グラップラー・ベル~オラリオで地上最強を目指すのは間違っているだろうかッッ!?~ 作:じゃすてぃすり~ぐ
「ふぅ・・・、今日も疲れたなァ・・・」
エイナは、ギルドの業務を終え帰路へとついていた。
日は沈んではいるが、魔石灯の灯が街を照らしている。
―早く帰って、シャワー浴びたいなぁ。
そう思い、エイナは足を速める。
「おう、そこのエルフの嬢ちゃん!ちょっといいか!!!」
ふと、大きな声が聞こえてきた。
酒場から聞こえる冒険者の喧騒や、行きかう人々の声が掻き消されるほどの大声である。
余りのうるささに耳を塞ぎながらもエイナは声のした方を振り向いた。
男がいた。
逆立った髪に日の丸のハチマキをした日焼けした肌の極東特有の顔立ちをした男であった。
首から下はマントを羽織っておりパッと見怪しげに見える。
「何ですか?」
そんな怪しげな男にエイナは警戒しながら問いかけた。
全身をマントで覆ったその姿を見たら無理もない。
「安心してくれよ、俺は怪しいもんじゃねぇ。ムエタイチャンプのヒガシ・丈ってんだ」
「ムエタイチャンプ・・・?ヒガシ・丈・・・?」
男、丈の言葉にエイナは眉を潜めた。
思い当たる節があったからだ。
(―確か、ベル君が電話で話してたときにそんな名前を叫んでいたような・・・)
「ん?どうかしたか?」
「いいえ、何でもないわ。それで、丈君は何しにここに?」
エイナの問いに丈はよくぞ聞いてくれました!とばかりに口を開いた。
「冒険者になるためにギルドに向かう所なんだよ。そして、そこで新たなるジョー伝説を打ち立ててやるのさッッ!」
「~~~ッ!残念だけどギルドは閉まってるわ。冒険者登録は明日になるわよ」
大きすぎる丈の言葉に耳を押さえながらエイナは答える。
「ま、マジかァ!明日行くにしても
どうすっか・・・。と呟きながら、頭を掻く丈。
そんな丈を見て放っておけないと思ったエイナがこんな事を切り出した。
「あのさ、丈君。良かったら、私の家に泊まってかない?」
「良いのか?」
「うん。もし、キミを放っておいたら目覚めが悪いから。それに、私ギルド職員だからね。明日のギルド案内も兼ねようと思って」
「本当か!?ならお言葉に甘えさせてもらうぜ。アンタ、名前は?」
「エイナ。エイナ・チュールよ、ヨロシクね」
そう言って、丈に自己紹介をするエイナ。
そんなこんなで、丈はエイナの家にお世話になることになった。
―なお、これは余談ではあるが・・・。
「なん・・・だと・・・!?エイナさんが男と一緒に歩いている・・・!?」
「アイエエエエエ!?エイナ=サンが男と一緒!?男と一緒ナンデ!?」
「ウソダドンドコドーン!」
「あァァァァァァァァァんまァァァァァァァァァりだァァァァァァァァァァァァァ!!!」
丈とエイナが一緒に歩いている姿を見たエイナに気のある男冒険者達はそう慟哭したとか・・・。
―翌日。
「おはようございます、エイナさん。・・・あれ、その人は?」
朝の鍛錬を済ませた後ダンジョンに潜る為に、朝早くから来ていたベルはエイナに挨拶をする。
ふと、冒険者登録をしていた丈を見て問いかけた。
「ああ、この人ね。新しく冒険者になることになったヒガシ・丈君よ。丈君、こちらは私が担当している冒険者のベル・クラネル君」
エイナはベルに丈を、丈にベルを紹介する。
丈とベルは互いに、見たまま動かなかった。
「へぇ、アンタがベル・クラネルかい?」
「そう言う貴方は、ヒガシ・丈」
そう言って、互いに笑みを浮かべていた。
そのまま動かない。
動かないのだが、二人の間にはまるで磁場があるかのように空間が歪んでいた。
(―スゲェ殺気。『ハリケーンアッパーのジョー』は伊達じゃないな・・・)
(―ガオランの言うとおりだぜ。地下闘技場のチャンピオンと呼ばれるだけはあらァ)
互いの殺気を受けながら、ベルと丈は互いを観察する。
そして、確信する。
((こいつは・・・強いッッ!!!))
