試験自体は何ら問題なく進んだ。しかし、今現在佐天はかつてない程に追い詰められている。今は面接試験中。本来なら2,3人の試験官が佐天に質疑応答をするのだが、急な試験で試験官の足並みがそろわず1人の試験官が佐天に質問をしているのだが・・・
「じゃぁ、お前の初体験はいつだ」
「・・えぇ~。いくらなんでもそれは試験から離れすぎじゃないですか、ガブリールさん」
珍しくスーツを着たガブリールが椅子に腰かけ、テーブルに足を乗せながら下品な笑い声を上げながら佐天に試験とは何ら関係ない質問を繰り返す。
「なんでガブリールさんが教師としているんですか?」
面接室を開けて入ってきた佐天がガブリールを見るなりそう言ったがガブリールは佐天を睨みながら。
「てめえの知らん所で世界はいつも動いてんだ。要は何の疑問も持たずにオレの質問に答えりゃいいんだよ。早く座れクソ○ンコ」
と、ガブリールが言ったので佐天はガブリールに追求できずにいたが。さっきから学校と関係ない質問ばかりで正直うんざりしている。
「さあ、これで最後の質問だ。これでようやくオレもこんなクソ面倒くせえ所からおさらばできる」
そういってガブリールはテーブルから足をどかし佐天を見て最後の質問をする。
「右にてめえの親友が強姦魔に殺されようとしている。左にはてめえの両親が強盗に殺されようとしている。助ける事が出来るのはどっちか一方だ。てめえならどっちを救ってどっちを殺す?」
考えは一瞬で袋小路に入る。正直、どっちも助けたい。親友も親も殺すなんてこと出来ない。だが、考えがどんどんクリアーになっていく。人間の限界を超え改造された佐天の脳が答えを導き出す。
「私は・・・どっちも助けます。初春を襲っている奴を1秒で、面食らってる強盗犯を2秒で殺します」
「・・・・・キヒヒ!合格だ。その通り、俺達は人間なんか目じゃねえ程強い。1秒で殺すなんて人間じゃ出来ねえ芸当だ。でも、俺たちなら出来る。そんな事が!」
「ようやくお前の頭のネジが良い具合にぶっ飛んできたじゃねえか。お前も立派な化け物だ。オレが保証するぜ。帰んな」
椅子から立ち上がり扉へと向かう佐天。扉を開け、最後にガブリールの方を振り返る。
「意外とガブリールさんって優しいですね」
「コロスゾ」
「すいませんでした」
本気の殺気を向けられ佐天はそそくさと部屋を後にする。間もなく胸元を強引に引き裂いたスーツを着たガブリールの出ていき、その服装を見て強姦にあったと勘違いされるのはまた別の話だ。
試験から一週間。ようやく手続きやらなんやらが終り佐天の登校日当日となった。ふらんのホテルから学校に行く。今までふらんの世話になっていたが、これからはいつもどうり初春と一緒に暮らす事になる。嬉しさよりも不安が募る。もし自分の体で初春を傷つけたら。初春に嫌われたら。そう思うとどうしようもない不安で胸が苦しくなる、気がする。味覚も痛覚も無くなったのに、人から嫌われるのは嫌い。面倒な自分だと、自分で結論づける。自分の少し後ろをふらんさんとヴェロニカちゃんがついてくる。少し前に言ったように二人も自分の中学に編入される。社会勉強なんだとか。そんな必要なんてないだろうにと思いながら見慣れた通学路を通っていく。編入生扱いだから、教室よりも先に職員室に通される。私の事をよく気遣ってくれた先生が難しそうな顔をして、私に挨拶してくれる。ここにはもう自分の知っている世界は無いんだと気付いた瞬間だった。
「ええ、今日から転入生が3人と新しい先生が来るから紹介しようと思う。佐天涙子さんと斑木ふらんさんと妹のヴェロニカさん、それと新しい先生の斑木ガブリール先生だ。佐天の事は知ってると思うが、先日流れた報道は誤報と決まった。それに斑木さん達は少々複雑な家族関係だから、仲よくしてくれ」
これから増えるトラブルに胃を痛めながら担任は4人を教室に招き入れる。そして、自己紹介が始まった。
「ガブリールだ。オレが何かしてる時に邪魔すると、ぶち殺す」
「斑木ふらんです。皆さんと早く仲よくしたいと思ってます」
「妹のヴェロニカ。短い間だけど、よろしく」
「え、え~と。やっほー!皆憶えてる?佐天涙子だよ。よろしくね」
外した。教室の空気が一気に重たくなる。初春の席で初春はハンカチで目元を押さえている。また泣かしてしまった。キング・ザ・100トンの様に思い空気の中、佐天は新しく用意された壁際の自分の席に座る。多少の席替えが行われており、まるで狙ったかのように上下右をふらんさん、ヴェロニカちゃん、初春で固められる。これはもうにが笑いをするしかなかった。右の席の初春が何か言いたそうに一瞬、息を飲むが結局それを飲み込んでしまう。それを察し佐天は、初春を放課後遊びに誘う。気まずくなるのは承知の上での事だった。一発殴られるのは覚悟しようと、佐天は思う。
