あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~   作:あるすとろめりあ改

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まだです。まだ、エピローグでは無い!残念ながら!

エピローグを迎えたらアベンジャーズ編は後ろの方に移動します。時系列に沿う形ですね。


031 ツクる者とツクられた者と

 草津の旅館で楽しいひと時を過ごしてから、僕たち三人はゲートブリッジに戻って来ていた。

 気のはやる僕はいっそのこと旅館で結婚式を挙げても良かったのだが、束たっての希望で篠ノ之神社で神前式を執り行う事になり、一先ずは籍を入れるに留まっている。

 

 つまり、これで僕たちは正式に夫婦になった訳だ。とは言え、まだ正式発表した訳ではないので極一部の身内しか知らない事なのだが────

 

 

「幸太郎くん、束さん、ご婚約おめでとうございます。ああ、いいえ。ご結婚おめでとうございます、と言うべきでしたかな」

 

 

 戻って来るなり轡木さんに呼び出されたので素直に推参してみれば、開口一番にそんな事を言われた。

 今回は珍しく束が着いていきたいと申し出て来ていたので一緒に来ていたが、隣にいる束と僕とでお互いに目を見開いたまま見つめ合ってしまう。

 予期せぬ事態に見舞われた時、人間のリアクションにはあまりパターンがない事を今にして学んだ。

 

 

「え、えっ、轡木さん……一体、その話をどこで?」

「おや、ご存知ないのですか?」

「何を……?」

「プロポーズのご様子、ネットで公開されていますよ」

「は?」

「え?」

 

 

 衝撃の言葉にポカンとしていると、胸ポケットに入れていた携帯端末が通知を告げる為にブルブルと震えた。

 思考が定まらないまま無意識の内に端末を手に取ると、通知はメーティスから送られた物の様だ。

 直接言えば良いのに。何だろうかと開いてみれば、動画サイトへのリンクの様である。

 導かれる様にそのURLをタップすると────

 

 

《僕とこれからもずっと一緒にいて欲しい。だから、僕と────結婚してください》

 

「なっ、あ、ぃえええ!?」

「何で!?」

 

 

 それは正しく、つい先日に東京のホテルのレストランで束にプロポーズした時の光景だった。

 妙にアングルも良く、横側からカメラが向けられており二人の顔もバッチリと映っている。

 同様の動画は他にも幾らか分散している様だが、今現在観ている物だけでも再生数は85万にも及び、更におよそ1500件ものコメントがページの下部で踊っていて、『エンダァァアアア!!』とか『家の壁が無くなったから倉持宅の壁を殴りに行く』やら『おめでとう』『末永く爆発しろ』なんて祝福する言葉があるかと思えば『妊娠してからの飲酒は厳禁』という話題がやたらと伸びていたり…………成る程、これからはそう言う事にも気を使わなければいけないな。

 

 じゃなくて!

 

 

「盗撮……?」

「世間一般の認識では、スクープと目されている様ですがね。ちなみに、テレビのニュースでも取り上げられていましたよ」

「この数日間、旅行に行ってたからテレビ観てなくて……メーティス! 絶対にお前知ってただろ!」

『イエス。存じ上げていました』

「だったら、なんで報せなかったんだよ!」

『マスターが、以前にご自身について報じる記事やニュースを敢えてピックアップする必要は無いと仰っていましたので』

「言ったかもしれない、言ったかもしれないけどさぁ……!」

『問題ありません。既に現状で報道されている記事と番組はライブラリに保存しています』

「違うっ、そういう問題じゃない! 今すぐにネットにアップロードされた動画を削除するんだよ!!」

『不可能です』

「なんで!?」

『動画共有サイト、匿名掲示板、SNS、コミュニケーションアプリ……様々な経路からウイルスが媒介するかの如くスピードで動画は拡散しており、それらから動画を総て削除するには既存のウェブ・ネットワークを破壊する他に方法がありません』

 

 

 インターネットという名の大海の中に放り出されてしまった画像をサルベージするのは不可能である、なんて話は今の世の中では常識ではあるが……まさか、自分がその対象になるとは。

 いや、確かにISとアイアンマンの開発者両人のスキャンダルともなれば槍玉に挙げられるのは当たり前であるとも言える事象であり、考慮した事が無かった訳では無いが、流石にこの事態は予想外だった。

 

 

