としても、自分まで仲間に含まれる――いまは現実としてそうなっているから、そのことに勘づかれたと思ってしまったのだ。まあもしそうなら何も言ってこないはずがないから、ただの感想の域を出ないのだろうが。

 

「仲間か……そうだな、素晴らしい仲間だ。緑谷くんも含めてな!」

「そうだな……」

 

 飯田、焦凍と同意を示す一方で、

 

「けっ」

 

 露骨に不愉快そうな表情を浮かべ、毒の欠片を吐き出す勝己。まあいつもどおりの反応である。これで「俺もそう思う」なんて同意しようものなら、次の瞬間には天変地異が起きて地球が滅びること間違いなしだ。

 もう皆慣れきっているから、勝己のそれに傷ついたり不快に思ったりすることはない。――むしろ逆のベクトルに反応するくらいで。

 

「ンフフフ……」

「ア?ンだ丸顔、発明女みてぇなクソキメェ笑い声出しながらこっち見んな死ね」

「は、発目さんみたいな!?……まあいいや。フフンっ、見たくもなるよぉ!爆豪くん、いつまで経っても素直になれないんだからぁこのこのっ!」

「ブッ!?」

 

 口に含んだ水を噴出しそうになる出久。

 

(ヤバイ……忘れてた……!)

 

 そう、お茶子も意外と勝己を煽るのだ。焦凍や飯田とはまた異なり確信犯(誤用)的に。自分も勝己の逆鱗に極めて触れやすい性質であることを考えると……むしろこの状況、勝己にとって針のむしろなのではないか?そんなふうにすら思えてくる。

 案の定、勝己はこめかみに青筋をたてている。爆発する、色んな意味で!反射的に身構える出久だったが、

 

「ハッ、バカ言ってんじゃねえわ」

(あ、あれ……?)

 

 勝己の唇が薄く緩んだように、出久には見えた。慌てて視線をフォーカスしたときにはもう、それは何かよからぬことを思いついたときの意地の悪い笑みに早変わりしていたのだが。

 

「ンなことより丸顔よォ、テメェいつ来てもここいんな。本業がよっぽどヒマなんか?あァまた謹慎喰らったんか?」

「!?、く、喰らってないし!大体シフト週3だから毎日いるわけやないもんッ、偶然や偶然!」

「どーだか」

 

 思わぬ反撃にたじろぐお茶子、愉快そうにつつく勝己。いじり返しやすいからか、お茶子相手だとまた少しリアクションが違うらしい。出久はまたひとつ幼なじみの対人関係について学んだ。

 

「んもうッ、そんな意地悪言うなら爆豪くんハブっちゃうからね!?海!!」

「あ?海ィ?」

「そ、さっきマスターと話してたんよ。来月初めくらいに湘南に海水浴に行かないか、って」

「ショーナンです!」

 

 「そうなんです」と湘南をかけたおやっさんのギャグをまたしてもスルーしたお茶子は、今度は出久に声をかけた。

 

「言い出しっぺはヤオモモなんだけどね~。実家がねぇ、プライベートビーチ持ってるんだって!すごいよねぇ」

「へぇ……しょ、ショーナンだ」

「!!!」

 

 なぜか蹲るお茶子。同様に無視されるものとばかり思っていた出久はびっくりしてしまった。

 

(デクくんかわぃいいいいい゛……ッ!)

 

 相手がそんなことを思いながら悶えているなどと、わかるはずもない。隣に座る勝己はそんな元同級生と幼なじみを交互に冷たく睨めつけているが。

 

「どうしたんだ麗日くん、気分でも悪いのか!?」大真面目に訊く飯田。

「いっ、いや大丈夫……。と、とにかくそういうことだから!詳しい予定はあとで相談するから、みんな前向きに考えといてね!」

「けっ、ンなもん頼まれても行くかよ。つーかとっととメシ出せや」

「ええ~、なんでキミはそう……ハァ」

 

 溜息をつきつつ、カレーをよそいはじめるお茶子。勝己の中には未だ明確な線引きがあるようで、そういう馴れあいは許容範囲外ということなのだろう。こうして食事をともにするのがせいぜいということか。

 一方、出久はというと、

 

(海水浴、か……)

 

 友人たちと親睦を深めるのはもちろんのこと、水泳に励むことで鍛練にもなる――そういう意味でも行く価値はありそうだが、その間に東京に未確認生命体が出現したらと思うと、気が引ける。

 悩む出久。そんな彼に対し、隣に座る男が意外なことばをかけた。

 

「……行きゃいいだろ」

「へっ?」

 

 ぎょっと顔を向けると、ことばの主はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 さらに、反対隣に座る焦凍が、

 

「俺がこっちに残る。何かあってもおまえが戻ってくるまでの時間稼ぎくらいはできる。だからまあ……楽しんでこいよ」

「轟くん……」

「あと、飯田もな。初心に返ってトレーニングに打ち込むのもいいだろ」

「!、た、確かにな……。うむ、前向きに検討してみよう」

 

