あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~   作:あるすとろめりあ改

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一体いつから───────これからはご都合主義でハッピーエンドを迎えられると錯覚していた?


次にお前は「なん・・・だと・・・?」と言う!


015 震撼、動揺、衝撃。アイム・イズ・世界を動かそう。

 千代田区、首相官邸。

 その総理執務室は、異様な緊張感が空間に漂っていた。

 

 

「本題から入ろう。アレは何だ?」

 

 

 まず先陣を切ったのは内閣総理大臣、その人。

 しかし、その問いに答えられる者はここにいなかった。

 そしてそれは、ここにいる全ての者の疑問でもあったのだ。

 

 

「総理、ここはまず各省庁の情報を整理して擦り合わせをすべきかと……」

「そうだな……こう言うのは、まず文科省か。事の成り行きを説明してくれ」

「は、はい……えー、まずは未確認飛行物体の“A”についてですが。此方につきましては隕石を観測していた国立天文台が一番最初にキャッチしました」

 

 

 会議室のスクリーンに文科省が用意した資料映像が映し出される。

 小惑星同士の衝突で粉々になったデブリ……そこに、場違いな紅い塊が地球の方角から現れた。

 

 映像の視点が切り替わる。

 どうやら、観測所の現場でもかの未確認飛行物体は気掛かりだったらしく、隕石とは別の観測機がその映像を捉えていた様だ。

 そして“A”が手を前方に掲げると……そこから光線が放たれた。

 

 瞬間、会議室は驚愕の声で湧き立つ。

 

 

「これは……何を発射した?」

「…………わかりません」

「何?」

「いえ、恐らくはレーザーだと思われますが……この様な大出力の物をこれほど小型な物が撃ち出すというのは……目下、大学教授を初めとした専門家に問い合わせ調査している所です」

「ふむ……防衛省、米軍の実験機の可能性は?」

「はい、その点についても考慮したのですが、寧ろアメリカ国防省から『未確認飛行物体の正体に心当たりは無いか』と防衛省に問い合わせが来る始末でして」

「つまり、アメリカは関与していないと?」

「断言出来ませんが、少なくとも米軍は把握していない模様です」

 

 

 議論を挟む最中にも、映像は途切れる事なく“A”が隕石に光線を撃ち、隕石の軌道をズラしていく映像が映し出されていた。

 

 

「まるで幾つかの隕石に絞って撃っている様に見えますが……?」

「ええ、その……」

「何だ?」

「はい……実は、まだ結論は出ていないのですが、“A”は地球に落下する可能性がある、つまり大気圏で燃え尽きずに被害を齎す可能性のある隕石のみを攻撃していた可能性がありまして」

「そうなのか?」

「まだ断言出来ません。なにせ、小惑星の破片は2000以上に分裂していたので、今現在においても総ての軌道予測計算は終了していなくて……」

「そりゃ可笑しいじゃないか、じゃあ何だ?“A”は隕石の軌道計算に使ってたスパコンよりも早く答えを導き出したとでも言うのか?」

「そう言うことに、なりますね……」

 

 

 今度は対象的にシンと空気が冷えた。

 もしもそれが本当なら、各省庁や大学が並列に繋いだスパコンで計算していた物よりも高速かつ正確に処理するコンピューターを所有している可能性がある。

 それはつまり、国やそれに匹敵する規模の組織が関わる可能性も浮上したという訳だ。

 更にそれが公的な物でなく、現状では秘匿されているというのが問題だった。

 

 

「回りくどいのは無しだ……差し迫った問題として、コレは脅威に成り得るのか?」

「結論から申し上げれば総理、これ単体で国を滅ぼす力を持つのは確実です」

 

 

 その後に表示された映像では、隕石に向かって計6発の小型ミサイルを発射したのがハッキリと写っている。

 ……1発だけでも1945年に広島と長崎へ投下された原子爆弾を優に超える威力を発揮しており、つまり戦略的な脅威を持ち合わせているのだ。

 

 

「更に……“A”の後に現れた白い未確認飛行物体“B”ですが……此方を実際に映像をご覧になって頂ければと思います」

 

 

 文科省大臣が部下に指示を出し映像を切り替えさせると、“A”と同様に人型だが、形状は明らかに異なる“B”が“A”に続く様に宇宙空間まで上昇して来ていた。

 そして“A”が下がり、代わりに“B”が前方に出て来ると……“A”のレーザー砲と比べても段違いな威力を見せつける光線を発射する。

 桃色に輝く濁流の如く閃光は……さながらロボットSFアニメのワンシーンの様でさえあった。

 

