東方狩猟日記   作:犬兎

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博麗の巫女

 フランが出発してから数時間後、紅魔館ギルドには自分が出した依頼の途中経過を確認したいと博麗霊夢がやってきていた。受付には先ほどと変わらずにパチュリーがいる。

 実は彼女が紅魔館に依頼状を送ってきた『紅霧キノコの採取』依頼は、パチュリーが受け取ってから既に数日が経過している。パチュリーとしては依頼を無視し続け、様子を見にやってきた霊夢に依頼状をそのまま突っ返すつもりでいたのだ。しかし今更、それも絶妙のタイミングでやってきた霊夢を見、「恨むわよ」とパチュリーは言う。

 

「このタイミングでやってきたのは、狙いでしょう?」

 

 その言葉に「あら心外ね」と笑顔で答える霊夢。完全に開き直っているその態度にパチュリーはため息をついた。

 

「そういうところ、母親にそっくりよ、あなた」

 

 そう言うと、パチュリーはギルド受付の机に置いてあった大きな本を開く。そしてある一ページで手を止め、とある記述のある箇所を指で示しながら霊夢に見せた。紅霧キノコに関して書かれているようだ。

 

「幻の名産品、紅霧キノコ。西の吸血鬼と名高いスカーレットの秘法である夜のエネルギーを凝縮させた『紅霧』の中で育つ特別なキノコ。毒性が非常に強く、人間どころか妖怪すらも食べることは危険である、か。―――ふぅん、食べられないのか」

 

「あの盗人にでも売りつけるのかしら? 少なくとも、あなたが求めるようなものではないと思うけど」

 

 パチュリーの問いに対して、霊夢は首を横に振った。「これは商売の道具じゃないわよ」と答え、辺りを見回す。朝に張り出された依頼状を受け取ったハンターたちは皆忙しそうに出発の準備をしていた。依頼を確保できなかった者たちは、クエストの参加依頼がないかと依頼状を持ったハンターに話しかけたり、既に諦めて集会場内の酒場で一杯始めたりしている。

 ―――今の幻想郷では、これが普通の光景なのだ。だが、こんなものが許されていいわけがない。

 

 寂しそうにあたりを見つめている霊夢を見て、パチュリーは「諦めきれないのかしら」と呟く。はっとしてパチュリーのほうに振り返る霊夢に、彼女は真剣な眼差しで言葉を続けた。

 

「仇討ちっていうのなら一人で勝手にやって一人で死になさい。そんなくだらないことに、うちのハンターを巻き込まないで」

 

 紅霧キノコの採取以来の目的は、キノコそのものなんかではないのだ。真の目的は紅霧の森の最深部まで行けるような優秀なハンターを見つけ出すこと。パチュリーの言葉に霊夢は頭に血が上ったのか、思い切り机を叩く。

 

「モンスターの幻想入りは紫すら予想できなかった。これは博麗の巫女が―――幻想郷に生きる全ての人たちが解決させなきゃならない異変なのよ」

 

「あなたのそれは、ただの個人意思でしかない。敵討ちも結構だけど自分自身の思いを幻想郷の総意であるかのようにすりかえるのはやめて頂戴」

 

 今の生活で満足している人もいる。あれから十年もたったのだ。今更昔に戻ろうなんて、そんな簡単に出来ることじゃない。パチュリーは本を閉じ「時代は変わっていくものよ」と霊夢の肩を叩く。

 

「ついこの間まで魔女が怖いってお母さんの影に隠れてばっかりだった小さな子供が、母親になったようにね」

 

 霊夢は何も言わずに肩に置かれたパチュリーの手を払う。パチュリーは微笑みながら「こういうのも親バカって言うのかしら」と呟いた。霊夢は赤面し、そっぽを向く。

 

「母親が娘には平和な幻想郷で暮らしてほしいって思っちゃ悪い?」

 

「悪くないわよ。それが母親ってもんでしょう? それに、娘がハンターになんてやっているんだもの、不安で夜も眠れないんじゃない?」

 

 霊夢は恥ずかしそうにゆっくりと頷いた。パチュリーはくすくすと笑いながら、本を棚に戻している。

 ―――どうやら私たちの巫女は、すっかりいいお母さんになってしまったみたいだ。

 

 




霊夢登場。過去作品の設定を引き継いで母親になってます。ただし今作では父親不明という設定。娘の出生自体も本来は複雑なのですが、今回はそのへんの話は省いてやる予定です。
ちなみに霊夢の母親も過去作品で設定したオリジナルのキャラです。こっちは今作でも「旧作霊夢=霊夢の母」という設定でやっていこうと思う。
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