あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~   作:あるすとろめりあ改

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全年齢対象。

……全年齢対象だよね?
なんてふと、思ったので適当な少女マンガ(全年齢対象)をパラパラと捲ってみた。

うん、やっぱり全年齢対象だ。


012 泥沼に嵌ったのは、果たして君か僕か

 撓垂(しなだ)れ掛かってくる姿は、まるで猫の様だった。

 眼を細め、こちらの様子を伺っているのか舐めるように下から上へと視線を動かしていく。

 やがて僕と目が合い、ニヤリと笑った。

 これじゃアリスじゃなくてチェシャ猫じゃないか。

 

 

「ぅふ……ふふふふ……」

 

 

 本当にチェシャ猫みたいな怪しい声で笑いながら、彼女は脱力して顔を落とし、僕の胸に額を押し付けた。

 そのまま、ゆっくりと少しずつ頭を上げて……今度は顔を耳元の辺りまで持ってきて、囁いてくる。

 

 

「ねぇ……」

「ぅあ……っ!?」

 

 

 擽ぐるみたいに耳元で囁かれたウィスパーボイスは思いの外にこしょばゆくて、思わずビクンと反応してしまう。

 そんなリアクションをしてしまったのが良くなかった。

 獲物でも見つけたみたいに、彼女はぺろりと舌舐めずりすると……あろうことか、そのまま僕の右耳を舐めとってくる。

 

 

「ひゃ……う!」

 

 

 それも一舐めでなく、何度も執拗に、責めるように。

 耳の形に沿って、ゆっくりと繊細に……かと思えば舌の先を耳の穴に押し込んでグリグリと穿ったり、耳を甘噛みしてからキューっと吸い込んできて……

 

 くすぐったいとか、もう既にそんな域は超越した感覚に見舞われる。

 

 

「や、め……」

「駄ぁ目。言うこと、聞いてくれるんでしょ?」

 

 

 相変わらず、耳と唇とが触れ合いそうな距離で言ってくるものだから始末におけない。

 彼女は、明らかに楽しんでいた。

 この状況を、僕の反応を。

 

 

「どう、して……」

「んぅ?」

「何で……こん、な?」

「あはは、反応がまるで女の子みたい……!」

 

 

 聞いても理由なんて答えてくれなくて。

 寧ろ、逆に彼女の心の何かを煽ってしまっただけだったようだ。

 

 

「んんっ……ん!」

 

 

 耳から口を離した彼女が次にロックオンしたのは、口唇。

 拒むように閉ざした唇を、やっぱりペロリと舐めて。

 それからリップでも塗るかの様に、右から左、上に移って左から右……文字通り舐め回す。

 

 それで一度、顔を離したが……彼女の目に諦めた様子は無く、狩人や肉食動物みたいにギラついていた。

 

 

「ふぅ、ふぅ……」

「はぁ、はぁ……」

 

 

 お互いの熱を帯びた息が、その中間地点でぶつかり合う。

 

 身体から、蒸気が吹き出しているんじゃないかってくらい暑い。

 そんな所へ追い討ちをかける様に、更に身体を押し付けるみたいに体重を全部僕に預けて、抱き締めてくる。

 熱は篭って……彼女の柔らかい身体がプレスされ、何かが潰れた。

 

 こんなの、どうしろって言うのさ…………っ!

 

 

「ねっ……口、開けて」

「…………」

「キス、するから……ほらっ!」

 

 

 それでも頑なに口を閉ざす僕に業を煮やした彼女は決心したように閉ざされた口唇にキスを仕掛けてきた。

 

 

「ん……っ」

 

 

 唇と唇が触れるだけの、子供のキス。

 そこに彼女の口から漏れ出す唾液が潤滑剤になって、滑る。

 

 擦り付けるようなキスが延々と続き、僕の呼吸は遮られた。

 やたら長く、その時間は永遠に続くのではないかと恐怖がにじり寄ってくる。

 そんな、窒息してしまいそうな程にキス。

 

 漸く解放してくれた時には、お互いに息も絶え絶えだった。

 

 

「ぷっ……はあっ……!?」

 

「ふはっ……ふぅ、あはぁ…………!」

 

 

 明らかに彼女は異常(おかし)かった。

 何時もの姿からは想像もつかないような暴走。

 

 その感情の捌け口がコレなのだとしたら、それを受け止めるのは……別に、吝かではない。

 だけど……これ以上は、駄目だ。

 流石に、もう……見ていられなかった。

 

 

「の……ぉ!」

「きゃ……ぅ?!」

 

 

 まず釈放されていた腕で彼女の顔を胸に抱え込む。

 動揺した所で脚を外し、逆に絡めとり返してマウントをとる。

 そのまま、グルンと身体を回転させて……ポジションを奪った。

 

