フレメヴィーラ王国の操騎兵   作:春暁の空

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第1話

 フレメヴィーラ王都から北東、クシェペルカ王国に隣接するヴューステ辺境伯領。

 この地は荒れたオービニエ山地と北方海路を通じて切り開かれた、西と東を結ぶ交易の要衝である。

 過去、人がボキューズ大森海への討伐に乗り出した時代、物資の集積地として生まれた歴史を持ち、最初期からの入植により決闘級魔獣の討伐がかなり進んでいる土地でもある。

 

 西方歴一二七七年、ヴューステ辺境伯領、開拓都市ガウスホン駐屯地。

 

 兵士たちの朝は早い、街道の安全を守るため3体の幻晶騎士と、随伴する歩兵と物資を乗せた4台の馬車が、朝日を浴びながら乾燥した街道に土煙をあげ進んでいく。

 幻晶騎士とは、鎧騎士をそのまま10メートルの巨体へと変貌させたようなもので、錬金術と魔導工学そして職人の技によってつくられた鋼の巨人であり、フレメヴィーラ王国の盾である。

 

 

 

 「今日も空が青いな」

 俺は幻像投影機に映し出される映像を見ながら独り言をつぶやく、乗騎としている幻晶騎士サロドレアの改良機は答えるわけでもなく駆動音を立てながら歩いている。

 

 このサロドレア改良型は、学園時代に訓練用として乗っていたものと同型ではあるけど、よりあつかいやすく整備性や長距離行軍能力の向上を目指した、ヴューステ辺境伯領用に仕様変更された傑作機だ。

 

 まぁ正式量産機のカルダトアには総合力で劣るけど、壊れにくく部品の入手が比較的容易という部分で、騎操鍛冶師や行商人からの人気のある機体だ。

 

 旧式とはいえ、学園を卒業したばかりで成績も一番下だった俺に乗騎を回してくれるこの辺境領には感謝しかない。

 

 「エリク、足が乱れているぞ!」

 

 そんなことを考えていたら後方、馬車で移動しているダニロ兵士長(親父)が俺に怒鳴ってくる。

 

 「すいません、気を付けます!」

 

 俺は、拡声魔動器ごしにビクつきながら、動きを修正しようと鐙を踏み込み、幻晶騎士の歩調を調整するが腕のバランスを崩してしまい右足と右手を一緒にしながら歩行してしまう。

 

 「なに遊んでおるか!」

 

 ダニロの親父が本気で怒鳴ってくる、ヤバイ焦る! とにかくバランスを戻そうと連動する操縦桿を押し込んだり引いたり忙しく動かす。

 

 俺の操作する幻晶騎士は、まるで軟体動物がクネクネと踊るような不気味な動きをしながら歩くことになった。

 

 「元気があり余っているようだな! 行軍終了後に腕立て百回、いいな!!」 

 

 ダニロの親父から訓練を言い渡され、歩兵たちからは爆笑されてしまった……泣きたい。

 

 「そりゃないっすよ親父さん」

 

 俺は情けない声を出しながら溜息を吐く、幻晶騎士を歩かせるだけでもかなり疲れる、とくに街道哨戒警備とか長距離移動のあとは手足が痙攣して動けなくなるのに最悪だ。

 

 「おめでとうエリク、ムキムキ一直線だね」

 

 カルダトアに搭乗している女操騎士ミアが、からかうように声をかけてくる。

 

 彼女は俺と同期で学園を卒業している、金髪碧眼で長い髪を三つ編みにしている好奇心旺盛な奴だ。

 

 「腕立て、付き合ってくれてもいいんだぜ?」

 俺が腕立て伏せのお仲間に誘う。

 

 「残念、美味しい食事のお誘いしか受け付けませ~ん」

 

 彼女は軽い感じで俺の誘いを投げ捨てる、一人でやるのは精神的にも辛いんだぞチクショウ。

 

 「お前達、いまはピクニックじゃないぞ! 私語をしていないで周りを警戒しろ、魔獣に喰われるぞ」

 

 一番前を歩くカルダトア、騎士小隊長のマグヌス先輩に注意される、先輩は茶髪碧眼のがっちりした体格をしている頼もしい人だ。

 

 彼は学園時代の3コ上の先輩で色々とお世話になった、先輩がいなければたぶん俺は操騎士になれなかったと思う。

 

