タイムカードの下番時刻を打刻させ、更衣室に入り服を着替える。
「・・・ふう、これでよし。忘れ物はないよね?」と、
辺りを指さし確認し、更衣室から出る。
時刻は、午後21時過ぎ。酔っぱらった会社員が、電車で立ち寝しながら帰路につく。
当たりの時間であろうか。家に帰れば、シャワーを浴び、夕食を簡単に済ませて、眠りにつく。朝になれば、顔を洗い、朝ご飯を食べ、出社し、タイムカードを通して、上番。更衣室で着替えをして、勤務に就く。平凡と言われれば、それまでのごくありふれた、いつもの流れ。
しかし、それは今夜までの話。 明日からは、この会社に出社ではなくなるのだ。
数週間前の事である。
朝出社した後、必ず各デスクを水拭きをするのが習慣。拭き上げたあとのデスクは、サラサラした表面になり、よーし、今日もがんばるぞーという気にさせてくれるから、
勝手にやり始めている。
出社はかなり早出しないと、全部のデスクを拭いて回れないため、かなりの早出を買って出ているので、2時間前の出社は当たり前である。
自己満足と言われても仕方のないことなのだが、掃除が好きなので、あまり気にしていない。
そんな中、一本の内線電話が、フロアーに響き鳴る。
「あれェ? 珍しいなぁ~・・こんな早朝に電話ということは、何かのトラブル案件かなあ?」
そんなことを考えながら、メモを手元に用意して、内線電話の受話器を右耳に当て、
「おはようございます、外交総監ブースの秋山です」と、電話に出る。
「・・えっ? 地下の小会議室に、私が行くんですか?・・はい、わかりました。」
カチャッと、受話器を置く。
チーンと、エレベーターのドアが開き、BF1の小会議室の入り口に到着。
真鍮でできた、年代を感じさせるような【小会議室】と書かれた金属のプレートは、所々に錆がついており、一部は黒くくすんでいる。
コンコン。ノックをしてからドアを開け、「失礼致します」と、中に入る。
『やあ、秋山君。早速だが、どうしてキミがここに呼ばれたか。わかっているかな?」
「いいえ。わかっておりません」と、キッパリ即答する。
『キミは、我が社の幹部という立場を悪用して、会社のお得意様へ、偽りの話をもちかけたそうじゃないか?』
「偽りの話???・・といいますと?」
『覚えていないのかい? J社との契約を突如白紙にしてくれと、進言したそうじゃないか?』
「白紙・・・あぁ!」
『あぁ!じゃなーいっ!! J社は、昨夜記者会見を開いて、合併は白紙となりました。と、我が社と契約を無かった物にしたんだ。×証一部での取引では、合併の話題によって、いまだかつて見たこともない数万円台に跳ね上がった。なのに、白紙になった今じゃ、類を見たこともない急激下落に陥っている。また、技術開発部門に問い合わせの電話が殺到している。 どういう状況にあるか、理解できているのかね?』
「はい、理解しております。ですが、今回の、合併については、当初我が社と一緒になって、共に協力してイイものを作っていきませんか?という、コンセプトが始まりと聞いて、その旨を先方様に伝えたところ、快く承諾していただけました。ですが、【匿名】の方から話を聞いたところ、なんとJ社にとってのメリットは皆無。共に協力しあって、イイものを作るなんて、虫のいい話はむしろ、向こう側に負債を抱え込ませるという、悪徳手段に出るという話を、耳に致しました。これにより、J社様と、信頼を築いていけるものの話ではないと、判断しまして、大変申し訳ございませんが今回の話は、一切無かったものと、お考えのほどをお願い申し上げます。と、その旨をお伝えいたしました。」