 ありがちな社交辞令ではなく、本心からそう言いきる飯田。――捜査本部からもうひとり参加者が現れることは、このときはまだ知るよしもない。

 ともあれここでカレーが出てきたので――勝己のもののみ特注の激辛仕様――、いったん談話を止めた四人は揃って手を合わせたのだった。

 

 

 

 

 

 ゴ・ブウロ・グの飛翔と殺戮は静謐のままに続けられていた。彼が筒越しに吹き放つ何かが、血の一滴すら流すことなく標的を絶命させていく。猛暑の中、傍目には熱中症か何かで気分が悪くなった――そうとしか見えないほどに。

 斃れた人々を、やはりドルドがカウントしていく。――そんな光景を、ゴ・ガリマ・バは溜息をつきながら見つめていた。落胆ではない、感嘆だ。

 

(なんという技だ、あのような……)

 

 高高度から正確に射抜いて殺す――自分がかつて所属していたメ集団のプレイヤー、メ・バヂス・バが似たような手口を用いていた。だがブウロの技術は、バヂスのそれを遥かに超えていると言うほかなかった。血の一滴も流すことなく人体を貫き、さらに"貫き殺すだけ"とはひと味違う工夫がなされている。そもそもバヂスは、15分に一回しか毒針を放つことができなかった。

 

 やはり"ゴ"は、それ以下のグロンギたちとは格が違う。認めざるをえない。

 

(ならば、この女も……)

 

 隣で同様にブウロのゲゲルを観察している、ゴ・ベミウ・ギ。彼女はいかなるゲゲルを見せてくれるのだろうか。

 

 期待を胸に抱き、ベミウを見つめるガリマ。――ゲゲルとは離れたところで彼女と親しく交わることになろうとは、このときはまだ予想だにしていなかった。

 

 

 

 

 

「ふ~っ、ごちそうさまでした!」

 

 満足げに腹をさすりつつ、完食を告げる出久。飯田と焦凍は「やはり美味しかったな!」「あぁ、美味かった」などとやりとりしている。勝己は何も言わないが、誰よりも早く完食していることを鑑みれば、満足しているか否か、言うまでもないだろう。

 

「お粗末さま。あ、これ食後のアイスコーヒーね!サービスしとくカラムーチョ!」

「?、カラムーチョとは?」

「大真面目に取りあわなくてええよ飯田くん」

「………。あ、あとそうだ、よかったらこれ見てってよ」

 

 気持ち落ち込みぎみのおやっさんが取り出してきたのは、一枚のアルバム。

 

「"4号、活躍の歴史"……ですか?」

「そ。日課でねぇ、スクラップしてるの!」

 

 「爆心地さんとインゲニウムさんは知り合いだもんねぇ」とおやっさん。だからこそ見てほしいということなのだろうか。

 飯田がテーブルに置いてそれを開けば、焦凍が「俺も見てぇ」と覗きこんでくる。製作に携わっている出久は微笑ましくその光景を見つめ、勝己は興味もなさそうにスマホをいじっている。

 

 アルバムはきちんと時系列順になっている。未確認生命体出現と彼らと戦う第4号についての記事から始まり、現在に至るまで。

 

(こうして見直すと……緑谷くんに対する世間の評価が、ずいぶん変わってきたことがわかるな)

 

 最初期はやはり、クウガを未確認生命体の同類として危険視する論調が大勢を占めていた。他の未確認生命体と戦っているのもむしろ、単なる仲間割れにすぎないと。当時は警察やヒーローも同様の考え方だった。

 潮目が変わりはじめたのは第5号事件のあとからだった。クウガ――出久は第5号から飯田を救い、第7号からお茶子を救い、爆心地・フロッピーとの共同戦線で第8号を討った。明確に人々を救ける姿勢を見せ続けたことで、少しずつマスコミの論調も変化していく。他とは思考回路の異なる善良な未確認か、あるいは異形型のヴィジランテとして。

 

「俺が出てくる頃にはもう、完全に味方って認識になってきてんな」焦凍の言。

「……うむ」

 

 うなずきつつ、飯田は少しばかり複雑そうな表情を浮かべる。出久の扱いに関しては喜びしかない。だが同時に、後手後手に回る警察やヒーローを批判する内容の記事や投書も増加の一途を辿っている。実際に犠牲者が増え続けている以上、そうなるのも仕方がないこと。出久や焦凍を協力者として完全に取り込んでしまったのは、そうした批判をかわす意味合いもあるのかもしれない。

 

(彼らにおんぶに抱っこでは駄目だ。――まずはやはり、G3の完成を急がなければ)

 

 

(それが、僕らヒーローの地位を脅かすものになるとしても)

 

 

 

 

 

「………」

 

 緑谷出久という歓迎すべき異分子が去ったあと、彼の纏う雰囲気にあてられてか妙にふわふわとしていた捜査本部。

 だがそれも短い間のこと。いまは再び、緊張した空気に覆われてしまっている。ある、ひとつの映像のために。

 

「………」

 

