俺は、農業がしたかっただけなのに……!   作:葉川柚介

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イカルガさん! カササギさん! キレのいいヤツ、頼みます!

 ボキューズ大森海のはるか奥、人跡未踏の地での望まぬ大冒険。

 そう思っていたのは、酸の雲をまき散らす魔獣と相打ちで墜ちてから数日の間だけだった。

 

 エルくんたちと合流して実際に目にした巨人族(アストラガリ)を人としてカウントすべきか微妙だが、この地には確かに人が生きていた。

 形も体格も俺たちと同じ。そのうえ話す言葉まで共通とくれば、俺たちと森に住むこの村の人たちが、別の場所でそれぞれ独自に発生した別の生物とは考えにくい。つまりは、「そういうこと」なんだろう。

 

「大森伐遠征軍。君たちがそう呼ぶものの末裔だよ」

 

 と、いう予想は村を訪れた小王(オベロン)を名乗るなんかチャラくてうさん臭いヤツに肯定された。

 なんとも、信用ならないというか威厳ではなく上から目線を感じる人だ。

 この地に生きる人は巨人族の一氏族、エルくんたちがお世話になってるカエルレウス氏族を筆頭にしたその他大勢の中小氏族と敵対的なルーベル氏族の庇護下にあるらしい。

 だからカエルレウス氏族を受け入れた村を一度は殴らなきゃいけなかったとか言ってたけど、その結果幻獣騎士と呼んでいる幻晶騎士っぽいヤツが畑を踏んづけた。ギルティ。

 

 これが銀鳳騎士団の団員のしたことだったら、漏れなくグランレオンで模擬戦の相手をお願いするところだった。

 ……模擬戦だよ。めっちゃ吠えたり跳んだり跳ねたりで徹底的にビビらせることにしてるけど、ただの模擬戦だよ。

 

 閑話休題。

 小王なる人曰く、西方から空を飛んできた俺たちに興味があるとのこと。

 小鬼族と名乗っているこの地の人たちの首都的なところに招かれ、話を聞いたり聞かせたり、エルくんがこっそり幻獣騎士の情報を探ってきたりしていたが。

 

「空飛ぶ船!? エルくん、みんなだよ!」

「そのようですね。予想よりだいぶ早かった」

 

 という情報が舞い込んできた。

 なるほど、エルくんが生きていることを信じて、多分猪突猛進エルくん大好き騎士であるディートリヒあたりが焚きつけて、ついでに国王陛下もエルくんなら生きてるんじゃね? という可能性に賭けて派遣されたのだろう。

 穢れの獣は確かに脅威だが、そこはフレメヴィーラ王国。一度見た魔獣に恐れをなしていては畑を広げることなどできないからね。

 

 

「と、いうわけで状況が変わりました。ルーベル氏族との決戦において、穢れの獣を操る小鬼族はルーベル氏族に敵対的な行動を取るとのこと。その旨を伝え、諸氏族連合軍の再結成を働きかけるべきでしょう」

「おお、真か! 穢れの獣さえなくば、その後の問いは百眼のお目にかかるべきところ!」

 

 そんなわけで、俺たちはいったん小鬼族の都を出てカエルレウス氏族と合流。

 彼らの目的である、ルーベル氏族との決戦のために動くことになった。

 巨人族の事情には詳しくないんだけど、なんでもルーベル氏族は巨人族の王になるための条件「六眼」を満たさない五眼の人が王を僭称している状態なのだとか。

 ちょっとの付き合いでも分かったことだが、巨人族は掟とかそんな感じのものを重んじる気風であり、彼らが「百眼」と呼ぶ神様的なものを重要視している。

 その辺に真っ向から逆らうこの僭称、当然大きな反発があったそうなのだが、それをねじ伏せたからくりが、穢れの獣を戦力に組み込んだことにあった。

 しかしそれも今や無くなったに等しいわけで。

 