 つまり、今度は僕が彼女を押し倒す形になったのだ。

 

 

「ちょ……ちょっと!?」

「…………違う、だろ」

「え……?」

「こんな逃げ方……君らしくない!」

 

 

 僕に腕を押さえられ組み敷かれた彼女は明らかに動揺し、顔を紅潮させながら驚愕で瞳を揺らしていた。

 成る程、これは……確かにこのまま襲ってみたくなってしまう気持ちは良くわかる。

 でも、駄目だ。

 

 

「篠ノ之束は……そうじゃ、無いだろ?!」

 

 

 言葉が言語になっていない。

 でも彼女には、そのニュアンスが伝わったようだ。

 

 

「そう、かもね……私らしく、無いかな?」

「だったら……」

「私も……こんなんじゃ無いって思ってた……もっと冷酷で、極端で、薄情な人間だと思ってた」

「…………」

「世界中のミサイルをぶつけてやろうかと思った、ISで暴れまわってやろうかと思った、彼奴らを殺してやろうかとさえ思った!…………でも」

「でも……?」

「そんな事を考える度に、お前の顔が浮かんできた!お前に怒られるかもって、悲しむかもって……そう考えたら、何も出来なくなった!」

 

 

 彼女は泣いていた。

 キッと僕を睨みつけて、駄々をこねる幼子みたいに、泣いていた。

 

 

「なんでだよ……なんなんだよ、お前はっ!」

「なに、って……」

「全部お前のせいだ!お前が私の中に入ってきて、私を満たすから……だからこんなに悲しくて!苦しくて、辛いんだよっ!」

「…………僕は、何もしてない」

「したよ!私を認めてくれた!私を見てくれた!私を助けてくれた!私を怒ってくれた!私を心配してくれた!全部お前だ、お前だけ……っ!」

「っ…………」

 

 

 怒涛な言葉のラッシュに、僕は思わずたじろいでしまう。

 それだけ彼女は必死で、追い込まれているように見えた。

 

 

「なんとも思わなかった筈なのに……悔しがるお前の顔を見てたら、こっちまで悔しくなってきて……」

「…………」

「お前がいなかったら……こんな、こんな気持ちには……っ!」

 

 

 何時しか、その声と顔は悲痛なものに変化していた。

 訴えかけるような口調で、吐露していく。

 

 こんな取り乱した彼女の姿を見るのは初めてだったが不思議と受け入れられた。

 

 

「わからない……なんなんだよ、なんだよコレは……」

「何、が……?」

「苦しいのに嬉しくて……矛盾してるのに心地良くて……お前で私を、全部埋めたくなる……っ!」

「だからって、あんな……」

「私は、ただ楽になりたくて……ああすれば全部忘れられると思ったから……」

「…………そっか」

 

 

 憶測ではあるが、漸く彼女が何をしたいのかが分かってきた。

 つまり、甘え方が解らないんだ。

 今まで親にも甘える事が出来なくて色んな物を抱えて……

 かと言って、自分の感情をコントロールできる程に器用でもなく。

 今までに無い程まで追い詰められて、逃げ場を失った。

 

 だから……拠り所が欲しかったのだろう。

 

 

「あー、もう……しょうがないな……」

「へぅ……?」

 

 

 倒れていた彼女の上体だけを起こして、再びその顔を胸の中に抱える。

 幾らか抵抗が見られたが、やがて大人しく動かなくなった。

 それを見計らって、頭頂部から後頭部にかけてを……優しく手で撫でてみた。

 

 

「ごめんな、もっと僕も考えて送り出すべきだった」

「違っ……お前は、関係な──」

「おいおい、さっきは僕のせいだって言ったじゃないか?」

「だから、それとこれとは別で……」

「まあ良いじゃないか、全部僕にぶつけちゃえ。それで、スッキリすればいい」

「…………ん」

 

 

 抱かれたまま、彼女は両腕を僕の背中に回して抱き返してきた。

 てっきり、また何か言ってくるかと身構えていたが、予想外にも無言のまま何も言わずに体重を僕に預けてくる。

 

 

「…………ちゃんと、聴こえる」

「え、何が?」

「心臓の、音」

 

 

 ドキリとした。色んな意味で。

 

 僕の精神状態で拍動は変調するのだろうか、とか。

 まさか毒素のことはバレていないだろうか、とか。

 なんでこんなに良い匂いがするんだろうか、とか。

 

 そんなスパゲティコードみたいに散らかった動揺は隠せただろうか…………?

