あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~   作:あるすとろめりあ改

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今回は短めです。


006 遥かなる空を目指すもの

「えっ、あれ……なんで君がここに?」

「それはコッチの台詞だよ、ここは私の(うち)なんだからさ」

「家……家だって?こんな地中の深くに君のお(うち)があるのかい?あー、だから性格も陰険になるんだね」

 

 

 不機嫌な顔の額には更に険しい皺が新たに刻まれた。

 小粋なジョークのつもりだったのに……どうもトニー=スタークのように上手くはいかないらしい。

 あ、いや……考えてみればトニーのジョークも全然受けてなかったな。

 

 

「…………おまえ、さっきまで何て神社にいた?」

「何て……篠ノ之神社……って、え?」

 

 

 今、僕が話しているのは篠ノ之束という少女。

 今、いや、さっきまで僕がいたのは篠ノ之神社という場所。

 さて問題です、この二つの共通点は何でしょうか?

 

 答えは簡単、どちらも枕に“篠ノ之”という名詞が付きます。

 

 

「えー、なんで気づかなかったんだろ……」

「ハッ…………マヌケだね」

「は?……何だって?」

 

 

 ほらコレだ、彼女が口を開けば売り言葉しか出てこないんだ。

 ……いや、しかし落ち着こう。

 今回ばかりは、僕が勝手に落ちてきた

不法侵入者だし……正直、帰り方が解らないんだ。

 本気で怒らせて意趣返しに監禁でもされたらシャレにもならない。

  

 

「だけど、どうやって此処まで入って来られたの?」

「どうって……変な小屋に入ってみたら床が抜けたんだ」

「有り得ないよ、ちゃんと何層にもシャッターで仕切ってあるんだから」

「そう言われたって……」

「…………上で何か独り言でも言った?」

 

 

 そう言われてみれば……言ったな。

 具体的には“遅刻しそう”とか何とか、地面が消えたのもソレを言ってからだ。

 まさか、それが扉を開けるパスワードだったのか?

 

 

「言った……ポロッと、愚痴まがいに」

「ワードは日毎に気分で変えてるのに凄い偶然だね……そこまでして私に会いたかった?」

「アハハハ、冗談……あっ、いや…………」

 

 

 いかんいかん、思わず無意識に買い言葉で応酬しようとしてたぞ…………

 何なら無視すれば良いのに、どうも彼女が関わると冷静でいられない。

 悪い癖だな……何とか治したいんだけど。

 

 

「ここの出入りは一方通行だからなぁ…………何なら、見てく?」

「ん、何を?」

「私の研究成果」

 

 

 少し頭を冷やしてから周りを見てみると、辺りには工具や何らかの電子部品と思わしき物で散乱していた。

 漂ってくる匂いも、メタルとか機械油とか塗料のそれで、落ち着く。

 その有り様が何処か自室の雰囲気と似ていて、妙な親近感まで湧いてしまう。

 成る程、言わば此処は彼女のラボなのだろう。

 

 

「良いね……お言葉に甘えても?」

 

 

 彼女の人となりを知っている…………だからこそ、なのかもしれない。

 破天荒で我が儘で傍若無人で、周りの事なんてコレっぽちも気にすることのない唯我独尊な人間だが、その頭脳は間違いなく本物で、類を見ない天才だ。

 そんな彼女が何を造ってるのか…………純粋に、興味が湧いてしまった。

 

 

「それでは改めてようこそ、私のワンダーランド(仮称)へ──」

 

 

 

 

 

「ねえ、態々(仮称)って口で言うの?」

「……うるさいよ」

 

 

 

 

 

 

 彼女に導かれるまま案内されて奥までついて行くと、そこには鎧が鎮座していた。

 

 

「これは…………」

 

 

 鈍い光沢を見せる金属の塊。

 高さは3m程で、外観は少し大きめなマニピュレーターと脚が特徴的。

 そして中心には、何かが欠けてしまっていて、満たされずにポッカリと空間が開けている。

 それほど長い時間眺めていた訳では無いが、僕は目の前に聳え立つ物の正体を察せずにはいられなかった。

 

 彼女の造っている物、それは…………

 

 

「これはパワードスーツ、かな?」

「うん、ご明察。……名前もまだ、無いんだけどね」

 

 

 言い当てられた事がそんなに嬉しいのか、彼女は手を叩きながら良い顔と声で肯定した。

 

 

「これは、動くの?」

「ううん……それはまだ外側だけ、ソフトも動力源も未完成だから」

「ふぅん、成る程成る程……ちょっと触っても?」

「ん、良いよ」

 

 

 許可を得たので腕を触れ、関節を少し曲げてみる。

 アイアンマンで想定している様なモーター駆動では無くラバーの様な素材で出来ていて、擬似的な筋繊維を構成している様だ。

 どれ程のパワーアシストがあるのかは定かでは無いが、装着者の動き易さという意味ではこちらの方に軍配が上がるだろう。

 

 

「ねえ、ちょっとコレ持ってみて」

「ん?」

 

 

 そう言って差し出してきたのは、青く輝く宝石みたいな、得体の知れない物

 何だろうと疑問を抱きながらも言葉に従って手の平に乗せてみる。

 ヒンヤリとしていて気持ちの良い感触で、握ってみると更に清涼感が広がる様な気がした。

 