「では、小魔導師(パールヴァマーガ)、他の氏族の人たちに協力してもらいに行きましょうか」

「う、うむ。師匠エルのこれに掴まれて飛ぶのは二度目だが、慣れないな……」

 

「うおおおおおおお! なんのこれしきいいいいい!」

「ザカライアさん、がんばれー」

 

 賢人の問い、再び。そのための使者として選ばれたのは小魔導師ちゃんで、移動手段はエルくんのカササギ。多分これが一番早いと思います。

 同行者は、カササギを動かすために必須のエルくんと、エルくんから離れる気が微塵もないアディちゃんがコックピットに。小魔導師ちゃんはカササギのメインアームに抱えられ、ついでに小鬼族から連絡役として派遣されたザカライアさんという騎士の人が定員オーバーのためカササギの掌の上に乗って、飛行の風圧に耐えている。すげえ根性。

 そして、俺も。

 ディセンドラートを身に着けているのでザカライアさんよりは大分マシだけど、カササギの手に収まってます。

 カササギ建造時に教材としてアディちゃんのディセンドラートはバラしたけど、俺の方はまた使うことがあるかもしれないからと温存しておいたのが幸いしたね。

 

「なるほど、諸氏族集めに、と。俺はカササギに乗り切れないだろうからカエルレウス氏族の人たちに村まで連れていってもらって、そこで待っておくよ」

「ダメです」

「えっ」

「先輩からは目を離さないようにすると決めましたから。一緒に来てください。……もう、あんな思いはしたくないです」

「いいなー。エルくんにしがみつかれてる先輩いいなー」

「アディちゃん、目が怖い」

 

 という感じで、回り込まれてしまった!

 

 

 そんなわけで、諸氏族の住んでいる方へ向かって飛ぶことしばし。

 

 

「おーっと、中々いい隊列ですよトゥエディアーネ部隊! だがしかし、まるで全然、僕を捉えるには程遠いんですよねえ!」

「エルくん、自分の部下にも容赦ないね」

 

 なんか、空中戦になりました。

 しかも、幻晶騎士と。

 

 

 喜ぶべきはずである、銀鳳騎士団との再会。

 ……それが遭遇戦になるんだから、カササギの悪役フェイスも困ったもんだよね。

 

「お、あれはガルダウィング。たしかあの機体を実戦投入できるのは藍鷹騎士団のみという話ですから、ノーラさんたちも来てくれているようですね。……純粋な空中戦となるとトゥエディアーネ以上の脅威。今のカササギにとっては難敵です」

「つーか、エルくん。そろそろお互いに視認できるくらいまで近づいてきたんだし、俺が顔出せば戦闘終わるんじゃない?」

「………………………………いえ、ここは戦場です。危険ですから隠れていてください」

「本音は?」

「僕が育てた騎士団と本気で戦える機会なんて、これを逃したら多分二度とありません!」

「本当にしょうもねーなこの子」

 

 ちなみに、カササギの中の人であるエルくんは面構え以上にマッドサイエンティスト系悪役メンタルです。

 

 

◇◆◇

 

 

「銀色坊主……! お前、よく生きて!」

「久しぶりです、親方。みんなも元気そうで何よりです」

「エルぅ……! それはこっちのセリフだバカ!」

 

 銀鳳騎士団の飛翼母船イズモ。

 その格納庫内で、エルくんが親方やバトソンくんたちみんなに取り囲まれていた。

 そうもなるだろう。みんなの目からすればエルくんは魔獣ひしめく森に墜ちた。

 生きていると信じてここまで迎えに来てくれたようだけど、それでも本当に再会できたその喜び、俺も少しはわかるから。

 まあ、感動の再会の前に騎士団丸ごと相手に空中戦する羽目になったけどね!

