あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~   作:あるすとろめりあ改

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新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします!

昨年内にアベンジャーズ編も終わらせられるかと思ったら全然そんな事は無かった。
実はアキブレにかなり熱中してました。いえ、してます。


其の五 NY大決戦・Avengers Assemble!

「…………うっ」

 

 

 首と肩が痛い。どうやら寝違えてしまったみたいだ。

 ベッドの感触がいつもと違う、少し硬いし狭い。

 何となく束のラボを思い出す。あそこに置かれたベッドも確かこんな感じで……その内、掃除に行かないとな。

 

 

「ここ、は……?」

 

 

 そう言えば、ここはどこだろうか?

 寝室に辿り着いた記憶は無いが、どうやらガレージで突っ伏して寝てしまった訳でも無さそうだ。

 よし、と意を決して身体を起こしてみる。

 

 

「まだ寝ていた方が良いよ、かなりの出血だったみたいだからね」

「……マーク=ラファロ?」

 

 

 違う。ブルース=バナーだ。

 そうだ、段々と思い出してきた。確か僕はアベンジャーズの世界に迷い込んで……何だかんだやって、ロキに腹を刺された。

 傷は修復出来たけど出血多量で死にかけて、アリスに眠らされたんだっけ。

 

 

「まだ寝惚けてるみたいだね。何があったか覚えているかい?」

「……お腹を、刺されました」

「どうやらそうらしい。僕が診た時は傷一つ無かったけど」

 

 

 周りを見渡すと、左腕に太い管が伸びているのが見えた。

 輸血をされているらしい。そういえば、ブルース=バナーは先日までインドで医者をやっていたんだっけ…………というか、医師免許って持ってるのかな?

 

 

「彼……ソーが言うには、腹部を刺された上に抉られて大きな穴が空いていたらしいけど」

「ええ、まあ」

「でも、もう塞がっている。その跡がどこにも無い」

 

 

 証拠と言えるか定かでは無いが、穿たれた穴の爪痕はTシャツに残っていた。

 大きく穴が開いて血で染まったTシャツ。それは脱がされていて、今はどこか着物みたいな病衣に身を包んでいる。

 

 

「ハッキリと言ってしまえば異常だ。君は本当に、人間かい?」

「うーん……逆に聞いても良いでしょうか。貴方は人間ですか?」

「…………」

「あ、すみませんっ! そういう意味で言った訳じゃなくて……!」

 

 

 言い方が悪かったと、遅れて気がつく。これではまるでバナーが人間では無いと言っている様ではないか。

 そもそも彼はハルクに対して複雑な感情を抱いている。正面から向き合いながらもコントロール出来ない事に恐怖し、それでも受け入れようとしているのだ。

 そんな彼に「貴方は人間なのか」という問いは、否定している様で相応しくない。

 

 

「少し、僕の話をしても良いですか?」

「ああ、構わないよ」

「ありがとうございます。かつての僕はスーツを着ていなければ戦えない……変な言い方ですが、普通の人間でした」

 

 

 中学生の頃には胸にアークリアクターが埋まってたから、僕の短い人生の半分以上が普通じゃないって事になるけど。

 身体能力もあの頃から異常なレベルで向上していった訳だし。

 まあ、しかし肉体とか戦力を抜きにして考えると……束と関わった時点で既に“普通”との縁は完全に断ち切れていたのかもしれない。

 

 

「でも色々とあって、明らかに人の領域から逸脱した力を得ました。ご覧の通り、ですね」

「…………」

「戸惑いましたし同時に怖くもなりました。自分が人間ではなくなってしまったんじゃないかって、逃げていた事実を突きつけられた様な気さえしました」

 

 

 でも、と。

 僕は眼を瞑って一年ぐらい前にあった出来事を如実に思い出す。

 逆立ちしても一生敵わないんだろうなあ、と再認識させられた日の事だった。

 

 