 

 

「生きてる……」

「…………生きてるさ、君が生かしてくれているんだから」

「そっか、私か」

「そうだよ」

 

 

 落ち着いて、納得したのか彼女は僕の胸から顔を離して、見上げた。

 その視界は僕の顔だけを見ていて、つまり僕の視界も彼女だけが写っている。

 

 瞳は少しだけ潤んでいて……さっきよりも清純な筈なのに、何故か艶めかしく見えてしまう。

 

 

「はっ……あはははははは!」

「な、なんだよ……?」

「いや、ね……何だかどうでも良くなってきちゃってさ……」

 

 

 そう、もう何でも良かった。

 あんな事されて、興奮して……でも押さえてみれば驚かされて、落ち着かせるとしおらしくなってしまう。

 まるで、ビックリ箱。

 

 何だか……凄く愛おしく見えて。

 

 ああ、僕は混乱してるんだなって、自覚させられた。

 この異次元で不可思議でエキセントリックで異常な空気に毒され、酔っているんだ。

 

 

「そう言えば……最初のお願いはキスして、だったっけ?」

「は……は、はあっ!?」

「あれ……聞き間違いだったかな?」

「いや、その……あ、合ってるけど……蒸し返すなよ!」

「あはは、ごめんごめん」

 

 

 漸く、何時も通りに戻った彼女の顔を両手で捕まえて、固定する。

 

 

「え?なに?」

 

 

 トボけた表情になった顔を押さえたまま……

 

 その柔らかい唇に、僕の唇を重ね合わせた。

 

 

 

 

 

 

 結局、家に帰ってきたのは日も暮れ、世間的には夜と言っても相違ない時間だった。

 学校?そんなのサボタージュしたよ。

 …………間に合うように朝早くから行ったのになぁ。

 

 

『お帰りなさい。随分と遅かったですね、マスター』

「メーティス……今日は、静かだったな」

『マスター。眼鏡を外されてしまえば現状では交信手段がありません』

 

 

 そう言われてみれば、そうだ。

 

 

『それに私はマスターの言い付けを守ってヴィブラニウムと呼ばれる原子、元素……それに類似する物が存在しないか必死に調べていたのですよ』

「ああ、ありがとう……それで、見つかったのかい?」

『いいえ、残念ながら』

 

 

 だよね……

 期待していなかったと言えば嘘になるけど、見つかる可能性は限りなく低いとは思っていた。

 そんな簡単に見つかる物だったら、こんなに恐怖を感じたりなんかしていない。

 

 

「どうすれば良い……何処を探せば見つかる?」

『わかりません。地球に無いのなら、宇宙を探すしかありませんね』

「宇宙…………?」

 

 

 そう言えば、ワカンダ王国からの採掘とか、家を壊してまで高出力レーザー照射で少量を生成した事ばかりが頭に浮かんでいた。

 だが、そもそもキャプテンの盾に使われたヴィブラニウムは宇宙から飛来した隕石に由来する物だ。

 もしも、ヴィブラニウムが宇宙で生成されやすい物質だったとしたら?

 

 例えば、月で発見されたアーマルコライト。

 鉄とチタンを豊富に含んだ鉱石であるそれは、結局のところ地球上でも発見されたが、逆に言えば月から持ち帰られるまでは見つからなかったのだ。

 つまり、地球で発見するのが困難な物質が見つかったり、もしかしたら、地球という環境では産まれない物質の可能性だってある。

 無理矢理に仮説を立てるとすれば、太陽のように高圧力の環境が整った恒星でのみ産まれ、惑星では作られないとしたら……?

 

 

「メーティス、そうだ、宇宙だ!」

『はい?」

「地球だけじゃなくて宇宙にも視野を広げろ!手始めにNASAからだ!ああ、あらゆる国の隕石のサンプルもな!」

 

 

 縋るような想いで、懇願する。

 自分の生きるか死ぬかの問題だ、必死になったって仕方がない。

 何だって良い、ヴィブラニウムでなくとも、パラジウムに替わり無害でさえあれば……!

 

 

『わかりました。時間がかかりますが、宜しいですか?』

「ああ、やってくれ!」

 

 

 …………淡く儚い願望だが、それくらい夢見てもバチは当たらないだろう。

 いや……それとも、既にバチが当たったからこうなったのか?

 トニー=スタークの、アイアンマンの模倣をしたから……

 

 

「…………なんてな」

 

 

 誰に言うでもなく、コッソリと呟いた。

 

 




直接的な性描写もない。
読んだ者の性的感情を刺激するような描写もない。
未成年者が読んで不適切な描写もない。

だってキスというかチュウだし。
食べカスが付いてて、そこを舐めるのと変わらない。エロくない。
男女が抱きつくなんて、絵本でもやってる。

大丈夫だった!誰が読んでも全年齢対象だった!




え、警告されたら?
描写が少しだけ細かくなったりするだけです。
私は素直なのです。

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