 いまはカササギに乗っていたのが俺たちだとわかってこうして迎え入れてもらってます。

 カササギ自体も、抱えてきたパールちゃんもめっちゃ驚かれてるけど、エルくんならそう言うこともあると納得されている。素晴らしい信頼だ。

 

 

「あんたは……! 生きてるなら生きてるって言いなさいよ!」

「ヘルヴィそれは無茶ってもんグワーッ!」

 

 一方、俺はヘルヴィにキャメルクラッチされていた。理不尽。でも後頭部の感触が柔らかくてちょっと幸せ。

 

「事情はいま説明したとおりです。僕はちょっと巨人族の人たちに協力してきますね」

「エルネスティ……また君は息をするように無茶をして……」

 

 そして銀鳳騎士団にも状況説明。

 エルくんとアディちゃんが撃墜されてからこれまでにあった出来事、巨人族については実物であるパールちゃんを証拠としての説明、そしてこれから行われるであろう巨人同士の争いについても。

 それを聞いて呆れるディートリヒの様が、団員全ての意思を代弁していると言っていいだろう。

 

 

「みんな心配してたのよ! それに、どうせあんたのことだから無駄に大きな畑くらい作ってるだろうからすぐ見つかると思ったのに、おとなしくしてるなんて!」

「さすがにこっちにもいろいろ事情があったんだよグワーッ!」

 

 その傍ら、俺はヘルヴィの繰り出すロメロスペシャルを食らっていた。

 格納庫の床の上だから、むしろヘルヴィの背中が痛いんじゃなかろうか。

 

「お久しぶりです、アグリ様。あなたの開発したガルダウィングは、ここに来るまでも大いに私達の助けになってくれました」

「あ、ノーラさんもお久しぶり。……じゃあその、役に立ったお礼ってわけじゃないですけどそろそろ助けてくれませんかねアバーッ!?」

 

 そして挨拶しに来てくれたノーラさん。

 うっすら微笑んでるけど、俺を助けてくれる気はないんですねわかります。

 ヘルヴィの腕ひしぎ十字固めで3カウント寸前なんですけどね。でも手首のあたりが大分幸せ。

 

 

「……バカ」

 

「ヘルヴィは人一倍アグリのことを心配していたからな。何よりだ」

「照れ隠しにしてはかける技の本気度がシャレにならないと思うぞ? そろそろ止めてやれ、エドガー」

 

 そんなこんなで、とりあえず銀鳳騎士団総出で小鬼族の支援と、巨人族の問いへの介入をすることになりました。

 

 

◇◆◇

 

 

「ふん! 小鬼族ごときが我ら巨人の問いを目に入れると? バカげている!」

 

 当然、その辺の計画がすんなりいくわけはなかった。特に巨人側。

 銀鳳騎士団と合流した俺たちは、部隊を分けて小鬼族の村の支援と、パールちゃんを連れて諸氏族連合再結成のために動いた。

 ……俺としてはエドガー達が向かう村の支援にぜひとも行きたかったんだけど、腕にしがみついたエルくんが断固として譲らなかったので巨人族の説得に向かうことになりました。くすん。

 

 とはいえすでに一度ルーベル氏族のけしかける穢れの獣によって瓦解した連合軍がそう簡単に再結成されるわけはなく、なんやかんやで再び集まった巨人族の中にも反対意見が根強かった。

 一応穢れの獣に関しては動かない、あるいはこちらに味方するという確約が出ているとはいえ、そもそもその話自体をどこまで信用していいかがまず未知数だ。小王という人物、どうにも信用していい気がしない。

 

『いやいや、まいったね。巨人というのは図体ばかり大きくても知恵は回っていないらしい。我々の戦力の評価もロクにできないとは』

「……小鬼族、いまならば言葉を翻すことを認めるぞ」

『おい見ろよ、めっちゃ青筋立ててるぞ!』

『あんな軽い挑発で怒ってやんのー! プーッ、クスクス!』

『プーッ、クスクス!』

『ブックス!』

 

 そんな巨人族、アーテル氏族をめっちゃ煽るのは、会談の場についてきた第二中隊の面々。挑発して、殴り合いに持ち込んで実力を示して認めてもらおうという考えによるものなのだろう。

