あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~   作:あるすとろめりあ改

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タイトルにルビ機能が追加されたと聞いて。今更だけど。

出来レースだよ、出来レース。勝ち確。約束された勝利。
だって主人公だもの(とにい)


024 世界はおおよそ出来レースで構築されている……世知辛(せちがら)いね

 新たにISコアを核としたアークリアクターが胸に納まってから既に二ヶ月、暦も霜月となって寒い日が続いている。

 そんな中、轡木さんはまた新たな報せを持ってやって来ていた。

 

 

「ISの国際競技会……ですか?」

「ええ、大会名については目下検討中ですが」

「……轡木さんって、こんな事にも関わっているんですか?」

「IS専用の統合部署というべき物が無いので、私が窓口になって対応部署との橋渡し役をしている形ですね。今回の件で実際に動いているのは文科省とスポーツ庁です」

 

 

 IS庁なるものも検討はされているが、さて何処の外局とすべきかで揉めているらしい。

 現状では暫定的に防衛省の部局が対応しているが軍事利用と捉えられかねないので国際的な外聞が宜しくないだの、宇宙開発目的なのだから文科省が相応しいとか災害対策として総務省でも管理すべきじゃないか──議論だけ交わされて先に進まないのだとか。

 それで結局、轡木さんの戦略的危機介入並びに諜報的支援管理局……が、対応を続けているのだそうだ。

 

 

「……やっぱり長いですって」

「ふむ、あまり良い略称が思い浮かばないんですよね……いっそ、横文字が良いですかな?」

「だったら、S.H.I.L.E.D.なんてどうですかね」

「シールド……ですか?」

Strategic(戦略) Hazard(危機) Intervention(介入),Espionage(諜報的) Logistics(支援) Directorate(管理局)……略してS.H.I.E.L.D.なんて」

 

 

 まあ、僕の知るS.H.I.E.L.D.は戦略国土調停補強配備局の略で……つまり、只のこじつけというか、冗談だ。

 流石に轡木さんも本気にはしないだろう。正式な略称だって本当は考えているだろうし。

 

 

「ふむ……良いですね、それ」

「…………はい?」

「宜しければそのアイデアを頂いてもいいですか?」

「えっ、ええ……まあ案の足しになるのなら…………」

 

 

 あれぇ、おかしいぞー?思ったより乗り気になってる?

 

 

「それよりも、ISの国際競技会の話ですけど」

「おお、そうでした。実は此方を依頼したくてお持ちしたのです」

「これは……ISのコンペ、ですか?」

 

 

 次に轡木さんが取り出したのは、コンペティションの要項が纏められた資料だった。

 内容は、ISの訓練機として用いるための機体の要求仕様について。

 それによると著しくハイスペックな機体性能というよりも、コストや安全性に重きの置かれたポイントが要求されている様だ。

 

 

「訓練機……と言う事は競技用ではなく、練習目的のISですか?」

「そうです。競技会に出場する選手は全国でテストを実施して選抜する予定なのですが、その実技テストでも使われる予定ですがね」

「成る程、これを見せてきたという事は」

「はい、是非とも倉持技研さんにも参加して頂けたらなと思いまして」

「何故ウチに……?」

「アイアンマンを製造している実績もありますし、何よりも世界一のアドバイザーさんがいらっしゃいますからね」

「ああ…………」

 

 

 確かに、世界広しと言えどもISの専門家となれば束の右に出る者はいないだろう。

 いや、しかし……それでも幾つか疑問は残る。

 

 

「でしたら、束に直接依頼をするべきでは?」

「正直、束さんは直接交渉に応じて頂けなさそうですしねぇ」

「いや、まぁ……」

「それに、今回に限っては直接幸太郎くんに依頼をしたかったのです」

「と、言いますと……?」

「実は、幸太郎くんがアイアンマンを開発・製造している事を快く思っていない人達もいらっしゃいまして、その方達へのパフォーマンスをして頂きたいという訳です」

「つまり、スポーツ用の機械も製造していますよ……と?」

「ええ、その通りです」

「言いたいことは解ります、ですけど……」

「どうかしましたか?」

「轡木さん、何か隠していませんか……?」

「さて……私の雀の涙程しか無い収入に関しては内密にさせて頂きたいものですがね」

「…………」

 

