☆怪盗トランプ
闇夜に浮かぶ一つの影。それは、ただの影にあらず。それは、奇跡を起こすミラクルメイカーであり、怪盗だ。
ただの怪盗と驚くなかれ。盗んだ獲物は星の数。盗んだ心は一つもない。一度は言って見たいあのセリフ。盗んだのは貴方の心です。
いやこのセリフはもう自分に言っている。わたしは心を盗まれている。たった一人の同級生の少年に。
少年の名前は岡山和義。同級生であり、本を読むのが好きなことくらいしか、知らない。そして、彼女自身も本を読むのは好きなのだ。
その彼女の名前は海堂千夏。図書委員であり、背が低いのがコンプレックスのただの女の子。いや、ただの女の子ではない。
彼女は魔法少女だ。名前は怪盗トランプと言って、その名の通り怪盗のような服装に身を包んでいる。使える魔法も、相手が持っているものを奪えると言った、怪盗らしい魔法だ。
だが、どうやら人の心は奪えないらしい。和義のことを遠くから見ている千夏は、そう考えてため息をついた。
彼のことが気になりだしたのは些細なことだ。背が低くて取ることができないところに、自分の本が誰かの悪意によって置かれていた。犯人は分からなかったが、これを取ってくれたのは和義であった。
本を取った後、千夏に渡し。恥ずかしそうにその場を去っていく彼を見たとき、千夏は彼に心を奪われた。
だけども千夏は彼に声をかけられずにいた。話しかける前から嫌われたらどうしようかと、そんなことしか考えてなかった。
「……あっ。そうか、今日の夜か」
そう呟いた千夏の体に少しだけ緊張が走る。今日、マジカルキャンディ争奪戦の最初の脱落者が発表される。寧々はそこそこ数を集めてきたので、負けることはないとは思うがもしかしたらもあり得る。かなり、怖い。
一度得たものを失うのには抵抗しかない。だからこの力を失わないために、彼女は精一杯のことをする。そして、いつか彼に気持ちを伝える。
その自信にもつながるため、彼女はなんだってすると決めた。必ず、成し遂げてみせる。そう思い、夜が来るのを待ちながら和義の方を授業中だというのにじっと見ていた。
◇◇◇◇◇
☆ドゥードゥー
夜。それも12時を回ろうとしてる時、公園にはたくさんのコスプレ少女たちがいた。いや、彼女達は魔法少女だ。
なぜここにいるかというと、今日の12時。噂の脱落者が出て来るから。皆、特に誰に言われてもないがなんとなくこの公園に集まっていた。
「……そろそろ、発表がありますわね」
ピエロのような格好をした少女がポツリと呟く。その少女はタブレットに視線を落として、知らせが来るのを待つ。
「あら、ドゥードゥー。やっぱり気になるの?」
「……えぇ、マイーMY。もしかしたら、私が選ばれるかもしれませんから」
そう言って近くにいた少女に、ドゥードゥーは笑いかける。その顔を見たマイーMYは、同じように笑って隣に座った。
月の光が、ここにいる少女達を皆照らしていた。平等に降り注ぐそれは、まるで何かを暗示してるかのようだ。
「でも、大丈夫だと思うわよ。私達二人ともキャンディ集め頑張ったじゃない」
「まぁ、そうだけど……念のためってやつがありますから」
「心配性ね」
「心配性です」
そう二人が言った後、時計の針が指定の時間を指して、皆のタブレットが大きな音を立ててなり始める。
そこには短く「お知らせ」と書かれたものが一通だけ届いており、少女達に一斉に緊張が走る。
そして届いていた内容を読み上げていき、一人。また一人と安堵の声を漏らして行く。そんな中、一人の少女が大きく手を上げて、そして声を出した。
「はいはーい!みんな!ちゅうもーーーーく!」
そこにいたのは、キラリ☆スター。そして、彼女が今回のメールに名前が書かれていた魔法少女であった。
◇◇◇◇◇
☆キラリ☆スター
注目を得るのは気持ちがいい。キラリ☆スターはそんなことを考えながら、皆の視線を集めている自分を褒め称えたくなった。
けれど、これはまやかしの力。自分の力ではない。そんなことをわかっていたが、捨てれずにいた。だってもっと味わいたいから。
でもそんな想いももう消えた。彼女は変わらないといけない。だから、一歩彼女は大きく踏み出した。自分が手に入れた大きな力を、自分から捨てに行くという方法で。
