あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~ 作:あるすとろめりあ改
許してください、次はなんとかしますから。
海の上、空を飛んでいるが今度は青い靄が現れる気配は無かった。
代わりに、という訳では無いが下方には異様に巨大な質量を誇る物が威風堂々と聳えている。
一見するとそれは、巨大な艦船。空母だ。
「凄いな、これって空母としてもデカイ部類なんじゃないか?」
『全長は約420m、ニミッツ級が333mなので1.3倍ですね』
「しかもこれ、飛ぶんだろ? 航空母艦ってそういう意味じゃないのにね」
ヘリキャリア。ヘリ空母みたいな名前だが、実際はヘリを運用する航空母艦では無い。
この艦には四つの巨大なローターが設けられていて、そこから生み出される破格の揚力とジェット推進を併用して空を飛ぶことが出来る。
何で空母を空に飛ばそうなんて考えてしまったのか。考案者には是非とも問い詰めたい気分だ。
「こちらアイアンマン・ザ・ゲスト。着艦の許可を頂きたい」
《ようこそお客様、お好きなお席へどうぞ》
「了解、歓迎に感謝します」
自由に停めて良いと言うのでお言葉に甘えさせて頂こう。
ちょうど、クインジェットが先に着艦していたのでそのお隣に失礼させて貰おうか。
予想が正しければ、かの有名人が乗ってきた機体の筈だ。
「おっと、アイアンマンのご登場だ」
「あれがアイアンマン……」
「スターク? 貴方の合流はもっと後だって聞いていたのだけど?」
想像通り。早速お出迎えしてくれたのは、スティーブ=ロジャースにブルース=バナー、ナターシャ=ロマノフという豪華なメンツ。
しかし残念ながら、僕は人違いをされてしまっているようで。いや、アイアンマン違いか。
「失礼、こんな姿で紛らわしいですが僕はトニー=スタークではありません」
「何だって……?」
万歳の体勢を作ってMark.9のスーツを脱ぎ、メーティスに命じて下がらせる。
中から飛び出して来たのが、資料に載っていた人物像とはまるっきり異なる若い東洋人だったからだろう、三人は分かり易く驚いた顔をしていた。
「はじめまして、倉持幸太郎です。 今回は飛び入りで、アベンジャーズにはゲストとして参加させて頂きます」
「あ、ああ……えっと、スティーブ=ロジャースだ。宜しく」
「はい、宜しくお願いします。でも実は、資料を読ませて頂いたので皆さんの事は一方的に知っているんです。キャプテンアメリカに、核物理学者のブルース=バナー博士、それとエージェント・ロマノフですよね」
「……僕について知っているのは、それだけ?」
「昔から備考欄は読まない主義なんです、些細な事ですから」
資料を読むまでも無かったが、きちんと読ませて頂きました。
もちろん、怒りや興奮でハルクになってしまうのは知っていたしそれを軽んじるつもりも無い。
だが、最早それは生理現象の様な物だし、止めようとするのは間違っている。どう向き合っていくのか、そう考えた方がよっぽど建設的だろう。
「皆さんと一緒に仕事が出来るなんて感激……いえ、光栄です」
「君みたいな若者に言われると、何だか変な気分だな……」
「そうですか? 少し寝坊しただけでロジャースさんも若いと思いますよ」
「良かったわね、若者として認められて」
そんな皮肉に対して、キャプテンは苦笑いを浮かべている。
確か、1918年生まれで1945年に氷漬けになったから……27歳ぐらいかな?充分に若いと思うんだけどね、うん。
「三人とも、そろそろ中に入った方が良いわよ。呼吸が辛くなるだろうから」
《デッキの安全を確保せよ》
ロマノフの忠告に合わせた様なタイミングで、艦内放送とサイレンが鳴り響いた。
船員達は忙しなく行動を始め、辺りからは轟く様な作動音が響き渡る。
「これは、潜水艦か?」
「そりゃあ良い、僕を鉄の檻に閉じ込めて海に沈める気かな?」
知っている身からすれば随分と見当違いな意見だが、それも仕方がない。
誰が航空母艦が空を浮かぶなんて想像できるだろうか。実際、この場に居合わせても信じ難い事なのだから。
しかし、ヘリキャリアは────飛ぶのだ。本当に。
「なっ…………!?」
「こりゃあ酷い、潜水艦の方がまだマシだったよ」
海中から巨大な二対のローターが出現すると、海から切り離す様に浮遊を始める。
何万トンとありそうなヘリキャリアを、よくローターの揚力だけで持ち上げられる物だと思う。
実は反重力装置が搭載されてるって言われたって、驚かない。
「これじゃ
こうして、アベンジャーズの空飛ぶ基地は飛び立った。
◯
ヘリキャリアの内部も、また圧巻だった。
ブリッジに拡がるのは途轍もない近未来感。思うのだが、どうにもこの世界はS.H.I.E.L.D.やトニー=スタークの周囲にある技術だけ妙に発展していないだろうか?