「ある人が僕に言ってくれたんです。“力”なんて病気や怪我みたいな物で、周りの人と多少異なる部分があったとしても人である事に変わりないって」

「でもそれは、コントロールが出来ていればの話だろう? 僕には無理だ。無意識の内に誰かを傷つけてしまう、人にとって害でしか無いんだよ」

「そうでしょうか」

「……なんだって?」

「これも、その人の受け売りなんですが……人か否かの基準で必要なのは人間の(ことわり)を受け入れ人として生きていこうとする事だと僕は思っています」

「…………」

「貴方は、インドで身を隠しながら医者として活動していた。そしてその数年間は“力”が暴走する事も無かったんですよね?」

「まあ、そうだね」

「“力”に怯えて人であろうとする事を直ぐに諦めてしまいそうになった僕なんかよりも、よっぽど人間らしいと思いますけどね」

 

 

 ひとしきりに言いたい事を吐き出し終わると、それを聞いていたブルースは考える様に黙してしまう。

 思う所はあるのだろう。殆どの日常を、ハルクと向き合っている彼には。

 僕は彼の想いを理解する事は出来ないだろう。想像をして、ある程度の共感をする事は出来るかもしれないが、それは理解とは果てしなく遠いのだ。

 だから僕も、それ以上の言葉を伝える事なく見守る事にした。

 

 そして、幾らか時間が経過したのを見計らってから疑問になっていた事を質問する。

 

 

「そういえば、ロキに関して状況はどうなっているんですか?」

「ああ。最後にキューブの反応が追えたマンハッタンの付近だったから今はそこを警戒している。キャプテン達は空から巡回、トニーはアイアンマンの修理も兼ねてタワーに戻るって言ってたな」

「……まだチタウリは現れてないんですね?」

「チタウリ? ああ、ロキが呼び出そうとしてる軍隊……少なくともまだ出現の報せは無いみたいだけど」 

 

 

 分断される筈だったアベンジャーズのメンバーがロキの目論見に反して一堂に会している等の相違点はあるが、大まかな大筋はやはり変わっていない筈だ。

 つまり、状況はクライマックスへ向かっている。スタークタワーのアークリアクターが四次元キューブの動力源に用いられ、開かれたゲートからチタウリの軍隊が溢れ出てくるのは時間の問題だろう。

 

 

「急ぎましょう。恐らく時間はもう殆ど無い筈です」

「だけど、ロキの居場所はまだハッキリとしてないんだよ?」

「問題ありません、僕に心当たりがあるんです」

 

 

 心当たりなんてありません。知ってるだけです。

 

 

 

 

 

 

 勝手にヘリキャリアの格納庫に駐機されていたクィンジェットに忍び込み、メーティスにロックを解除させてメーティスに操縦して貰う。

 つまり全部メーティス頼み。仕方ないじゃないか、だってその方が早いんだからさ。

 最高速度でニューヨークの上空を目指すと、既に事態は始まっていた。

 摩天楼の中でも群を抜く高さを誇るスタークタワー。そんな塔の頂点から、青く迸る様な鋭い閃光が天を貫いて空を穿って孔を開けている。

 よく見れば、その穴からは零れ落ちる様に青い(もや)が溢れ出していて、それは僕がこの世界に迷い込む前に見たものと同質な物の様だ。

 

 

「どうやら、捜すまでも無かったみたいですね」

「そうみたいだね。それで、どうするんだい?」

「突っ込みます」

「は?」

 

 

 操縦桿を握り、クィンジェットの進行方向のみをコントロールする。

 目指すのは巨大なクジラのようなムカデの様なフォルムをしていてクライシスな印象を受ける飛行物体。確かリヴァイアサンと言ったけ。

 

 

「メーティス、バナーさんを地上までエスコートしてくれ」

『了解しました』

「えっ、え? なに?」

 

 

 搭載していたMark.9はメーティスがコントロールし、ブルース=バナーを抱える。

 クィンジェットの後部ハッチを展開すると、そのまま抱えて飛んで行った。

 その様子をモニターで確認しながら、バルカン砲を展開してチタウリ達に向けて放銃を開始。

 細々と撃ち落としながら、尚も進路はリヴァイアサンへ向けて突き進んでいく。

 

 

「よし、そろそろ僕も行くか」

 

 