 

「な、何が起きた?」

 

 

 内閣総理大臣が伝え聞いていたのは、未確認飛行物体が自衛隊の戦闘機と接触して逃げたという事と、それが日本の防衛を脅かす可能性があるという話だけだった。

 それは防衛大臣を初めとした各省庁の大臣一同も同様だった様子で、文科省の提示した映像に信じられないと言わんばかりの驚愕した表情を見せている。

 しかしこれは公式な、文科省の保証する事実だけを記録した映像なのだ。

 

 

「具体的な威力については詳細不明ですが……ご覧の通り、核兵器レベルの威力を発揮するミサイルでもビクともしなかった隕石を粉砕して見せたのは、事実です」

「今ので消えた、と言うのか?」

「いえ、粉砕です。正直、このサイズの隕石がこれ程の耐久性を見せること自体が異常……ああ失礼、脱線しました。そしてこの後に、粉砕の余波で落下を始めた隕石の残骸を破壊する為に“A”と“B”の両機は降下を開始しました」

 

 

 ここで次に問題になるのは、両機共に単独で大気圏を再突入し、難なく成功させてしまったという事実。

 核兵器や、それを遥かに凌ぐ威力の武器を持った飛行物体が……明らかに迎撃困難な高度から超スピードで降下してきているのだ。

 危ないからコレを撃ち落とせと言われて、はいと容易に出来る物では無い……寧ろ、不可能と判断を下す方が妥当とさえ思える。

 

 

「此処からは自衛隊も観測していましたので映像があります……」

 

 

 バトンタッチして防衛省が映し出した映像は、大気圏内にて隕石の残骸を破壊しているという光景。

 ジェットエンジンを持つ機体では推進さえ不可能な高度から降下してきた両機は、高度30km辺りまで降りてきてから隕石を破壊していく。

 その後……スクランブル発進した自衛隊のF-15Jが接近したが易々と振り切って逃げきってしまうところまでが映し出された。

 

 

「コレを最後に、“A”と“B”の両機は見失ってしまいました」

「パイロットは何をやっていたんだ!」

「お言葉ですが、F-15Jの最高速度がマッハ2.5であるのに対して、“A”は推定マッハ8という桁違いなスピードで航行し逃げ出しており…………この世界に存在する航空機で追い付ける機体は、現代の技術では存在しません」

 

 

 更に、“A”に関しては機影も小さくレーダーの反応が悪い上に途中でフレアの様な物を散布したお陰であえなくレーダーは撹乱され、機影を見失ってしまった。

 海へと消えていった“B”に至っては幽霊の様に最初からレーダーに機影が映らず、海上自衛隊も捜索を行ったが痕跡さえ発見出来ず仕舞いだ。

 

 総理執務室に集まった者達は、事態の把握が追い付かず辺りを右往左往と顔を見合わせる事しか出来ない。

 

 

「総理……“A”及び“B”、そのどちらかが日本に牙を剥いた場合、自衛隊が日本を防衛出来る可能性は途轍もなく低いですが…………両機の行動から鑑みるに、コレらは友軍である可能性がかなり高いです」

 

 

 つまり、今回の標的は隕石だったが…………

 

 もしもそれが国に、日本にロックオンされた暁には────

 

 

「日本は、滅亡します」

 

 

 内閣総理大臣を含め、誰もが黙するだけで精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

『マスター、良い報せと悪い報せのどちらから聞きたいですか?』

「どこでそういうの覚えてくるんだよ……じゃあ、良い方から」

『先日マスターが拾った隕石ですが、検証の結果、振動吸収金属……マスターの言うところのヴィブラニウムである事が発覚しました』

 

 

 一瞬呆けて、無意識にガッツポーズを作る。

 この日をどれだけ待っただろうか?