 ……エルくん、人選間違えてない? エドガーたちには村の護衛と拠点化を頼んだからって、こいつらに交渉とか絶対向いてない。

 

「……いいだろう、ならば貴様らの身の程、問いにて示すがいい!」

『そうこなくっちゃ!』

 

 でも、結果オーライかも。なんだかんだで巨人族も問い(物理)による結論を重視する種族。思考の基盤が第二中隊とほぼ一緒みたいだ。……種族総出で第二中隊レベルって大丈夫なのかな、とはちょっと思うけど。

 

「では問いの相手は……貴様だ!」

「え、俺?」

 

 でも、なんでその相手に俺が選ばれるんですかねえ!?

 

「小鬼族にも勇者はいよう。だが、これから行われる問いは氏族の命運をかけたもの。氏族最強の勇者1人の力のみで為すものではない以上、最も小さい貴様の力を見定める」

「えぇー、なにその屁理屈……」

 

 とはいえ、この状況で断れるものでもない。

 数多の巨人族が集うボキューズ大森海の広場で、巨人族の中でも高位であるとされる五眼の巨人の目の前に引き出された俺が、銀鳳騎士団の代表として戦うことになるなんて、どういうことなの。

 

 ところで、このとき。

 銀鳳騎士団と合流して、エルくんのイカルガ再建のための資材すら持ち込んできていた親方たちだけに、グランレオンのみならず量産仕様を元にガルダウィング相当の機体を組んできてくれたのに加え。

 

「では、問おう!」

「はいはい、わかりましたよ。……カルディヘッド、スタンディング」

「……ちょっと待てえええええええええ!?」

 

 カルディヘッドもまた、持ち込んできてくれていたわけで。

 おそらく一番背が低いからと俺を選んだだろう巨人の目の前で、スタンディングモードへと、変形して見せた。

 

「え、なんです?」

「貴様、さっきまで小さかったはずでは!?」

「あー、それはまあ。さっきまでは座ってたみたいなもんと思ってください。これがカルディヘッドの近接格闘戦仕様、スタンディングモードだ」

「ええー……」

 

『先輩、すごいです! やっぱり死ぬときはスタンディングモードですよね!!』

「勝手に殺さないでね、エルくん」

 

 カルディヘッド。

 農業用としてはカルディタンクで十分過ぎるほどに有用だとわかったので、今後銀鳳騎士団としてあれこれ連れ回される中、通常の幻晶騎士と殴り合いをする羽目になることを想定したカルディタンクの改修型。

 最大の特徴は、キャタピラを装備していた脚部を車輪に変え、変形機構を搭載したこと。これにより、機動力と法撃能力に優れるタンクモードと、格闘戦に優れるスタンディングモードへの変形が可能となった。

 今回は巨人の人を相手にするので法撃を使うわけにもいかず、スタンディングモードを採用してみたんだけど……なんか呆れられてる気がする。

 

「まあなんでもいいや。銀鳳騎士団、カルディヘッドのアグリ・ボトル。タイマン張らせてもらうぜ!」

「……なんかよくわからんが、これも百眼の思し召し! ご照覧あれ!」

 

 という感じで殴り合いになりました。

 ちなみに、結果は。

 

「パワー……ボム!」

「グワーッ!?」

 

 本日の巨人プロレス、決まり手はカルディヘッドのパワーと足腰を活かしたパワーボムでした。

 

 

◇◆◇

 

 

「うーん、ぶんぶんうるさい」

『アグリ! 何匹かそっち行ったみてえだ、撃ち落とせ!』

 

