甲龍歴412年
ルーデウスが先日、5歳の誕生日を迎えた。
誕生日にはささやかなパーティーが開かれた。
もちろん俺も参加した。
この国では、誕生日を毎年祝うという習慣は無いらしい。
だが、一定の年齢になると、家族が何かを送るのが通例なのだそうだ。
一定の年令とは五歳、十歳、十五歳。
十五歳で成人であるから、非常にわかりやすい。
家族やロキシーがプレゼントを渡し、俺の番になった。
ルーデウスには転生している事を仄めかしてから露骨に避けられてはいたが、ロキシーに伝言を頼んだことで多少は気持ちに整理がついたのだろうか。
今日は真っ直ぐに俺を見据えていた。
人にプレゼントなんて何十年振りかと思いながらも渡す物を考えた。
最後にプレゼントしたのは今ラノア王国にいるあの子にだったかなと思いながら考えた結果、将来を見越して俺が作った紋章を彫った指輪を渡した。
「これは?」
「まあ、もっと高価な物を渡してもよかったんだがな。
ルーデウス君はこれからも更に強くなって世界中を股にかける人物になりそうだから、その時に役に立ちそうな物を、とね。
この指輪を見せれば、主要な都市や魔大陸では多少の融通を効かせてもらえるようになるかもしれない」
「はあ…ありがたくいただきます」
「おう、ところで今時間いいか?」
「ええ、僕も話したいことがあります」
と言って、ルーデウスはパウロ達に少し外に出る旨を伝えた。
―――――
「さて、単刀直入に言うが、俺は転生者だ」
「やっぱり…、ですか…」
「タメ口でいいぞ」
「…お前、は一体、誰だ…?
俺を、知っているのか?」
「んー勘違いしてるみたいだから言っておくが、俺の前世はお前とは無関係だ。
完全に赤の他人だな」
「…っな?!
ならなんであんなことを?!」
「そりゃあお前、幼少期から子供らしくもない事言い始めたり、大人顔負けの技能を使い始める子供がいるかっての。
そういうのは大抵転生者だよ。
何人か見たことがある。(転生者以外でも割といるけど)
そういう奴らには同郷ならわかるネタ晒して反応を確かめているんだ」
「…確かに。
そういう存在を知っているなら確かに俺って普通に怪しいな…。
ところでこの事は父さん達には――」
「誰にも言ってないよ。
誰だって知られたくない過去がある。
俺だって…誰かに気安く言われたら怒髪天を突くような過去がある」
「信じていいのか…?」
「今現在、この世界に転生者は俺とお前しかいないんだ。
信じられないだろうが信じてくれ」
「――――わかった」
渋々ながらも頷いてくれた。
これで次の話に進める。
「さて、この話は置いといて改めて自己紹介と行こうか。
確かに俺は転生者なんだが――ああいうネタ以外の知識なんてもうほとんど覚えていない。
昨日の朝飯の記憶も怪しいのに500年以上前の事なんて覚えていられないわ。
この世界にはお前も知ってるとは思うが、今で言うラプラス戦役の少し前に生まれた」
「俺は○○ ○○って名前だった。
死んだのは20XX年で、30くらいだった。
――前世はどうしようもないほどくだらない人生だったけど……この世界でやり直せるなら、やり直したい。
今度は誰にだって胸を張れる人生を送りたいって思ってる」
「そうか…。
だが人の一生は短い。
この世界では60…或いは70年も生きられれば上等だろう。
エルフやドワーフは除くがな」
「おお!魔族がいるならって思ったけど、エルフなんかもいるんだな!
オラ、ワクワクしてきたぞ!」
鼻の穴を大きく広げて興奮するルーデウス。
そのセリフは物凄く懐かしい…。
「エルフは美人が多いし、ドワーフは髭モジャだぞ。
前世の世界でイメージされる物に大分似てる。
……確か、この村にもハーフだかクォーターだかのエルフがいたはずだぞ」
「本当?!
