アンチスキルから逃げて2日目。気楽な化け物ライフは快適だった。飢える事も、痛みを感じる事も無い。目の前に立ちふさがったやつは全員地に伏せた。その大半はスキルアウトばかりだったが、何人かは能力者がいた。炎、物体浮遊、念力・・・様々な能力者が挑んだが全員、佐天の前ではあまりに無力だった。佐天は一人、また一人能力者を倒すたびに恍惚の表情を浮かべる。あんなに憧れていた物が今自分の足元に転がっている。今までの自分を否定し、今の自分は能力者を超えた新たな存在だ。佐天は本気でそんな事を思っていた。
目の前で情けなく気絶している能力者のスキルアウトの顔面を蹴る。口元から僅かに血が流れるが目を覚まさない。怖くない。びくびくしていた頃が酷く滑稽に思えてくる。我慢しきれなかった笑いがこぼれる。
「私は無敵だ!誰にも負けない!あは、あははっははっはははっはははははは!!」
薄暗い路地裏で壊れた少女の笑い声だけが空しく響く。佐天は不意に笑いを止め、路地裏の一角を凝視する。そして、そこから黒ずくめの4人の男が現れる。4人とも一昔前のヒーローの様なマスクをかぶり、かなり怪しかった。
「なんですか。か弱い乙女に4人の変態が取り囲んで」
「佐天涙子くんだね」
「だったらなんですか」
「間違いない。VⅢと2号は正面から、オレと4号が援護する」
「「「オウ!」」」
二人が佐天に正面から突っ込みダブルパンチを繰り出す。それを素っ気なく腕でガードするがパンチが当たった瞬間、グチャと腕がはじけ飛ぶ音と共に上空からもう一人のライダーキックが炸裂する。腕が一瞬無くなったことでガードが遅れ、佐天の体は鎖骨から腰までバッサリと裂ける。しかし、弾けた腕も裂けた体も次の瞬間には元通りに再生する。
「そんな攻撃で・・・
そう言いかけた時に後ろから羽交い絞めにされる。なんとかそこから抜け出そうと、羽交い絞めにしている男の腕や体、足を切り刻むがまるでダメージを受けていないように締め付ける手に力が籠る。
「私と同じ再生能力を!?まさか、アンタら」
「もう遅い!センチネル!トリプルキック!」
佐天を捕まえた男諸共に三人のキックが佐天を貫通する。一度、苦悶の声を佐天が上げるとそのまま地面に倒れ、気絶した。それを見届けた3人がそれぞれ佐天と犠牲になってくれた4号の元へ走り寄り付けていたマスクを取り、2人に肩を貸す。
「すまない4号。また君を囮にしてしまった」
「気にしないでくれ。この不死身の体はこれだけの専売特許なんだ。この体が有効に使われて俺は嬉しいぜ」
「ああ、しかし、この佐天という子は本当に末恐ろしい子供だ。ふらんさんに改造を繰り返し受けた俺達が4人そろっても無力化させる事しか出来ないとは」
「しかし、この子にふらんさんが付けたセーフティ―が無ければ倒れていたのは俺達だろうな」
「ああ。まさか最強のセンチネルである俺とパワータイプの2号のダブルパンチを食らってもケロッとしていたのは冷や汗ものだったぜ」
「さあ、早くふらんさんの所へ運ぼう。目が覚めればまた戦うことになってしまう」
佐天を運ぶ4人ヒーローの額には球の様な汗が流れさきほどの短い戦闘が如何に生死の狭間を行き来した闘いだったかを如実に露わしていた。
彼らはセンチネル。悪の組織、ブラックロータスを滅ぼすために日夜闘いに身を投じるヒーローである。
「・・・・・ぁ?」
目が覚めた時、真っ先に目に入り込んできたのは宙吊りにされ内臓の一部が露出し空中をぷらぷらしていた人の姿だった。
「あ!?目が覚めましたか。どうですご気分は、少々荒事をしてしまいましたけどどこか不調な所は?」
「ふらんさん?」
隣ではどこかの誰かが書いた医学書を読みふけっていたふらんが医学書を投げ捨てふらんがすり寄ってきた。
「あの?一体?誰がぶら下がってるんです」
「あぁ!?あれはヴェロニカですね。私が佐天さんの捜索をお願いしたのに、どこかのうに頭の少年と戯れていたから少々お仕置きをしました。それがどうしたんです」
「・・・いや。なんでもありません」
そう言って佐天は身を起こす。佐天はふらんの宿泊するホテルの一室の備え付けベットに寝かされていた。最後の記憶を呼び起こそうとした時に、部屋の扉が開かれそこから4人の男が入ってくる。まさしく、佐天と戦った4人のマスクマンだった。佐天は急いでベットから離れ4人敵意をむき出しにするが4人は戦う気などさらさらないように、買ってきたドリンクや弁当を食べる。そこで佐天の腹の虫が鳴く。空腹感など感じないが、まだ人間の名残が残っているようだ。佐天が腹をならすと目の前に弁当が幾つが出される。佐天が出された弁当を見ると、一人の男が笑いながら言う。