そして放課後。妙に大人しい初春の手を握って佐天は街中を歩いていく。とりあえず公園で二人の友達を待つ。待ち合わせ時間に行くと既に公園には2人の姿があった。
学園都市第3位、レールガン、御坂美琴とジャッチメント、レベル4テレポーター、白井黒子の二人だ。いつ思っても自分にはなんら接点がない人たちだがそれを言うと皆烈火のごとく怒りだす。レベルなんて関係ないなんて言い出す始末だ。本当に温室で育ってきたお嬢様達だ。精いっぱいの笑顔を振りまきながら、二人に手を振る。二人とも驚いた顔で私を見る。そして、初春と一緒に二人の前に立つと、早速御坂さんの拳が飛んできた。避ける事も出来たがあえてそれを顔面に食らう。鼻の軟骨が砕ける音がする。本気のパンチだ。初春の手を握ったまま私は尻もちをつく。ここまで本気で人を殴るなんて。少しだけイラっとした。初春が急に痛いと言いだし私は手を離す。私の手の形に鬱血し赤くなった初春の手だった。それを見て思ったことは、心配じゃなく、落胆だった。人間なんてこんなに脆かったのか、あれだけ情報処理の能力があった初春の手はこんなにも脆いものだったのか。そう思う自分にも、落胆しながら私はお尻の砂を払ってへらへらとした笑い顔で二人の前に立ちあがる。今度は背中からのドロップキックだ。私は前のめりで御坂さんの前に無様に這いつくばる。今のは白井さんだ。テレポートで後ろに飛んでからのドロップキック。白井さんの十八番だ。これも本気の蹴り、背中の骨にいくつかヒビが入った気がする。もし私が人間のままだったら、この人たちはどうしただろうかと思いながらまた笑いながら立ちあがる。二人の顔は明らかに怯えに満ちていた。
「佐天さん、大丈夫なの。鼻、一杯血が出てる」
「ごめんなさいまし。私も少し血が頭に昇ってました」
「へ~?能力者なら私の鼻折っても、骨にヒビ入れてもそうやって謝れば大丈夫だと思ってるんですね。二人とも」
見る見るうちに傷が修復する。本気になれば、こんなに時間がかかることは無いが出来うる限りこの様子を初春達に見せつける。貴方達の友人が化け物になって帰ってきたら、どういう反応するだろうかという好奇心からの行動だ。
「わ、私はそんなつもりで言ったんじゃ。ごめんなさい佐天さん、また無神経な事言って」
「佐天さん、あなたどうしたのですか。ヒーリング能力がある訳でもありませんですし」
「さ、佐天さん。私は佐天さんの事、信じてます。私たちをからかってるんですよね。そうですよね」
申し分ない3人の表情だ。しかし、さっきの言葉はからかいの意味のあったが半分本気で言っている。御坂さん、あなたはそうやって自分に非があると思ったらすぐにそう何度も謝ってきますね。正直鬱陶しいです。あなたの自分勝手の行動で何度学園都市の機能ストップさせるんですか?白井さんも仕事熱心で正義漢ぶるのは良いんですけど、そうやって自分だけ賢い事して私を心配するふりなんて最低です。初春は私の為に涙を流してくれたけど、さっきみたいに私を疑うなんて酷いな。
負の感情が募っていく。元々すむ世界が違う人たちだ、私がいなくなっても2,3日でケロッと忘れてしまうだろう。所詮、私なんてそんなもんだ。無能力者のか弱い女。少しだけ口が回る、鬱陶しい奴だ。少し前までは。
「ごめんね。初春、御坂さん、白井さん。私、友達やめるから。二度と目の前に現れないで」
「どうして!そんな事言うんですか!佐天さん、私は佐天さんの事ずっと心配してたんです。御坂さんや白井さんもクラスの人たちも心配してたんですよ!」
「フフフ、初春~。私はレベル0で初春や御坂さんは能力者だよ。存在自体が私にとって毒なの。アンタらの全部が羨ましい。私にない物ばかり持ってる。そりゃレベル0は全員欠陥品だなんて思わないけど、私は欠陥品だよね。特に特筆する物なんて無いし」
「そんな、佐天さんは欠陥品なんか・・・
「初春~。それは持ってる人が言える事だよ、ね、御坂さん」
「佐天さん、あなたそこまであたし達が憎かったの?」
「レベルアッパー事件の時なんかはそんな事ありませんでしたけど、それから自分に出来ることをやってみようと思ったらより差が開いたからね。結局、世の中持ってる人とそうじゃない人で出来てるのよ。あなた達が持ってる人で、私がそうじゃない人、分かった?」
「でも、それも今日でおしまい。私、人間なんて止めたから。私はあなたがたが理解できない。反対もそう。理解されないなら、前提からぶっ壊せばいい。人間やめたのも、自分の所為だから、私は私を縛っている人達を突き離す。それで古い佐天涙子は消える。それじゃ、あとは3人で楽しんでね」
そう言い放って私は公園を立ち去る。これで私は完全にふっ切れた、かすかに残っていた人間の残照を消し去った。私はガブリールさんやフランさんヴェロニカちゃんと同じ怪物になれた。なんでも中途半端は理解されない、だから私は怪物になった。新しい私の誕生だ!
5話 あなたは私を理解しない