第7の特異点。
其処には大いなる母神が慟哭していた。
藤丸立香は前回に続き今回も大怪獣祭りだと現実逃避をしたくなっている所だった。
だが、初代山の翁という極上の戦力を得て、大いなる母神ティアマトを倒しうるところまで来ていた。
だが、最後の最後でまたしてもゲーティアによる介入が起こった。
ティアマトに大怪獣カリバーンの因子を混入させた。
ゲーティア曰く、正当な神と外なる神の両方が備わり最強に見えるという事だった。
まさかの神×神。
死を付加されて死に得る身となったはずの女神は、再び死から外れた存在に戻り羽ばたいた。
ここに第6特異点の時のように、グランドサーヴァントとしてのアルトリアがいれば事体は好転したかもしれない。
だが、単純な総合戦闘力では匹敵するはずの山の翁では、相性が悪かった。いや、悪すぎたと言っていい。
怪獣を倒し得るのは正義のヒーロー。
其処には希望が満ち溢れている。言いかえれば希望こそが
だが、初代山の翁の在り方は、他者から見ればどちらかと言えば希望からは離れている。
故に、絶望の宇宙の化身には存在自体として有効では無かった。
恐ろしい事にティアマト=カリバーンは泥を産むのではなく、泥そのものになっていた。
それは『自存する根源』にも似た存在であった。
只々広がり呑み込む。大地を海を空を呪い穢し犯す。
それは邪悪な愛だった。それは強欲な愛だった。それは純粋な愛だった。
人々を救う為、藤丸立香は数段階に分け人々を非難させる計画を実行した。
その中でもモードレッドが最後の避難隊を逃がす
最初の避難隊で逃がしたのは子供達や女性。特に女性の中でも小さな子供を持つ母親や妊婦が選ばれた。
最後の隊であるモードレッドが逃がす人々は、ギリギリまで殿として残っていた屈曲な男達だった。
只避難するだけでなく、広がる泥の中から湧く様に顕れる触手生物を足止めしながらの防衛後退だった。
その中に、幼い少女がいた。
将来さぞや美しくなるだろうと思われる千年に一人の美少女は其処には似つかわしく無かった。
か弱い少女が第一便で脱出していなかった事にモードレッドは歯噛みした。
今から一人を急いで第一陣の所まで届ける余裕も、彼女を護る余裕も無い、と。
だが、そう思い悩みながらも「足手纏いだけど護ってやるよ」と口の悪さはあるものの、
少女を護らんと決意するモードレッドの頭を、少女は慈しむように優しく撫でて笑った。
「きっと助かりますから」
その言葉に主語も目的語も無かった。
故に、モードレッドは自分が勘違いしている事に気が付かなかった。
「シュブ=ニグラス……ウボ=サスラ……どうして…ですか?」
モードレッドに追随するワイス・ホワイトと名乗る少女は時折モードレッドの耳に聞き覚えの無い言葉を羅列していたが、
モードレッドは自分が知らない事を知っている程度の少し教養の高い、よその国の御嬢さんだと判断する事にした。
ティアマト=カリバーンが生み出した触手生物は触れた者の内側と外側を反転させたまま生存させ、
しかもその意志はティアマト=カリバーンが支配する上に、
被害者は時間経過と共に蚯蚓の怪物に成り果てるという悪質なものだった。
そして蚯蚓の怪物は人を喰って成長すると、泥の中から伸び出でる触手に掴まれて貪り食われるという仕様だった。
ワイスは見た目はか弱い少女だった。
だから屈強な男達は誰もが彼女を護ろうと思った。そして彼ら全てと彼女をモードレッドは護ろうとしていた。
そこには命の危機の中でさえ、否、命の危機の中だからこそ謳われる人間讃歌があった。
だが、この最後尾の避難隊は真の意味で避難する事は無い。
他の避難隊とは明らかに避難速度が異なるこの最後尾の隊は『餌』だった。
ティアマト=カリバーンはその
故にウルクから引き離して、誘導してブリテンになる地域に連れて行きそこに封印をかける。
既に各地域の英雄たちがその場所へ向かい、最終決戦の準備をして待ち構えようとしている。
最適な封印具はカリバーンだがそれは存在し無い故に、その『原典』で代用とする。
5000kmを超える大行軍。途中で倒れたものは泥に呑まれていく。
だから『餌』の役割を交代するように、その土地に住む勇気あるもの達が最後尾を代わっていった。
その死の行軍に似つかわしくない少女は、サーヴァントの身であるモードレッドと共に、
気が付けば古参となっていた。
「ワイス、お前凄いんだな。」
「敢えて言うのであれば湯浴みが出来ないのが辛いです」
何時の間にか、二人はそんな軽口を言い合える中になっていた。
因みにワイスは軽口のつもりでは無かったのだが。
世の中には同性に対して、同じ洗体剤で同じ匂いに染めたいと言う淑女も一定数存在する。
また、彼女達は夢についても語り合っていた。