 ボキューズ大森海はその名の通り広大な森なのだが、稀に木々が生えず広場になっている空間が存在する。

 偶然木が生えていないのか、魔獣あるいは巨人族の影響で出来たのか。いずれにせよその中でもとびきり広いこの場が、巨人族の決戦の舞台となるのは必然だったのだろう。

 巨人族同士の戦闘が始まる中、俺たち銀鳳騎士団があまり前面に出ないように注意しつつ上空で待機していると、しばらくして現れたのが穢れの獣。

 こいつらは予定通りにルーベル氏族へと牙を剥き、地上の一角に阿鼻叫喚の地獄を作った。

 

 そこまではいい。思うところがないでもないが、少なくとも俺が口を挟む話じゃない。

 問題は、そこから。

 現れたんだ、奴が。

 

 

 元々は全ての巨人族にとっての敵であったという穢れの獣を従えることができていた理由。

 小鬼族が、小王が握っていた切り札。

 

『やあ、そこにいるねエルネスティくん! ついに我らの凱旋の時が来た! ともに西方へと旅立とうではないか!』

 

「……小王、想像以上にとんでもないものを隠し持っていたようですね」

 

 きっとこの場の誰もが目を疑った。

 小王の声が聞こえてきたのは、地上ではなく空の上。銀鳳騎士団の飛空船では無論なく、それはこの場の何よりも大きく空にある。

 

 魔力によるものと思しき虹色の光をまとう、街一つ程度なら乗せられそうなほどに巨大な。

 あれはきっと、魔獣だろう。

 

「魔獣を従える、規格外の巨大さを誇るモノ。……さながら<魔王獣>とでも呼ぶべきかな?」

 

 

 そんな魔王獣(仮)と、俺たちは結局戦闘になった。

 小王の主張は、あの魔王獣並びに穢れの獣を自分達の戦力として従えたまま西方へと帰還すること。

 が、それを許容できるほどフレメヴィーラ王国は魔獣に対して寛容ではない。

 穢れの獣は完全な制御化にあるというし、いまこうして銀鳳騎士団とタメを張れる戦術行動を取るのを見るに嘘ではないと思うが、だからこそ危険だ。

 もし万が一その手綱が外れた場合、あるいはそもそもその牙がフレメヴィーラ王国に向いた場合、どれほどの被害が出るかは考えたくない。

 

「人間の意思で操れる魔獣なんて、無人機のようなもの。控えめに言って暴走フラグです」

 

 とはエルくんの弁。なので、とりあえず殴り倒すことになりました。

 飛翔騎士部隊が全機出撃して激しい空中戦を繰り広げ、飛翼母船が持てる火力をぶちまける。

 いつの間にかエルくんも戦線に出ていて、魔王獣の向こうからやってきたエドガー達第一中隊の船に乗っていたアディちゃんの操縦するイカルガと合流したようだ。

 

 一方俺は、飛翼母船の甲板上にカルディヘッド、グランレオン、ガルダウィングを全て銀線神経で有線接続し、持てる火力の全てを駆使して近づく穢れの獣を打ち落とす。そんなことをかれこれどれだけ続けたか。

 いやはや、先が見えないね?

 

 

『ぐおぉ……頭いてぇ……! アグリ、お前は大丈夫か!?』

「えー、なに親方聞こえない! つーか固定砲台とはいえ3機分1人で操縦するの超大変だからあとにして!」

 

 しかも、なんかよくわからないけどみんなの動きが鈍ったりして超忙しいし。

 

「埒が明かないな。こりゃどう考えてもあの魔王獣本体を叩かないと終わらない……って、ん? なんか穴が開いてる?」

 

 この時、俺が見つけたもの。

 あとになって分かったことだが、イカルガとカササギが合体してマガツイカルガとなったエルくんとアディちゃんの幻晶騎士が魔王獣とほぼ単騎で渡り合っている中、いつまで経ってもエルくんたちを倒せないことにキレた小王が繰り出した次の手だったらしい。

 魔王獣の体内からさらなる触腕を伸ばしてエルくんたちを叩き潰そうとしたようだけど、それはつまりあの魔王獣の外と中を繋ぐ通路が出来たということに等しく、ああいうモノは中から潰すのが常套手段。

