第5話
1、ソレハ多分、有リ得チャ行ケナイ事 (前)
違和感を覚えたのはテスト二日目。
いつも通り変わらずに通学し、クラスに入ってテストの席につく。
しばらくすると武里君が入ってくる。
違和感を感じたのはその時だった。
彼を見た瞬間に危険な何かを、自分に害をなす危険な存在なんじゃないかという思考が巡った。
こんなことがおかしい事なんて、有り得ないことなんて頭ではわかっている。でも体が震える。怯える。
別段苦手な科目があるわけでもない僕だが今日1日のテスト四教科は全くと言っていいほど身が入らなかった。
彼ー武里君に生理的な恐怖と殺意が湧いた理由が全くわからないまま一日が終わってしまった。
明日はテスト三日目。恐らく身が入らないだろうと武里君の違和感を突き止めようとあまった時間を使い尾行した。
バスに乗り、街を歩き、どこを目的としているのか検討もつかないまま追い続ける。不審な点はない。
すると突然右折、この先は行き止まりの路地だったと思うが…。
路地裏に入ったところで彼が手から薄く水色に透き通った氷のようなものを手から放つところを見てしまった。
違和感は拭うことが出来ず、疑問と謎だけが深まるばかり。
見つかる前に帰ろうと僕は路地を後にした。
2、イマイチワカラナイ
テスト二日目。どうせ100点なのだが将来に響くのは面倒だし困る。
仕方なく学校へ。
どことなくいつもより静かに感じる通学路。
クラスの戸をガラガラと開ける。教室の喧騒は無くならない…が今日はいつもと何かが違う。
この感覚は恐らく昨日聞かされた『話』に由来するものだと思う。
言いようのない焦燥感と殺意の向いた方向は翔太……山口の方向だった。
まさかとは思うがあいつも資格を持っているのだろうか。
なにかに焦り怯える山口にバレないように横目で監視する。
(この反応は当たりだな。頃合いを見て……)
ただ反応に違和感を感じる。聞かされているのならここまで慌てふためくのは何かがおかしい。心の準備ができていないのだろうか?
今日のテストを難なく終わらせ、学校から少し離れた場所にある路地に向かう。
昨日与えられた能力を試し打ちするためだ。
感覚的に…
スウっと…
出た。腕から細長い氷の刃。
ギザギザとしていて切れ味に問題はなさそうだが如何せん不格好な剣。これからは自分のイメージ力と技術が物を言うだろう。
氷柱や氷刃を一通り出して練習を重ねる。何も不思議に思わないことから感覚が鈍っているのだろうか、と考えるが今は使いこなすことだけを考える。
後半は慣れてきて少し遊んでいたがこれで一通りは使えるだろう。
戦闘になってもかなり優位に立てるとみる。
時間を忘れていたせいで街は既にオレンジ色。
日が落ちる前に帰宅する……。
3、ソレハ多分、有リ得チャイケナイ事 (後)
テスト三日目。僕は昨日のことが気がかりで眠りが浅くなってしまった。
最初から身が入らないと分かっているなら手を抜こうと5分程度で終わらせ、残りは眠りについた。
何が起きている。あの氷はなんだろう。剣のような形をしていた。殺意に満ちた目をしていた。見なければよかった。なんで僕がこんなことに。誰か助けて。怖い。怖い。怖い。怖い。
眠りについてもなお落ち着くことが出来ず、魘される。
首が絞まるような苦しさを味わい続けていては眠れない。
次のテストも名前を書くだけで精一杯。こんな状況では成績なんて気にしていられるわけが無い…
「山口、顔色が悪いが体調が悪いのか?保健室に言って寝てきたらどうだ。」
青い顔をした自分に気づいた教員が言った。
「はい…そうします」
そう返事はしたものの、震えで歩くこともままならない。
見兼ねた教員が母親を呼び、僕は家に帰ることになった。
ベッドの上で布団にくるまる。寒い。
襲われたらどうしよう。殺されるかもしれない
恐怖に押しつぶされそうになりながら、昨日のことを思い出す。
(あんなの、人間ができる技じゃない。手品でもあんなこと説明がつかない…)
おそらく彼は僕を殺す。あの冷たい目を向けて僕を無慈悲に殺すのだろう。
氷の刃で首を切られる。氷の槍で体を貫かれる。氷塊に押しつぶされる。殺される想像なんていくらでも浮かぶほどに怯えきっていた。
このままでは狂ってしまうが、無力な僕にできる事なんて無い。
いつしか僕は浅い眠りについていた。
『不安ナラ殺シチャオウヨ。君ニハソノ資格ガアルンダカラ』
なんだよ。うるさい。
『心外ダナァ。僕ハオ前ニアドバイスシテヤッテルんジャナイカ。』
黙れって。僕に話しかけるな
『殺セヨ。殺シナヨ。ナイフトカ、ハサミトカ、カッターモアル。』