 評価最低の俺を小隊員として拾ってくれたのもたぶん先輩だ。

 

 自分が迷惑をかけてしまうことを申し訳なく思いつつ、どうにもならない事が嫌になる。

 

 「「申し訳ありません、隊長」」

 

俺とミアが声をそろえて答える。

 

 「以後気を付けるように」

 「「はい」」

 

 マグヌス殿は優しい、これがダロニの親父なら指一本動かせなくなるまでしごかれるところだ。

 

 

 

 

 フレメヴィーラの土地は森が深い、開墾しても気を抜くとすぐに森に戻ってしまう、開拓民たちにとって魔獣も恐ろしいが森こそが一番の脅威である。

 街道も常に森の脅威にさらされている、そのため主要な道であれば本道の両脇、約20メートルほどの空間を森との間にあけるよう設計されている。

 森に呑まれることを少しでも遅らせるためでもあり副次的に魔獣の早期発見へも貢献している。

 

 

 「フレイム・スローワ」

 

 草原に向かって炎の帯がのびてゆく、俺は特殊魔導兵装の一つ【火炎放射の杖】を使用しながら、ミアと協力して雑草や生え始めたばかりの幼木を焼いていく、ちなみに隊長は周囲の警戒をし魔獣の襲撃に備える。

 

 少し離れた場所では随伴してきた兵士たちが、金属製の円筒を使って黄色い狼煙を一定間隔であげている。

 

 これは野焼きの煙が魔獣災害でないことを、街道を使っている人たちや領民に知らせるために行っている目印だ。

 

 それ以外の者は周囲の警戒をしつつ、森との境界と定められている石柱に絡みついているツタ植物を引き千切ったり下草を刈り取ったりしている。

 

 俺が操騎士となってから3ヵ月、魔獣との戦闘はまったく無く雑草を焼く仕事だけをしている。

 

 街道の整備が重要で、物流が滞れば開拓地が干上がり、辺境領が麻痺し最終的には王国にまで被害が出てしまうというのは理解はしているけど……

 

 「なんか思ってたのと違う」

 

 操縦席の中でボソッとつぶやいてしまう、自分が想像していた仕事と違う内容だ。

 

 操騎士になった時は、魔獣から開拓地や領民を幻晶騎士で守り、命をかけて戦う覚悟をしていたんだけどなぁ……少し煙が入ってきて目がしみてくるそのせいか目から涙が出そうだ。

 

 「おい、エリク! 火力が落ちているぞ、そんなんじゃ俺の髪の毛も燃えないぞ!」

 

 ダロニの親父が怒鳴ってくる、ちなみに親父には頭髪が無い、太陽光を反射してまぶしい時があるぐらいピカピカだ。

 

 「すいません、毛根まで焼けるよう努力します」

 

 俺はなにを言っているんだ? 作業していた兵士たちが爆笑している……ダロニの親父は何も言わない、怖い。

 

 

 

 目的地である水場の整備と清掃をして、本日の作業は終了した。

 

 日が落ちる前に野営の準部を始める、兵士たちは慣れた動きで馬の世話をしテントや簡易的なかまどを用意しはじめる。

 

 俺たち操騎士は、幻晶騎士を待機状態にしながら整備用の跳ね上げ式扉(ハッチ)を解放し、結晶筋肉の状態を見たり、布で汚れを拭いたりする。

 

 「うわっ、真っ黒だ」

 

 俺はサロドレアの吸気口にこびりついたススを払い落としながら、吸排気口ろ過装置(フィルター)を外し、杖に風の初級魔法を展開させながら汚れを吹き飛ばす。

 

 めんどくさい作業ではあるが、これを怠ると魔力転換炉の不調につながり、下手をすると機能停止、自壊してしまう危険がある。

 

 これは魔力転換炉が外気、エーテルを必要としているからだ。

 

 吸排気口がふさがれると言うことは、人体を模倣して作られている幻晶騎士にとって口や鼻をふさがれるようなものだ。

 

 窒息とか怖い。

 

 

 「お~いレオニー! サロドレアの点検終了したから最終確認たのむよ」

 

 俺は騎操鍛冶師のレオニーを呼ぶ、彼女は俺と同期の新米鍛冶師でドワーフだ、彼女たちの種族は背丈は低いが、頑強で金属加工や機械いじりに才能があるものがおおい、今回は野外整備や応急修理などの経験を積むために参加している。

