紅霧の森。ルーミアはククリを開放した後、フランのいる場所まで引き返していた。瀕死のジンオウガとはいえ厄介な相手であることには変わりはない。フランもそれなりのダメージを受けているはずだろうと彼女の様子を観察すべく、気配を殺して戦場へと戻っていく。
しかし、そこで彼女が見た光景は自らの予想とは程遠いものであった。
「―――モンスターを、食っている・・・?」
ジンオウガの背中に取り付いた少女は硬い皮膚に牙を立て、肉を噛み千切る。血を全身に浴びながらジンオウガの抵抗など意にも返さず、一心不乱に肉を貪る。見開いた瞳には狂気が満ち溢れ、その姿は最早どちらがモンスターなのか分からない。流石のルーミアもこれには驚きを隠せなかった。彼女の力は既に妖怪やモンスターを遥かに凌駕している。それこそ、四賢者や八雲紫にすら匹敵する領域だ。
ジンオウガはようやく力尽きたのかその場に倒れて動かなくなる。フランはジンオウガの死を悟り、食べるのをやめて地面に降り立った。全身真っ赤に染まった彼女はまだ興奮冷めやらぬ状態で、ぞくぞくする全身を震わせながら肩を抱き、にやりと口元を歪ませていた。
「素敵。すごく綺麗だよ、あなた」
ジンオウガの死骸を見つめ、フランは呟く。血で真っ赤に染まったジンオウガの死骸と周囲の木々や地面、そして紅霧。何もかもが紅色に染まり、他の色など何一つない世界。その中にある、ただ一つの漆黒に気付き、フランはゆっくりと首をそちらに向けた。
「あなたは誰?」
咄嗟にルーミアは大剣を抜き、その切っ先をフランへと向けた。フランは表情ひとつ変えることなくゆっくりと体をルーミアの方へ向け、ひとつ舌なめずりをする。
「いいよ、おいで」
―――もとより戦うつもりではいた。だが、ここまで桁違いだと誰が予想しただろうか。ルーミアは「十年でこうも変わるものか」と呟き、剣を下段に構え、ゆっくりと歩み寄る。
「―――暗黒剣」
ルーミアが言葉を発した刹那、剣が暗黒に包まれる。銀色に輝いていた刀身は禍々しい闇へと変わり、次の瞬間、フランの体を両断する。だがフランは既にそこにはいない。両断したのはフランの残した残像。本物は、ルーミアの頭上にいる。
空中から叩きつけるように剣を振り下ろす。気配を察知したルーミアは真横に飛びフランの攻撃を回避すると、手から暗黒の矢を放ってけん制する。だが、そんなものはお構いなし。フランは真正面からルーミアへと突っ込み、その巨大な刃を振りかざした。
その鮮やかな軌道に息を呑む。しかし、それだけだ。剣を盾にしてフランの剣を受け止めると、刹那にフランの腹部を蹴って吹き飛ばした。
ルーミアの足元にフランが残したレーヴァテインが落ちる。少女が扱うにはあまりにも大きな大剣だ。それを彼女は片手で軽々と操っている。武器として大剣を選んだこと自体は吸血鬼の豪腕を活かしたいい判断だとは思うが、両手で扱うべき剣は両手で扱う意味がある。いくら豪腕であるとはいえ、それを片手で扱っては本来の性能を発揮させることは出来ない。現にこうして刃から手を離しているのだ。重量と切れ味に物を言わせて相手をぶった切る事ばかりに頼っており、普段から持ち手をしっかり握っていない証拠である。
―――力任せで相手をねじ伏せることだけに特化した、ただのガキだ。
先ほどまで感じていた狂気も、その正体が知れればさほど脅威でもない。四賢者に匹敵するなどと少しでも期待した自分がバカであったようだ、とルーミアは笑う。
フランはゆっくりと起き上がり、その場で待っているルーミアを見る。
―――ここまでの戦闘で自分と彼女の実力差はだいたい理解できた。力こそ自分が勝っているものの、それ以外は全てあちらのほうが遥かに上。とっさの判断力、こちらの攻撃を回避するスピード。そして剣術の腕。どれもが今の自分では到底足元にも及ばない。本来なら尻尾を巻いて逃げるべき戦いだ。
フランはそう思いながら、それでも戦うことを辞めるつもりなどこれっぽっちもなかった。なぜならジンオウガの血の香りに満ちたこの場所でただ一人、違う血の匂いをさせていたから。
それだけでもう十分に理解できていた。自分が判断を誤ったことも、ククリはもう無事ではないということも、約束を守ることができなかったということも。だからこそ今は自分を貫きたい。自らの本能はあいつを殺したいという気持ちでいっぱいだ。ククリに謝るのはあいつを八つ裂きにしてからでも遅くない。
「人の相棒に手を出しておいて、無事に帰れるなんて思わないでね」
書き溜めがないゆえ断言は出来ないが、残り五回くらいのはず・・・。
というわけで、登場人物まとめ。こういうの嫌いな人もいるけど、私は本編よりも設定を眺めるほうが好きな人間ゆえ、毎回やります。
まああれだよ、ゲーム本編よりも説明書や攻略本のほうが好きな人間なのだよ私は。
今回はギルドの受付嬢です。
●パチュリー・ノーレッジ
二つ名:『動かない受付嬢』
武器:不明
所属:紅魔館ハンターギルド、下位クエスト受付嬢
詳細情報:紅魔館ギルドの受付を務める魔女。下位クエストレベルの低難易度の依頼しか舞い込んでこない紅魔館において受付に常駐している唯一の受付嬢。もともとはハンターだったらしいが、とある事情で既に引退している。ハンター時代で培ったモンスターへの知識を活かし、現在も初心者ハンターたちの頼れるアドバイザーとして活躍している。