「心配することないよ。毒なんて入ってない。ほら」
そう言って右手にピーナッツ型のタンクの様な物を付けている青年が左手で出された弁当のおかずを一口つまみ口に運ぶ。佐天はどこか信用できないようだったが、弁当をかきこむ。かすかに味がしたが、それよりも空っぽの胃袋に物が入っていく、満腹感とはこれほども幸せに感じるものだったのか。普段の生活では絶対に味わえない幸福感に身を震わせる。すぐに弁当を空にし、渡されたお茶で喉を潤す。何気ない普通のお茶だったが妙に美味しかった。全て終わった所を見計らってふらんが話をする。
「え~、それでは佐天さん。どうですか?新しい体は」
「・・そう、ですね。素晴らしいと思います」
「いや~、佐天さんがアンチスキルを振り切って逃げた事を聞いた時はもしかしたら嫌だったのかな?と思ってましたが、本人が気に入っているのならよかったです」
「はい」
話はそれだけで終わると思っていた。しかし、今まで弁当を食べていた4人が佐天の話に割って入ってくる。
「佐天、君はもしかして無理をしてないか」
茶髪の青年が佐天に問いかける。
「俺は風切っていうんだ。俺は復讐の為にふらんさんに改造を頼んだが、いまではこうして正義の為にこの力を使っている。佐天。君はどうして、その力を使うんだ」
「わ、私は・・・その、今まで私たちを見下していた、能力者に復讐を・・・」
「本心じゃないね。君の言葉には説得力がまるでない。正直に話してくれ、同じ改造人間同士僕たちは君の力になりたいと思っている」
ロン毛の男が真剣な眼差しで佐天を見つめる。しかし、佐天にはさして理由など見当たらなかった。敵がいたから倒した。それだけの感想なのだから。どうして、戦ったのかなど考えた事など無かった。
「佐天ちゃん、君は突然その力を手に入れてしまったようだけどそんな理不尽に会っているのは君だけじゃない。俺もだ」
そういって右手にタンクを付けた男が右手をさすりながら佐天に言った。
「僕もある日突然この右手を授かった。最初は苦悩したさ。僕の体は基本的には常人と変わらない、痛みもある。でも、この右手の所為ですぐに再生してしまう。辛かったさ、風切さんに見込まれて正義の味方をしていたけど止めたくなったことは両手じゃ足りない」
「でも、僕は風切さんや1号さんや2号さんと一緒に世界の為に戦っている。要はなにか目的を見つける事だよ。でも、人類の抹殺なんて目的にしちゃったら戦わなくちゃいけないなぁ」
軽い冗談交じりに4号さんは言ったが佐天には重大な意味があった。目的。自分の力で何をしたいのか。佐天の脳にとりとめのない、言葉が流れていく。逮捕される直前の初春の涙。それを突き離してしまった自分。情けないのは自分だった。
「・・・私、初春に謝らなきゃ。あ、あんなに酷い事、しちゃった。うわああああああんん、あああああああああああんんんんん!」
ホテルの一室に少女の嗚咽がこだまする。誰一人佐天をさげすむ者も、憐れむ者もいなかった。力を手に入れる前の満ち足りた普通の生活。目の前の少女には、まだそこに戻れる可能性がある。正義の味方であるセンチネルはその可能性に全力で取り組む必要があった。しかし、彼らに出来る事など無い。彼らの力は、壊すだけの力だ。だから彼らにはこれしか出来ない。
「「「「ふらんさん」」」」
「っえ?」
「佐天をどうか普通の生活に戻してくれませんか」
「金なら俺が払います。どうか彼女に友達を友達と会わせてくれ」
大の大人4人が揃ってつぎはぎだらけの少女の前で土下座。これには冷静沈着なふらんも面食らって冷静に対応できない。
「ふらん!どうにかできないの!」
宙吊りのヴェロニカまでもが頼み込む。さすがにふらんもこうなれば応じるしか無く。学園都市に顔のきく医師や学会の重鎮に連絡を取り、佐天がらみの事件や指名手配の解除に尽力した。ふらんの身を粉にせんばかりの努力の末に佐天の指名手配は消えてなくなり、佐天は再び試験を受ければ学校に入学出来るようになった。
そして、佐天の学力試験の当日。佐天は久しぶりに自分の家に帰っていた。この時間は初春はジャッチメントの仕事で居ない。ぼろぼろになった制服を脱ぎ棄て、予備として仕舞っていた制服を引っ張り出しそれを着る。かび臭かった。
部屋を出てこれから会場に行こうとした時に部屋のある建物の前にバイクが止まる。そこからセンチネルの4人がバイクから降りて佐天に手を振る。彼らは正義の味方。今日もどこかで正義の為にその力を使うのだろう。お返しに手を振り返し、佐天は自分に気合を入れ直し会場への道を進んでいく。
各話の和訳
1話 不幸に会う
2話 サイボーグ
3話 怪物の証明
4話 正義の使者