俺は乙倉さんにライバル視されたい。   作:LinoKa

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第4話 勉強は全ての人類を縛る永久異常状態。

 

六月、乙倉さんと話すようになってから1ヶ月ほど経過した。乙倉さんとはある程度は話せるようになり、部活でも教室でもよく話しかけて来るようになった。それどころか、学校が終わってからは一緒に帰るようにもなった。

現在は中間テスト前の部活休み期間。二人で制服で帰宅していた。普段、部活がある時は基本的にジャージで帰宅しているので、乙倉さんの制服姿と帰るのは何となく新鮮だ。

そんな事を考えながら歩いてると、乙倉さんが俺の服装を見て言った。

 

「………あの、新田くん」

「? 何ですか?」

「少しズボン上げ過ぎじゃない?」

「へっ?」

 

そうか?変に先輩に目をつけられないように、ヘソの辺りで止めてるんだが………。

 

「そ、そうですか?」

「うん。その、上げパンは……なんていうか、その……ダサいよ」

「えっ………」

 

痛く傷ついた………。そ、そうか……。でも、先輩にいじめられるの嫌だし………。

 

「もう少し下げたらっ?腰パンしろとは言わないから」

「………う、うん。じゃあ……」

 

俺はその場でベルトに手を掛けた。直後、乙倉さんから「うえっ⁉︎」と焦ったような声が聞こえた。

 

「こ、ここで、下げるの……?」

「っ、ご、ごめんなさい……」

「い、いえ………」

 

っぶねぇ、ついうっかり変質者になる所だったわ。

顔に手を当てて後悔してると、乙倉さんが気まずくなったのか話題を逸らした。

 

「そ、それより、そろそろ試験だよねっ」

「……え?は、はい……」

「試験勉強してるっ?」

「いえ、全然」

「はっ?ぜ、全然……?」

 

だって勉強する事なんてないでしょ。授業ちゃんと受けてれば取れるでしょ?

 

「………いえ、その……小学生の頃だって、試験対策なんて……したことなかった、ですし……」

「いや、ダメだよそれっ。中学生になったら、ちゃんと勉強しないとっ」

 

えー、大丈夫でしょ。授業中だって困ってないし。

イマイチ、俺が試験勉強の重要性にピンと来てない事を察したのか、乙倉さんは「そうだっ」と言って提案した。

 

「もし良かったらだけど、一緒に勉強しないっ?」

「………俺と、ですか?」

「うん」

「…………わざわざ一緒に、ですか?」

「嫌なら、いいけど………」

 

いや、そう言われると断れないんだが………。ま、いっか。別に勉強することは悪いことではないし。

ただ、強いて言うなら二人きりでいると変な誤解を受けるかもって所かな。風評被害に遭って大変なのは乙倉さんだ。俺みたいな友達いない奴と恋人と思われるのは嫌だろう。

 

「………あ、なら、俺の家でやりませんか……?」

「っ⁉︎は、はぁ⁉︎」

 

え、何そのオーバーリアクション……。何か変なこと言ったかな……。友達同士なら、割と家で遊んだりすると思うんだけど……。

 

「…………え、変なこと言いました……?」

「えっ?え、あ、いや……へ、変なこと、というか……」

 

何故か顔を赤くして目を逸らす乙倉さん。いや、変なこと言った時の反応だよねそれ。

………あ、もしかして、俺と乙倉さんって別に友達じゃなかったのか?出過ぎた言い方をしてしまったのかもな………。

 

「…………ごめんなさい。差し出がましい事を言いました」

「へっ?……あ、いや違うよっ?ただ、その……少し驚いたというか…………し、下心とかないよね?」

「………シタゴコロ?何の?」

「……………」

 

勉強するのに下心ってなんだ………?どこから生まれて来るんだ?

ポカンとしてると、乙倉さんが俺の事を見て「……大丈夫そうかな」と呟いてから言った。

 

「………じゃあお邪魔しようかなっ」

「………分かりました」

 

うちなら他の人に見られる心配はないからな。

姉ちゃんも今日はいないし、買いだめしてたお菓子とジュース開けちゃおう。しかし、うちに俺の知り合いが来るのなんて初めてだ。なんか楽しみになって来たぞ、ワクワク。

うちに到着して、とりあえず玄関の鍵を開けた。とりあえず、洗面所に向かって手を洗った。

 

「お、お邪魔します……」

 

何故か乙倉さんがすごいソワソワしている。だが、その理由を聞く術を俺は持たないわけで。理由を考える他なかった。なんでだろ、もしかしてうちなんか変な匂いするのかな。でもその辺は姉ちゃんがしっかり気を使ってるしな……。たまに、姉ちゃんのアイドルの友達が家に来たりするけど、そんな反応された事ないし。

 

「あっ、あのっ……俺の部屋、そこの扉なんで。……その、ど、どうぞ………」

「あ、う、うん……」

 

乙倉さんに先に部屋に入っててもらって、俺はお菓子(ポテチ、ポッキー、ポップコーン)を皿に入れ、飲み物は炭酸ダメである可能性を考慮して午後ティーとコーラの二種類と氷の入ったコップを持って行った。

ちゃぶ台を出してその上にコップと皿を置いた。

 

「あ、あの……飲み物は………」

「えっ?あ、う、うん。コーラで」

 

言われるがまま、コップにコーラを注いだ。

さて、これから勉強だ。しかし勉強、と言われても何をすれば良いのか分からない。教科書の問題でも解いてれば良いのか?