空調も通常の物とは異なるようで、気圧の変化によって生じる不調も感じられない。
とりあえず、ご挨拶代わりにメーティスをメインコンピューターに忍び込ませる。トニーだってやってたんだから、別に良いよね。
『サイクル良好。出力は最大で稼動中。ヘリキャリア上昇。逆反射パネルが作動します』
「プロペラはいらないけど逆反射パネルは面白いな、データを取っておいてくれ」
『了解』
ステルス系のスーツも開発しようと思っていたから良い機会だ。
問題は耐久性。少しでもパネルが傷つけば姿が露わになる。
使い捨ての光学迷彩みたいな使い方しか出来ないかもな…………
「ようこそ博士、よくいらしてくれた」
あ、キャプテンがフューリーに10ドル紙幣を渡した。ヒルも呆れた様な目で見てる。
しかし、同じ目線の高さから見るというのも妙な感覚だ。現実じゃないみたい。
「丁寧な歓迎をどうもありがとう。それで、僕はいつまでここにいれば良いのかな?」
「キューブを取り戻せれば、いつでも」
「成る程。で、現在の状況は?」
調査はコールソンの指揮の元に行われている様だ。
「地球上のあらゆるカメラを監視しています。携帯やスマートフォン、パソコンも衛星経由で接続されている物の映像は総て確認できます」
「そんな方法で間に合うのかしら?」
「範囲を絞り込もう、使えるスペクトロメーターの数は?」
「必要ならば幾らでも」
「あらゆる施設の屋上にスペクトロメーターを設置させるんだ、ガンマ線の測定を行って範囲を絞り込める筈だ。高線量探知アルゴリズムは僕が作る」
「…………?」
そんな中で一人、キャプテンだけが取り残されている様子だった。
まあ専門家でも無いので仕方がない。特に今のキャプテンは現代の科学や最新技術に対して非常に疎い状態にあるのだから。
よし、お節介かもしれないけど教えてあげよう。なんてね。
「放射性元素から放出されるガンマ線は物質によってそれぞれが固有のエネルギーを持っているんです。四次元キューブのエネルギー分布は幸いにもセルヴィグ博士が残したデータで判明しているので網を広げれば探す事が出来るんです」
「なるほど……?」
「つまり、指紋やDNAみたいな物です」
「ああ、それなら分かる」
分かって頂けたようだ。
「それじゃあ、僕はどこで作業をすれば?」
「エージェント・ロマノフ、バナー博士をラボに案内しろ」
「はい」
「あの、フューリー長官? 僕は何をすれば良いのでしょうか」
「……お客さんは寛いでいてくれて構わない」
わぁお、
そういうのって困るんだよね。晩御飯を何にするか聞いても何でも良いよ〜、とかさ。
あっ、そう言えば夕飯の支度してないぞ……大丈夫かな、家にいる三人はだれも料理が出来ないし。
…………ヤバイかもしれないな。
「帰ったら、大掃除かな……」
『問題ありません。冷凍食品とインスタント食品の備蓄があります。私のバックアップもいますので、5日間は無事です』
「それは朗報だ」
それまでには、帰れる筈だけど。
考えても今は仕方がない、折角だから少し寛がせて貰うとしよう。
「ドイツにロキが現れるのは同日の夜だった筈。それまでは待機だな」
◯
「って、意気込んでたんですけどね……」
「ハハハ、お留守番してろって?」
「本当に子供扱いですよ。まあ、確かに二十歳の若造なんてここでは子供でしょうけどね」
ロキがドイツのシュツットガルトに現れた一報が入り、僕は意気揚々と同行を願い出た。
しかし、ニック=フューリーは一考する様子も無く「君はいざという時の為に待機していてくれ」と言われただけで、また放置される事に。
正直な話、憤りを感じる。僕は現状のトニー=スタークと同等か、それ以上に戦えるというのに、それを知らないのだから。
と言うか、信頼が無いのだ。何処の馬の骨と知らぬアイアンマンには任せられないのだろう。
「本当に只の子供なら、たった三時間で僕の助手が務まる様にはならないと思うけどね」
あらら、ブルース=バナーが励ましてくれている。
意外と言うか、気を遣わせてしまって申し訳ない気持ちになってしまう。
「僕だって必死なんです。説明した通り、僕の見立てでは四次元キューブの余波でこの世界に迷い込んでしまった。だから、キューブが唯一の手掛かりなんです」
「なるほど。そこまで頑張るのは元の世界に大切な人がいるから、とかかな?」
「…………はい」
他人の為に孤独を選んだブルース=バナーには家族の話をするのはあまり相応しくない気がした。
でも、嘘をつきたくないという気持ちもある。
結局のところは彼の言う通り、元の世界へ帰りたいが為にアレコレと頑張っているのだ。観光気分が抜けないのも否定できないけど。
「ここに参加した理由なんて自分本位な物です。早く帰りたいっていうだけで、夜も眠れているかどうか……」
「そんなに心配してくれる恋人がいるなんて、何だか羨ましいな」
「あ、いや恋人と言うか──あっ」
訂正しようとして、言葉が止まった。
廊下をゾロゾロと連なる隊列。その真ん中には、妙にファンタジックな装いの男が拘束されている。