 

「うーん……やっぱり数値はマイナスになるか……」

「何の話?」

 

 

 UMPCを取り出したかと思えば、何やら画面を見て落胆したような様子を見せる。

 そう言えば、僕のと同じ型の物を購入したってこの前言ってたっけ。

 

 

「コレって何なの?」

「それは……心臓部(コア)

「コア?まさか、パワードスーツの?」

「それがCPUで、動力源で、総ての根源でもあって……同じ物がこの子の中にも入ってる」

「こんな、小さな物に…………」

 

 

 5cmくらいだろうか、PCのCPUよりは大きいが、逆に言えばそれだけしか無い。

 そんな小さな石の中に、パワードスーツの要たる物が総て詰まっていると言うのだから驚きだ。

 

 どれだけのパフォーマンスを発揮するのかは定かでは無いが、彼女が造る物なのだから生半可ではないだろう。

 万能性だけで言えば、僕のアークリアクターを遥かに凌ぐと認めざるを得ない。

 

 

「でも、上手くいかないんだよね……」

「どうして?」

「この子たちの声をね、まだ上手く聞いてあげることが出来なくて、さ」

 

 

 それは、抽象的な表現に聞こえる。

 

 でも何でだろうか、言いはぐらかしている様には、見えなくて。

 少なくとも、本気でその事に悩んでいるのだけは解った。

 

 

「身体は出来ていても、心を形に出来ていないんだ……」

「……心、か」

「可笑しいって思う?機械なのに心って」

「いや、全然」

 

 

 何となく、あるSF小説を思い出した。

 そもそも生物と機械の違いって何だろうか?

 

 もしも人間と同じ材料で作ったコンピューターに人と同等の思考能力を持つAIを宿したら……それは人間か?やはり機械だろうか?

 そして、彼の中に心と呼ばれる物は存在するのだろうか?

 

 

「……嗤わないんだ」

「笑わないさ」

 

 

 笑える訳が無い。

 一体どんな物が出来上がるのだろうか。

 完成したらどんな姿を見せてくれるのだろう。

 彼女の言う心とは何なのか……興味は尽きなかった。

 

 だからそんな好奇心のせいで、聞きたくなってしまう。

 

 

「あのさ…………聞いてもいいかな」

「内容によるね」

「これにはどんな事が…………いや、君は何をしたいの?」

 

 

 覚めやらぬ興奮を、隠せてはいないだろう。

 色んな感情が、思考が、感動が込み上げてきて、頭の整理がつかない。

 

 だって、これはこんなに──────

 

 

「……この子は、自由と力をくれる」

「自由と、力……?」

「うん。地上に縛る重力から自由な空へ解放してくれて、理不尽に抗う為の力を貸してくれるんだ」

「…………」

 

 

 僕は、何と言えば良いのか解らなくて言葉が口から無くなってしまった。

 ただ……代わりに、何度も頻りに頷いてしまう。

 つまり共感というか、それに類する感情だ。

 

 

「僕も、そうなんだ」

「何が?」

「産まれた時から…………いや、産まれる前から夢見てたんだ、自由に飛び回れて困っている誰かの為に使える力が欲しいって」

「へぇ…………」

 

 

 それが、アイアンマン。

 

 鋼鉄の身体を纏って空を飛ぶ光景を夢想したのは数え切れない程。

 その熱は魂に刻まれていて、12年間で一度も冷めたことは無い。

 

 きっと、彼女がこのパワードスーツに見ている物も…………同じなんだと思う。

 少しベクトルや、高度は違うかもしれない。

 だけどそんな物は……尺度によっては些細な誤差だろう。

 

 

「でも僕の造っている物は、まだ形にもなっていない」

 

 

 だから……少し嫉妬してしまう。

 彼女の作品は、未完成とはいえ現にこうして形として存在しているのだから。

 

 

「じゃあさ…………見せてよ」

「ん?」

「私も見せたんだから、形になったら……私に見せて」

「…………ああ、勿論」

 

 

 自然に、意識せずに僕は了承していた。

 でも……彼女に見せたいと、見て貰いたい思う気持ちは確かにある。

 

 ギュッと右手の拳を握って。

 そして漸く、気付いた。

 

 

「あつ……」

 

 

 先ほど、彼女から手渡されたパワードスーツのコア。

 それを握り締めていた右手に、熱を感じた。

 最初はあんなに冷たかったのに、力を込めて握りすぎてしまっただろうか……

 なんて思いながら手の平を開いてみるが、しかし、拳の中で広がった熱とは裏腹に火傷した様子も無かった。

 

 

「どうしたの?」

「あ……いや、これを返しそびれてたな、って」

 

 

 コアを彼女に返すが、熱がる様な素振りは見えない。

 やはり、気のせいだったのだろうか?

 

 

「それじゃ、上に戻ろっか」

「あ……ああ、そうだね」 

 

 

 実は、話に熱中していて此処が地下である事を忘れていたなんて……言える筈が無かった。

 




前半と後半で態度が豹変してしまった……

次回、Mark.1始動。

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