そう思うと、思わず笑みがこぼれた。
たまらぬ笑みであった。
「ね、ねぇ二人とも。どうしたの?」
「いえ、何でも」
「何でもねぇよ」
ただならぬ雰囲気を察したエイナの問いに、ベルと丈はそう答えた。
丈の冒険者登録が終わり、研修が始まる。
-そんでもって・・・。
「それじゃあ、気をつけてね二人とも」
「分かりました」
「オウ、行ってくるぜ!」
研修が終わり、初心者セットを受け取った丈はベルと共にダンジョンへ向かったのであった。
―ダンジョンの一階層・・・。
「オラオラァ!」
凄まじい拳のラッシュでゴブリン達を地に沈めていく丈。
そんな丈にベルは賛辞の言葉を送った。
「丈さん、流石ですね」
「よく言うぜ、お前さんだって結構強い癖に」
丈はそうベルへと返す。
「ガオランから聞いてるぜ、恩恵を持たずに地下闘技場に足を踏み入れてその不屈の精神でチャンピオンに上り詰めたんだってな」
「今は、ヘスティア様から恩恵貰ってますけどね。そう言う貴方は恩恵は?」
「ガオランに弟子入りする時に『シヴァ様』から刻んでもらった。ダンジョンでの実戦経験はねぇからレベル2止まりだけどな」
そこまで言って、あ~あ!とつまらなさげに続ける。
「しっかし、ここのモンスターは弱すぎるぜ!全く張り合いがありゃしねぇ」
「まぁ、一階層ですから。でも、そんなにつまらないなら・・・僕と
丈の言葉にベルは笑みを浮かべながら言う。
獣の笑みだ。
戦いに餓えた餓狼の笑みであった。
「へぇ、いいのかい?俺達6日後に試合するんじゃなかったっけ?」
「まァ、そうですけど。僕としてはいつだっていいですよ。たとえ、今ここでも」
丈もまた、笑みを浮かべ問いかける。
餓狼の笑みで。
―ぐにゃあ・・・。
両者との間に再び歪みが発生した。
正しく一触即発である。
それが、1秒ごとに長く感じていく。
―ダッ!
同時に動く。
拳を振りかぶるのも同時であった。
「シッ!」
「しゅっ!」
そして、同時に拳を振るう。
互いの拳は顔面には直撃せず、頬を掠っていた。
互いに拳を見切り回避していたのだ。
「お前もやるなぁ、俺様の拳を見切った上でカウンターを放つなんざ」
「そのカウンターを回避した丈さんに言われたくないですよ」
互いに笑みを浮かべながらそう言った。
そして離れる。
「で?どうする、まだやるか?」
「ええ。・・・と言いたい所ですけど、ここで終わりです」
「ほう」
「お客さんが来た様なので」
そう言って、ちらりと見やる。
周りにはゴブリンが所々に現れており、囲まれていた。
「あ~、そういや
今更ながらに丈はそう言った。
そんな丈に苦笑いしながらベルは問いかける。
「んで、どうします?」
「分かってるくせに」
ベルの問いに丈は鼻で笑いながら答える。
「全員まとめて・・・」
「ぶっ飛ばすッッ!!!」
たまらぬ笑みを浮かべて、嵐と狼はゴブリンの群れへと突っ込んでいった。
その後、ゴブリン達は全滅し魔石をがっぽり稼げたのであった。
無論、その事で無茶をしたと思われエイナに怒られたのはいうまでもない。
続 く ッ ッ ! ! !
次回は、神の宴での一幕&ベート君とアイズがトクガワさんに直談判して地下闘技場にエントリーするお話になります。
勿論、他作品キャラもジャンジャン出てきますよ~。
お楽しみにッッ!