「お取り込み中に申し訳ないのですが幸太郎くん、先に本題の方に進んでも宜しいですかな?」

「あ……すみません、どうぞ」

 

 

 そういえばそうだ。これは個人的な問題なのだからどうするかは後で自分達で考えよう。

 元々、ここに来たのは別の用事があったから。すべてはスイスでの騒ぎの続きなのだ。

 つまり襲撃犯、ルーシィヒ・アイゼンシュロットとそのパイロットについてだった。

 

 

「まず機体についてからですな。ルーシィヒ・アイゼンシュロットはドイツ連邦軍で開発された理論実証機だった様です」

「理論実証機……あのAICとか、黒いブヨブヨしたヤツみたいな」

「ええ。しかし燃費や継戦能力の欠如などの問題が生じて制式採用される事は無く廃棄された模様ですが」

 

 

 だからアイゼンシュロット。つまり、鉄屑。

 しかもルーシィヒというのも煤を意味する言葉、言い換えれば燃え滓。これでもかと廃棄品である事を突き付けてくる様なネーミングである。

 そんな烙印を押された機体の開発者の心境とは、如何なる物であっただろうか。

 

 

「機体はフレームを残して殆ど崩壊していましたが、幸いにもコアと残されていたデータのサルベージには成功していいます」

「そのデータ、束さんも貰っちゃって良いのかな?」

「ええ、どうぞ。それでしたらデータをストレージに保存してお渡ししますので……」

「ああ大丈夫、もう直接保存しちゃったから」

 

 

 振り返って後ろを見てみると、束は自分の携帯端末を軽快に操作していたかと思えば、その画面にはルーシィヒ・アイゼンシュロットと物と思われるステータスや各種データで網羅されていた。しかもよく見ればどさくさに紛れてそれ以外のデータまで拝借しているご様子。

 どうやら、S.H.I.E.L.D.のコンピュータをハッキングしてデータを引き出してしまった様である。

 ……あれかな、この後は頭を引き離してみて壊しちゃったりするのかな?

 

 

「……いやぁ、流石ですな」

「す、すみません、ウチの束が申し訳ありません!」

「いえいえ、話が早くて此方としても助かります」

「ふぅん……AICの発想は良いけど機体設計が稚拙だね。まあ黎明期にしてはマシかもだけど」

「白騎士や暮桜の製作者からしたら何でもそうなんじゃないの?」

「27点」

「赤点! ……あれっ、甲鉄の点数ってどれくらいだったけ?」

「解析が終われば、AICをアリスに提案してみても良いかもね」

「提案って、Mark.Xに装備するって事?」

 

 

 それは良いかもしれない。ミサイルや弾丸を始めとした質量弾の攻撃を防ぐ事が出来る。

 Mark.XはISでもあるからエネルギー・バリアも展開出来るし、防御面に関してはかなりのプラスが期待できるだろう。

 しかし、そうなるとやはり不安なのが燃費だ。一先ずはバッテリーを大容量化するしか無いが、いずれは他にも対策を考えねば……

 

 

「ああ、すみません。また話が脱線してしまいました」

「ははは、仲睦まじいのは宜しい事です。さて、話は戻って今度はパイロットの話なのですが……」

「あの銀髪の子。どうかしたんですか?」

「うーむ、何とも。少しだけ話を聞けたのですが些か厄介でしてな」

 

 

 轡木さんに導かれるまま、僕達は一室に通された。

 部屋はビジネスホテルの様にとてとシンプルな内装で、部屋の隅にベッドがあり、横長のテーブルの上にはテレビと湯沸かしポットが置かれている。

 その間にあるチェアに、幼い少女が座っていた。

 

 

「彼女が」

「ええ、ルーシィヒ・アイゼンシュロットのパイロットだった少女です」

「名前は?」

「本人曰く、ゼクスウントノインツィヒ・アンファングスと呼ばれていたそうですな」

「ゼクスウント……6?」

「96。初期型の96番」

 

 

 訂正する様に、淡々と応えたのは束だった。

 その顔は珍しく無表情で、どこか形容し難い不気味さと怖さを抱えている。

 何か、思うところでもあったのだろうか。

 

 

「そんな、まるで何かの型番みたいな……」

「ドイツではな、ナチスの時代から人造兵士の研究が行われていたそうだ」

「!?」

 

 

