フレメヴィーラ王国の盾とよばれる者、それは幻晶騎士を操る騎士であり兵士たちである。
ならば剣となる者たちは誰か? 魔獣よりも強大で途方もない存在、ボキューズ大森海を切り開く開拓民たちこそが剣であり勇気の象徴である。
「全隊整列、紋章旗かかげよ!」
開拓地が遠くに見えたところでマグヌス隊長が号令をかける、俺は事前に準備しておいたフレメヴィーラ王国の紋章とヴューステ辺境伯領の紋章が刺繍された旗を、幻晶騎士の両手にしっかりともたせ高くかかげる。
「前進!」
隊列は、旗持のサロドレアの俺を先頭に隊長とミア、その後ろを歩兵と馬車がつづきラッパ手が器用に行進曲のようなものを吹きならしながら進む。
これは平時における簡易的なパレードみたいなもので、孤立しやすい開拓民へのちょっとした娯楽だったりするらしいが、王国や領主の存在感をアピールする目的が一番らしい。
街育ちの俺にはよくわからない話だ、ちなみに機体の清掃などは開拓地が見える少し前におわらせてある、今はピカピカで威風堂々とした行進をしている。
開拓地に近づくにつれ子どもたちが、石壁の上や櫓に上ったりして手を振っている姿が見えてくる、なんとなくムズムズする。
開拓地は魔獣の襲撃から身を守るために城のような堅固な壁を作るのが一般的らしい、なにもなければ楽しい遊び場なんだろうと思う。
「全隊とまれ!」
隊長の号令のもと、開拓地の防御壁から少し離れた場所で止まる。
正門にあたる場所へ幻晶騎士を降りた隊長とダロニ兵士長に数名の兵士が歩いていくと、
開いていた門から開拓地の代表者らしい白髪の老人を中心とした集団があらわれ、お互いに挨拶を交わし話をしているている。
「広場の使用許可が出ました、中に入って待機とのことです!」
隊長についていっていた兵士が、伝令として指示を伝えていく。
俺はサロドレアを操作しながら開拓村へと入って行き、先行した兵士から機体の置き場所を指示される。
「旗持はこちらで、幻晶騎士の固定をお願いします」
俺は機体を待機状態にしてから関節部を完全固定する、王国旗を掲げる巨人の姿は、見るものに畏怖と誇りの感情を湧き立たせる不思議な美しさがある。
まぁ正直にいってしまうと、掲揚台がわりだったりするのは秘密だ。
そんなことを考えながらサロドレアをながめていたら隊長に声をかけられる。
「エリク、すまないがこれから野戦装備にてダロニ兵士長のところへ行ってくれ」
「隊長、了解しました! ですが、なにかあったのですか?」
「兵士長が今から夕方まで周辺の小型魔獣を狩るそうだ、ついていけばいい勉強になる」
「ありがとうございます、さっそく準備して向かいます」
「怪我をしないよう注意するように、いってこい」
「はい!」
俺はすぐに皮鎧を着こみ剣と杖を装備し、水筒などちょっとしたものを用意してダロニのハゲ親父のもとへ向かう。
隊長の前では感謝したけど、幻晶騎士での魔獣討伐でなく生身で戦うとか正直いって怖い、学生時代の剣技C判定(最低)は伊達じゃないんだけどな~
「エリク、遅いぞ!」
ハゲ親父が整列した兵士の先頭から怒鳴ってくる。
「すいません、遅れました!」
「これで全員集合した、では森に向かって出発する!」
2列縦隊で移動する、門をぬけ畑の道をとおりながら田舎の風景を楽しむ。
農民らしき人が森のそばで、物語の死神がもっていそうな大きな鎌を使い草を刈っている。
大変だな~と見ていたら爬虫類型二足歩行する小型魔獣が草むらから飛び出し、草刈りをしている農民に飛びかかる。
「まずい」
俺はすぐに抜杖して魔法の狙いを定めようとする。
襲われた人は、一瞬半歩下がりながら鎌の柄を魔獣の頭を地面にたたきこみ、そのまま円を描くような流れる動きで鎌の刃を魔獣の首にかけ、草を刈るように切り落とす。
(うそだろ……)
あまりにも無駄のない動きで魔獣を処理した農民を、俺は呆然としてしまま見つめてしまう。
「兵士さん~そんな心配しなくてもいつもの事だから気にすんな~」
「ハイ、オキヲツケテー」
うん、なんかすごい敗北感がある。
杖をかかげている自分が恥ずかしい、というか魔獣狩りする必要あるのかな? そんなこと考えてたらハゲ親父がニヤニヤしながらこっちをチラチラ見てやがる、なんか悔しい!