後悔はある。だけどそれはすぐに達成感に変わる。最後の最後に、彼女は此処一番の注目を得れることができた。もう、後腐れはなかった。
「キラリ☆スター……」
「ちょいとみんな!そんな暗い顔しないの!!だいじょーぶ!!このキラリ☆スター。とっても真っ当に生きて行くから、みんなもそうしてね!!」
自分のこの選択は間違ってないと言いたいように、キラリ☆スターはそう言った。すると、一人の少女がキラリ☆スターの方に近づいて来て、にこりと笑う。
まるでゲームに出て来る勇者のような格好をした少女は、こほんと小さく咳払いをして口を開けた。
◇◇◇◇◇
☆シュピーム
「ねぇ、キラちゃん。これって私ってキラちゃんに勝ったってことでいいかな?」
「……と、いうと?」
「私、シュピーム。私の魔法はね、勝負事で勝った相手に何でも一つ命令ができるんだ!!まぁ、でも。賭ける対象が大きければ大きいほど命令できる幅は広がるから……ジュース一本おごってくれくらいかな?できるの」
「ジュース……いいよ!このアイドルキラリ☆スターがあなただけじゃなくて、みんなに一本くらい奢ってあげる!」
その言葉を聞いてシュピームは心の中でガッツポーズをした。仲間になった「ああああ」に自分の魔法を見せることができ、なおかつジュース一本を無料で手に入れることができるのだから。
ああああ自体は遠くからこちらを見ていて、それに気づいたシュピームは軽く手を振ってああああに挨拶を送る。けれど彼女は慌てたように視線を逸らした。
さて。一言ついてからシュピームは願いを頼もうと腰についてある道具袋から紙を一枚取り出した。その紙に書いてあるのが叶えられる願いであり、逆に言えば書いてある量で賭けの重大さがわかる。
「……ほえ?」
シュピームは間抜けな声を出した。それに反応するように、取り出した紙はとてつもなく長く。それでいて、文字が書かれすぎて紙全体が黒く染まっていた。
「えっと……それはどういうことなの?シュピーム」
キラリ☆スターが遠慮がちに口を開ける。シュピームは暫く考えてから、合点がいったように「うそだ」とつぶやいて、手から紙を落とした。
震える顔でシュピームは落ちた紙とキラリ☆スターの顔を見比べていて、心配そうな顔を向けていたキラリ☆スターに対して口を開ける。
「この文字量は賭けの対象がとてつもなく大きいってこと……魔法少女の資格は大きいと思うけどだってこんなにあるわけがない……もう一つ、何かを賭けてる……それは……」
「それは、なに……?」
キラリ☆スターは嫌な予感がするというように、ゴクリと生唾を飲み込んだ。その顔を見て、シュピームは嗚咽を漏らしながらゆっくりと言葉を出した。
「賭けの対象は魔法少女の資格と、命……つまり、キラちゃんは……死ぬ……」
◇◇◇◇◇
☆キラリ☆スター
「……は?」
なに言ってるんだこの子は。キラリ☆スターはそんなことを考えていた。私が死ぬ?そんなわけがない。そもそも命をかけるってなんのデスゲームだ?
自分の体が震えて行くのを感じる。怖いのか?こんな、荒唐無稽な話を信じているのか?自分に自分で笑ってしまう。
ぴちゃり。
何かが地面に落ちた。笑いすぎて涙が出て来たのか。そんなことを考えていたが、周りの魔法少女たちがキラリ☆スターの顔を見て青ざめて行くのがわかった。
なんで?みんなそんな顔してるの?そう声を出そうと思ったが、言葉の代わりに落ちたのは、血の塊。べちゃりと地面に広がっていき、それがキラリ☆スターの足につく。
目を背けようとする魔法少女達はたくさんいたが、皆は彼女に注目していた。これは、キラリ☆スターの魔法なんて一切ない。
初めてだ。初めてみんな自分のことを魔法なしで注目してくれた。これなら、人間になってもやってけるかな。そんなことを考えていたキラリ☆スターは、自分の体内から何かがせり上がって来るのを感じた。
そして、体内からせり上がって来たのを外に全て放出し、あたりを赤く染めて行く。そしてキラリ☆スターはぐらりと体を揺らしてその場に倒れ込んでしまった。
視線は、そんな倒れた彼女に全て集まっていた。