俺は乙倉さんにライバル視されたい。   作:LinoKa

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第2話 コミュ障の頭の回転は早い。

 

「ほら、起きなさい」

 

寝てると、姉ちゃんが俺を起こす声で目が覚めた。昨日は姉ちゃんと寝たんだっけか………。

昨日の誘拐されかけた事件のことが、未だ頭から離れていない。あの男は捕まったのだろうか。捕まっててくれないと安心出来ない。

いや、次は逃げてやる。なるべく周りに気を使って歩かないとなぁ。

………大丈夫、50メートルを5秒台で走る俺なら逃げられる。ビビるな。

 

「裕太?」

「っ、な、何?」

「…………大丈夫?」

 

しまった、顔に出てたか……情けない。

 

「………送っていこうか?」

「いや、平気」

「でも、同じ目にあったら………」

「大丈夫。もう近道もながらスマホもしないから」

「………それなら良いけど。何かあったらすぐに電話してね?」

「分かってる」

 

………まぁ、念のため武装していくけど。陸上のスパイクを持ち歩こう。殺傷力は笑えないから。

 

「じゃあ、行ってくるね」

「うん、気をつけてね」

 

先に家を出た。マンションを出ると、まずは辺りを見回した。怪しげかな影はない。

 

「……………」

 

ビビるな、行くぞ。

なるべく人通りの多い道を通って学校に向かった。公園みたいな裏道は通らず、スマホもポケットにしまい、随時辺りを見回して歩いた。………周りから見たら俺の方が不審者かも知れない。

 

「あれ?新田くんっ!」

 

聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ると、乙倉さんが駆け寄って来た。

 

「っ」

「おはよ」

 

眩しい笑顔で挨拶され、俺は目を逸らして会釈した。ていうかこの人、背高いなー。俺より全然高いじゃん。

 

「家はこの辺なんだっ?」

「………は、はい……」

 

やっべ、どうしよ……会話出来ない……。せめて姉ちゃんがいてくれれば………!

 

「でも、私もこの辺りをよく通るのに一回も会ったことないよね」

 

そりゃ、俺は一通りの少ない近道を選んでたからな。まぁ、その所為で昨日は襲われたんだが。

いや、それより何か返事しないと………。

 

「………そ、そうですね……」

「………なんで緊張してるのっ?」

 

緊張って言うんですかね、俺のこれは……。いや、心臓はマッハで動いてはいるが。

 

「………すみません」

「いや、謝らなくても良いけど。ていうか、なんで敬語?」

 

察して。お願いだから察して。

何より、今思えば、昨日俺ってこの人に抱き付いちゃったんだよな……。初対面の人にマジで情けないことをしたと思う。せめて性別が逆なら良かったのに………。

………謝った方が良いよなぁ。昨日、抱きついた事。一回大きく深呼吸してから、声を掛けてみた。

 

「………をっ、乙倉、さん……」

「? 何?」

「………その、昨日は、ごめん………」

「………へっ?何がっ?」

 

くっ……!察しの悪い奴め………!

いや、落ち着け。ていうか、さっきと全然違う会話をマイペースに始めたんだから通じなくて当然だ。なんで敬語の件の返事をしなかったんだよ、俺。

とにかく、自分から話を振ったことに関して何か言わないと。もっかい深呼吸してから言った。

 

「………いきなり、抱き付いて………」

「あ、あー………その事か……」

 

乙倉さんも顔を赤らめて目を逸らした。うっ、やっぱ迷惑だったかな………。謝らないと、下手したらセクハラだよ。

 

「ごめん、なさい………」

「う、ううん!謝らないでよっ!私だってあんな目にあったら絶対怖がるだろうし、逆の立場だったらこっちが抱きついてたかもしれないもんっ」

 

いやそれは良いだろ。女の子が男に抱きつくのは。でも逆は違うじゃん。

 

「とにかく、謝らないでよっ」

「………は、はい……すみません」

「だから、謝らないでって」

「あ、う、うん………」

 

気を使われたのかな……。なんか、申し訳ない限りだ。

 

「それより、遅刻しちゃうから、早く学校行こう!」

「………は、はい……」

 

あっ、手を握られた………。なんか気恥ずかしくなって、顔が熱くなるのを感じた。

 

「ほら、走ってっ」

 

さらに微笑まれ、俺は慌てて走り出した。なんだ、これ。何この感じ………なんというか、心臓がうるさいというか、顔が熱いなってるというか、クラクラするというか………。

気が付けば、俺は夢中になって走っていた。………あれ?前を走ってたはずの乙倉さんの姿が見えない………。

 

「っ……に、新田くっ……!ちょっ、早っ………!」

「っ! ご、ごめんなさい!」

 

知らない間に追い抜いてた。や、やべぇ!せっかく元気付けてくれたのに、無礼な真似を………!あ、謝らないとっ……!でも、なんて謝れば………!