 

 「あいよ! 改良型のサロドレアは整備が早いね、いいこった」

 

 赤髪緑眼ショートの彼女が【火炎放射の杖】に問題が無いかの確認作業を中断してこっちに来てくれた。ちなみに先輩とミアは整備が半分終わったかどうかといった感じだ。

 

 「忙しいところ、ごめんな」

 「いいってことさ、これが私の仕事だしエリクはこのあと親父にしごかれるんだから、優しくしてやるってもんよ」

 「あっ……やっぱ後でいいよ、もう一度拭き掃除するから」

 「あきらめな、親父がもうこっちに歩いてきてる」

 「そんな~」

 

 その後、ニコニコしながら歩いてきた親父に捕まった俺は、上級魔法の身体強化を展開しつつ、腕立てすることを命令される。

 

 杖を地面に置いて両手をその上に置きながら身体強化の魔法を使う、魔法アリなら楽だろと思われるだろうけど、メチャメチャ辛い! なんでかって、筋肉の動きや骨の動きなど常に変化する状態を把握しながら体に魔力を循環させないと、よくて筋肉痛、悪くて骨折をしてしまうからだ。

 

 「エリク! まだ20回だぞ」

 「親父、20回からぜんぜんカウントが進んでいませんよ!」

 「いや~人の指って足までいれて20本までしかないからな~」

 「いきなり数字かぞえられませんみたいな顔しないでください!」

 「男なら21本だったな! ガハハハハハッ」

 「最低だこの親父!」

 

 結晶筋肉を軽く叩きながらサロドレアの具合を見ていたレオニーが、静かに肩を震わせながら笑っていた。

 

 親父による無慈悲な腕立てが終わり、魔力切れと筋肉疲労で全身プルプルと震えさせながら水筒の水を飲もうとするが、うまくいかない。

 

 「やぁやぁ、今日も絞られているね~少年よ」

 「あ、ゲルダ姐さん! 聞いてくださいよ親父が酷いんですよ~」

 

 準治療師のゲルダ姐さんがきた、彼女は琥珀のような瞳の色をし、栗色の髪を後ろで束ねただけの化粧っ気のないサッパリとした印象の女性だ。

 

 「そんなお疲れのエリク少年には、お姉さんから特別ドリンクをあげよう」

 

 そう言うと彼女は、なにか液体の入ったコップを差し出してくる。

 

 俺は震える両手で、落とさないようにしっかりと受け取る。

 

 「姐さん、これは?」

 「それは体にいいものが入ったドリンクだよ、飲み終わったコップは洗って返してくれればいいから、それじゃね~」

 

 片手をバイバイっといった感じで振ってから、彼女は調理をしている兵士たちのほうへ、やぁやぁと声をかけながら歩いていく。

 

 俺はもらったドリンクを飲む、口の中に爽やかな柑橘の香りが広がり蜂蜜の甘さを感じる、そして塩味。

 

 「うまい!」

 

 思わず声に出してしまうほど体にしみこむ味だ、ヘトヘトな体に力が少し戻ってきたような気がする。

 

 汗でべとべとになったので水場にいって体を洗うことにする、俺と同じように水浴びをしにきた兵士に合流して、いっしょに浴びる。

 

 《うをっ冷た!》《なんだこのヤメロー》《ウヒヒヒヒ》

 《ばっ、てめ……水かけるな!》《なんかこいつやべーぞ》

 《ぶはははっは》《うひゃー》

 水浴びから水遊びに発展してしまった、魔獣に襲われないよう警戒している兵士たちが呆れた顔をしているが気にしない! バシャバシャと男たちで水をかけあっていると。

 

 「あんたら、ブラブラさせて楽しそうだけど、食事できたよー」

 《おっおう……》

 

 ミアがニヤニヤしながら声をかけてくる、彼女に見られていたと気がついた俺たちは、股間を隠しながらそそくさと服を着始める。

 

 「ミア、いつまで見ているんだよ!」  

 「どんだけ筋肉ついたか観察してるだけだよ?」

 

 彼女の好奇心に満ちあふれた視線が、男たちの裸体をなめ回すように動いている。

 

 「いいかげん向こうへ行けよ!」

 「しょうがないにゃ~また見せてね!」

 「お断りだ!」

 

 彼女は不穏な言葉をのこしながら食事を受け取りに行く、俺は溜息を吐きながら服装を整えて、食事をもらうために携帯食器を用意して歩いていく。

 

 本日のメニューは、豆と野菜がたっぷり入ったスープと黒パンだ。

 

 「あ、メーレ(ニンジン)いらないよ」

 「遠慮すんな」

 

 給仕をしてくれている兵士に自己申告したら、メーレが大盛りになってしまった、何故だ!