怪しげな笑み。観た事は無くとも誰だかはわかる、ロキだ。
「あれが。ロキ……」
「どうやら、そのようだね」
《バナー博士、倉持、一度作業を中断してブリッジで待機していてくれ》
部屋のスピーカーからニック=フューリーの言葉が一方的に告げられる。
どうやらロキが拘束され、ソーとも一悶着があってからヘリキャリアに兵士達は帰還したようだ。
さて、ここからが本番……気を引き締めねばならない。
〇
ブリッジへ辿り着けば、キャプテン・アメリカにブラック・ウィドウが帰還し、更にソーも加わっていた。
ブルース=バナーもいる訳で、この場にはトニー=スタークとホークアイを除いたアベンジャーズのメンバーが揃っている事になる。圧巻だ。
《あと少しで四次元キューブの力が手に入ったのに、残念だったな》
《……》
《だが無限のパワーをどうするつもりだった? 世界中に暖かな光でも分け与えるか?》
彼等はスピーカーから流されるニック=フューリーとロキの会話を聞きながら、それぞれは神妙な面持ちで耳を傾ける。
「彼は面白いヤツだね」
ハルクを閉じ込める檻の話や、四次元キューブについて猜疑心を掻き立てる様な話が流れてくる度に、彼等の表情は百面相に変化した。
結局の所、ロキはアベンジャーズの仲違いを狙っているという訳だが、そもそもからしてこのメンツには協調性に問題があり我の強い個人プレイヤーの集まりなので、突けば割と容易く崩す事が出来るだろう。
その辺り……僕が介入してどうにか出来るのか、甚だ疑問だ。
「ロキは時間稼ぎをしているみたいだ。 ソー、どう思う?」
「ロキはチタウリを待っている。チタウリは異世界の生き物で、そいつらを率いて地球を侵略し、その見返りにキューブを渡すんだろう」
「異世界からの、軍隊か……」
「だから通路が必要なんだな、その為にセルヴィグ博士も攫ったって訳だ」
「しかし、何故ロキはみすみすと捕まったんだ? そのチタウリを使えば良いものを」
「ロキに惑わされない方が良い。彼の頭の中は滅茶苦茶でクレイジーだからね」
「言葉に気をつけろ! ロキは私の弟だぞ」
「ロキは二日間で八十人も殺したのよ」
「複雑な、事情があるのだ……」
確か、ロキはソーの義兄弟でオーディンの養子だった筈だ。
元は氷の巨人の王の子供で、アスガルドの神々との戦いの中でロキはオーディンに拾われた。
つまり一族の宿敵、それもリーダーによって拾われ育てられたという訳で、彼の心境も穏やかではいられなかっただろう。
「テクノロジーの話をしよう。イリジウムを何故必要としたのか?」
「安定剤になる。つまり通路を安定させるのに必要なんだ」
ブルース=バナーが不毛な話を何とか立て直そうとしていると、割って入る様に新たな人物がブリッジに入場した。
世界の金持ちプレイボーイ。トニー=スターク、その人だ。
「怒るなサーファーくん、悪くないパンチだったぞ?」
「はあ……?」
ソーは、多分サーファーが何のことか分かってないです。
文化圏の全く異なる異世界より来たから。だから、そのジョークもちょっとズレてるけど……カルチャーギャップは簡単には埋まらない。
「異世界への通路も広げ、持続時間も好きなだけ伸ばす事が出来る筈だ」
「イリジウムは耐熱性や耐久性に優れている上に白金族元素だから触媒としてはもってこい。似た様な性質を持っていて、実際にセルヴィグ博士も実験で使っていたパラジウムよりも安定する。そう言う事ですね、スタークさん?」
「良く分かってるじゃないか少年」
「僕もアイアンマンですから、核反応の触媒に関しては研究と試行錯誤を繰り返しました」
「成る程」
アークリアクターの触媒に用いていたパラジウムの毒素に悩まされていた時、念の為にとイリジウムも試した事がある。
結果は水素の吸着が甘くてリアクターの動力源としては不適格。
今回は核融合は核融合でも、常温核融合の為に用いる訳では無いので、問題無いのだろう。
「さて、他の材料はバートンなら簡単に手に入れられる。あと必要な物といえば……高密度エネルギーの動力源ぐらいだな、それがあればキューブを活性化させる事が出来る」
「何時から熱核反応物理学のプロになったの?」
「昨夜から。資料にセルヴィグのメモ、抽出理論の論文……読まされたの僕だけ?!」
「それで、ロキが狙いそうな動力源は何だ?」
「クーロン障壁を破るにはキューブを一億二千万ケルビンまで加熱させる必要ある」
「セルヴィグが量子トンネル効果を安定させられるなら別だけどね」
「それが可能なら重イオン核融合も簡単に起こせるね。ノーベル賞ものだ」
「いたよ、英語の通じる奴が」
「何なんだ、一体……?」
ああ、キャプテンが意味が分からないと頭を抱えている。
良いんですよキャプテン、専門分野は専門家に任せてくれさえすれば……餅は餅屋、得意分野は皆んな違うんです。
「倉持、分かるように説明してくれ……」
「えっ僕がですか?」
何時のまにか、僕はアドバイザーに就任していた様だ。
いや、しかし任されたからには説明する他あるまい。えっと、クーロン障壁と量子トンネル効果についてかな?