あ、でもエルフの髪色ってなんだろう…金ならともかく緑だったら…」
「緑っていうとスペルド族の伝承か。
あんなのくだらない与太話だがな。
大戦当時見たのはラプラスが製造した魔道具に意識を乗っ取られた彼らだった。
スペルド族はむしろ被害者だったといってもいい」
「そうなんだ…偏見ってやっぱり良くないな…」
さて、大分長く話し込んでしまったが、最後に忠告しておくか。
「そろそろ家の方に戻るが……、この世界で生きるならば忠告しておくことがある」
「忠告?」
「ああ、忠告は3つだ。
まず1つ目、七大列強と呼ばれる者達がこの世界にはいるが、これに立ち向かってはならない。
生半な腕だとすべからく死ぬ」
「七大列強って…確か父様が話してたな。
そんなに強いのか?」
「断言するが、強い。
5位から上は真正の化け物だと言ってもいいな。
俺は強さに興味はないが、もし事情があって挑むならば死を覚悟しろ」
ごくり、とルーデウスの喉が鳴る。
「2つ目は、もし、もしもの話だが、お前の夢にヒトガミという者が現れたらこれの言葉を信用してはならない」
「人神?
人の神なら人間の味方じゃないのか?」
「人の神じゃない。
他にどう呼べばいいかわからんから便宜的にヒトガミと呼んでるだけだ。
あんな者が、神であってたまるか…!」
ギリッと下唇を噛んで怒りのの表情を浮かべるとルーデウスは露骨に怯えだした。
「ちょ、落ち着けって!
何があったのか知らないけど続きを聞かせてくれよ!」
「…あぁ、悪い。
いや、ある程度は言うことを聞いてもいいんだがな。
信用しかけたときはやばい。
ヒトガミという存在には、特殊な力があってな…未来を見通す力を持っている。
他にも特殊な力があるかもしれんが、奴は常に自分が生き残り続ける未来を観測し続けている」
「未来を観測って…そんなのまさに神の力じゃ…」
「確かにそれだけ聞けばそう思うだろうが…逆に奴は未来を見ることにしか力を割けられないと言ってもいい。
お前や俺は、本来この世に生まれるはずではなかったかもしれない身体に宿っている。
その場合、未来は大きく変わり、奴は特異点たる俺たちに目を向けるだろう。
いや、俺は…既に…。
話を戻すが、信用しかけた時に、やつはささいな願いを口にするかもしれない。
それに極力乗ってはならない」
「…誰かを人質にされたりした場合は?」
「そこはお前の判断に任せる。
未来を切り開くのは他の誰かではなく、自分自身だからな。
或いは、ヒトガミが干渉してこないかもだから話半分に聞いといてくれればいい」
「…わかった」
「3つ目はな…この世界ではハーレムを作ることができるんだが…」
「おお?! ハーレム! 男の夢!」
今までの話で一番食いつきがいいな。
まあ男の性だし仕方ないなと笑って受け流す。
「この世界最大の宗教組織、ミリス教団では一夫一妻しか認めていないからな。
もし複数娶るつもりならば教団には近付くな。
ただ、ゼニスさんがミリス教みたいだから気をつけてな」
「お、おう。
忠告ありがとう」
「あとミリス教では魔族は排斥対象だから、もし魔族を連れて入国することがあればその指輪を見せれば多少融通してもらえるだろうな」
「…スペルド族の事でも思ったけどやっぱり差別意識はあるんだな…」
「ああ、特にこの世界では姿形がモロに違うなんてザラだから、その意識もかなり強い」
「…わかった。気を付ける。
そろそろ戻ろう。
父様がロキシー師匠に変な事してないか心配だし」
「おう」
そう言って二人揃って家へと戻る。
忠告はできたし、蟠りもなくなったと見ていいだろう。
だが、運命というものがあるならば、世界はその決められた未来へと収束する。
願わくば、俺のしてきた事が無駄にはなりませんように――。
ちなみにロキシーは酔い潰されていて、リーリャとルーデウスに介抱されていた。