 

 轡木さんは恐らく、建前とは別に何らかの意図があって僕にISの訓練機のコンペ参加を依頼してきていると思われる。

 残念ながら判断材料が少なすぎて憶測でしか無いが……そもそも、僕に作らせる理由が無い。轡木さんの挙げた言い訳をそのまま叶えるにしたって手段は他にいくらでもある。例えば、この前に買収したショッピングモールの経営にしばらく専念させるとか。

 

 隠していると言えば、あの時に束の家を訪れた法務省の反町を名乗る男……メーティスの調べに依れば彼は容姿・背格好などが霞ヶ関に監視カメラのログに残されていた法務省の反町とは100%異なっているという。

 それについても轡木さんに尋ねてみたが、調べてみますとはぐらかされてしまっただけだ。

 まあ……曲がりなりにも轡木さんだってお役人さんなのだから隠し事の十や百くらいはあって然るべきなのかもしれないけど。

 

 

「……解りました、採用されるかは兎も角やれるだけの事はやってみます」

「おお、本当ですか!」

「それで……法務省の反町を名乗っていた男の名前とかって解りましたか?」

「すみません……とんとその人物の本名がハッキリしないのです」

「…………」

 

 

 いいさ、コッチにはメーティスがいるんだから自力で調べ上げてやるよ。

 つまり……本当の地力では調べられないって認めてる訳なんだけどね…………

 

 それよりも、僕はIS訓練機の設計でも考えていた方が良いかな……何せ、初めてやる事なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

「フーフンフーフーン……」

 

 

 自室のスピーカーからは大音量でAC/DCの楽曲であるBack in Blackが鳴り響いていた。

 MARVELコミックは存在しなくてもAC/DCは存在していた。感激の極みだね。

 アイアンマン好きがAC/DCを好きになるのは別におかしな話でも無く……僕もご多分に漏れず、そうだ。

 これをBGMに作業すると非常に捗る……無意識にリズムを取って余計な動きが増えてしまうけど。

 

 

「メーティス、Shoot to thrillに切り替えてくれ」

『イエス』

 

 

 メーティスに命じてアルバムのトラックを進める。

 ずっと同じ曲ばかりを流し続けるのは流石に滅入ってしまうし、曲の変わり目と共に気分転換にもなる。

 Shoot to thrillといえば、やはり入場曲みたいなイメージだろう。こう、空から滑空してきて……

 

 

「こー、こー、かぁー……!」

 

 

 少し離れた場所から、階段を駆け上がる音とスピーカーから流れる音楽に負けない程の大声が耳に入ってきた。

 その音源は、深く考えずとも直ぐに察しが付く。

 

 

「……メーティス、タイミングでドアを開けてくれ」

『イエス。3,2,1……open』

「うおりゃ────あ、ああっ、あれ?」

 

 

 ドアを蹴破るつもりだったんだろうか、ライダーなキックの姿勢のまま束は部屋の中に飛び込んでくる。と言うかソレ、制服でやるとスカートだから下着が見えてしまう。はしたないなあ。

 障害物がある事を前提の跳び蹴りであったが、残念ながらドアは開いてしまっていた。

 よってその力は逃げ場を失って……失って…………失ったら飛び続けてしまう。

 

 

「おっと」

「ぐえっ」

 

 

 ドアから直線で結ばれる場所で作業をしていたのが良くなかった。幸い、ローファーの靴底で足蹴にされる事は無かったが見事に正面衝突されてしまう。

 とんだ登場曲になってしまったじゃないか。本当に飛びながら出てきたし。

 

 

「何するんだよ、束……」

「それはこっちの台詞だ。三日も家から出てこないで何やってんだよ!電話しても手が離せないとか言って直ぐに切るし……」

「何って……説明しただろ、ISを造るってさ」

「IS……?アイアンマンじゃなくて?」

「うん」

「私そんな話聞いてないっ!」

「言ったよ、君も“うん”って頷いてた」

「…………嘘だぁ」

「嘘なもんか、メーティスだって聞いてるんだ」

 

 