 突然、背後から新たな第三者の声が聞こえてきて、思わず小さく身体が跳ねてしまった。

 視線をズラした先には、見知った顔があったが。

 

 

「更識さん、心臓に悪いですから突然現れるのは止めてくださいよ……!」

 

 

 更識楯無。暗部の暗部とか良く分からない家系の現当主で、S.H.I.E.L.D.でも指折りの諜報員である。

 

 

「悪い悪い。それでその人造兵士、遺伝子強化試験体(アドヴァンスト)は倫理的にアウトだって言われて表面上は凍結した事になってる。だけど実際には、ご覧の通り続けられてたって訳だ」

「つまり……所謂、試験管ベイビーという訳ですか」

「もっと質が悪いぞ。DNA情報を弄って人体に求められる最高スペックの身体能力や知能を遺伝子レベルで無理矢理引き出そうってコンセプトだからな。ほら、ガンダムとかでもそういうのあったろ?」

 

 

 兵士として造り出され、戦う事を義務付けられて産み出されてしまった人造人間。

 それがSFの話などでは無く、現実の世界に存在してしまっているのだ。

 人間とはそれ程までに傲慢で、目的や利潤が絡んだ時にそこまで業が深くなれるのかという事実に、薄ら寒いものを感じてしまった。

 

 

「この子、どうするの?」

「実はそれが問題でして、事情が事情ですからおいそれと施設に任せる事は出来ません。かと言ってずっとここで過ごすのもこの子にとって良い筈がありません。困ったものです」

「そうなんだ……」

 

 

 何をするのかと思いきや、束はその女の子に近付くと……そっと、頭を撫でた。

 

 

「…………?」

「ねえ、もしかして君……目が見えないの?」

 

 

 言われてから気がついたが、確かに少女は瞼を常に閉ざしていた。

 そして自身を撫でる束を見上げる様に顔を上げてはいるが……どうにも、視界に束の姿を写している様には見えない。

 

 

「医療班の話では、両目ともに何かしらの後天的な施術が行われていて、その副作用で視力を失ってしまったと考えられるそうです」

「人間の眼にISのハイパーセンサー並みの視力を与えるなんて実験がこれまたドイツで行われてたらしいが……大方、その実験台にでもされたんだろうな」

「…………」

 

 

 この胸の中に燻る感情を、なんと形容したら良いのだろうか。

 怒りでも哀れみでも無い。言葉では言い表せない歯痒くもどかしい気持ち。

 それはきっと、束も似た様な想いを抱いているのだろう。

 

 

「ねえ、幸太郎」

「何かな?」

「この子、ウチで引き取っても良いかな?」

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 その少女……束がクロエと名付けたその子が家に来てから早いもので三週間が経過していた。

 初めの頃は、口を閉ざしていて声を掛けても返事をしないどころかご飯もちゃんと食べてくれなくて大変だった。

 それでも根気よく接し続けて……少しずつ、心を打ち解けてきてくれた。……と、思いたい。

 

 

「おはよー、クーちゃーん!」

「…………はい」

 

 

 極端に短く一言や二言しか喋らないが、これでも好転した方なのだ。

 無視されていたというか、言葉を発する事を忘れてしまったかの様に何も話さず、かと言ってリアクションが何も無い訳でもないという不安定な状態。

 乏しかった表情も最近では徐々に出してくれる様になってきていた。

 

 現状では、クロエには戸籍も何も無く、我が家への居候という形になっている。

 だけどいずれは……我が家の養子として迎えたいと束は言う。

 轡木さんに諸々を手伝って貰って、そしてクロエとも話し合って了承を得てからそういう形にしたいと、僕も考えていた。

 

 

「養子に迎えたらさ、名前も漢字で付けてあげたいなあ」

「漢字でって……黎恵、とか?」

「どうなんだ、その字は? 画数も多くて書き辛いし、少しキラキラネーム寄りな気もするが」

「えーっ、それはちーちゃんの感性が古いからだよ!」

「そう、なのか……?」

 

 

 いや、何とも。

 黎という字は普通、名前に使うのは一般的では無いと思う。使えない訳では無いが。

 “くろ”という音ならば黒とか玄、若しくは少し珍しいが畔という字を使う方が普通かもしれない。

 でもここは意味を考えたりすると黎の方が何となく……

 

 

