あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~ 作:あるすとろめりあ改
・アイアンマンが超々々大好きだった人が60年近く掛けて遂にアークリアクターを完成させる
・しかし、その後の実験の影響によってかアークリアクターが暴走。眩い光に包み込まれてしまう。
※そしてどうなった?
・前世の記憶は喪い、75年の中で培われた知識だけを得た少年の物語が始まる←今ここから
001 出逢いと書いて被災とルビを振ろうかな
僕には前世の知識がある。
何て言ったら、果たしてどんな反応が返ってくるのだろうか?
決して多くの者から理解される事はないであろう事は疑う余地も無い。
事実として在るのは、僕はいとも簡単に74年と9ヶ月という年月を生きた男の一生にあった出来事や知識を何一つこぼれ落とすこと無く思い出す事が出来る、唯それだけだ。
様々な知識や経験を見たことも聞いたことも無いのに自分の糧として使うことが出来るし、
アイアンマンに関しては……もはや魂レベルで刻まれているとでも言うのだろうか、実際に映画を観た訳でも無いのに今でも心を滾らせているのだから大した物だ。
だからこそ、その記憶が自分の物なのか、それとも赤の他人の物なのか…………何とも哲学的な話であるが、それを議論できる相手何て何処にもいる筈も無くて。
結局、その事に関しては余り深く考えない様にしている。
才能と言うか特長と言うか、人が誰しも持ってる長所が他人よりもちょっと希有だった……ということにしたいから。
兎に角、過去なのか未来なのか異世界なのかも定かでない記憶よりも、僕は今を生きる事に専念するんだ。
「倉持幸太郎です、よろしくお願いします!」
そう、僕は倉持幸太郎。それ以上でもそれ以下でもない。
前世だか何だかの知識のせいで周りよりもちょっと頭の回転が早いだけの小学一年生だ。
○
「なるほど……これは想像以上に、キツい…………」
前世の記憶、と思しき物があるせいで、僕は歳不相応に色んな知識を持っている。
そうなると何が困るかと言えば……周りの空気に合わせて行動するのが非常に困難なのだ。
だってさ、何が面白いのか「うん〇ー」とか「ち〇こー」なんて単語を何の前触れも無く突発的に大声で叫んで、それで周囲の生徒もそれで大爆笑したりするんだよ?
男子だけかと思いきや意外にも女子までそういうテンションだったりするから余計に始末に負えない。
ほら案の定担任の先生も困ってるよ……言ったって止めないだろうから態々言わないけどさ。
「早く帰りたい……」
入学から数えて二日目の一限目、入学式の翌日にして既にそんな言葉が僕の口から漏れ出していた。
家に帰れば、パソコンがある。
知識としてあるパソコンや携帯端末と比べてしまえば化石の如くロースペックなマシンであるが、それでもやれる事は案外に多い。
それに我が倉持家はちょっとした事情で他の家と比べても幾らか裕福(憶測)なので、実は個人専用のノートパソコンがあったりする。
故に、しっかりとロックすればAIの雛型をコツコツと造っててもバレないのだ……多分ね。
「うーん……まずは根本的な骨子を作らなきゃだよな、思考ルーチンのアルゴリズムは幾つかパターンを用意して…………」
いつの間にか無意識の内に、算数の授業もそっちのけでAIの構造の草案をノートに書き殴り始めていた。
今更「リンゴが5こと、ミカンが3こ、合わせて幾つー?」なんて計算に意識を集中させられるだけの忍耐力なんて無いのだ。
それにほら、ノートに何か書いてると勉強してるみたいに見えるでしょ?
そして気が付けば、終鈴のチャイムが古臭いスピーカーから鳴り響いて黒板に羅列されていた一桁の加算式は消されていた。
だからと言って、折角ノッてきたAIの着想案を無碍にしたくないので周りの状況なんてお構いなしで作業は継続する。
「お前、さっきから何やってんの?」
「おろ?」
突然話し掛けられたので変な声が出てしまった。
顔を声が聞こえた左側に向けてみれば、何とも不機嫌そうで目つきの悪い女子が僕を見下ろす様に眺めている。
確か…………隣の席に座ってる子だ、と思う。
「えっと……しののののさん?」
名前を覚えて無かったので、とっさに胸にピン留めされた大きくて赤く縁取られた名札に目線を向けて確認する。
「“の”が多い」
「あれ?」
もう一度、名札をよく見て再確認。
名札には『しののの たばね』と書いてある。
うーむ……一年生の名札は平仮名で名前が書かれているのでちょっと読み辛い。っていうか凄く珍しい名字だね。
「しののの、さん……えっと、どうしたの?」
「だから、何をやってたんだって聞いてんの」
…………目つきだけじゃなくてお口も随分と悪いご様子で。
「あのね、女の子がそんな喋り方しちゃ駄目だよ」
「うっさい」
「ぅあ!」
折角忠告してあげたのに、聞く気などさらさらないと言わんばかりに無視されたどころか、机の上に広げられていた僕のノートが引ったくられた。
予想外の行動だったのでビックリしてしまい、口を大きく開けたまま呆然と固まってしまう。
「ふーん……プログラムのダイアグラムかな」
「ちょっと、返して」
「これは、何?人工知能の構造?」
「あの…………」
「はーん、複数の思考ルーチンを構築して予め回答を用意させたり応答速度を速めるのか……」
「返して。ねえ、お願い」
「でもこんなの、今のシングルコアCPUじゃ処理しきれないんじゃないの?」
全然、微塵もコッチの話を聞いてくれない。
もうずっと僕がノートに書いた落書きを眺めてブツブツと…………って、あれ?もしかして内容を理解しちゃってたりします?
「ねえ、コレってもう出来てんの?」
「え…………いや、まだまだ全然。それに其処まで出来てもHDDもメモリもスペック不足だろうから何年かかるか解んないし」
造ろうとしているAIのモデルは勿論J.A.R.V.I.S.である。
とは言え、あんな何でもござれな万能AIを作り上げるのには1年や2年では到底不可能だろう。
だからと言って何もしなければ一生完成しないので今の内から準備しておく訳だ。
「あっ、そ……」
「だから、そろそろ返して欲しいかなーって……」
「…………ほらっ」
興味が失せたのか、しのののさんはノートを棄てる様に空中に放り投げた。
「投げ捨てないでっ!?」
空中で真剣白羽取りをしてキャッチ。
まあノートだから地面に打ち捨てられても壊れたりしないんだけどさ……
「お前は面白いね、また見せて貰うから」
「は…………ぁ?」
まるで台風の様に、しのののさんは過ぎ去っていった。
目に見える実害こそ無かったが、僕の心には何とも言えぬ痼りが残る。
って言うか、実はイラっとした。
「何だったのさ、一体…………」
だけど、聞こえない様に小声で悪態をつくのが精一杯で、それ以上何かをする訳でも無く。
行き場の無い感情を、ハアッと溜め息をついて誤魔化す事しか出来なかった。
それが、僕と篠ノ之束の出会いで…………
それは、災厄の始まりだったなんて、その時の僕に解る筈なんて無かったんだ。