灼熱地獄の中心部はチルノですら身の危険を感じるほどの寒さとなっていた。その中心に突き刺さっている一本の剣。「あれがアイスソード」とチルノは呟く。青く透き通った刀身からはすさまじいまでの冷気が放たれ、周囲の炎を強引に凍りつかせていた。
「あの下にあるの、きっとものすごく熱い炎なのに」
お空が放った核の炎は未だ凍りつくことなく剣の真下で熱を放っているようだった。しかし、その熱は一切外に漏れることなくアイスソードの魔力の前に封印されている。あれだけの力をもってしてもこのアイスソードには敵わなかったということか。
アイスソードが力を発揮するのは刃が何かに触れているときだけ。あそこから刃を抜けば、たちまち核の炎が灼熱地獄を蘇らせてくれるだろう。チルノはアイスソードに近付き、そして手をかける。
「これを引っ張ればっ」
力をこめようとしたその刹那、後ろから猛スピードでお空がやってくる。ちょっと待ってと叫ぶお空であったが、少し遅かった。アイスソードは容易に抜け落ち、そしてアイスソードが抜けた穴から一気に炎が噴き出したのだ。
「氷精のお姉さん!」
「きゃあああっ!!」
咄嗟にお空が手を伸ばす。そしてチルノを抱きかかえて一気に空高く舞い上がった。「間一髪だ」とお空はほっと一息つく。
「これで、旧地獄は元に戻るのかしら」
「お姉さんのおかげだね」とお空は嬉しそうに笑っていた。
地霊殿に戻ると先に戻っていたさとりが出迎えてくれる。さとりは大きな鞘を抱え、そしてそれをチルノに渡し「これが報酬よ」と笑顔で言った。いかにもそれらしい言い訳をして、アイスソードをチルノに押し付けたのだ。
「酷いですっ。ただのいらんもの処分じゃないですかっ」
チルノの反論に「好きで拾ったんでしょう」と答えるさとり。鞘までつけてあげるんだから文句は言わないでほしいと言わんばかりだ。なるほど嫌われ者の妖怪が住む場所を治めているだけのことはあると思いながら、チルノは諦めてアイスソードを鞘に収め、背中に背負う形で持って帰ることにする。
「お空、チルノさんを地上まで見送って差し上げなさい」
「気味が悪い言い回しをしないでください」
さとりはくすくすと笑いながら「ありがとう」と言って、屋敷に戻っていった。結局、たいした働きもないどころか曰くつきの剣を引き取っただけとなってしまった。チルノはため息ひとつつき「もう帰るよ」とすっかり落胆した様子で踵を返した。
不意に、チルノの背中から何かが落ちた。お空が「何か落ちたよ」と拾い上げる。それを受け取ると、チルノは急に笑顔になった。
それはチルノの名前が入った地霊殿ハンターギルドのギルドカード。裏面には「いつでもいらっしゃい」と書かれた付箋がくっついていた。
「素直じゃないんだから」
それを見たお空は「照れているんだよ」と言う。どうやら嫌われ者の妖怪といっても、かわいいところはあるようだ。
さとりがくれた「大きな鞘」はアイスソードの刀身が鞘に触れないような一回り大きい設計になってます。故に凍ることはないので安心。