 

「……よし、行くか。親方ー、ちょっとあのデカブツの方行ってくるからこっちよろしくー」

『なにぃ!? おい待てェ!』

 

 俺が一人でぶん回す羽目になっている幻晶騎士は3機。

 フルパッケージ状態で甲板上に踏ん張っているカルディヘッドと、その後ろから法撃をまき散らすグランレオン、そしてグランレオンの背中にくっついたガルダウィング(新)。

 3機のマナプールを共有してあるから魔力的には大分余裕があり、銀線神経による同調操縦も可能な状態。

 それを活かして、グランレオンをぴょいっと飛び跳ねさせ、カルディヘッドの強靭な腕の上に乗せる。

 いかにバランスを取ったとしてもすぐに落ちる程度の幅しかないが、それで十分。長居するつもりはない。カルディヘッドが持つ、大量の結晶筋肉。引き絞ってため込んだパワーを、解放。

 

「いやっほーーーーーーう!!」

『ちょっ、アグリ!? アグリよね!? なにしてんのあのバカー!』

 

 全力投擲される弾は俺。

 背中にガルダウィングを搭載したグランレオンが、カルディヘッドの腕力とマギウスジェットスラスタの推力を受け、トゥエディアーネたちと穢れの獣の交戦域をあっという間に突き抜けた。すまんなヘルヴィ、こうやって勢い付けないと飛べないんだよ。

 

「む、迎撃が来た。まあ当然だな。……予想通りだよ」

 

 それでも、敵陣は層が厚い。

 以前戦ったときも展開した風バリアで酸の雲を突き抜けた先に、待ち構えていた穢れの獣が2匹迫ってくる。

 ガルダウィングと合体したグランレオンはある程度の初速があれば飛ぶことが可能とはいえ、さすがにイカルガほど自由自在にとはいかない。魔王獣までの距離も考えると、進路を大幅に変えてしまえば届くかどうかがまず怪しい。

 

 ので、俺はくるりとロール。それに合わせて機体も横にズレ。

 

――!?

「カルディヘッドとの接続が切れる前に撃っておいた轟炎の槍、召し上がれ」

 

 その背後から追いついてきた轟炎の槍が命中し、爆発四散を遂げた。

 

 さらにその後も2発の轟炎の槍が空を駆け、狙い通り魔王獣の開口部に命中。開いた穴までを一気に飛びぬけ、俺は体内へと突入した。

 

 

◇◆◇

 

 

 魔王獣は強大だ。

 だがエルくんはもっとヤバい。この戦いは、その証明となった。

 

 俺が魔王獣の体内に侵入するのとほぼ同時、どうやらエルくんたちも別の場所から突入していたらしい。

 

「むー、めんどくさいですね。まとめてフッ飛ばしましょうか。エーテリックプライマルアーマー内のエーテル濃度を限界まで上昇。……そして限界を超えれば、吹き飛びます!!」

「それほぼ自爆じゃないのエルくん!?」

 

 みたいな感じで、まとめてフッ飛ばしたりしたのだとか。そういえば、魔王獣の中に入ってしばらくしたらなんかシャレにならない振動が来たりもしてたけど、アレだったのか。

 「先輩! やっぱりエーテリックプライマルアーマーでアサルトアーマー出来ました!」ってあとで満面の笑顔で報告されたけど、どんな顔で迎えればよかったんだ俺は。

 エルくんの、というかエルくんを抱えるフレメヴィーラ王国の将来が不安だ。

 

 そんなエルくんたちは魔王獣の中枢にたどり着いて小王とあれこれ話したりして魔王獣にトドメを刺したらしいけど、俺はひたすら柱を砕いてました。ストレス解消にちょうどいいね。

 運よくお土産も手に入ったし。

 

「エルくーん。魔王獣の中で見つけたこれ、あげる」

「……そ、それは!? もしかしてあの巨大魔獣の……触媒結晶ですか!?」

「そうだと思う。これ引っ剥がしたら崩壊が始まったし。……グランレオンでこれを咥えて、崩壊する体内から逃げ出すのはかなり大変だったよ」

 