 操縦はオートパイロットにして、開きっぱなしの後部ハッチへと駆け込む。今更になって思うが、別に普通に着陸させても良かったな。

 Mark.9は先に地上に行ったので生身で飛び込むことになるが……まあ、問題は無いだろう。

 いざとなったらエネルギー・バリアが僕の身を守ってくれるのだから。

 そのまま空中に身を投げ出し、物理法則に従って自由落下。

 パラシュート無しのスカイダイビングを楽しみながらも、頭の中では着地の位置と姿勢を検討していく。

 

 

「よっ…………と!」

 

 

 姿勢を整え、初めは両足で着地しながら右足を折り曲げ、落下による運動エネルギーの衝撃を殺すために右手で地面に殴りつける。

 全身に衝撃が伝わりピリッと軽く衝撃が走るが数百m程度の落下なので微々たる物だった。

 いわゆるスーパーヒーロー・ランディング。膝に悪い。

 

 

「…………お待たせしました」

 

 

 着地の姿勢を解いて周りを見渡せば、既にメンバーは殆ど集まっていた。

 

 キャプテンアメリカ、スティーヴ=ロジャース。

 ハルク、ブルース=バナー。

 ブラックウィドゥ、ナターシャ=ロマノフ

 ホークアイ、クリント=バートン。

 

 ソーはスタークタワーに、トニーは上空で戦っている様だ。

 

 

「お、おい倉持……今どこから落ちてきた?」

「どこって空からですよ?」

「生身で平然と降りたわよね……」

 

 

 派手な登場の仕方に各々方は驚きと戸惑いを露わにして僕と空とを見比べている。

 しかしそんなに驚かないで貰いたいものだ。キャプテンに至っては同様にパラシュートを用いずに降下作戦を実行することが出来るだろうに。

 

 

「……怪我は大丈夫なのか?」

「大丈夫です、これでも結構頑丈で、それだけが取り柄ですから」

「よく言うよ……本当に」

「コイツ、ロキに腹を刺されたんだろ? その割にはピンピンしてるが」

「常識で考えちゃダメって事ね」

 

 

 僕個人としては、良識も常識も持ち合わせた人間のつもりだったんだけど……残念。

 

 

「ひとまずその事は置いておいて、状況を整理しよう。スターク、倉持とバナーが到着したぞ!」

《よぉし、ひとまずコタローをコッチに送ってくれ。ちょっと数が多過ぎる》

「だ、そうだ」

「分かりました」

 

 

 僕が何かを言う前に、腕を左右に広げるとMark.9が一人でに動いて身体に纏わりつく様に装着されていく。

 マスクにHUDのUIが表示され、トニーのアイアンマンの位置も捕捉される。

 起動も手馴れたものだが、こんな大勢の敵を相手にするのは初めてだ。

 不安が無い訳ではない。だが、敗北や死なんていう杞憂はない。

 ホークアイと出会いの挨拶をする事も無く、早々にMark.9は空へと駆け出した。

 

 

「予想していたけど、数が尋常じゃないな……」

『確認できるだけでも1000を超えています』

「うっわ、ぞっとしないねえ」

 

 

 軽口を挟みながらもリパルサー・レイや肩部キャノン砲を起動して擦れ違うチタウリへ挨拶がわりにお見舞いしてさしあげる。

 しかし、やはりじり貧でしかない。

 根本的な解決には源を絶つしか無いのだが、その為にはロキの杖を手に入れる必要がある。

ゲートを展開している装置はバリアで覆われていて、四次元キューブのエネルギーから生じたバリアを破るには同じインフィニティ・ストーンの力が必要なのだ。

 

 

《やあコタロー、元気かい?》

「ええ、とても快調です」

《それは良かった。ところでコイツを見てどう思う?》

「…………すごく、大きいですね」

 

 

 対面から飛んできたトニーことアイアンマン・マーク7は、なんとあの巨大な飛行物体であるリヴァイアサンを引き連れてやってきた。

 こうして正面から見つめてみるとその巨大に圧倒されてしまう。

 軽く数百メートルはあるだろう。質量は何トンなのか想像もつかない。

 

 

「とりあえず、仕留めますね」

 

 