 録音だから、そのまま証拠になる。

 便利なもんだ、時々それが仇になる事もあるけど。いや、多々あるか。

 でも、憶えていない件については仕方がない。何せ登校する為に早朝に迎えに行った時に言ったから、束は寝ぼけていたんだから。

 僕が悪い?うん、そうかも。

 

 

「でも何でISを幸太郎が造ってんの?」

「それも説明したんだけど。ISを使ったスポーツの世界大会が開催されるらしくて、その練習用の機体のコンペが今度あるんだよ」

「ふーん。で、どこまで出来たの?」

「機体のハードは昨日出来上がって、今はソフトウェアの調整が半分くらい」

「ほいじゃ、私に見せてミナー」

「はい、どーぞ」

 

 

 快くコンソールを渡して、その道の第一人者にチェックしてもらう。

 指を忙しなく動かして、本当に見えているのか不思議に思える程の超スピードで画面を切り替えていく。

 やがて、全て閲覧が終わったのか静かにコンソールを置いた。

 

 

「どうだった?」

「ん、42点」

「うわっ、辛辣……」

 

 

 期待していなかった訳では無いが、現実を突きつけられると厳しいものがある。

 少なくとも、テストで40点台なんてのを取った事は無いからビックリしてしまった。

 

 

「どこら辺が、減点対象?」

「まず下半身に重心が集中し過ぎてて地上は兎も角として空中での姿勢制御に難あり。あと、防御を追求した装甲の配置が腕の動作の邪魔になってる」

「あー、その辺のバランス配置には苦戦してね……」

「で、私が直そっか?」

「いや……自力でやってみるよ」

「おー、えらいね!よちよーち」

「なんだか……馬鹿にされてる気分だな」

「…………」

「おい」

 

 

 さて、気を取り直して……結局は前方に集中させ過ぎた装甲が問題なのだから、装甲が薄くなっている部分に配置させてしまえば良い。

 その程度の修正であれば時間も然程掛けずに済む筈だ。

 設計データを空中浮遊型タッチパネルで表示して、立体視化した3DCADデータの装甲を指で動かしながら組み立て直してみる。

 後は量子化されたISのデータをチョチョイと……ほら出来た。

 

 ……と言うか、下半身に装甲が集中してしまっていたのはそもそも白騎士のシルエットを意識してなのだが、胸部の装甲だけ目に見えて薄いのには理由があるのだろうか?

 ちょうど設計した本人が僕にもたれかかってる。聴いてみよう。

 

 

「そういえばさ、白騎士はどうして胸部の装甲が薄いんだ?」

「ああ……元々はちゃんと装甲があったんだけどね」

「うん」

「ちーちゃんの素敵なおっぱいを見たら、これは強調せねばと思ったんだよねぇー」

「…………え、そんな理由なの?」

「だって、ISはエネルギーシールドがあるから装甲なんて只の飾りだもん」

「身も蓋もないなあ」

 

 

 そんなくだらない理由だったので、いっそ胸部にも胴部にも装甲を盛ってやろうかと思ったら権利者の申し立てで却下になった。

 理由は、織斑さんが装着する事になるかもしれないから、だとさ。

 なんだかなぁ……いや、従うけどね。

 

 

 

 

 

 

 それから、訓練機として造ったISの名前をどうするのこうするのとかを束と揉めたりと色んな経緯はあったが、依頼から実に一週間で最終テストも終えてコンペに提出する事が出来た。

 余所は何ヶ月も掛けて造ってたみたいだけど。申し訳ないね。

 最終的に決まった機体の名称は甲鉄(こうがね)。鉄の装甲を持つって意味だ。アイアンマンを意識したネーミング?何のことか分からないな。

 

 ちなみに、その際のテストパイロットは織斑さんに務めて貰った。

 白騎士も海を渡ってしまい、束からの仕事も無くなってしまった織斑家の財政状態は決して余裕と言える状態ではなかった様子で、僕の提案は渡りに船だったらしく、報酬をチラつかせたら二つ返事で応じてくれた。

 弱みに付け込んだとも言える。世界を救った白騎士のパイロットへの依頼料にしては破格だったかもしれないが……まあ、これも情報のアドバンテージというヤツだろう。

 

 