 生き長らえた事を喜ぶと同時に迫り来る死の恐怖に怯える日々……

 それが遂に、終わる。

 

 

『更に、パラジウムの代替として核融合反応を誘発し、その分子の性質から劣化も無いので人体に影響もありません』

「ははは……よし、早速──」

『悪い報せですが。ヴィブラニウムを加工できません』

「──────は?」

『熱、衝撃、圧力…………様々なエネルギーを吸収してしまうヴィブラニウムを加工するのは不可能です』

 

 

 反転、絶望。

 

 なんだろう、このお預けを喰らった気分は。

 目の前に解答があるのに、手が届かない無力感。

 

 つまり、只のぬか喜びだった訳だ。

 いや、それより質が悪い。

 

 

『よってヴィブラニウム分子を解析して規定のサイズに1から作り出すか、若しくは加工する手段を見つけるしかありません』

「…………両方、頼む」

『イエス。もう既に始めています』

 

 

 直径10cm程ある、黒い原石を眺めて溜息をつく。

 

 

「ああ、もう……寝よう」

 

 

 気がつけば、既に72時間を寝ずに過ごした事になる。

 流石に疲労が溜まり、目もショボショボしてきた。

 更にヴィブラニウムの件が追い討ちとなり……身体は勝手にベッドへダイブしていた。

 

 

「こーたろー、ちょっと降りてきなさーい!」

「…………」

 

 

 寝ようとした瞬間に、下の階からお呼びが掛かった。

 舌打ちして叫びたい気持ちを抑えながらも、勢いよくベッドから跳ね上がって階段を駆け下りる。

 

 一階のリビングには、父さんと母さんが揃っていた。

 

 

「何……?」

「ちょっとそこに座りなさい」

 

 

 食卓の椅子を指さされたので言われたとおりに座る。

 丁度、二人とは向き合う様な形になり…………何故か隣には既に座っている者がいた。

 

 

「…………」

「え、何で……?」

 

 

 つまり、ちょっとした日本滅亡騒ぎ阻止の共犯者とも言うべき人物、篠ノ之束その人だ。

 いや、なんで彼女が我が家にいるのか?

 しかも何か思い詰めたような顔してるし…………

 

 

「今日、文科省から連絡があったの」

「へ?」

 

 

 唐突な会話の切り出し方に戸惑ってしまう。

 文科省……と言うのだから、倉持重工のメイン市場でもある宇宙産業についてだろうか。

 

 

「日本列島に落下する可能性があった隕石……それを、謎の未確認飛行物体が撃ち落とした――その未確認飛行物体について何か知らないか、ってね」

「と言っても(ウチ)だけじゃない、恐らくは三菱やIHIなんかにも話は行っているんだろうけど……」

「こんな写真も、メールで送られてきたわ」

 

 

 プリントアウトされた写真が食卓の上に置かれる。

 その写真に写っているのは……紅と白の未確認飛行物体の姿。

 要は、アイアンマンとISだった。

 

 

「…………赤いのは兎も角、こっちの白い方は、束ちゃんのISよね?」

「――――っ!」

 

 

 頭から抜け落ちていた。

 あの学会に同行していた両親なら、ISについて知っていること。

 そして、アイアンマンとISの姿が何かしらの手段によって観測され、記録に残ることを。

 

 

「でも母さん、父さん……僕たちは特別に何か悪いことをした訳じゃないよ?」

「そうね、国の許可なく航空するのは違法だけど、隕石を破壊して被害を未然に防ぐのは良い事ね?」

「ぅ…………」

 

 

 法律を持ち出されると、ぐうの音も出ない。

 銃刀法も含めて、日本が定めた法律をいったい幾つ無視しているだろうか…………

 

 

「ただ、問題はそこじゃなくてね……ちょっとした騒ぎになってしまっているらしいのよ」

「騒ぎ?」

「隕石の襲来自体、一部の関係者を除いて伏せられていた……混乱を防ぐ為にね。しかし、三日前の午後にどういう訳かマスコミどころか情報に疎い筈の一般人にも知れ渡っていたんだ」

「そのせいで、日本中で隕石が観測されていた……つまり、それを破壊したISもね」

「あ…………っ」

 

 

 どうやら現実は、全く予期していない方向に動いていたらしい。

 確かに……野次馬根性の強い人、若しくは自己顕示欲の強い人であれば、望遠鏡を持ち出して隕石が落ちてくるか眺めたり、写真や動画に納めて更にSNSに投稿する者も現れるのは充分にあり得る事だ。

 もしかしたら素直に避難を選択する者の方が少ないかもしれない。

 

 

「結果、隕石を破壊したISの存在も世界に知れ渡り……混乱が起き始めてるわ」

「あんな大きな隕石を粉々に砕いたり……まあ映画みたいな事を現実にやっちゃった訳だからね」

「何処の国にも所属しない正真正銘の未確認飛行物体……しかも、戦闘機なんて目じゃない戦闘力を持っているとなれば、色んな憶測が飛び交うのは自明の理ね」

 

