あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~   作:あるすとろめりあ改

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002 少しは女の子らしくお淑やかにするべきじゃないか?

 一年、二年……いつの間にか、僕は三年生になっていた。

 相変わらず学校は退屈だった。

 

 だって、ねえ?

 

 三角形の面積を求めましょうとか、虫眼鏡で日光を収束して紙を焼いてみましょうなんて実験が、楽しい訳無い。

 周りの子は楽しそうだよ?

 だって、彼ら彼女たちにとっては初めての体験なんだから。

 

 少し想像してみたら容易いだろう。

 世界中から認められた第一人者では無いとは言え、それなりに論文が評価されたり常温核融合炉であるアークリアクターの試作にまで漕ぎ着けた記憶があるのに、今更数字だけの掛け算や割り算の何を楽しめると言うのか?

 少なくとも、僕には無理だ。

 

 そんな訳で、僕は授業をまともに受けようとする姿勢なんて微塵も見せず…………かと言って授業で指されたりテストの時はイジワルで小学生の学習領域以上のことを発言したりする問題児になっていた。

 すると、どうなるかって言ったら、決まっている。

 

 つまり、僕は友達を一人も作れなかったんだ。

 

 

「もうね、学校なんて来なくても良いんじゃないかなって思うんだ」

「残念だったね、日本という国は法律で教育が義務づけられているからそれは不可能だよ」

「誰だよ、そんなこと決めた奴は」

「明治政府の誰かだろうけど、残念ながらとっくの昔に御存命じゃ無いだろうさ」

 

 

 いや…………違う、違うんだ。

 彼女は俗にいう友人と呼ばれる間柄では無い。

 その……言うなれば、余り者同士だよ。

 

 

「くっそぉ、日本にも飛び級制度があればこんな退屈しないのに……」

「日本人に産まれた事を怨むんだね」

 

 

 断っておくが、僕から彼女に話し掛けた事は今までで一度も無い。

 初対面があんな散々な物だったんだから、当たり前だろう。

 しかし……どうしてまた彼女は僕に付き纏うが如く構ってくる様になったんだろうか?

 何かキッカケがあった覚えも無いし、自然とこうなっていたんだ。

 

 

「次、なんだっけ?」

「国語だよ」

「うぇー……私寝るから後は宜しくね!」

「いや、宜しくされても困るんだけど」

「ぐー……」

「…………知らないよ」

 

 

 まあ良い、彼女は紛れもなく天才なのだから例え寝ていたとしても何ら問題は無いだろう。

 先生だって叱ったところで反省一つしないからと諦めてるし、生徒だってこの三年間ですっかり慣れてしまっている。

 …………そうだね、万が一に地震なり火事でも発生したら起こしてあげようか。

 後は、知らない。

 

 

 

 

 

 

 さて、今日も何とか8時間ちょっとの苦行に耐え抜いて家に帰還する事が出来た。

 

 

「ただいまー」

 

 

 しかし、玄関から言ってみたは良いものの返事は無かった。

 父さんも母さんも今は本社の方に行っていると思われる。

 その日の状況にも依るが、まあ帰ってくるのは遅くになってからだろう。

 

 

「ご飯は……ま、後で作るか」

 

 

 家に誰もいないのは今更のことだったし、独りだからこそ捗る事もある。

 幸いな事に両親は僕が機械好きであることを喜んでくれて、様々な機器を買い与えてくれた。

 中には6,7桁の高額な物もあったが……それをかなえられるだけの財力と事情があったのだ。

 

 

「倉持、重工……」 

 

 

 それは3Dプリンターに刻まれたロゴ、製造会社を示す部分に記された名称。

 僕の苗字と一致するのは、もちろん偶然じゃ無い。

 

 倉持重工────プリント基盤からロケットまで何でも造ってしまう日本でも大手の製造メーカー。

 それが我が家の稼業。

 つまり僕は…………そこの御曹司だ。

 

 

「まるで日本版のスタークインダストリーだよね。まるで誰かにお膳立てされたみたいだな……偶然だろうけどさ」

 

 

 何はともあれアイアンマンを造る為の環境は産まれた時から整っていたのだ。

 これはもう、アイアンマンを造れという神の思し召しに他ならない、そう考える方が自然ではないだろうか?

 

 だが、アイアンマンを造る前に幾つかやっておきたい事も山積みだった。

 

 

「まずは、周辺環境を整えなきゃね」

 

 

 アイアンマンを造る上で必要な下地を早い内から作っておきたかった。

 だけど、それらはヒョイと魔法の様に造れる訳では無い。

 例えばJ.A.R.V.I.S.のようなAIは勿論の事だが、現状で手には入るコンピューターを並列接続させたとしても満足のいく基準には達しないだろう。

 そもそもアイアンマンに直結する技術は、今現在においては材料及び機材の質が充分と言えないので用意・完成させるのはほぼ不可能と言える。

 

 故に作るのは、もっと間接的な下準備の段階だ。

 

 僕は残念ながら実際に映画を視聴したことは無いのだが……アイアンマンという映画においてパワードスーツ以外にも象徴的なアイテムが幾つか存在する。

 そう、例えば空間投影ディスプレイ。

 

 

「正確には空中浮遊型タッチパネル、か」

 

 

 空中浮遊型タッチパネル自体の試作は、既に完成している。

 数種類のレーザーを交叉する様に照射し、それを特殊な溶液で作ったミストを土台にして映像を投影する。

 つまり、仕組みとしては僕が今生きてる時代にもあるプロジェクターとスクリーンと殆ど変わりは無い。

 

 何が違うかと言えば……この画面、理論上は触って動かす事が出来るのだ。

 言わば、手で自在に操れるAR(拡張現実)という事になるだろうか。

 

 