 という感じで、下手するとイカルガに使われているベヘモスのもの以上の触媒結晶もゲットできたし、国に帰っても証拠として提出できるんじゃないかな。

 

 

 ボキューズ大森海は、変わるだろう。

 この一帯で支配的な立場にあるだろう巨人族の脅威となっていた穢れの獣はほぼ根絶やしになった。

 加えて、最大氏族であったルーベル氏族もかなりのダメージを受けたことから、今後別の氏族が台頭していくことになるかもしれない。

 大森伐遠征軍の生き残りである小鬼族の人たちも小人族(ヒューマン)と名を改め、生き残った幻獣騎士と、なんだかんだで例の村――いまや崩壊した首都的なところに住んでた人たちも混じり、やけっぱちな発展中――に住むことになったカエルレウス氏族の助力でそれなりの力を示せるようにもなった。巨人族に対しても、一定の発言力を有するようになるだろう。

 

「さーてそれじゃあ食糧生産のためにも畑広げないとねー! カルディヘッドの前には『すでに畑になっている土地』と『これから畑になる土地』の二種類しか存在しない!」

「一応これからの都市計画というものもありますから、ほどほどに頼みますね先輩」

 

 その中で、銀鳳騎士団はもうちょっとだけ助力することになった。

 いずれ国に帰るとはいえ、変革真っ只中のこの状況で放り出すのは忍びない、というエルくんの方針に基づいてのことだ。

 エルくん自身は町の顔役として小人族の人からも巨人族の人からも相談や頼みごとをされて大変みたいだけど、俺はひたすら畑作ってました。

 現地の土質や作物のことを勉強して、そこにフレメヴィーラ印の農業技術をフィードバック。爆発的に増えた人口を賄うための耕作地はカルディヘッドとグランレオンを駆使して一気に耕し、十分な収穫が期待できるだけの用意はした。

 名残惜しいけど、あとはこの地の人たちに任せよう。

 

「ところで、少し意外だな。君のことだから巨人族を農民化しようと企むかと思っていたのだが」

「正直、ちょっとは考えたよディートリヒ。でも、巨人族の食糧の役を担えるような作物が見つからない限り、農耕文化は根付かないだろうから。……もし巨人族に本格的に農業をしてもらうなら、この森をくまなく探すか、故郷の村の人たちを呼ぶ必要があるな」

「待て、なぜ森全域の捜索とお前の故郷の人とやらが同列に語られる」

「簡単なことだ、エドガー。あの人たちの前に『希少』という言葉は意味をなさない。いやむしろ『希少なものほど出る』から」

「本格的にどうなっとるんだ君の故郷は」

 

 出来れば、今度は巨人族の腹を満たせる作物を見つけて、あの人たちも農民化してみたいなあ……!

 

 

 3か月の空の旅で干からびかけ、魔獣との戦いで森に墜ち、サバイバル後紛争介入というすさまじいことになったボキューズ大森海への調査遠征。

 それもようやく、終わる時が来る。

 

 懐かしい大地への、凱旋だ。

 

 

◇◆◇

 

 

「意外ね、空の旅なんて渋ると思ってたけど。土耕せないでしょ」

「ふっふっふ、どうやら帰りは一部の巨人族の人たちがついてくるみたいだからな。当然、道中で巨人族の食糧確保のために地上へ降りることになるだろう? ならばその時その場を農地にすれば……!」

「その後放置されて森に還るのが関の山じゃないかしら……」

 

 とりあえず、フレメヴィーラ王国に帰り着くまでの3ヶ月を生き残れるかが問題だけどな!




書籍化している原作分に追いつきましたので、今後は新刊が出るまで待機となります。
これで終わりとする気はないので、新刊が出るのを楽しみに待つ作業に入ります。
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