「そうですね……核融合って分かります? 核融合を起こす為には強い衝撃で原子の核と核を衝突させなければいけないんですが、原子核の陽子はプラスの性質を持っている為に磁石で同じ極を近づけた時の様に反発しあうんです。つまり、その反発する力の事をクーロン障壁と言います」
「ああ、だから核融合は難しいとか、そういう話なのか」
「はい。そこで量子トンネル効果が出てきます。例えば太陽でも核融合反応は常に起きていますが、しかし太陽の環境では水素原子がクーロン障壁を破って核融合を起こすには速度が足りない筈なんです。ですが、極僅かな可能性で物質が壁をすり抜けてしまう事があって、それが量子トンネル効果です。それを自在に起こす事が出来れば容易にエネルギーを生み出す事が出来るだろう、という話を二人はしていました」
「ふぅん、成る程……」
半分くらいは、伝わっただろうか?
核融合反応が起きるのが約1億ケルビンで、太陽の内部温度はおよそ1570万ケルビン。明らかにエネルギーが足りないのに核融合反応が起きているのは、つまり件の量子トンネル効果のお陰でクーロン障壁を突破してしまうからだ。
流石にセルヴィグ博士でもそれを意図的に起こすのは不可能だろうから、出来る限りの高密度エネルギーのエネルギー源を探す筈で、それを手掛かりにすればキューブの行方が分かるのでは無いか、という話。
「バナー博士はキューブの研究の為に呼んだ。スターク、君も博士に協力してくれ」
「はいはい、っと」
「ロキの杖も調べてくれないか? まるで魔法みたいだったが、あの杖はヒドラの使っていた兵器にどこか似ている気がする」
「それは分からないが、あれはキューブを動力源にしている様だ」
でもあれってマインド・ストーンだよね。どうやってスペース・ストーンの力を使ったんだろ。
「しかし、あの杖でどうやって我々の仲間を“空飛ぶ猿”に変えてしまったのか、それが分からん」
「“猿”……とは、何のことだ?」
「僕にはわかったぞ、“オズの魔法使い”だ!」
カルチャーギャップとジェネレーションギャップが、一同に介して混ざり合わさって化学変化が起きてしまう。
ソーはやはりそれでも分からず顔には疑問符が浮かび、キャプテンは合っていた筈なのに場の空気が妙に白けてしまった事に戸惑い、辺りを見渡す。
そんな不安そうに「え、合ってるよね?」みたいなアイコンタクト送らないでください。合ってますってば。
「行こうか、博士」
「ああ、そうだね。く、くる、あ……君も一緒に来てくれ」
「はい、バナー博士。それではロジャースさん、“黄金の帽子”を調べて来ますね」
だから、そんなあからさまにホッとして「良かった、通じてた!」なんて言いたげに嬉しそうな表情をしないでくださいよ。
空飛ぶ猿やオズの魔法使いについては、ジェネレーションギャップを表現する為の演出だったそうです。
尚、英語の原文では「わかった。オズの魔法使いだ!」とは言っておらず「僕はその事を知っているぞ!」となっており、意訳だったという訳です(空を飛ぶ猿はオズの魔法使いネタであってます)
キャプテンが知っている知識が出て来たので嬉々と答えますが、そりゃあアスガルドから来たソーは知らないんだから自慢にならないだろ……という呆れだったとか。
なんだか、分かりにくい表現です。