「浮遊はしているけど、動かせないんだよなぁ……」

 

 

 空中に投影させる処までは漕ぎ着けたのだが、そこから画面を動かそうとするとミストが霧散してしまい、画面を維持出来ないのだ。

 

 記憶において40歳頃から普及した空中浮遊型タッチパネル。

 レーザーの触媒に何が使われているだとか、ミストに使われる材料は知識として知っていたが、その配合比などは企業秘密だったので現状では手探り状態である。

 そんなに難しい事なのかと思われそうだが、例えば液晶ディスプレイの仕組みを知っていてもカラーフィルターの配置だったり光源を変えたりすれば全く違う表示になってしまう。

 それと同じで、浮遊型タッチパネルにも繊細な調整が必要不可欠なのだ。

 

 

「やっぱり、CADはコレでやりたいんだよなぁ……」

 

 

 空中浮遊型タッチパネルは液晶の四角いディスプレイと異なり定格の形状を持たない。

 つまり、CADデータで作った設計図をそのまま表示する事が可能で、例えばパワードスーツの腕を設計してそのまま仮想的に自分で試着してみて……と言った具合に検証する、なんて使い方も可能にする。

 

 

「ミストの粘度を上げてみるか、それとも電圧の調整か…………」

 

 

 可能性を箇条書きして、それらの組み合わせを総て試してみる。

 膨大な作業だ。

 本来ならば数十人や数百人でやったであろう事を独りでやるのだから無茶苦茶だが……一種のカンニングをしているので、そう考えれば簡単な気がしてしまう。

 

 

 そして気が付けば…………日付は変わっていた。

 

 

「は、はは……よし!」

 

 

 様々な試験をしている内に、投射装置の小型化にも成功してしまった。

 直径3cmほどの菱形のペンダント型、流石に電源は搭載出来なかったのでバッテリーへの配線が必要となり不格好になってしまったが……

 

 

「持ち出し可能な小型化は、凄いんじゃないか?」

 

 

 ハッキリ言って、ズルである。

 ネット界隈に掃いて棄てる程ある小説の題材としても人気な、所謂「技術チート」と云うヤツに他ならない。

 でも兎に角、この世界で初めて作ってしまえば発明に他ならないのもまた事実なのだ。

 

 

「あ────そう言えば、今日は帰ってこなかったな」

 

 

 両親は仕事に熱が入ると本社の作業場や研究室に缶詰めになり、そのまま何日も帰ってこない時が割とある。

 何をやってるのかまでは解らないが、今日もそうだったのだろう。

 

 

「電話もメールも無い……よっぽどだな」

 

 

 連絡が一件も無いということは、明日明後日どころかヘタをすれば一週間は帰ってこない可能性すらある。

 僕はもう何ていうか慣れっこだったし、寂しさこそ多少あれ、理解出来ているつもりだ。

 だから、仕方ないなと気持ちの整理は容易く済むのだが…………

 

 

「どうせなら、見てもらいたかったんだけどな……」

 

 

 こう見えて、自己顕示欲は人一倍ある。

 父さんか母さん、どちらかに見せてあわよくば褒めて貰いたいのに、何て子供っぽい感情は行き場を失って漂い始めていた。

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

「と、言う訳でこれがその空中浮遊型タッチパネルだ!」

 

 

 あれから、三日経ったが両親共に音沙汰は無かった。

 念の為に本社に連絡を取ってみれば、案の定作業場に籠もって中々出て来ないらしい。

 

 その間にも空中浮遊型タッチパネルの粗潰し(デバッグ)を行い改良に勤しんでいたのだが…………

 やっぱり、成果を披露したい気持ちの方が勝ってしまった。

 

 

「へぇ……」

「今はまだ画素も荒いし電費も悪いけど、改良の余地はまだまだあるし、いずれは液晶や有機ELとも遜色なく…………なる筈」

 

 

 結局、初めて空中浮遊型タッチパネルを披露したのは篠ノ之さんだった。

 …………いや、だって理解してくれそうな人が彼女くらいしか思い浮かばなかったから…………うん、それだけ。

 

 

「うん、凄いじゃん」

「…………え?」

 

 

 淡々とはしていたが、素直な褒め言葉が出てきた事に驚いてしまう。

 

 

「なに?」

「いや……てっきり、君のことだから駄目だしか皮肉が返ってくる物だとばかり思ってたから…………」

「…………おまえ、私をなんだと思ってんの?」

 

 

 いや、だって…………ねえ?

 口が開けば毒舌ばかりで、肯定とか賞賛の言葉なんて…………少なくとも僕の記憶には、無い。

 

 

「そう言えば、初めてだね」

「ん、何が?」

「そっちから話し掛けてきたこと」

「………………」

 

 

 言われてみれば、その通りだ。

 どちらかと言えば、僕は彼女のことが苦手だから積極的に関わろうとしてこなかった。

 それに、話し掛けても無碍にされて毒舌がだだ漏れになるイメージしか湧いてこなかったし…………

 

 

「そうだったけ」

「そうだよ」

「ふぅん…………そっか」

「後さ…………その、君っての止めてくんない?」

「え?」

「呼び方、私には篠ノ之束って名前があるんだからさ」

「そう言う君だって、僕のことをお前って呼ぶじゃないか」

 

 

 ああ…………

 今更だが、気付いてしまった。

 

 僕と彼女は……似た者どうし、なのかもしれない。

 

 

「何だよ、良いじゃないかそれくらい」

「君が提案するなら自分から改めるのが筋じゃないかい?」

「…………お前が直したら考えてやるよ」

「嫌だね、僕に何のメリットも無いじゃないか」

「この意地っ張り!」

「何だよ頑固者!」

 

 

 彼女と仲良くするのは…………とてつもない苦労を強いられそうだ。


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