 じっと映像を見つめる、面構本部長はじめ捜査本部の面々。一見すればそれは、なんの変哲もないライブカメラの映像だった。高所に設置され、平穏な街の様子を映し出している。ただそれだけが、延々と続く――

 

――瞬間的に、巨大な影が横切るのを除けば。

 

「画像から推定される体長は約2m……飛行速度は時速300キロか」

「こう一瞬だと未確認とも言いきれないっすね」

 

 翼をもつ異形型の人間の可能性もある――と、森塚。確かにそれは否定できなかった。怪物然とした姿をしているからと、それが人間でないとは言いきれない。この超常社会においては――

 

「だが、未確認生命体と考え警戒する必要はあるだろう」エンデヴァーの言。「空を飛ぶ敵……。第3号や14号のような飛行に際しての超音波も出ていないというなら、厄介だぞ」

 

 このようにカメラなどでぶつ切りに追うことはできるが、常に位置を把握できるわけではなくなってしまう。追跡の難易度は、ぐんと上がる。さらに、攻撃手段も限られる――

 

 面々が頭を悩ませていると、図ったかのように備えつけの電話が鳴った。表情をいっそう険しくしつつ、塚内管理官が受話器をとった。

 

「はい、未確認生命体関連事件合同捜査本部。………そうですか、わかりました」

 

 受話器を置き、

 

「――都内各所で、不審なショック死が多発していると報告があった」

「!」

 

 ついに来たか――皆が立ち上がる。

 

「午前十二時五分、足立区の救急外来に計9人が運び込まれ間もなく死亡。遺体に外傷はなく死因はいずれも心筋梗塞。その後板橋、江戸川、荒川の各区でも同様の死者が出たそうだ……やはり、9人ずつ」

「9人……」

 

 奴ら(グロンギ)にとって、極めてキリのいい数字。ならば、

 

「奴らの新しいゲーム……」

「ッ、鷹野警部補、彼らに連絡を」

「わかりました」

 

 

「――了解しました。爆心地、緑谷くん、轟くんの三名とともに急行します!」

 

 鷹野より電話連絡を受け、飯田天哉はそう応じた。通話を終えるや、コーヒーブレイク中の友人たちのもとに駆け戻る。

 

「皆!」

「!」

 

 おやっさんにお茶子がいる手前、はっきり「未確認生命体が出た」とは言えない。しかしその厳しい表情と身ぶり手ぶりだけで、三人とも状況は把握したようだ。一様に表情の引き締め、支度をはじめる。

 

「すいません、もう行かないと!」

「え、どしたの皆して?」

 

 事情のわからないおやっさんが訊くが、「急用」とすら言えなかった。今回は勝己に飯田――捜査本部の面々がともにいるから、出久と焦凍が未確認生命体関連事件にかかわっていることを悟られかねない。

 結局何も言えないまま、代金だけを置いて四人は飛び出していく。

 

 

 

 

 

 戦場へ、走る。

 

 飯田が運転し勝己が助手席に座る覆面パトカーに、焦凍のバイク――そして、出久のトライチェイサー。三台と四人が、ともに道路を駆け抜けていく。

 

 つい先ほど、本部から敵の行き先について入電があったばかりだ。未確認生命体"第37号"は、世田谷区豪徳寺付近から新宿方面に飛び去ったらしい。かすかな手がかり、だからこそ取りこぼすわけにはいかない。

 

「轟くん!」

「ああ!」

 

 

「変――「変身――ッ!!」――身!!」

 

 出久の腹部からは霊石アマダムを戴くアークルが、焦凍の腹部からは賢者の石を秘めたオルタリングがそれぞれ顕現し、鮮やかな光を放つ。その光の中で、ふたりの青年の肉体は戦士のそれへと作りかえられた。

 

 クウガと、アギト。それぞれのマシンも主にふさわしい黄金に輝き、唸りをあげる。

 

 

 彼らは戦う。手を伸ばす誰かを救け出すために。

 

 彼らは戦う。"平和の象徴"の去ったこの世界で、新たなる希望となるために。

 

 彼らは戦う。人々の笑顔を、守るために。

 

 

――たとえどんな運命が、待ち受けていようとも。

 

 

つづく

 




上鳴「次回予告だぜ!」
八百万「今回は上鳴さんとわたくしでお送りいたしますわ」
上鳴「洗礼を乗り越えて無事捜査本部の仲間入りを果たした緑谷&轟!バッチシ協力して空飛ぶ37号に挑むが……!?」
八百万「37号はこれまでの未確認生命体とは格が違うようですわね……。数少ない対抗手段である緑の弓矢も効き目がないようですわ」
上鳴「どうすんだ緑谷!?……何ナニ、凄まじき戦士?いやそれは絶対なっちゃ駄目なヤツじゃねーの!?しかも俺に手伝えって……どーゆーこと???」

EPISODE 27. 緑谷:ライジング

八百万「どこかで聞いたようなサブタイトルですわね……」
上鳴「さらに向こうウェェェェイ!!」

2人「「プルス・ウルトラー!!」」

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