「…………」

 

 

 どうにも、僕は碌に考えもせずに悪手を選択してしまっていた様だ。

 アイアンマンとISが脅威として認識されている……そうなる事を想像せずに、軽はずみな行動を選んだのは、間違いなく僕だった。

 今更になって自身の失態に気がつき、下に俯いたまま話を聞き続ける。

 

 

「それで、聞いておこうと思って……束ちゃんは、どうするのかを」

「……どうするのか……ですか?」

「ええ、ISは束ちゃんの物だから……このまま隠し通すのも、世界に説明するのも束ちゃんが選ぶ事よ」

「どちらを選ぶにせよ、僕たちは最善を尽くすつもりだけどね」

 

 

 その言葉を踏まえて、彼女は考え込む様に顎に手を当てながら俯く。

 しかし、思考に耽っていた時間は思ったよりも長くなく――彼女は、選択した。

 

 

「私は……ISについて、世界に公表したいと思います」

「…………そう」

「その、どうしても……ISの事を認識して貰いたいんです。脅威じゃなくて、希望として」

「…………」

 

 

 それは、あの学会で発表する時の動機でもあり、彼女の夢の一つでもあった。

 だから止めろだなんて、言える筈も無い。

 僕はそれを応援すると決めて……それを後押し……支えると、決めたのだから。

 

 

「わかったわ、記者会見という形で調整してみるから」

「ありがとうございます……」

「ううん、良いのよ。私たちはちょっとだけ手伝うだけなんだから」

 

 

 そうして、話はトントン拍子に決まっていった。

 

 

「…………」

 

 

 その状況を、僕は何もせず黙して見守っているだけだった。

 

 僕の頭には負い目しか無くて……学会のこと、今回の中途半端な情報漏洩のせいでISが脅威として見られてしまった事…………

 支えると言ってもいて、足を引っ張る様なことしか出来ていない自分に、怒りの感情が沸き起こっていた。

 

 

「…………幸太郎」

 

 

 暫くして、母さんと彼女が一旦リビングを離れた時。

 二人きりになったのを皮切りに、父さんは僕に語りかけてきた。

 

 

「なに……?」

「お前は、どうするんだ?」

 

 

 何の脈絡もなく、ただそれを問うてきた。

 

 

「────え?」

「お前が何を選択するのか……それはお前の自由だ。だけど、その選択は自分で決めて、最後まで責任を持たなくちゃいけない」

「…………」

「束ちゃんは、自分自身で大きな決断をした。お前は、どうする?」

「僕は────」

 

 

 

 

 

 

 記者会見の場所は、近隣のそれなりに大きくて有名なホテルを両親が手配して、マスコミへの通知も行っていた。

 見渡す限りに人、人、人、それとレンズや光の激しい明滅……

 そんな恐怖さえ覚える光景を見ている僕は、バックパネルを背にした場所……つまり会見席にいる。

 

 

「本日は、お集まり頂きまして誠にありがとうございます」

 

 

 会見の始まりを告げる挨拶は、場慣れした父さんが行った。

 彼女の役割は、目下ISの説明だ。

 

 やがて、その時が来た。

 

 

「…………初めまして、ご紹介にあずかりました篠ノ之束と申します。今回の騒動の要因の一つになりましたISは、私が発明し製造した物です」

 

 

 驚く程に真面目で、普段の彼女からは想像出来ない姿と話し方だった。

 横に視線を動かしてみれば、その腕が……いや、身体中が小刻みに震えているのに気がつく。

 緊張しているのだ、彼女は。

 この場に、ISを公表する事に、まだ見ぬ世間の反応に────

 様々な思いが、思考が交差して、彼女を震えさせているのだ。

 

 

「この場にISの実機はご用意出来ませんが……改めて機会を頂き、実際に皆さんの目で見て頂きたいと思っています」

 

 

 会見は、続いていく。

 

 時間の経過と共に、彼女の震えは強くなっていった。

 それでも……それが表情として露わにする事は無い。

 その姿に彼女の強さが、固い決意が滲み出ているような気がする。

 

 

「ISはとても強力な武器を積んでいるようですが────」

「あれは武器ではありません。宇宙開発に於いて避けられない問題であるスペースデブリ等の障害物を除去する為の物であり、今回もその役目を果たした訳です」

 