「オレは父上の様に王になりたかった」
そう話すモードレッドを優しく撫でるワイスに、モードレッドは自分より幼い少女に何処か母性に似たものを感じていた。
在る時、モードレッドは「てけり…り」と鳴く機動性の高い新型触手生物を大量投入してきたティアマト=カリバーンに後手に回り、
対処に追われていた。
その生物は、高い耐久力と膂力を兼ね備えており、その結果、モードレッドは泥の中に叩き落された。
泥に首まで沈みながらもう終わりかと思ったモードレッドに差し延ばされる手があった。
ワイスは自分が膝まで泥に浸かる事を意に介さずモードレッドを
それは泥の中から時折表れて、産み出した落とし仔達を捕食する触手に酷似していた。
「……お前は」
「…私は―――化け物」
モードレッドの言葉に端的に答えると、ワイスはモードレッドを抱きしめた。
ワイスはモードレッドの首筋に押し当てる様に接吻した。
其れと同時に汚染を進行させていた泥が一気に周囲に散った。
その様子を殿の仲間達も見ていた。
「…貴方達が想像した通り。私は否定する根拠は持っていない」
沈黙が場に広がった。
だが、それを勝気な少女の声が断ち切った。
「そんなこと知るかよ。おい、ワイス、お前達何時までもボーっとしてんじゃねえぞっ!!」
「…ああ、そうだな」
「ああ、そうだ。ボケッとしてたら死んでしまうぞ」
周囲の者達もそうやって同調した。
命を預け合った仲間の絆は、決して
遂にフランスを横断し、後は船で海を渡るだけだった。
だが、そこで事態が悪化した。
そこにある筈の無い大陸が海中から浮上した。
その名は――――――――――――――――深怪大陸ルルイエ
とある書物に記された狂気の大陸であり、その浮上と共に世界終焉が始まるという。
後少しという所でその希望が潰えようとしていた。
「ああ
狂気と正気の狭間にありながら、それでいて正義を奔る者、
フランスの大貴族にして大総帥ジル・ド・レェ。
ティアマト=カリバーンが『世界全ての悪』を引き受けた為に、
狂気を孕みつつも正義の側に立った彼は、別の世界の記憶を引き継いでいた。
「私は貴方に祈らない。私が祈る相手は、――――――――人々の意志だ。
魔導書よ、契約の元ジル・ド・レェが命ず。
邪悪な大陸を消し去りたまえっ!!」
その正義の意志は邪悪を制御し、邪悪のまま正義を為す英雄へと彼は為った。
魔導書『ルルイエ異本』とコネクト。
そして本契約を執行。
其れは踏み外した外道にして、正当なる正道を往く者。
ルルイエ異本が独りでに開きだし、そのページが舞う。
そしてその紙編に囲まれた彼は静かに一言、力ある言の葉を宣誓した。
「変身」
それは兵士だった。それは闘士だった。それは戦士だった。
どこか魚介を連想させるフォルムでありながら、確かに人間である姿。
其れは――――――
ルルイエ異本の記述には、その大陸を再び沈下させる記述が載っている。
それを書と一体化した事で読まずとも本能的に理解しえる状態になったジル・ド・レェは、
2つある対処法の一つを狙って、ルルイエの中央にある管制機能を持つ怪物を倒しに駆けだした。
ルルイエに存在していて、
祈りながら歩いて道を塞ぐ、エラの張った魚人ともいうべき異形の怪人どもを背中から磯巾着の様な触手を展開し、
薙ぎ払い、拘束に使い、そして剣を腰から抜き、踵に取り付けて豪快に敵を切り裂いた。
祈りを紡ぐ魚人たちが数を減らしたことで、大陸は少しだけ沈んだ。
それを見たモードレッド達も、魚人たちを倒す事で少しでも沈む速度を上げようと協力した。
だが、そうしている間にルルイエがある場所にも泥は近付いてきた。
このままだと泥がルルイエに辿り着く。
其れは何処か本能的に危険な事だと、何故か誰もが理解できていた。
「時間が無い」
ジル・ド・レェがそう呟く。
「じゃあどうするんだよっ!!」
そう返すモードレッドに対して、ジル・ド・レェは行動で示す事にした。
それは――――――――祈りだった。
「ふんぐるぅい・ふたぐん ふんぐるいふぐるぅぅなう」
その祈りは魚人たちと同じようなものだった。
いや、完全に一致していた。
そしてその言葉と同時にジル・ド・レェの背中の触手が周囲の魚人たちに一声に突き刺さった。
「「「「「「ふんぐるぅい・ふたぐん ふんぐるいふぐるぅぅなう」」」」」」
その触手がリンクを取って同期するように、魚人たちとジル・ド・レェは一斉に呪われた祝詞をあげた。
その言葉に合わせて島が徐々に沈んでいく。
これはもう一つの対処法。大陸の住人と成り果てて狂気に染まり、狂気を染める。
最早既にジル・ド・レェの正気はゼロだった。
だが、それでも彼は彼なりの正義の執行を追求した。
復権したフランス王家が邪魔になった大貴族ジル・ド・レェの処分と財産の応酬を目的として、
