☆シュピーム
理解ができなかった。突然、一人の魔法少女が血を吐いて倒れた。そしてその魔法少女の口から血が止まることはなく、叫び声を上げることも忘れてそれをじっと見つめていた。
だが、時間が経ち状況を理解したのだろう。一人の少女が大きな声で叫び声をあげる。それによって、皆に恐怖の輪が広がって行く。
その中の一人。一番顔を青ざめて、地面にへたり込んだのはシュピーム。彼女に責任があるわけではないのは、誰でもわかる。だが、彼女が一番最初に人が死ぬということを理解してしまっていたのだ。それによって起きる小さな自分に対する心の責めがだんだんと大きくなっていっているのを感じた。
押しつぶされてしまいそう。というかもう、潰れた方が楽かもしれない。そんなことを考えていたシュピームの肩に手がポンと乗っかる。
「だ、大丈夫っすか?」
「……あーちゃん……」
ああああが、シュピームに優しく声をかける。けれど、肩から伝わる振動で今の彼女の心がわかった。だから、シュピームは少しだけ落ち着いた。
それだけでよかった。シュピームはああああの手を取り、立ち上がる。そして、小声でありがとうと礼をつぶやいた。
その声が聞こえてか、ああああは照れ臭そうに笑う。不器用な彼女なりの優しさを感じたシュピームは、スッと心の重荷が取れて行くのに気づいた。
「みんな落ち着いて。今の状況を整理しよう」
魔法少女の一人がそう言って周りに声をかける。今の状況は、確かに全くまとまってない。何が起きたか理解できない魔法少女の方が多いだろう。
「とりあえず……キャンディを集めた数の総数が少ない人は……死ぬってことなのか?」
「今の状況を見るに、そうとしか言えんでござる。剥奪されるのは魔法少女としての資格だけではなく、生きる資格も。ということでござろうか」
「なにそれ!そんなの私やりたい言った覚えないヨ!運営に抗議するネ!!」
中華風の小女がそう言ってタブレットを使い、どこかにメールを送っていた。恐らく、メッセージを送り主に対してだろうが、しばらくして彼女は、あんぐりと口を開けて、言葉を漏らす。
「このメールアドレスは使われてない……?なんなのヨ!!意味わかんないネ!!」
そう言った少女はタブレットを地面に叩きつける。それは地面を数回跳ねながらも、ぼんやりと画面を光らせていた。
「あー……ちょっといいかな?」
ライダースーツ風の衣装で身を包んでいる少女が遠慮がちに手を上げる。皆が見ているのに気づいて、彼女はこほんと咳をして、口を開けた。
「とりあえずさ。自己紹介やっとかない?色々と、深い関係になりそうだからね」
◇◇◇◇◇
☆七夕姫
「……自己紹介タイムは、終わりかな?」
最初に提案したGO5がそういいにっこりと笑う。優しい笑顔だ。七夕姫もそんな顔してみたいと思ってはいた。
まぁ、できないけど。そんなことを心の中でつぶやくと、隣にいた月光騎士ナイトがこちらを心配そうに見つめていた。それに対して七夕姫は小さく微笑み返す。
先ほどの自己紹介。もしかしたら、魔法で人を殺したのかもしれないというGO5という提案により、皆の魔法の説明をいれられた。そのことで七夕姫は少しだけ嫌な顔をした。これから起こることをなんとなく予想したからだ。
「ところで七夕姫。一つ、いいかな?」
「……はい、なんでしょう?」
あぁ、やっぱり。目の前にいるGO5の顔を見ながら、七夕姫は心の中で舌打ちをする。そんなこともつゆ知らず、優しい笑顔の持ち主は口を開けた。
「七夕姫の魔法【代償を払えば願いを叶えれる】ってのは、本当かい?」
「ええ。代償さえ払えば下は無くした鍵を手に入れたい。上はこの世界を支配したい……どんな願いも叶えて差し上げますわ」
「成る程。じゃ、それを使ってこのキャンディ争奪戦を止めるには、何を払えばいいんだい?」
なんとありきたりでつまらない質問だ。七夕姫はため息が出そうになるのを無理やり抑えながら、時間をおいて口を開ける。
「払うべき代償は一つ。命、ですわ」
「命……?」
「はい。命です」
あえて簡単そうにいう。そうすると、目の前にいる少女は少しだけ悩んだ顔をするが、その悩みを消すように言葉を投げた。
「ならば、私が命を差し出すよ。それでこんなふざけた争いが終わるならーーー」
「あら、誰も一つなんて……言ってませんわよ?」
その言葉を聞いて、GO5はぽかんと口を開ける。七夕姫は、ニッコリとなるべく優しい顔を浮かべるように意識しながら、言葉を放った。
「14。キラリ☆スターさんを抜かして、14の命がないと……これは止まりません」
「14……って!それじゃ、残るのはたったの一人じゃないか!」
「ええ。All for ONE……たった一人のために、みなさんが命を投げ出さないといけません。もちろん、私は嫌ですわ」
「そ、そんな……」
こんなことは言いたくなかったから、無視して欲しかった。まるで七夕姫が悪いような雰囲気になっていくのを肌で感じて、ため息をこぼす。
そんな彼女を見てか、月光騎士が前に立つ。七夕姫はありがとうと呟いて、にこりと彼女に笑いかける。月光騎士はそれでも前をじっと見つめていた。ただ、少し耳は赤かった。
「では、私は帰ります……なんだか、空気も悪いですし。行きましょう、ナイト」
「御意」
どちらにせよやることがある。そう言いながら、七夕姫は歩き出した。後ろから集まる視線は、決して心地いいものじゃないが、慣れないとな。と、考える。
そんな彼女を月の光が照らしてはいるが、それを隠すように月光騎士ナイトが立っていた。
◇◇◇◇◇
☆強殺王
夜の集会が終わった後、皆がまるで逃げるように去っていった。そんな中、二人の影がそこにあった。
「ねーねーししょーこっからどうするの?」
「……拙者も悩んでるでござる」
そう言って忍者のような格好をした魔法少女、影野半蔵がボソリと呟く。まさか、こうなるとは思っていなかった。
強殺王は影野半蔵を見ながら、ぼーっと考え始める。払うべき命の数は14個。そんなことしても実質七夕姫が死んだ瞬間にエンドだ。
だかそんな時、強殺王の頭の中に一つの答えが浮かんできた。それの素晴らしさに気づいた彼女は、嬉しそうに影野半蔵の背中を叩く。影野半蔵は怪訝そうな顔をしていたが、それすら気にしないように、強殺王は口を開けた。
「簡単だよししょーボクとししょー……ついでに、七夕姫?以外死ねばいいんだよ」
「……話、聞いてたでござるか?必要なのは14人の命でござるよ?15から14引いたら、1……拙者とお主が残ったとしても2でござるし、七夕姫入れたら3でござる」
「わかってるわかってる。でもさ、ししょーとボクさえ生き残ればいいんだし〜それに、足りない分はアテがあるからね」
「…………考えておくでござる」
影野半蔵はそう言って姿を消した。彼女の魔法は、影の中に入れるということ。今は夜だから、どこにでもいけるのだろう。
「ししょーの分からず屋ー!!……まぁ、いいや。ボクだけでも生贄の魂集めるかー」
そう言いながら、強殺王もどこかに歩いていく。草を踏む音は、いつもより大きく響いていた。