「パイロットは篠ノ之さんなんですか?」

「私ではありません。パイロットのプライバシーを尊重し、本人の了承が得られれば紹介出来ると思います……」

 

 

 ISが受け入れられると言う事は、同時に彼女は世間の晒し者になると言う事だ。

 元来、彼女は人嫌いの傾向がある。

 しかしIS絡みの事で、彼女は今回の様な場所に度々駆り出されることになるだろう。

 そして日常にも…………計り知れない影響を及ぼすのは、想像に難くない。

 

 

「…………」

 

 

 もしかしたら彼女は苦しむかもしれない。

 孤独を味わい、心を痛めるかもしれない。

 それは、独り善がりな杞憂かもしれない。

 

 だけど、彼女が震えている事だけは、明らかな事実だった。

 

 その震えを少しだけでも抑える事は出来ないだろうか………

 いつしか僕の頭は、それでいっぱいになっていた。

 

 

「一緒に行動していた赤いパワードスーツについて教えて頂けますか?」

「…………アレは私の開発した物ではありません。ですので、お答えすることが出来ません」

 

「貴女の目的は何なのですか?」

「アポロ計画以来、減速傾向にある宇宙開発を促進させる為に──」

 

「ISは大量破壊兵器の様にも見受けられますが──」

「その様な事実は全く無く────」

 

 

 質問は徐々に苛烈で過激な物に変異していく。

 その度に、彼女の震えも更に増していって……正直、いたたまれない。

 

 

 ある程度の質問が飛び交ってから、聞きたい事が尽きたのか記者達の声と問いが一瞬だけ止まった。

 その隙を逃さず、僕は彼女の腕を掴み取る。

 腕はとても冷たく……まるで凍えているようだった。

 

 

「え────?」

「良いから、一度座って、ほら」

 

 

 入れ替わる様に、僕は立ち上がる。

 当然の反応だと言わんばかりに、カメラや視線は僕の方に向き直っていく。

 そんな反応に少し吹き出してしまいそうになりながらも、僕は眼前に広がるマイクに顔を近づけた。

 

 

「あー、すみません。立ちっぱなしの彼女に休憩をさせてあげたくて……その間、少しだけ僕の話を聞いて頂ければ幸いです」

 

 

 困惑した目をする彼女を尻目に、僕は語り出す。

 

 そんなに心配しないで貰いたい。

 少しだけ、見栄を張るだけなのだから。

 

 

「僕の名前は倉持幸太郎と申します……お察し頂けると思いますが、その名の通り倉持重工の御曹司、であると同時にこの会見の主役である篠ノ之束さんの友人でもあります」

 

 

 だって、このままずっと眺めていたら君だけが遠くに行ってしまう様な気がして…………

 そんなの、寂しいじゃないか。

 

 

「さて、本題です。お集まりの報道関係者さん達だけで無く、この会見をお聞きの皆さんはISだけで無くもう一つの事柄に興味がおありかと思います…………即ち、ISと共にいたあの紅い人型の飛行物体は何者なんだろうか?と」

 

 

 父さんにも促されたし、何より今日の君を見てたら改めて思ったんだ。

 君を支えるだけじゃなくて、並行して一緒に同じ方角を目指して進みたいって、さ。

 

 

「彼の名前はアイアンマン、ISとは異なり本来は大気圏内での活動を前提として開発されたパワードスーツで…………ああ、いや、その正体についての方がお望みでしょうか?」

 

 

 君が何処を目指しているのかは知らない。

 多分、随分と遠くの彼方までなんじゃないかな?

 だって君は何時も遠くを見ていたし……永遠なんて名前を付けちゃうくらいだからさ。

 

 

「ええ、そう。アイアンマンもパワードスーツであるからには製造者と装着者がいる訳です。実は両者は同一人物で…………」

 

 

 上等だ。

 

 付いて行ってやろうじゃないの。

 

 無限に、どこまでも、空の彼方にだって。

 

 だって、僕は────

 

 

「そう、僕が────アイアンマンだ」

 

 




だってヴィブラニウムだよ?
そんなホイホイと、切ったり何だり出来ないからキャプテンアメリカというヒーローが成立するんだよ?
これは流石に予想通り…………では無かったご様子。


あとすみません、ちょっと活動報告の方でこの小説のIF外伝のアンケートを行っていますので、宜しければ覗いてみてください。

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