一気に迫り、腕に爪を立てて骨ごとそぎ落とす。そんな見え見えの大振りな一撃を紙一重で回避するのを確認すると、その一瞬で落ちていた剣を拾い上げて反撃の刃を受け止める。相手のほうがずっと立ち回りも鮮やかだ。はじめから剣は拾わせるつもりでいたのだろう。その証拠に反撃に移るまでの時間に一切の無駄がなかった。最初の攻撃を紙一重でかわしたのも、かわす余裕がなかったというわけじゃない。反撃に転じるための時間をより早くするためだ。
無理な体勢で剣を受け止めてしまったためかルーミアの力に押し返される。大きく後方に跳躍し、彼女が追撃に来ないことを確認してから額の汗を拭う。化け物か。化け物である自分がまさかそんな言葉を口にするときが来るとは。フランはルーミアの動きをじっくりと観察し、反撃のチャンスを伺っていた。
しかし、ルーミアには一切隙がない。自分がどう切りかかっていっても、自分の身が切り裂かれるイメージしか思い浮かばない。頭に血が上って冷静な考えがまとまらない今ですら彼女との実力差だけははっきりと見えている。
それに彼女が持っているあの暗黒の剣。あれはレーヴァテイン以上に鋭い切れ味を持っているようだ。既にレーヴァテインはあの剣を受け止めて傷だらけ。何度も受け続けていたら、いずれは剣が砕けてしまう。
とにかくこれ以上の長丁場は危険すぎる。フランは剣を構え直し、再度、額の汗を拭った。既に必殺の領域を超えた剣と剣のぶつかり合い。決着は一瞬で付く。だが、無策でぶつかっても彼女に勝てる道理などない。このまま反撃の糸口を見つけることが出来なければこちらの敗北は既に運命付けられている。
「来ないのか」
フランを急かすように声をかけたルーミアがあざ笑う。何もいい考えは思いつかない。だが、その刹那。フランは何かを発見した。そして、口元を緩めて「いいこと思いついた」と言う。
先に動いたのはフラン。一瞬でルーミアの背後に回りこむと、その刹那にレーヴァテインを横に振り回す。スライディングし攻撃を回避すると、真正面で刃を構えたフランを迎え撃つ。暗黒の剣が放つ力が彼女の体を吹き飛ばし、バランスを崩したところを追撃する。
空中戦。体勢で有利なルーミアが苦し紛れに放ったフランの弾幕を切り捨てて迫る。翼を広げてようやく持ち直したが、刹那にルーミアの痛烈な一撃が横っ腹を掠め、もとより血まみれの衣服をさらに血で染め上げる。しかし、それは想定内。腹を掠めた刃を腕でがっちりと押さえ込み、剣の動きを一瞬だけ封じたのだ。
「―――型破りってのはさ、あんたみたいな純粋で真っ直ぐな剣を破るためにあるんだよ」
剣を両手で持っていたため、剣の自由を奪われたら一瞬だけ隙が生じる。そして、その一瞬さえあれば必殺の領域を超えてしまった達人同士であれば決着は付いたも同然だった。
片手で持ったレーヴァテインでルーミアの首を切り落とす。だが、その刹那にフランは気付く。これは罠だ。
「それはお前にも言えることだ」
決まりのない自由な剣をより効率的に打ち破るために型が存在するのだ。それを破るために型から外れては、元より型によって打ち破られる存在であった自由な剣と同じこと。お互いに相性が悪く、それと同時に最も相性の良い相手でもある、ということだ。
ルーミアの体は既にフランより高い場所にいる。自分が首を切り落としたルーミアの『影』を地面に叩き落し、攻撃に備えて刃を構え直そうと空中姿勢を整える。だが、そんな暇さえないほどに早くルーミアの剣はフランの体を切り払った。その動きは一切の無駄なく、そして今まで以上に鋭かった。
「私の『影』との戦いは楽しめたかね?」
すれ違いざまにルーミアが言う。闇を操る彼女にとって自分の影を操ることなど造作もない。初めから手加減するつもりで彼女は自分自身の影とフランを戦わせていたのだ。落下するフランよりも早く着地し彼女の体を受け止める。ルーミアがつけた刀傷は胸から腹部にかけて、かなり深いところまで達している。とてもじゃないが助かる見込みはない。
「痛いなぁ」
刹那にルーミアの背後にフランの気配。持っていた彼女の体を盾にして背後のフランからの攻撃を受け止めると、刹那に盾にした彼女の体をもう一人に押し付けてもう一人のフランごと切り払う。
だが、それと同時に頭上から落下してくるフラン。飛び退いて回避すると続いて木の上に隠れていたフランが矢を放ち、ルーミアの腕を射抜いたのだ。
「分身が自分の専売特許だとでも思ってた? だとすれば、間違いね」
気付けば四人のフランに囲まれている。そして良く見れば先ほど切ったはずの傷を持ったフランはどこにもいない。常識など通用しないということか。刃を構え「認識を改めなおす必要があるようだ」とルーミアが言う。その言葉に四人のフランは狂気に満ちた笑みを浮かべていた。