それからも目的の場所までの行軍中に、魔獣を返り討ちにしている農民らしき姿をちょくちょく見てしまい、だんだん自信がなくなってくる。
(と言うか90歳ぐらいのシワシワお婆ちゃんが、魔獣を魔法の一撃で仕留めるとかどうなってるんだよここ)
開拓民に圧倒されながら気がついたら森の中だった。
親父の指示のもと【方円】と呼ばれる配置になる。親父と俺を中心に円になるように兵士を配置する、これは奇襲に対応しやすい隊形だが移動はしにくいと座学で習ったような記憶がある。
「そういえばエリク、お前は魔獣を倒したことはあるか?」
と親父が聞いてくる。
「学園時代に実習で一匹だけたおしたことがあります」
5人がかりで小型魔獣を苦労しながらどうにか追い払っただけなんだけどね、でも広義の意味では倒したという意味でもいいよね?
「ふむ、それじゃ~騎士になって初めての魔獣討伐をさせてやろう」
なんか親父が楽しそうに言うと何故か倒木の樹皮をはがしはじめる。
「なにをしているのですか?」
「お前もやってみろ」
説明不足な親父に、これだからハゲなんだと心の中で文句を言いながら、近くにあった大きな倒木の樹皮をはぐ。
そこには白くてムッチリとした、大人のフトモモぐらいの太さで長さ2メートルほどの物体がパンパンになって入っていた。
「なんじゃこりゃ!」
「お~エリク! 大当たり! 魔獣の幼虫だぞ」
「ひっ」
幼虫には無いはずの目が俺を見たような気がする、怖気が走る。
「おっ親父! なんかギチギチいってますけど! どうするんですかどやるんですか——」
「頭が弱点だ、黒いとこな」
とハゲ親父が言いながら普通より大きくてゴツイ魔杖の石突きを倒木と魔獣の間に差し込んで、ゴペンという感じで地面に落とす。
俺はオロオロしながら頭らしき場所をみる、大人の握りこぶしぐらいある口がワキワキと動いていて気持ち悪い。気持ち悪いしとっとと終わらせてやると気合を入れて剣を振り下ろす。
「ヘアッ」
力を入れて斬りかかるが幼虫の表面を少し切り裂いた程度でボニョンと剣がはじき返される。
攻撃されたと感じた幼虫がビクンビクンと暴れだし、かわしそこねて体当たりを受ける。
「痛いってぇ!」
腹に鈍い痛みを感じながら、暴れる幼虫から離れ魔杖を構え。
「【大気円刃】」
風の魔法を放つ、刃は幼虫の頭部をとらえたが弾かれて霧散してしまう。
「幼虫のくせに身体強化してるのかよ」
幼虫のくせにめんどくさい! 外皮は地味に弾力があって俺が斬るのは無理だ、だとしたら突き刺すしかない。
暴れる幼虫の動きに集中する、まきあげられた枯れ木や土に視界を邪魔されつつギチギチと音を出す口を狙う。
「てえぇい!」
一気に体を前に押し出して幼虫の口に剣を突く、しかし剣先が幼虫の歯によって止められる。
杖を手放し、剣の柄を両手にもち無理やり押し込み体重をかけ全力で貫く。
「とった」
勝利を確信した瞬間、幼虫が死なばもろともと言わんばかりに【風衝弾】の魔法を使ってきた。
至近距離からの空気の弾丸を、俺は避けることもできずに吹き飛ばされ倒木にたたきつけられる、鈍い衝撃が全身に広がり息が詰まる。
「エリク、生きてるか?」
背中から声がする、ふり返ると親父がいた。どうも俺が吹き飛ばされた時に受けてめてくれたようだが、その体は倒木にめりこんでいる。
「親父、大丈夫なのか?」
俺が心配すると、親父はニヤリと笑いながら立ち上がる。
「俺の身体強化をなめんなよ?」
「さすが親父、だてにハゲていない!」
「毛が無いから怪我がないと、やかましいわ!」
周囲を警戒している兵士たちからも笑い声が聞こえる、なんとなく気がゆるんだら手足がガクガクとして、へたりこんでしまう。
「まずは単独での魔獣討伐よくやったな、これでいっぱしの兵士だ後はやすんでいろ」
親父が息絶えた幼虫の口から、剣を引き抜いて杖と一緒に渡してくれる。
「よし、お前ら! 新人が気合入れて戦ったんだ、先任兵士として恥ずかしいもの見せるんじゃねーぞ!」
『おう!』
親父と兵士たちがなんか盛り上がっている、疑問に思っていたらブブブブブという音がまわりから聞こえてくる。
立ち木を縫うように飛行する3メートル以上ある昆虫型の中級魔獣が目に入る。
「早速のお出ましだ、アレは俺がもらうぞ!」
そう親父がいいながら駆け出し、長い柄の杖を魔獣の頭に叩き込む。
鈍器でものを陥没させるような、何ともいえない鈍い音を立て魔獣の頭がその体の中にめり込み、地面に叩き落とされる。
親父が魔獣の体の上に乗り、弱点とおぼしき場所に杖が刺さると数回けいれん、をしてから動かなくなった。