とりあえず立ち止まって、乙倉さんと止まった。手を離して両膝に手を置いて、息を整える乙倉さん。うーわ……超疲れさせちゃったじゃん………。

 

「や、やっぱりっ……!速いね、新田くん……」

 

こんな状況でも人を褒めてくれるなんて良い人だなぁ………。

いやいや、そんなことより謝らないと。えーっと……なんて謝れば………!と、とりあえず謝れ!俺は勢いで頭を下げた。

 

「っ、ご、ごめんっ!」

「い、いいよ。気にしないで……」

「まさか、ついて来れないと思わなくてっ……!気が付いたら、追い抜いてて、ほんとごめん………!」

「…………はっ?」

「えっ?」

 

なんか驚くほど冷たい声が聞こえたんだけど………。

下げた頭をおそるおそる上げて乙倉さんを見上げると、涙目で俺を睨んでいた。

…………うん、ちょっと言葉選びを間違えた。

 

「い、言ったなぁ………!」

「あっ、いや……今のは………」

「バカッ!新田くんなんて知らないっ!」

 

乙倉さんは涙目で走り去ってしまった。

俺はその場で、ただ立ち尽くすしかなかった。

 

 

++++

 

 

放課後。部活が終わり、俺は帰宅の準備をしていた。いやー、今日も疲れた。いやー、雰囲気が良くて楽しい部活だよ。まぁ、誰とも喋ってないけど。未だに誰が同じ部活にいるのか知らないし。

さて、帰って姉ちゃんの晩飯用意しないと。今日もアイドルとか何とかで帰るの遅れるらしいし。

そんな事を思いながら、同じ部員が仲良く話してる横を素通りして、更衣室を出た。

更衣室の前で体操着姿の乙倉さんがハードルを片付けようとしてるのとばったり出会した。

 

「………………」

「………………」

 

えっ、な、なんでいるの………?冷や汗が頬を伝った。

乙倉さんは俺を見るなり、べーっと舌を出してハードルをしまいに行ってしまった。

うう………完全に嫌われた………。どうしよう、謝った方が良いかな、いや、謝った方が良いよな。でも、どうやって謝ろう………。

女の子に俺から声をかけるなんて、俺にはハードル高すぎるし……。とりあえず、姉ちゃんに相談しよう。

そう決めて、ため息をついて帰ろうとしたが、まだハードルがグラウンドに並べられてるのに気付いた。そういえば、今日は女子の片付ける日だったか?

 

「…………」

 

そういや、女子は男子に比べて人数少ないんだよなぁ。他の女子も色々片付けで忙しそうだ。

 

「……………」

 

鞄をその辺に置いて、俺もハードル片付けるのを手伝う事にした。

ガシャガシャと重ねて、倉庫まで運んだ。乙倉さんと顔を合わせることになるが、まぁ嫌われたとかそういうの関係なく、この前は助けてくれたんだし、これくらいは良いだろう。

倉庫まで歩くと、案の定、乙倉さんと顔を合わせた。

 

「あっ………」

 

少し驚いたような顔で見られたが、俺は横を素通りした。今、何か言うと逆上させてしまうかもしれない。俺、コミュ障の上に口下手らしいし。

ハードルを倉庫の中にしまうと、鞄を置いてある所に戻ろうとした。だが、乙倉さんがら俺をじっと見ていることに気づいた。

…………謝った方が良い、かな………。

 

「………………」

「………………」

 

待て落ち着けっ。俺はさっき、言葉が纏まらないうちに謝ったから言ってはいけないことを言ってしまったんだ。

つまり、今の内にどう謝るかを頭の中でまとめておけば良いのだ。………どう謝ろう。そもそも、何で謝るという気になった?相手がどうでも良い相手なら、そのままでよかったじゃん。

でも、謝ろうという気になった以上は必ず理由がある。そもそも、謝るというのは壊れた関係を修復しようとする行為だ。つまり、俺は無意識に乙倉さんとの、まだ一度だけ一緒に登校しただけの仲を修復しようとしたのだ。

修復しようとした理由は何だ?素直に考えればわかる。乙倉さんと友達になりたかったんだろうな。今まで友達が出来た事がなく、必要だと思った事すらなかった俺が初めて「この人となら」と思えたのだ。

よし、理由は揃った。どう謝るかをもう一度考えよう。顎に手を当てて必死に頭を回転させながら、ふと前を見ると乙倉さんはいなくなっていた。

 

「………………」

 

…………謝罪の言葉を考える猶予期間ができたと考えよう。とりあえず、姉ちゃんに相談だな。

 

 

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