 左腕を真っ直ぐリヴァイアサンに向けて、照準を固定。

 Mark.9の装甲が一部展開すると、左の前腕部分からマイクロミサイルが射出される。

 うまい具合にリヴァイアサンの口の様な部分から内部へと侵入していき、中間地点まで到達したところで爆ぜた。

 大爆発は連鎖反応を起こしてリヴァイアサンを内部から崩壊に導き、真っ二つに引き裂かれるとそのまま地面へと落下していった。

 

 

《なるほど……装甲を避けて内部に攻撃するのが良いのか》

「それが一番手っ取り早いと思います」

 

 

 しかし、リヴァイアサンも一体だけでは無い。

 空からは次々と増援が舞い降り、リヴァイアサンも惜しみなく注ぎ込まれていく。

 何よりもニューヨーク市民の避難と保護がかなり遅れている。

 

 ひとまず、僕とトニーはキャプテン達と合流する為に着陸した。

 バナーは既にハルクに変身していたが、どうやらある程度理性がある様でアベンジャーズに対して暴れてはいない。

 ロキとの一悶着を終えたソーも合流し、これでアベンジャーズが遂に全員揃った事になる。

 …………一人、余計なお客さんがお邪魔しているけれども。

 

 

「さてキャプテン、どうする?」

「いいか皆、通路が閉じるまで敵を押し留めるんだ。バートンは屋上から敵を見張れ。スタークは外側だ、3ブロックから外に出ようとする敵は押し戻すか灰にしてやれ!」

「スターク、運んでくれ」

「ああ、落ちるなよ!」

「ソー、通路から出て来る敵は君の雷で痺れされてやれ! ナターシャはここで僕と戦闘を続ける」

 

 

 矢継ぎ早とキャプテンから指示が飛び出し、アベンジャーズ達は逆らう事もなくその指示に従っていく。

 実際、この中で指揮官や実戦の経験が一番豊富な者はキャプテンをおいて他にいないのだから従う方が適切だろう。

 

 

「倉持は遊撃、市民を守りながらあのデカブツを仕留めてくれ」

「了解」

「ハルク……スマッシュ(暴れろ)!!」

 

 

 キャプテンの簡単な指示に、ハルクは満面の笑みを浮かべて飛んでいった。

 ビルに張り付くと近場のチタウリを千切っては投げ、その暴力で打ちのめしていく。

 相変わらず凄いパワーだ。次回作はああいうのを作ってみようかな?

 

 

「さて……それじゃあ市民を優先して行動しよっか」

『了解しました』

 

 

 実を言うとMark.9は巨大な敵との戦闘に向かない。

 コンセプトとしては対人、敵対的なISやアイアンマンに類似するパワードスーツとの戦闘を想定されて設計した。

 Mark.7で採用したアダマンチウムクローは引き続き装備し、他にも鎮圧と救助など様々な状況に対応する多目的装備を採用していたりする。

 それが────スパイダー・ウェブ。

 

 

「よっ、と」

 

 

 手首から射出された白い粘着質の塊がチタウリに着弾すると弾けて展開し、網状になってその顔に絡みつく。

 視界が塞がれたチタウリが搭乗していた機体はコントロールを失い、やがて前方を飛んでいた他の機体を巻き込んで爆発する。

 もちろん只単に糸が飛び出すだけじゃない。ビルとビルの合間に張ってやればそれが障害物になり、まるで本当の蜘蛛の巣に飛び込んだ虫の様にチタウリ達を拘束してしまう。

 あとはそこにリパルサー・レイを撃ち込めば……文字通り一網打尽だ。

 

 

「ニューヨークで、って言うのがミソだな」

『どういう意味でしょうか?』

 

 

 アダマンチウムクローのモデルがウルヴァリンの爪であるように、このスパイダー・ウェブのモデルは勿論あのスパイダーマンの蜘蛛の糸である。

 装備の威力が過剰になりがちなアイアンマンであるが、リパルサー・レイ以外にも対人向けでかつ傷付けない装備を造れないかと考えた末に思い付いたのが、コレだった。

 思い付きで造った割には使い勝手が良く、使い方によってはこうやって殺傷に使う事だって出来る。

 

 

『左方向200m先、市民の逃げ込んだビルが瓦礫によって閉じ込められています』

「おっけー」

 

 