ジャンヌ・ダルクにそうしたように、汚名を被せたままでその死を案に望んでいた。
実際のそうしたかどうかは定かでは無いものの、その負の側面として『青髭』の伝承は残された。
その子供達を犠牲にした『悪』の反転した正義である彼は、子供たちのヒーローを目指す存在理由を負っていた。
だが、そんな綺麗な正義など烏滸がましい。
悪は反転しようと『悪』。そう結論付けたジル・ド・レェは自ら正義であれる救済を放棄した。
即ち、自身をルルイエの管制機能を持つ怪物として認識させて大陸を己ごと沈める。
其れが結論だった。
彼の決断を見たモードレッドやワイスたちは、その犠牲を踏み越えて、止まらず馴染みの深い島に進み、辿り着いた。
いずれアーサー王と円卓を産む筈のその島に、今は未だその馴染みの人間はモードレッドだけであった。
ワイスは辿り着いた彼女達を労う藤丸立香に在る事を提案した。
それは――――――――『封印剣カリバーン』の制作。
それは正しく立香たちが探している封印法の中で最適のものだった。
ワイスは命じた。この島に集まった者。この島に元より住む者。
生まれたばかりの赤ん坊を含め、それら全てに勝利を祈らせながら一打ちずつ剣を鍛えさせる事。
何故か詳細に明かされた大怪獣カリバーンの反転情報を、極めて細かく剣の柄に刻む事。
ワイスの血と髪の毛をぶんだんに材料に使う事。
モードレッドの血液も利用する事。
それらの条件を満たして『封印剣カリバーン』は完成した。
それをワイスはモードレッドに持たせると、泥が迫ってくる方向に向かって叫んだ。
「私は此処にいる」
それはかつてと同じ言葉だった。
その声に引き寄せられるように、ティアマト=カリバーンの本体が泥を固める様に顕れた。
それを確認するなり、魂が崩壊する速度でワイスは力を循環させて、そのジャイロ効果で世界の流れから自身を置き去りにする。
更に、自身の情報を『星の■■■者』と検閲修正をかけると同時に、
かつて与えたものから受け取る様に、アーサー王の名前と己を無理矢理繋ぐ。
ティアマト=カリバーンに飛び掛かるワイスの手には一振りの剣があった。
「FIRST」
その言葉と共に黄金の剣は敵を切り裂いては光の粒子となって消えた。
「SECOND」
それは肉厚の剣だった。その剣は敵を切り裂いては光の粒子となって消えた。
「THIRD」
それは細身の剣だった。その剣は敵を切り裂いては光の粒子となって消えた。
「FOURTH」
それは籠手の様な剣だった。その剣は敵を切り裂いては光の粒子となって消えた。
「FIFTH」
それはシンプルな剣だった。その剣は敵を切り裂いては光の粒子となって消えた。
「SIXTH」
それは槍の様な剣だった。その剣は敵を切り裂いては光の粒子となって消えた。
「SEVENTH」
それは美しい剣だった。その剣は敵を切り裂いては光の粒子となって消えた。
「EIGHTTH」
それは盾の様な剣だった。その剣は敵を切り裂いては光の粒子となって消えた。
「NINTH」
それは豪華な剣だった。その剣は敵を切り裂いては光の粒子となって消えた。
「TENTH」
其れは無骨な剣だった。その剣は敵を切り裂いては光の粒子となって消えた。
「ELEVENTH」
それは毒のある剣だった。その剣は敵を切り裂いては光の粒子となって消えた。
「TWELFTH」
それは矢の様な剣だった。その剣は敵を切り裂いては光の粒子となって消えた。
「THIRTEENTH」
それは正しい剣だった。その剣は敵を切り裂いては光の粒子となって消えた。
「LAST 」
それは、剣の様な魔法だった。その魔法は敵を自身と共に拘束させた。
モードレッドは手に持つ『封印剣カリバーン』が震えているのを感じた。
放って置けば、ひとりでに飛び出してワイスと大怪獣ティアマト=カリバーンを突き刺して封印する事が直感的にわかった。
そしてワイスの犠牲は必要不可欠である事も。
ワイスの方を見ればどこか懐かしい笑みでモードレッドの存在そのものを肯定するように優しく頷いた。
だが、だからこそ、モードレッドは大怪獣ティアマト=カリバーンへの反逆の意志を込めて、
ワイスごと『封印剣カリバーン』で貫いた。
ワイスとティアマト=カリバーンは混じり合い、そして二つに分かれた。
大母神ティアマトと大怪獣カリバーンとして。
そしてそのままそれぞれは眠りについた。深い深い眠りへと。
それは安らかで、しかし永劫にして永劫とは呼べない眠りであった。
だが、その上で敢えて言おう。危機は去った、と。
かくして物語は一つの幕を閉じ、旧き時代の支配者たちは微睡の世界へと向かい、
儚い覚醒の世界を生きる生者たちは、最後の決着へと向かうのであった。