無職転生 -魔王になりし転生者-   作:心葉詩

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前世

side:ルーデウス

 

 俺の前世は有体に言って、最悪だった。

 

 30を越えて親の脛を齧ってニート生活三昧。

 

 いつだって、腹が空けば壁や床を大きく叩いて催促してた。

 金を一銭も入れずにこれは不味いだのあれを買ってこいだのと好き勝手振舞っていた。

 

 そんな俺には友達なんているはずもないし、兄弟姉妹達にも話しかけられることはなかった。

 親とでさえ、金の催促や食事の催促のためにしか話さなかった。

 そんな毎日が当たり前だったし、そんな毎日がこれからも続くと当たり前のように思っていた。

 

 そんなある日、両親が揃って死んだ。

 

 ここで少しは悲しんで、葬式に出ておけば未来は変わったんじゃないかと思うが、現実はそんな事を微塵も考えもしなかった。

 これからどう生活すればいいんだとか、親の財産があるじゃないかと図々しくもそんな事を考えながら自分の部屋で兄の娘の写真を見ながらのブリッヂオ〇ニーをしていたら、兄弟姉妹達が乗り込んできて絶縁状を突きつけられて、家を追い出された。

 

 これからどうしようかと考えて、何も浮かばくて、俺は人生が詰んだと理解した。

 

 昔の事を考えて、ターニングポイントとなった中学3年の辺りからでも人生をやり直せればなと思った。

 あの時までは人生は順風満帆だった。

 あの時、少しでも勉強していればこんな最悪なニートにならなかったんじゃないかと思ってしまった。

 

 そんな事を考えながら、雨が降る中を歩く。

 雨宿りの場所を探さないと……でも雨が止んだ後は?

 生きていたってこれから先良いことなんてないだろう。

 死んでしまった方が楽なのでは…と思っていた時、前方から言い争う声が聞こえてきた。

 

 見つけたのは、痴話喧嘩の真っ最中っぽい三人の高校生だった。

 男二人に女が一人。

 どうやら修羅場らしく、一際背の高い少年と少女が何かを言い争っていた。

 もう一人の少年が、二人を落ち着かせようと間に入っているが、喧嘩中の二人は聞く耳を持たない。

 

 俺にもあんな頃があって、そこそこ可愛い幼馴染もいたと思い出して、空しくなった。

 もう戻れるはずもないのに。

 

 痴話喧嘩を眺めながら、リア充爆発しろと思っていると、遠くの方からトラックが猛スピードで三人に突っ込んできているのに気づいてしまった。

 慌てて声をかけようとするが、十年以上も誰かとまともに話したことのない俺は、とっさに声が出なかった。

 

 助けなきゃ、と思った。

 俺が、なんで、とも思った。

 

 俺はもうすぐ、きっとどこかそのへんで野垂れ死ぬだろうけど、

 その瞬間ぐらいは、せめてささやかな満足感を得ていたいと思っていた。

 最後の瞬間まで後悔していたくないと思った。

 

 肥満体を揺らして、全力で走った。

 

 トラックが目の前に迫っているのに気づいて、喧嘩していた少年が少女を抱き寄せた。

 もう一人の少年は、後ろを向いていたため、まだトラックに気づいていない。

 唐突にそんな行動にでた事に、きょとんとしている。

 

 俺は迷わず、まだ気づいていない少年の襟首を掴んで、渾身の力で後ろに引っ張った。

 少年は体重100キロの俺に引っ張られ、トラックの進路の外へと転がった。

 

 あと二人、と思った瞬間、俺の目の前にトラックがあった。

 

 ――――死。

 

 トラックに接触する瞬間、何かが後ろで光った気がした。

 

 あれが噂の走馬灯だろうか。一瞬すぎてわからなかった。

 早すぎる。

 中身の薄い人生だったという事か。

 

 俺は自分の五十倍以上の重量を持つトラックに跳ね飛ばされ、コンクリートの外壁に体を打ち付けた。

 

 だがまだ生きていた。

 

 全身が死ぬほど痛いが、肥満体のおかげで生き残った。

 と思ったのも束の間…まだ迫ってきていたトラックに潰されて俺は死んだ。

 

 

 

 そんな事を思い出していた。

 繰り返すように、何度も。

 

 あの魔王――キコエル・キカセル明らかに俺が転生者だと知ってあの魔術を見せた。

 もしもあいつが俺と同じ転生者ならば俺の知人?

 俺の兄弟?

 それとも――――。

 

 あれからパウロ達やロキシーには何でもないように振舞ったが、怖い。

 毎晩、眠りにつくたびに酷い悪夢を見て、潰されて跳び起きる。

 

 俺の前世のことがパウロ達に語られたら――?

 

 ルーデウスの中身が30過ぎのおっさんに成り代わっていたのだと知られてしまったら――?

 

 考えるだけで立っていられなくなりそうだった。

 

 

 

 幸い、あいつはあれから家に来ていない。

 狩人の人たちやパウロと一緒に魔物狩りをしているそうだ。

 

 ロキシーからは狩りや割り振られた仕事のためしばらく来れないと聞いた。

 その間に次会う時に話すことも考えておけ、とも伝えられた。

 

 ロキシーは何のことかと顎に手を当て首を傾げていた。

 可愛かった。

 


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