 メーティスのナビゲートに導かれたビルは、確かに入り口の部分が巨大な瓦礫で塞がれていた。

 戦闘によってビルが倒壊でもしたら逃げ道が無い。ひとまず地下に誘導するべきだろう。

 

 

「こんな瓦礫だって……ほらっ!!」

 

 

 両腕の手首からスパイダー・ウェブを射出して瓦礫に張り付ける。

 糸をシューターから断ち切らずにそのまま接続しておき、Mark.9のスラスターを利用してグルンと空中で回転した。

 強大な力に牽引された瓦礫は宙に浮き、そのままパワーアシストを全開にしてチタウリ達に叩きつけてやる。

 振り回された巨大な質量にチタウリ供は為す術もなく押し潰されていった。

 

 

「ハロー、善良な市民の皆さん。ここは危険だから地下鉄の通路を利用して地下に避難するよ! ほらっ、急いで!」

 

 

 近づいて来るチタウリ達を遠ざけながら、市民を地下へと誘導していく。

 恐らく、地下では既に警察官が配備されて避難誘導をしてくれている筈だ。

 その辺りは警察に任せて僕は次の場所へと向かう事にした。

 

 

「やっぱり、Mark.9だと無数の敵を相手にするのは流石に骨が折れるか」

『口惜しいですが、その通りですね……』

「よし、そろそろ選手交代しよう。でもその前に」

 

 

 先程、合流した地点から辺りを付けて少し高い場所から探すと殆ど一瞬でキャプテンとブラック・ウィドウが戦っている姿を見つける事が出来た。

 チタウリ達を忘れずに駆逐していきながら、僕はその場所を目指していく。

 

 

「これじゃキリが無いわね……あの通路を閉じないと」

「だが、どんな強力な兵器でもビクともしないぞ」

「銃じゃ駄目ね。元から断たないと」

「上に行くには乗り物がいるな」

「…………アレに乗る。敵から奪うわよ」

「本気か?!」

「ええ、楽しそう」

「それでしたら、もっと良い物がありますよ」

 

 

 グットタイミング。

 今にも飛び出しそうなブラック・ウィドウを制止するように二人の近くに着陸して更に近づいて行く。

 

 

「何なの? もっと良い物って」

「Mark.9を使ってください。これには簡易フィッティング機能を搭載されているので貴女でも問題なく装着できます。兵装の使用は個人認証が必要なのでフルオートになりますけど」

「待て倉持、そうしたら君はどうするんだ?」

「問題ありません。僕もそろそろ着替えをしようと思っていた所ですから」

 

 

 そう言いながらMark.9を脱着していき、コントロールを完全にメーティスへ譲渡する。

 身体が空気に直接触れると、今さっきまで装甲に隔てられていて無縁だった感覚だけに余計に心許ない感触だった。

 まあしかし、問題ない。

 

 

「着替えって……他にもスーツを持ち込んでいたのか」

「ええ、そう言う事です」

「どこに隠していたのか知らないけど、間に合うの?」

「大丈夫ですよ、()()にありますから」

 

 

 胸の、アークリアクターの辺りを指で軽くコンコンと小突く。

 するとまるでそれに呼応したかの様にアークリアクターが蒼く煌めき……強い光を発し始めた。

 やがて光は僕の全身を包み込み、その光が凝縮する様に収束すると装甲を形成し始める。

 時間にしてみれば僅か0.05秒程度、殆ど一瞬で装着は完了してしまう。

 

 

【Mark.Xの装着を確認。システムオールグリーン、推定稼働時間は17分だよパパ!】

「よーし、それじゃあ仕切り直しといきますか!」

 

 

 シールドエネルギーへの割り当ては控えめの4500に設定し、継戦を重視して兵装とスラスターへ重点にエネルギーを割り振る。

 アークリアクターから継続的にエネルギーが供給される通常のアイアンマンと異なり、Mark.Xはバッテリーに蓄積された分だけの使い切りだ。

 ピーキーで扱い辛い仕様ではあるが、その代償以上に火力と汎用性は非常に優れている。

 

 

「それでは、後で合流しましょう」

 

 

 ポカンと、驚きのあまりに固まったキャプテンとブラック・ウィドウを尻目に、僕は再び空へと駆け出した。


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