『・・キミは、我が社の人間であり、お得意さんが抱え込むであろうデメリットまで考えなくてよかった。【匿名】の人物が何者かは知らないが、そういう事を正直に、J社に申告をしてくれちゃったから、【一体どういうことか説明しろ!】と、J社からクレームが入ったんだよ。・・でもね、俺らはこう答えたよ。【外交総監の言っている事は、全くのデタラメを並べているのにすぎません。そのような話は事実無根です。仮にも、そのような負債処理を貴社にお願いするために、こうして合併の話をするようなどと・・。 そんなことをすれば、お互いの信頼なんて、築いていくことなど皆無。今一度前言撤回を再度お考えいただければ恐悦至極に存じます】とね。』
「ということは、【匿名】の方の情報は、本当だったと認める事になります。本当だったんですか・・?」
『内部の人間が、キミみたいな人間に、機密情報を漏えいさせるような手段に出るとは夢にも思わなかったが、ああ、そうだよ、そのとおりだ。しかし、その話は事実無根だと説明したんだ。もう覆りはしないさ』
「・・ずいぶん、卑怯で姑息な手を使われるのですね?」
『なんとでもいえ。我が社の負債をなすりつけるには、うってつけの会社がみつかったんだ。使わない手はない。信頼関係だと?そんなもの、鼻からあるはずがないわ。そんな綺麗ごとを抜かし、それこそが真っ当な社会だと信じる馬鹿がどこにいる?カネこそが全てだ。騙したとして、合併して、だめになったら引きはがせばいい。それだけのことだよ。』
開いた口が閉じないとは、まさにそういうことであろう。呆れて次の言葉が出てこない秋山。
「信頼関係を築くことよりも、利益がイチバンですか?」
『利益以外を求める仕事がどこにあるというんだね?そんな手間暇かかる仕事を、誰が誰にまかせたんだね? 手間のかかる信頼を築く時間があるのなら、もっと多く、大きい利益を得れる契約をなん十社と、とってくるのが外交総監の責務だろう?それをキミは、半年でたったの二社としか契約を取ってこれないなんて、新米のペーペーじゃあるまいし、出来そこないの給料泥棒じゃないか。その上、キミは、幹部クラスにまで昇格させたというのに、その立場を悪用して、我が社に泥を塗るとは。。。。
さて、そろそろキミを呼び出した理由を伝えよう。査問委員会で吟味した結果、キミは、本日付けを以って除名処分だ。すみやかに我が社から姿を消すように。以上だ』
「・・どんな理由であろうとも、結果がすべて・・オカネが全てという事ですか。
わかりました。秋山外交総監、除名の旨、しかとお引き受けいたします。」
『キミには大変失望したよ。とっとと消え失せろ』
「本日に至るまで、勤務させていただき、ありがとうございました。失礼致します。」
バタン・・・小会議室から出て、廊下の壁に背を預けて、ため息を一つつく。
天井を見上げつつ、旨のポケットから黒い機械を取り出す。
ガサガサ・・ピポッ。電子音がシャツのポケットから鳴る。
「・・念のために録音していたけれど、利益だけしか考えていない会社だなんて、今知ったことではないけれど、こんなにアクどいとはね~。
J社に前言撤回を要求しているんだから、いずれ強行手段に出るに違いない。 この会話を録音したコレ、J社の交渉先の課に速達すれば、ウチの会社が言っていたこと全てが露見するわけだから、前言撤回すらも吹き飛ぶんじゃないかな?各デスクも拭き終わったし、本日付なら、荷物まとめるのに時間はかからないし、最後の仕事【密告】を外交総監として、果たしましょうか。その前に、アポとってからにしないとね~。ええと、J社のK様はと・・・」
こうして、J社に届いた録音のデータにより、元居た会社のブラック面は、筒抜けのダダ漏れになった。これにより、一切の取引は白紙を極め、新聞一面を騒がせ、信頼すらこの会社には無いため世の中から
姿を消すことになるのは、それから数日のことである。
to be continue
【カイゾク】に介入する前の、主人公秋山編になります。
これは、筆者のオリジナル作品になります。
架空の会社名ですが、内容は一部簡略化している、実体験をもとにしたものです。
賛否両論あるかと思いますが、よろしくお願い致します。
敬具