とりあえず、鞄から教科書を取り出した。数学、英語、国語、歴史、地理、理科の6科目だが、地理と歴史は50点ずつなので実質5科目と言えるだろう。

乙倉さんが勉強してる様子を参考にさせてもらおう、そう思って乙倉さんを見ると、なんかまだ落ち着かないのか顔を若干赤らめて俯いたまま動かない。

………あ、もしかして暑いのかな。まぁ、六月だしもう夏だもんな。

俺は部屋を出てリビングから扇風機を取って来た。

で、乙倉さんに当たるように風を発射。

 

「……………」

「……………」

 

あれ、なんでまだ固まってるんだろ………。扇風機邪魔かな。

………ダメだ。さっぱり分からん。乙倉さんに聞いた方が良いかな……。

 

「………あの、乙倉さん……?」

「っ?な、何っ?」

「……いえ、その………なんで、黙っちゃったのかなって……」

「っ、ご、ごめんねっ。違うの。その……男の子の部屋に来るのは、初めてだから………」

「………そう、なんですか……?」

 

意外だ。もしかして、男の友達いないのか?

 

「で、でもっ、私から勉強しようと言い出したんだもんねっ。勉強しよっかっ」

「………は、はあ」

 

と、いうわけで、勉強を始めた。

 

 

++++

 

 

首筋にチクっという感覚で目が覚めた。目が覚めた、という事は、俺は寝てたのか?つーか何事?

頭の中がまとまらないまま辺りを見回した。乙倉さんがぷくーっと頬を膨らませて俺を睨んでいた。

 

「………何寝てるの、裕太くんっ」

「…………あっ」

「勉強するんじゃなかったのっ?」

「………ご、ごめんなさい……」

 

いや、だって勉強つまんないんだもん……。しかし、寝ちまうっていうのはさすがに悪い事したな………。

 

「………まったく、まだ30分しか経ってないのにっ」

「………すみません」

 

乙倉さんはため息をつきながらポテチを齧った。ていうか、おやつほとんど無くなってるし………。

ふと乙倉さんを見ると、今度は頬を赤く染めてボソッと呟いた。

 

「……お、お腹空いちゃってっ」

「………ま、まぁ、たくさん食べてくれても、良いですけど……。あ、追加しますか……?」

「い、いいよっ!これ以上は太っちゃうっ。それより、勉強しようっ。これ以上、寝たら怒るからねっ」

 

いや、食ってばっかだった癖に何を………なんて言ったら怒られるだろうし黙っとこう。

まぁ、それはともかく勉強を開始した。乙倉さんが目の前で数学の教科書を開いていたので、俺も数学を勉強し始めた。

 

「……………」

「……………」

 

俺も乙倉さんも黙って教科書の問題を解く。

………これ、一緒に勉強する意味あるのか?一人でも良さそうなもんだが………。

せめてどちらかがどちらかに質問しないと一緒にいる意味がない気がするんだが………。でも分からない事なんてないし………。あ、やべっ、なんか、眠くなっ………はっ、ダメだよ寝たら。起きろ、俺。

とりあえず、コーラを飲むことにした。カフェイン入ってたよな、確か。よし、いける。

 

「……………」

 

眠い。誰か助けてー……。そんな事を考えてると、ガチャッと玄関が開く音が聞こえた。

俺はチャンスと言わんばかりに立ち上がった。

 

「あ、ね、姉ちゃんだ!出迎えないと!」

「えっ……?もうっ………」

 

不満そうな乙倉さんを無視して、俺は姉ちゃんを出迎えた。

 

「ただいまー」

「おかえり」

「あら、お出迎えなんて珍しいのね」

「ま、まぁね。飯にする?」

「ええ、そうしようかしら……あら?」

 

姉ちゃんが玄関に揃えて置いてある乙倉さんの靴を見て声を漏らした。

 

「ああ、乙倉さん来てるから」

「は、はぁ⁉︎」

「えっ、何」

「わ、私もいない部屋に女の子を連れ込んだの⁉︎」

「え、なんで?ダメなの?」

 

何そのオーバーリアクション。時限爆弾でも見つけたんですかってレベルまである。

 

「………い、いや、ダメではないけど……」

 

すると、俺の部屋から乙倉さんが顔を出した。

 

「あっ……み、美波さんっ……。お邪魔してます」

「悠貴ちゃん。大丈夫?何もされなかった?」

「おい、それどういう意味だ」

「は、はい。大丈夫ですっ」

 

な、なんだよ……何かダメだったのか?

 

「さて、俺は晩飯作らないとな」

 

俺はそう言うと、リビングに向かった。部屋の前をすれ違う直前、俺の腕を乙倉さんは掴んだ。

 

「待った。まだ全然勉強してないよっ」

「あら、勉強してたの?」

「は、はいっ。裕太くんと一緒に勉強させてもらっていますっ」

 

あ、バカ余計なことを………!

姉ちゃんはそれを聞くなり、ぶわっと目尻に涙を浮かべた。その様子に軽く引いてる乙倉さんに気付かず、両手をとって激しく握手をした。

 

「ありがとうね、悠貴ちゃん!弟と仲良くしてくれて!」

「えっ?は、はいっ?」

「あの子、親として心配になる程寂しい子だから!これからも仲良くしてあげてね!」

「は、はあ………」

 

おい、誰が親だ。

心の中のツッコミを無視して、姉ちゃんは俺に言った。

 

「そういう事なら、勉強しなさい?ご飯の支度は私に任せて」

「えっ、いや……」

「いーからいーからっ。じゃ、頑張ってね」

 

姉ちゃんに部屋の中に捻じ込まれた。乙倉さんがすごくニコニコしながら俺を見て言った。

 

「………じゃ、勉強しよっか」

「………はい」

 

勉強を再開した。

 

 

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