あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~ 作:あるすとろめりあ改
「フンフン、フーン……」
鼻歌交じりにカーバッテリーと配線を繋いでいく。
万が一の為にアースとも接続し、僕自身も安全メガネと手袋を装着して準備はOK。
インバーターの電源を入れると、直ぐに計器にも反応が現れた。
「お、お……よしよし、いいぞ……!」
バッテリーから延びる配線の先には、大きさが直径10cm程の円形状でメタリックなランプの様な物体と繋がっていた。
そこから更に繋がれたワットチェッカーのディスプレイを覗けば、6メガワットという発電量を叩き出している。
カーバッテリーからの出力は約300ワットなので、文字通り二つほど桁が違う。
つまりエネルギー変換効率は200万パーセント。
消費に対して2万倍に増やして返ってくる訳で……なんとも頭の悪い数字だ。
「は、ははは……出来た!出来た!!」
僕が今の今まで作っていたのはアークリアクター。
あの記憶を辿る限りにおいて、晩年に作り上げた半永久機関である常温核融合炉だ。
何故そんな物を……と言えば、それ以外に現状で作れそうな物が無かったからに他ならない。
「外骨格に使うカーボン・ナノチューブはまだ単価が高いし、AIを作るのにCPUの性能が不十分、金属加工だって素材の選定が出来て無いし……」
両親の稼業である倉持重工は人工衛星の製造も手掛けているので、用立てようと思えば完全に不可能という訳ではないだろう。
しかし、それでも現在は未だに最先端の素材で小学生の子供が趣味で使うから……と言ってホイホイと貰える程に安い代物では無い。
そんなこんな、様々な要因が絡み合ってアークリアクターを作るという結論に至ったのだ。
そして、たった今完成した。
「こうたろー……うるさいわよー?」
「あ……ごめん、母さん」
部屋のドアに数度ノックがあった後、入ってきたのは母さんだった。
母さんの名前は倉持春香、倉持重工の副社長にして一流のエンジニアでもある。
元から設計畑の人だったらしく、今でも倉持重工の主要な製品の設計に携わっているのだという。
僕の母親にして副社長であるという立場を利用して、色んな機材や資材を融通してもらっていたりする。
だから頭が上がらない。
いや、本当に何時もありがとう。
「で、何が出来たって?」
「あ……えっと、半永久機関、かな?」
「んー?変換効率は100パーセント超えたの?」
「ま、まあね……」
100パーセントどころか200万パーセントです、お母様。
言っても信じてくれないかもだし、機序を説明するのも大変だから雄弁するのは今度にしたいけど。
「でもね、もう日付が変わって午前の1時なのよ……?」
「え、あれ……いつの間に?」
パソコンの画面の隅を見れば、確かに午前1時を過ぎて15分あまりが経過していた。
「明日から林間学校なんだから、もういい加減に寝なさい」
「林間学校、か……」
そう、御多分に漏れず僕の学校にも5年生には林間学校というイベントが存在した。
三泊四日という長いスパンで、しかも山登りに洞窟探検までやらされる。
出来ることならば、ズル休みして部屋に籠ってアークリアクターの調整をしたいものだが……
「なに、まだ行きたくないって思ってるの?」
「……正直、あまり気乗りはしないかなぁ」
「あのねぇ、学校の行事にはきちんと出ておいた方が良いわよ?そういうのは人生で一度きりしか無いんだし」
「うん……」
もう既に一回体験した記憶があります……とは流石に言える訳もなくて。
渋々ながら僕は頷くしか無かった。
〇
そして翌日。
僕は学校の外周で待機していたバスに乗り込む。
席はちょうどタイヤの真上にあたる窓際、酔いには強い方なので問題ないが余り上等な席とは言えなかった。
「…………」
「…………」
いや、それよりも問題なのは“彼女”の隣だったと言うこと。
まさか僕が率先してその席を選んだ筈が無い。
僕たちはつまり……余りものなのだ。
林間学校の行動は班単位で、それは事前に決めていたのだが……交友関係が奇跡的なまでに希薄な僕たちは誰からもお呼びが掛からず、結局は担任の先生が欠席者やらと調整して組むことになったのだった。
日頃の行いが悪かったからこうなる……僕も含めてね?
「あの……よろしくね、篠ノ之さん!」
「あ?」
「ひっ……!?」
「…………」
おいおい、折角班を組んでくれた人に対してその態度はどうかと思うんだが……
ほら、もう一人の班員も怖気ついちゃってなのか黙り込んじゃうし。
って言うかさこの班の男女比1:3って偏り過ぎじゃないかな。
それで……僕にも話しかけないのは男の子が苦手だからなのか、それとも彼女と同じ様な反応が返ってくるんじゃないかって躊躇してるのか、どっちなのかな?
もしも後者だったのなら残念だ、彼女よりも数十倍はフレンドリーに対応できたのに。
…………寂しくなんか無いよ?
本当だからね?
〇
林間学校の初日は、キャンプ。
飯盒でご飯を炊いたり、キャンプを設営するなんてのは初めての体験だから、確かに新鮮味がある。
…………来て良かったとは思えなかったけどね。
「なあ君、少しぐらいは手伝ってくれても良いんじゃないかな?」
「…………力仕事は男のお前がやった方が適材適所だろ」
「だったら料理を手伝ってくれたって良いじゃないか」
「女だからって料理をやらせるの?うっわー、男女差別だ~!」
「おい、自分がたった今言った言葉を思い出してみなさい?」
仕事をしない班員が約一名。
いや、何となく予想してたけどね?それでもちょっとイラっと来ますのよ?