 

 器に山盛りのメーレをにらみつつ、少し酸っぱくて噛み応えがある黒パンを口に入れる、焼いてから日にちがたっていないおかげか普通に噛める。

 

 長期保存を前提にしている黒パンは時間がたてばたつほど硬くなっていく、噂ではその硬さは鋼のようになり魔獣を倒すことができる、なんてしょうもない噂話がでるぐらい硬くなるらしい。

 

 幸運なことにそんなパンを食べる機会がなくてよかった。

 

 食事がおわり、食器等を自分で洗ってから先輩ことマグヌス隊長のもとへ向かうと、同じようにミアもくる。

 

 「エリク、ミア、事前に決められた3交代で見張りを行う」

 「「はい」」

 「見張りの兵は他にもいるが気を抜かないよう注意するように!」

 「「了解です」」

 「では解散」

 

 見張りの兵士たちと簡単な確認作業をしてから、交代で幻晶騎士での待機となる。

 

 一番目の見張りは俺だ、はるか遠くで魔獣の発情したような咆哮えが聞こえるぐらいで、とくに変わったことはない問題なく隊長に見張りを引き継ぎようやく寝れる。

 

 起床ラッパで目が覚める、すぐに衣服を整えてテントから出ると朝食のヴルスト(ソーセージ)が焼けるいい香りだ。

 

 隊長と親父がなにか話しあっているが今日の予定だろう、なにか言われる前に朝食をもらいに行く。

 

 黒パンの上に焼いたヴルストを乗せて一気にかぶりつく、皮がバリっと音を立ててやぶけ、食欲をそそる香りと肉汁がからみあう強い味が口の中に広がる。

 

 このガッツリとした味がたまらん!

 

 うんうんとうなずきながら、調理班のヒゲが濃い兵士に感謝の視線をおくると、むこうも気がついたようでニヤリとしながらうなずいた。

 

 絡みあい熱を帯びる視線、理解しあう心と想い。

 

 「男同士でなに見つめあっているんだ?」

 「ムッ!」

 

 朝食をとりに来たレオニーが、変なものを見るような目つきをしながら声をかけてきた。

 

 「旨いメシを作ってくれた彼らに感謝してたんだよ」

 「あ~この部隊のメシはなかなかだよね」

 「そうだろ、そうだろ?」

 

 なぜか俺が褒められたみたいで誇らしい。

 

 「まぁ話は変わるけどエリク、あんたのサロドレアなんだけど関節部分が少し緩くなってるかも」

 「あ……昨日のアレのせいか? 変な動きしたから……」

 「たぶんね~まぁ金属内格には問題なさそうだから、結晶筋肉が少し劣化したかもしれないね」

 「もしかしてヤバイ?」

 「いや、少し関節が柔らかく感じるぐらいだし、次の定期整備までは使えると思うよ?」

 「なら問題ないな」

 「ん~たぶん、昨日より動きがブレやすいと思うから注意だけしてね」

 「わかった注意するよ、ありがとな」

 「どういたしまして」

 

 レオニーと、そんな会話をしながら食事をおわらせて、撤収と作業の準備を兵士たちと一緒に行う。

  

 準備完了後に、隊長と兵士長から本日の行程と注意事項を伝えられる。

 

 隊長の説明では、開拓地を経由後にバルゲリー砦へと向かうらしい、当初は山岳地帯の街道を警戒する予定だったが、それを変更して王都方面への街道警備をするそうだ、珍しい。

 

 とりあえずやることは変わらない、半日ほど離れた場所にある開拓地へむかいながら街道の草を焼くだけだ。

 

 バルゲリー砦か、どんなところだろう楽しみだ。

 

 

 




 ナイツ&マジックのアニメをみてその世界観が好きになり、自分の中で妄想を膨らまして思わず書いてしまいました。
 初めて書くもので、色々と問題があるかもしれませんが優しくしていただければありがたいです。

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