「いや、しかし助かったのは事実だ。何かあれば何時でも頼んでくれ」

「うん。でも僕も実はちょっと申し訳ないかなー、とか思っててさ……だから、織斑さんに良い話を持ってきたんだよね」

「私に?」

 

 

 何のことは無い。ISの国際競技大会の行う上で日本代表の選考会が行われる訳なのだが、その推薦状を書く権利を僕と束は貰っているのだ。

 なんで持ってるかって?束はISの開発者だし、僕は……訓練機のコンペで通ったからね。

 殆ど出来レースみたいなもんだったけど。こっちは白騎士の製作経緯を間近で見てた経験があるからなあ…………

 

 

「国際IS競技会……日本代表候補の、選抜会?」

「そっ、ISを使って格闘技や射撃で競うスポーツの祭典ってこと。基本的には警察官や自衛官から選抜されるらしいんだけど、一般枠と推薦枠もあってさ。これをパスすれば、言わば国直属のプロ選手になれるんだよね」

「ふむ……」

「参加するかどうかは織斑さん次第だけど、悪い話じゃないと思う。正直、才能は有り余ってると思うし、金の入りも悪くない上にこれからもISに関わるなら僕や束の関係で色々と便宜も図れると思うから」

「しかし、なぜ私にそこまで……?」

「何でって……織斑さんには何度となくお世話になってるし、浅い縁でも無いしさ…………それに、友達だから、じゃないかな?」

 

 

 織斑さんがどう思っているかは兎も角として、僕はそんな風に感じている。

 何だかんだいって色んな関わりがあるし……何か手助けが出来る事があるのなら手を差し伸べたいと思えるくらいには情があった。

 

 

「そうか、友達か…………」

「うん、まあ」

「だったら、その“織斑さん”は止めてくれないか?」

「え──?」

「友達なんだろ?だったら、親しみを込めて下の名前で呼んでくれても良いんじゃないか?」

 

 

 織斑さんを下の名前で呼ぶ……正直、考えた事が無かった。

 どこか逆らえない雰囲気があって、敬意と畏怖が入り混じっての“織斑さん”という呼び方だったのだと思う。

 しかし、友人なのだから親しみを込めろと言うのは……確かに、一理あるかもしれない。

 

 

「わかったよ。えっと……千冬」

「ほう、いきなり敬称略か。意外に大胆なんだな」

「え、ええっ……?!」

「ははは、冗談だよ。これからも宜しくな、幸太郎」

 

 

 豪快な笑い方をしながら手を差し出してきたので、反射的に握り返して握手を交わす。

 なんだろう、上手く言えないが……カリスマみたいな物を感じてしまう。手だけじゃなくて、色んな物がガッチリと掴まれてしまったような…………

 

 

「あ……って言うことは?」

「うむ。その話、受けよう」

「そっか……!うん、僕達も出来うる限りのサポートはするよ。約束する」

「そうか、それは頼もしいな」

 

 

 そうして、様々な想いや意思が交錯し、絡み合って……僕は新たに色んな物を手に入れた。

 一番大きかったのは、改めて友を得たこと。

 この繋がりは、決して小さな物では無い筈だ──────

 

 

 

 

 ちなみに……言うまでも無い事だが、千冬は見事に日本代表候補の座を掴み取った。

 分かってた。だって、白騎士のパイロットな上に選抜で使われる甲鉄のテストパイロットもやったんだから。カンニングみたいなもんだよね。

 本当にもう、ガッチガチの出来レース…………まあ、いいや。僕は身内にだけ甘く生きていくとしよう。




【S.H.I.E.L.D.】
コミック版の名称を採用。こうなる事は皆んなが知ってた。
結局どういう意味かって?略称がS.H.I.E.L.D.になるようにした単語の羅列だよ(エージェント・シールドより)

【甲鉄】
明治、大正時代ごろに鉄や鋼の装甲を持った戦艦の事を甲鉄艦(こうてつかん)と呼んでいた。そこからお名前を拝借。
打鉄の先行機という事もあって読みは「こうがね」に。
おぅごんのかぁじつぅ……ではない。

【なんでコンペなんてしたし】
はい、コンペと代表候補の選抜のお陰で何かが釣れましたね。それと、轡木さんら何を調べさせていたでしょうか。

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