「それよりも、僕はクロエの眼を作ってあげたいな、とか思ってるんだけど」

「ああ、そうだね。視神経は残ってるから機械的に補助する義眼を作ってあげればまた見える様になるね」

「視神経との接続か……僕はそういう医学的な方面はからっきしだからな」

「じゃあ私がそっちの方を作るから幸太郎は機能面の方を作ってよ」

「だったら、いっその事普通の視界だけに限定しなくても……」

 

 

 自然発生した議論を交わしていく内に、善は急げと早速クロエの眼を作る事にした。

 それをクロエが受け入れてくれるかはまた別の話なのだが、僕達にそんな冷静な思考は無い。

 鉄は熱いうちに打てと言うが、基本的に衝動だけで生きているのだ、二人共に。

 

 

「あっ、千冬! 朝ご飯はもう作ってあるから、悪いんだけどクロエにも食べさせておいて!」

「ああ、わかったわかった。さっさと行ってこい」

「ありがとう!」

 

 

 嵐の様に去っていく二人の様子を、クロエはじっと耳を傾けて聞いていた。

 未だにクロエの心の内では、戸惑いや怯えといった感情が拭えないでいる。

 どうして自分にこんな事をしてくれるのだろうか、そんな疑問が尽きないのだ。

 

 

「まあ、何だ……お前もいきなりこんな所に連れて来られて困っているだろうし戸惑っているんだろうな」

「…………」

「私が言うのも何だが、アイツらは悪い奴では無い。考えがあってお前を引き取って、本当の愛情を注いでいるんだ」

「愛、情?」

「ああ。例えば、お前に付けようとしてた名前だが、黎の字には色の黒だけでなく“集まる”とか“多い”という意味があって、恵はその通り恵みや思いやりという意味だな。つまり……良いものが沢山来ますようにと、そんな想いが込められているんだ」

「はあ……」

「分かってやれとは言えないが、しかしそんな風に本気で考えているんだって事を、知っていて貰いたいかな」

 

 

 そんな話を静かに聞いていた黎恵の顔は、僅かにだが、綻んでいた。

 

 

 

 

 

 

「96に、“A”nfangだからクロエ。少し安直すぎない?」

「ん? ああ……でもいい名前だなって私は気に入ってるよ。クロエ=クラモチって、ちょっと韻も踏んでる感じだし」

 

 

 地下の作業台に、向かい合うように座りながらもお互いに自分の手元を見ながら二人は会話していた。

 ここでは見慣れた光景。それぞれが自身のペースで、やりたい様にやるのが二人の流儀なのだ。

 それで幼い頃からずっとやってきていたし、それでうまくやって来ていたので、今更それを変えるような事はしない。

 

 

「でもさ、なんで」

「なに?」

「いや、今更なんだけどさ。何でクロエを引き取ろうって、思ったの?」

「…………」

 

 

 不思議に思っていた。

 基本的に他人に関心を示さない束が、何故か初対面の時からクロエに興味を示していて、あろう事か引き取って家族にする事を提案するとは。

 別に束は子供が好きだとか、特別に慈悲の感情があるわけでも無い。

 しかし気紛れというのも、何かが違う。そんな気がするのだ。

 

 

「うーん、そうだね。幸太郎になら話しても良いかも」

「……何だかそんな言われ方すると怖いな」

 

 

 しかし、一度決心した束は止まってくれない。

 

 

「何年か前にね、自分で親子鑑定した事があるの」

「親子鑑定って……」

「そう、DNAの。一応ね結果は99%の確率で私はお父さんとお母さんの子だって出た」

「なんだ、だったら──」

「だけどね、自分のDNAを精査したら……明らかに調整した形跡があった」

「え…………?」

「そもそも異常(おかし)いでしょ、私。明らかに人間の範疇を超えた能力を持っていて、だから親子関係を疑っちゃったりしたんだけどさ」

 

 

 相変わらず作業を続けていたが、その顔には影が差していた。

 何かを絞り出すように、憂いを帯びた表情で俯きながら。

 

 

「真相は分からないよ? 聞くの、怖いし……でも多分ね、私はあの子と似た様な生まれ。お父さんとお母さんの細胞なのか精子と卵子からなのかは分からないけど、何らかの科学的操作が行われた上で私は産み出された」

「……でも、それって憶測なんでしょ?」

「少なくともシミュレーションをした結果では、通常の生殖方法で私が産まれる確率はほぼ0%。私はね、産まれる前から普通じゃないんだ」

 