うるさいな。でも、そうなのかな、殺した方がいいのかな
『ソウソウ、ヤッチャイナヨ。ソレガイイヨ。誰モ責メナイヨ。』
そう……だね。不安の種は、取り除かないとね。
…………目を覚ますと先程までの苦しさは失せていた。
さっきの夢の声は誰だったのだろうか。
まぁ、そんなことはどうでもいい。気分は爽快。
時計を見ると2時を指していた
時間的にもそろそろ学校が終わった頃だろう。今から家を出れば間に合う。
そうだ、家を出る前に台所に寄ろう。母さんは夕飯の買い出しで居ないだろうから、大丈夫。
躊躇うことはもうない。家を出てバスに乗る。
しかし、探そうにも手がかりがほぼ無い。仕方なく昨日の路地へ向かう。
今日はいつもより乗客が多い。しばらく揺られていると
運がいいことに
武里君が乗り込んできた。
多くの乗客に囲まれて僕に気づいていないようだ。
深呼吸。彼は昨日と同じ停車場で降りるようだ。
路地に向かう彼に気づかれぬように追いかける。
路地に入ったところで僕は走る。
勢いをつけて、家から持ってきた包丁を彼の背中に突き立てる。
咄嗟のことに武里君は驚いていたけど僕には関係ない。
「あはは!はははは!武里君!君は終わりだよ!ははははは!」
「しょ…お…こんな…と……で」
武里君が倒れ、返り血まみれになった僕がぽつんと。
『オメデトウ!君ハ勝チ抜イタンダヨ!ア、コノ包丁記念ニ貰ッテイクネ。健闘ヲ祈ルヨ!』
今日こそケリをつけるつもりだった。山口を殺し、俺は…
だが、山口は何かに怯えたような様子だった。テストを早々に切り上げて帰ってしまった。
これでは今日はもう行動できない、練習の時間が増えたと自分に言い聞かせてテストを終わらせることにした。
残り三時間分のテストを終わらせ、ふたたび昨日の路地裏に行くことを決めた。
学校を出てバスに乗り込むと、平日の昼間だというのになかなかに人がいた。しかたなく前の方に座り、目的地を目指す。
目的地についた頃には腕時計は午後2時半を指していた。
「よし、今日は防壁…とか守りをやってみるか。」
その時だった
後ろから目の据わった山口が、包丁を持ち突進し、眼前に迫っていた。
刺されていた。深々と、深々と。
すべてが過去形として流れてしまうほどに急な出来事で、俺は能力を使う暇もなく、細々と呻くことしか出来ず『敗北』してしまった。
……あれ?僕こんな路地で何をしていたんだっけ?
テストで体調崩して…家に帰って…そこからどうしたんだっけ。
病状とかよく知らないけど夢遊病とかかなぁ?
具合が悪かったけど今はどこも悪くない。
母さんが心配する。
もう帰ろうか。
バス停に行き、バスに乗るといつも僕が見ている夕陽。
この綺麗な夕陽を楽しみにしていたはずなのに、なぜだか今日は好きになれなかった。
なんで…かなぁ。
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「ショウタすげー!」
「そうかなぁ?ユウタにもできるとおもうよ?」
「そっか!やってみるよ!」
夕暮れの砂場、1本の中くらいの木。
子供にとっては大きく感じる木。
子供達の待ち合わせ場所としてよく選ばれていたこの公園には子供を迎えに来た母親が複数人、幸せそうな笑顔で子供たちの手を引く。
二人の少年は母親が迎えに来るまで遊び続けるだろう。
「ほら、やっぱりユウタにも出来たじゃないか。ユウタは凄いよ、すぐにコツを掴んで自分のものにするなんて。」
「そ、そうかなぁ?ショウタが教えるのうまいんだろー?」
仲睦まじく木登りをする少年。
世界が、割れる。
気がつくと夕暮れの砂場は消えていた。
辺り一面真っ白な世界に切り替わり、2人の少年がぽつり。
「…そっか、僕、殺しちゃったのか」
「気にするなよ。それが俺たちの運命だったんだろ。」
「さっきね、小学生の頃の僕達を見たんだよ。とっても楽しそうで…嬉しそう…で…うぅ…」
「泣くなよ、ショウタ。これはお前から逃げた俺の責任でもあるんだ。お前が悔やむことなんてないし、これがこの戦いの趣旨、だろ?」
「…?戦…い?なんのこと…?」
「ははは。知らなかったのか。お前が知らないのならそれも運命なんだろうな。それなら俺からは何も言わない。」
ユウタは悲しそうに告げる。
「ほら、もう夕暮れだ。俺は先に行くよ。じゃあ…じゃあな…」
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寝ちゃってたのか…
幸い、寝過ごしてはいないようだ。
そろそろ停留所だ、もう帰ろう…。