「おしっ! まだまだドンドン来るぞーお前ら気張れよ!」
親父が声を張り上げ楽しそうに嗤い、兵士たちもギラギラとした目つきへと変わっていく。
なにがなんだかよくわからない俺は、ただその戦いを震えてみていた。
兵士怖い。
魔獣が来なくなって数時間後、触媒結晶を回収していると、鹿型や猪型といった魔獣が散発的に襲ってきたけど。
「肉が来たぞ逃がすな!」
という親父の号令の下、兵士たちに狩られる。
解体された食用になる部分を全員で担ぎ、帰路につく。
(食用になるって……あの幼虫も食べるの? 本気で? 俺が担いでいるけどさ……昆虫は無理)
行きとはちがい、帰り道は魔獣の襲撃もなく安全に戻ることができた。
荷物をおろしたあと俺はケガ人あつかいということで、ゲルダ姐さんに診てもらうよう指示される。
ちょっと大きめのテントが簡易診療所のようになっている、なんとなく人の気配がないテントに入るのは微妙な勇気がいる。
「姐さんいますか~?」
ちょっと弱々しい声で確認しながらはいる。
「やぁやぁ少年なにかしでかしたかい?」
「しでかしていませんよ、その、魔獣から体当たりと魔法を食らったので一応みてもらえと親父にいわれて……」
「そうかそうか、それは大変だったね少年よ。とりあえず脱ごっか」
姐さんに軽く言われ、皮鎧を脱ぎ上半身裸になる。
「上だけじゃなくて下もちゃんと脱いでね」
「はい」
とっとと下着だけになる、自分で見える範囲には腹に赤アザが出来ているぐらいか、姐さんは俺を立たせたまま全身を観察してフムフムといいながら紙に何か書き込んでいる。
「それじゃこれもって身体強化魔法つかってみて」
姐さんから杖をわたされたので、いわれたとおりに発動する。魔力切れになりそうだ。
「体の中で、魔力が通りにくい場所をお姉さんに教えてくれるかな~」
そういわれて俺は、体の強化がうまくいかない場所をいくつかみつけ、それを姐さんに知らせる。
「姐さん、これはいったい?」
「ん~これはね、自論なんだけど身体強化の魔法って体を強化するものでしょ?」
「はい」
「だったら強化しにくい場所には、なにかしらの怪我なり問題があると考えたわけよ」
「なるほど」
「それで私が診たケガと、少年が感じた違和感の部分が重なるか知りたかったのさ」
「はぁ、それでどうでした?」
「だいたい思ったとおりかな? とりあえず軟こうをぬってあげるから診療台に横になってね」
そういわれて俺は横になる、姐さんに手にはヌラヌラとしたモノがたっぷりとついていて、ベチャリと体にぬりつけてくる。
凄くくすぐったい!
「あっ……あ……ねさ……そこは……」
「フフフ、声を出してもいいんだよ? 少年」
「そ……んな……」
姐さんの指や手のひらが、俺の弱い部分を優しくしっかりとした動きで体をヌルヌルさせていく、俺は声がでないように耐えるしかなかった。
「怪我をしたと聞いたが、エリク大丈夫か!」
いきなりテントの入り口が開いて隊長が入ってくる、俺と姐さんを見てなにか困ったような顔をしている、珍しい。
「やぁやぁ隊長さんよく来たね、いま治療をしているところだよ」
「そっそうか、エリクの怪我はどんな状態なのか教えてもらえるか?」
「ちょっとした打ち身といったところだねぇ、お姉さん特製の軟こうをヌッて全治一週間って診たてだね」
「そうするとエリクは安静にさせておいたほうがいいか?」
「う~ん、わかりやすく言うと机の角にぶつけて青アザできた感じかな? 問題はないと思うよ」
説明を聞いたとたん隊長の表情が微妙な感じになる、たぶん俺も同じだろう。
「うむ、ではエリク。治療がおわったら顔を出してくれ」
「了解しました隊長」
俺は診療台で軟こうまみれの下着一枚で返事をする、とんでもない状態な気がするけどこれ以上考えるのをやめておく。
軟こうヌリを終わらせた姐さんが服を着るようにいってくる。
「あとは少年、腫れて熱がひかなかったら、この湿布はるようにね」
「ありがとうございます姐さん、それでは隊長のとこへ行ってきます」
「無理はするんじゃないよ~」
ゲルダ姐さんに感謝しながらテントを出る、隊長用の大きなテントへむかう。
いつもやっている打ち合わせとは時間がかなり違うけど、もしかしてパーティとかやるのかな? 肉たくさんとってきたし楽しみだ。
読んでいただきありがとうございます。
独自解釈が強くなってきていますがご容赦していただけるとありがたいです。
次回はようやく亀さんを出せそうです、予定では今回でしたが上手くいかないものですね。
次回も不定期更新となりますがよろしくお願いします。