 

 何でもない様に言うが、その声は微かに震え顔も苦悶していた。

 そんな事を喋らせてしまった事に今更ながら後悔してしまう。

 しかし、ずっと胸の内に抱えていた苦しみを少しでも吐き出させる事が出来るのならと、続きを促す。

 

 

「だから親近感って言うのかな、もしかしたら近しいものを感じたのかも……」

「……そうなんだ」

「それだけだよ、それだけ。あの子を引き取った理由は」

「じゃあ、あれか。束は僕が思っていたよりも随分と優しい人だったって事だ」

「え?」

「だってそれって、つまり同じ故郷の生まれだったとか同じ様な病気を抱えていたとか、その程度の類似点でしか無いじゃない」

「そう、なのかな」

「そうだよ。第一、周りと違う事に対してそんなに憂う必要なんて無いさ」

 

 

 適当に、その辺りに転がっている機材の中から適当にドライバーを拾って手に持つ。

 それを親指から中指までの三点だけで摘んで、人差し指だけを下に後は上へと逆側に力を込める。

 するとドライバーは、まるで針金みたいに容易くVの字に曲がってしまった。

 

 

「Mark.Xの副作用なのかな。部分展開してなくても握力が200kgぐらいあるんだ」

「……」

「勿論、握力だけじゃなくて他にも色々と、影響がね。とんでもない話だよ」

 

 

 パワーは向上したが、コントロールが出来ない訳では無い。

 何というか、ギアが一つか二つ増えた様な感覚で、本気の更に上の段階というものがあって、力をより一層込めればそれだけパワーが引き出せる様な感じなのだ。

 まあ、しかし明らかに僕の肉体が有する筋肉のポテンシャル以上のパワーが出ているのは明らかだろう。

 

 

「意外に簡単なんだよ、人間じゃなくなるなんて。だからさ、そんな人の枠組みに囚われる必要は……」

「人間だよ!」

「え……?」

「私もね、自分が人間じゃないかもって悩んでた。能力だけじゃなくて性格的にも人の輪から遠ざかっていたから……でもね、幸太郎と一緒にいて、気づいたんだ」

「な、何に?」

「確かに私は他の人と違うかもしれないけど、それって怪我や病気を抱えているのと変わらないんじゃないかって、今では思えるんだ。多少周りと違っても人間は人間で、そうあろうとする事の方が大事なんだって」

「でも僕はそんな風に言った覚え、ないんだけど」

「まあ、私が自分で考えて勝手に解釈して納得した事だから。でもね、幸太郎が私を社会っていう人の営みの中には連れて行ってくれて、私も人間の中の一人なんだって認識させてくれた」

 

 

 そんな風に考えていたなんて、知らなかった。

 てっきり、束の事だから人間という枠組みで括られるのを嫌っているのかと思っていたけど……もしかしたら、いつの間にか変わっていたのかも知れない。

 何だろう、今だけは僕よりも束の方が大人に見える。

 

 

「だから、私も幸太郎も人間だよ。どんなに周りと違っても、どんなに浮世離れしていても、人間であろうとすればどんな姿になっても、人間なんだよ」

「…………妙な感じだな、束にそんな事を諭されるなんて」

「どういう意味?」

「そのままの意味だよ。やっぱり束は凄いな、って」

 

 

 束がそう言うのなら、そうあろう。

 僕も束も人間で、どんなに力が強くなっても、姿や形が変わったとしても……人間であろうとすれば僕達は人間だ。

 それこそ、周りがどう思っていたとしても関係ない。自分の中で確かな気持ちがあれば、人間でいられる筈だから。

 

 

「なに、言いたい事があるなら言ってよ」

「束は賢くて格好良くて可愛いなあ」

「ちょっ! どうしてそうなるのかな!?」

 

 

 束を見ていたら、何だが小さな事で悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた。

 

 少し、僕も束を見習った方がいいかも知れない。

 自分の中の考えを押し通して主張できる様な、そんな人間になれるように。

 




黎って書くと、某社長を思い出してしまう人もいるかもだけど、悪しからず。

結婚式の前に蛇足感はありますがどうしてもクロエを引き取る場面を入れたかったので、こうなりました。
次回はエピローグ。
その次と次は外伝、その更に次くらいにはプロローグ。

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