私の日常は、アルトリアの近くで一日を只過ごすだけである。
ヒト型の身体になっても変わらないありとあらゆる鉱物を触れるだけで切断――厳密には粉砕して大地を耕したり、
木々を薙ぎ払い開墾する事もできるが、やりすぎてしまうと、また世界に目を付けられるだろう。
あれ以降、不思議と私には世界は干渉してこなくなった。他にやるべきことが出来たのかどうかは解らないが、
私にとっては良かった事だと言えよう。
それは置いておくが、私がヒト型になった事で面倒な事も幾つかある。
二足歩行の毛無し猿……もとい、鬱陶しい雄性の人間が子孫を遺す生殖行動を目的とするであろうアプローチをかけてくることだった。
そしてその中でも余計な蟲の視線が鬱陶しい。
幻惑の世界に生きる下等な蟲の分際で、私を同類扱いして接触されるのは不快だ。
ヒト型をした人外というだけの括りだ。それなら私は二足歩行の毛無し猿を全て同類だと認識しても良い事になる。
『オヒメサマ』の血筋は特別な事を私が独自に理解している為、それはあり得ないが。
この身は彼女の一部を模したもの。それを他者に触れさせるつもりはない。はなはだしく不快だ。
それを許すのはこの時代においてはアルトリア只一人。
我が愛しき仔だ。
そう大きくは無い哺乳生物の象徴で抱きしめてやることを癒しだと認識できる程度には愛おしい。
それにしても、あの蟲は最初は私を存分に警戒していた。
私を排するべきだとアルトリアに吹き込んでいたぐらいだ。
彼女の血を引く者に滅されることは良い。それは運命だと認めよう。
だが、その意志を他者が弄んだ結果だというのならそれは許可に値しない。
私はアルトリアがあの蟲を敵に回すのなら、私は喜んで力を振るおう。
分解・殴打・情報改変・圧縮変質――どの方法でも良い。
鬱陶しい蟲を排除できるのなら私はアルトリアに嫌われるくらい…いや、それは良くない。
それは良くないからそれを行わない。
また、アルトリアは雌性――女性にも拘らず、雄性――男性を自称している。
肉体構造ではそうなってはいないのだが、それを自称する必要があるからそうしているのだろう。
そう言えば、『彼女』は王権を象徴する『女性』だからこそ私から奪われていった。
そういう意味での自衛に繋がるのなら、それはそれで良い。
また、『彼女』の血脈が奪われることに耐えられる自信が無い。
ピクトジン…ピクト人?とやらの血を引いているらしき、アルトリアの仲間、
個体名称ケイやトリスタンは背が伸びたり、空を滑空したりする。
私にもそれが出来るが、真似をしているとアルトリアに止められた。
特に、トリスタンの真似は良くないらしい。良く理解できないがアルトリアがそう言うのならそうなのだろう。
もし違っていても、可愛い仔の事だ。私は喜んで許そう。
ランスロットというものからは、婚姻経験(配合経験?)を尋ねられた。
その様な雰囲気が出ているようだ。
成程、この男性は体内産卵――出産経験のある雌性としての能力が保証された個体を好む合理的な個体なのだろう。
詳しくその合理性について聞こうとしたらアルトリアに止められた。
ランスロットは悪しき存在なのだろうか?
もしそれがアルトリアにとってそうであれば私は滅する事を戸惑わない。
ガウェインと呼称される個体は太陽が好きなようだ。
私は太陽は好きでは無い。直射日光の通らない室内の方が好きだ。
更に言うのならジメジメした洞窟であれば最高だ。
私は与えられた個室を改変して好ましく思う環境に変えたが、その部屋がアルトリアの感性に馴染まなかったようなので元に戻した。
私、守護竜カリバーンにとって『彼女』は
故に、子孫たる彼女も私の鞘であると言える。
故に、彼女は私を守護する。
如何なる時も私が彼女を守護しているが、それはあくまで表層的なものでしかない。
だが、私が護って欲しいと思う時が存在しないでは無い。
私がアルトリアに教えられた湯浴みをしている時や、寝静まろうとした時、
何処からともなく羽虫の様に奴がやってくる。それは紛れもなく
夢の中にさえ、入ってこようとしたことが一度あったが、一悶着の末、規則違反だと理解してくれたようだ。
だが、覚醒した後の世界で迫って良いと言ったつもりは一度たりともない。絶対にだ。
マーリン・トリスタン・ランスロット。
この3個体には決して隙を見せるなとアルトリアから学んだ。
彼女を安心させるためにも隙を見せるつもりはない。
特にマーリンには、だ。
…今も無駄に洗練された魔力数式の応用と身体操作で、私の髪を撫でようとする羽虫には殺虫を試みる権利と必要性が私にはある。
匂いが良いと言うが、まさしく花に引き寄せられる羽虫の様だ。
さしずめ私は芳醇な大地を吸った花か。どちらかと言えば私こそ優れた蟲であるというのに。
「君のお蔭で、僕は恋と言うものを学んだんだ」
そう迫ってくるが、感情の習得速度が遅い下級の蟲を配偶者にする事は在り得ない。
絶対に在り得ない。
私は『彼女』からこの雄性よりも遥かに速い速度で感情を理解した。
故に、マーリンよりも遥かに優れていると言える。
そもそも私は配偶者を求めてはいないのだ。
『死に得る永遠たるもの』たるこの身には子孫を遺す重要性は、『終わりが定まったもの』よりも、
『代無く進み化けるもの』の身には、『代を重ねて進み化けるもの』よりも、
圧倒的にその必要性は少ない。
それに、私達はこの星の殆どを物理的に解析した。
海の味を、地殻の味を、降りた雲の味を、星の心臓の味を知っている。
それこそ寄生虫の様に星の全身を侵し抜いた事を種族として共有した。
同期による完全なる意思伝達を利用して。
元は旧き時より生きる偉大なる種族たる私達。旧き支配者たる私達。
その末裔たる私に配偶者は不要。
故に――――――、
「しつこい。そろそろ鬱陶しくなったのですが。
マーリン、どうして貴方はそうしつこいのですか?」
恐らく、羽虫だからなのだろうが。