俺は乙倉さんにライバル視されたい。   作:LinoKa

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第1話 出会い

コミュ障、という言葉がある。

略さずにいうと、コミュニケーション障害だ。マジの病気ではなく、人と話すのが苦手という意味だ。

はい、僕の事です。俺は人と話すのが苦手だ。何を話せば良いのかわからなくなってしまう。だから、学校でも友達は出来ないし、ずっと一人で生きて来た。

まぁ、別にそれが問題だなんて思っていない。小学生の頃にあった陸上競技大会で優勝して、それが面白くて東京に出て来て強豪校の陸上部に入ったから、周りの友達なんかいなくても成績は残せるし問題もない。

東京では姉と2人で暮らしている。母さんからは反対されたが、陸上をやりたいなら頑張れ、と父さんは出してくれた。

金銭面も、街を歩いてたらモデルのスカウトにあったし、姉がアイドルしてるので問題ない。

とりあえず、今日の晩飯を考えながら帰宅していた。陸上の練習が終わり、スーパーまでの近道の公園を通っていた。この公園、最近不審者が出るらしいけど、まぁそんな簡単に不審者なんて出ないだろうし、大丈夫だろう。

中学に上がって買ってもらったスマホをいじり歩いていた。グラブルとかいうのとかパズドラとかいうのとかが楽しい。

 

「〜♪」

 

しかも、スマホはアプリで音楽も聴けるしゲームも出来るし写真も撮れるしインターネットで検索もできるし……便利だなぁ。やりたい放題じゃん。

…………あ、カーリー出た。やったね。小学生の時のクラスメートの会話を聞いた感じだと、こいつ強いんだろ?やったね(2回目)。

そんな事を考えながら、歩いていた時だ。直後、後ろから抱きつかれ、口と両手を塞がれ、縛られた。

 

「っ⁉︎」

 

な、何⁉︎誰⁉︎何事⁉︎

思考が追いつかない。何をされてるのかわからないまま担がれた。

 

「んーっ!んーっ!」

 

とりあえず抵抗してみたが、相手は大人のようで抵抗できない。そして、俺の連れて行かれる先にあるのは車だった。

ようやくそこで、誘拐されていると自覚した。車まで残り数十歩程、車に乗ったら即アウトだ。

とにかく体を揺すったり脚をバタつかせたりしてみたが、まるで無駄な抵抗だった。

もはや思考停止しかけた直後だった。

 

「おまわりさん!こっち、こっちです!」

 

何処かから声が聞こえた。それと共に懐中電灯の光が見えた。俺を持ち上げてる奴はそれに慌てたのか、走って車に向かった。

その途中、何かに躓いたのか、ずっこけて俺を落とした。顔面から地面にダイブした。

 

「んっ!」

 

小さく悲鳴が漏れた。俺を持っていた奴は逃げるのが先決と見たのか、俺を置いて車に乗って逃げ出した。

………た、助かったのかな………?ホッとしてると、声の主と思われる女の子が走って来た。

 

「だ、大丈夫⁉︎鼻血出てるよっ?」

 

口と両手のロープを解いてもらい、ようやく呼吸出来るようになった。目の前にいたのは女の子だったが、恐怖で思わず抱き付いてしまった。

 

「えっ……うえええっ⁉︎」

 

女の子は驚いたようなリアクションをしたがそんなの耳に入らなかった。

俺が震えてるのに気付いたのか、優しく抱きしめ返してくれた。

 

「………も、もう大丈夫だよ……」

「……………」

 

そのまま固まること数秒、ようやく俺は落ち着いて女の子から離れた。

…………で、どうしよう。こんな所でコミュ障の弊害が………。

 

「大丈夫?鼻血出てるけど………」

 

その制服、うちの女子生徒じゃん。

いや、そんな事よりお礼言わないと。

 

「…………あっ、ありっ………ありがと………」

「ううん。とりあえず、ティッシュ鼻に詰めよっか」

 

女の子はポケットからティッシュを出すと、千切って俺の鼻に詰めた。

………そういえば、警察は?さっき、おまわりさんって言ってたよな?辺りをキョロキョロと見回してると、女の子が声をかけてくれた。

 

「えっと、とりあえず公園から出ようよ。それで、交番に行こう」

「…………?」

 

交番?警察がいるのに?

俺の表情を読み取ったのか、今度は耳元で言った。

 

「警察なら嘘に決まってるじゃん。姿が見えたから助けを呼んだだけだよ」

「………………」

 

この子、すごいな………。よく咄嗟にそんな嘘を………。自分が巻き込まれたらって思わなかったのか?

 

「ほら、早く行こう」

「う、うん………」

 

手を引かれて、とりあえず交番まで歩いた。

 

「えっと、新田くん、だよね?」

「えっ…………?」

 

あれ、何で俺の名前知ってるんだろ。同じクラスなのかな?

 

「あ、ほら、私同じクラスの乙倉悠貴」

「…………あっ」

 

しまった、知らないぞ。こんな子いたっけ?ていうか、何か答えないと。

 

「………よ、よろしく……」

「う、うん。新田くんって足早いよね」

 

まぁ、50メートル走なら6秒切ってるけど。陸上部だし、それくらいはな。

 

「そ、そうでもない、けど………」

「そんなことないよー。でも、どうしていつも一人でいるの?」

「そ、それは………」

「結構、新田くんと友達になりたいって人多いけどなー。足速いし」

 

…………ど、どうしよう……。まともに会話出来てないな……。

こんなんじゃ、嫌われるんじゃ…………。

 

「………あ、ご、ごめん。襲われたばかりで、まだ、怖いよね……」

 

返答出来なかったからか、乙倉さんの方が気にして俯いてしまった。完全に俺が悪いが、まともな返事が出来ない。

そうこうしてるうちに、交番に到着した。色々と事情や目撃情報を聞かれ、ほとんどの受け答えは乙倉さんがしてくれた。

俺を気遣ってのこともあるが、俺はパニックでほとんど何も見えていなかったので、第三者の乙倉さんの方が詳しく見えていたからだ。

色々と乙倉さんは説明してくれて、俺は姉の迎えを待つことになって、乙倉さんは先に帰ることになった。

 

「じゃあ、またね。新田くん」

 

微笑みながら手を振られ、俺は思わずどきっとした。可愛いなぁ、あの子。あんな子が同じ部活にいるなんて……今度、話しかけてみようかなぁ。

いや、男として情けない姿を晒してしまったし、相手にもされないだろう。やめとこ。

そんな事を考えながら手を振り返して、待機する事数分、姉が走ってやって来た。

 

「! 裕太!」

 

声を掛けてくるなり、俺を抱き締めた。

 

「! 姉ちゃん!」

「良かった、心配したのよ………?」

「うん、ごめん………」

 

ながらスマホはやめよう、と本気で思った。

 

「まったく、心配かけさせて………!バカなんだから………!」

「ごめんなさい……」

「無事なら良いよ……」

 

姉ちゃんはそう言うと、交番のお巡りさんを見た。

 

「弟がお世話になりました」

「いえいえ。車のナンバーや男の特徴は分かりましたし、すぐに捕まると思いますから、安心して下さい」

「は、はい………」

 

お巡りさんにそう言われ、俺は姉ちゃんと帰宅した。

その日、俺は姉ちゃんと一緒に寝た。

 

 

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