「…………よし」
「ちょーっと織斑さーん!スタァーップ!!」
気を取り直してカレー作りに取り掛かろうと振り返ると、バスで終始無言だった(お前もだろとか言わないの)織斑さんがボウルに洗剤を満たした上にお米を投入しようとしていた。
そりゃあ、止めるよね。
「どうした……?」
「どうした、じゃないよー!何で洗剤にお米を入れようとしたの!?」
「さっき、先生の説明でまず米を洗うようにと……」
「いやいやいや、お米を研ぐのは水で良いの!」
「しかし、洗剤の方が綺麗にならないか?」
「洗剤を飲んだりしないでしょ?お米って水分を吸収するから洗剤を飲むのと同じ事になるんだよ?!」
まさか、洗剤でお米を研ぐ人なんて都市伝説だとばかり思っていたのに…………
煙は火の無い所では立たないって言うけど、これは流石に無いだろう。
でも現にここにいる。
事実は小説よりも奇なり、ってやつだ。
「そ、そうだ織斑さん……野菜を切って貰えないかな?」
「いや、しかし……」
「ほら、野菜を切る方が量が多くて大変だからさー、手伝って貰いたくて、ね?」
「そうか、そう言う事なら」
「………………よし」
何とか仕事の矛先をズラす事に成功した。
もしも野菜の切り方が異常に変だったり、みじん切りにしてしまったとしても味の大局は変わらないし少なくとも身体に害は無い。筈。
「ごめん、えっと……篝火さん悪いんだけど織斑さんのこと見張っててくれないかな……?」
「あ、うん…………」
何でコミュ力の低い僕が仕切るような真似をしなければならないのだろうか。
ちょっと班長ー、しっかりしてよぉ~………………
「あー、暇……」
おいおーい、何で僕の荷物から
それ直ぐにバッテリー無くなるのに……って言うかワンタイムパスワードなのに突破されたのか…………
「だから来たくなかったんだ…………」
どうやら、林間学校は僕にとって憂鬱な物になりそうだ…………と言うか、既になっている。
○
二日目の登山については割愛する。
あんなの疲れただけだ。
って言うか、どう見てもインドア派な彼女がどうしてあんなに体力あるのさ…………あと織斑さんも。
僕だって運動神経も体力も人並みなんだけど……お陰で、僕と篝火さんは大分後ろに置いていかれた。
それは、もう良い。
三日目は、何と洞窟探検隊という最後の難関。
「整備された洞窟だけどね……」
昨日登った山の麓に洞窟の入り口はあった。
既に休火山ではあるが、数百年前の噴火の影響で出来た洞窟で、中は想像していたよりも遥かに広い。
探検と言っても順路があって、一周して出入り口まで戻ってくるだけだ。
「あー、早く戻りたい……」
宿からこの洞窟まで徒歩だったので、体力は兎も角として心情的には既に疲労困憊である。
洞窟を30分ほど掛けて歩き回った上に、来た道を引き返さなければならないのだ。
しかも、洞窟の広さの都合で一度に3班までしか入れず、残りの班は外で待機する事に…………
正直、待つ方が地獄だと思う。
「…………」
「………………」
「……」
そしてこの班、非常に協調性が無い。
と言うよりも総じてコミュ力が低過ぎる。
誰も話し掛けようとしないので終始沈黙なのだ。
周りを見てみよう、男女問わずにペチャクチャお喋りしてるし仕舞いにはトランプに興じている班までいる。
と言うか教師も加わってるし…………それで良いんですかね、先生?
退屈だ。
尚、暇つぶしに使いたかったUMPCは盗難されたままである。カエセェ。
「はーい、では三組の7班から9班の人ー!」
結局、呼ばれるまでに一時間半ぐらい待った事になる。
幸いだったのは一組は初日、二組は二日目と言った具合にローテーションになっていた事か。
で無かったら、もう暴れていたかも解らない。
いや、本当。
「一列に並んでー、寄り道はしないでね!」
殆ど一本道なんだから寄り道する方が難しいと思います。
言われた通りに十数人が一列に並んで着いていく。
やっぱり最後尾から4人に会話は無し。
なんだコレ、拷問は続くのか。
「はぁ……」
もう、溜め息しか出てこない。
早く洞窟探検よ終わってくれ、と願いながら黙々と前の人に続いて歩くだけであった。
「あれ…………」
洞窟の中は整備されているので経路には電灯が張り巡らされている。
しかし、それが一斉に……チカチカと明滅し始めたでは無いか。
一つや二つでは無いから配線の不良かな?なんて、冷静に見上げていると────
「きゃあああっ!?」
「うわっ、停電だ!!」
加藤くんだったか佐藤くんだったか、説明ありがとう。
そうです、停電です。
「みんな、落ち着いて!他の先生を呼んでくるからここでジッとしてて!」
そう言って、先導していた若い担任は自分だけが持っていた懐中電灯を点けて独りだけ洞窟を出て行く。
「えー……無線とかPHSとか持って無かったの?」
こういうのは、外からも異変が解る筈だから生徒と一緒に待つべきだと思うんだけどなぁ……
ほら、泣いちゃってる女子もいるし、何かゴゴゴって音してるし。
………………ゴゴゴ?
「え、何の音?」
かなり遠いが、入り口の方から不審な音が聞こえる。
何かが、崩れているような……?
「おい、何なんだよ!」
男子が一人、その音に気付いて出口の方へと走り出した。
他の生徒もカルガモみたいに続いて、着いていく。
仕方がないので僕も出口へ目指すと……
「…………嘘だろ?」
洞窟の出口は、落盤によって完全に塞がっていた。
一癖も二癖もある人間を書くのって大好き。
現実にいたらお近付きになりたくないけどね。