――銀鳳騎士団調査記録 No.XXXXX
前説
先王、アンブロシウス・タハヴォ・フレメヴィーラ陛下の代に国王直轄として創設された銀鳳騎士団。
団長エルネスティ・エチェバルリアの幻晶騎士開発支援組織としての側面が色濃いこの騎士団は、その前身において他国の間者による新型機強奪を受けた。(カザドシュ事変調査記録参照)
その後、エルネスティ・エチェバルリア並びにその開発成果保護のために設立されたこの騎士団において、極秘裏に団員の身辺調査を行うことは必須のものとなっている。
各団員の来歴、素行、交友関係に至るまで精査し、随時更新することとする。
調査の担当は通常の事務官の他、藍鷹騎士団を以て当たらせ、詳細を調査する。
本報告書において調査の対象とするのは、銀鳳騎士団員。
エルネスティ・エチェバルリア直々の勧誘によって騎士団設立直後に編入した、アグリ・ボトルである。
◇◆◇
――聞き取り調査記録
ケース1:エドガー・C・ブランシュ
――アグリ・ボトルさんについて教えてください
アグリについて? まあ、かまわんが。
初めて会ったのは、私達がライヒアラ騎操士学園に入学したときになる。ディートリヒやヘルヴィ共々、同期なのでね。
入学当初から、アグリは比較的体の出来ている男だった。……今にして思えば、故郷ですでに体が鍛えられていたのだろう。聞けばあの村では畑や家畜を襲いに来た魔獣を返り討ちにしてその肉を食用にすることも普通にあったと聞く。いわゆる僻地の農村、よりは食糧事情もよかったのだろう。
……いや、幻晶騎士もなしにあの場で魔獣を狩りながら生活を営むことができるのかという点については言っていて私自身も疑問に思うのだが、まあアグリのような奴を輩出する故郷ならしかたあるまい。
――騎操士としての実力はいかがでしょうか
ライヒアラ時代、騎操士としての腕は中の上と言ったところだった。どんな状況でも驚くほど安定しているが、その分突き抜けたものがない。
……だが、アグリは武器の得手不得手というものが極めて少なかった。
部隊単位での演習や模擬戦のとき、味方の装備を見てから自身の武器を決めていた。剣も盾も杖も、全て人並み以上に使っていたように思う。
……そのとき奴が呟いていた、「重カラサワカラサワイザナミイザナミアラキデアラキデ」や「中カラサワカラサワアマテラスオックスオックス」や「ケー」などの呪文がどういう意味だったのかは、いまだに分からない。
だが、最近団長を交えた模擬戦のときも何事か呟いていて、あまつさえ団長も同じように返して通じているようなのでちゃんと意味はあるのだと思う。
……あの二人の間で通じ合う代物なので、正直なところ理解はしたくないな、うん。
話が逸れた。
学生時代のアグリの強みは、やはり整備その他幻晶騎士の構造についても精通していたことだろう。当時から鍛冶学科にも出入りしていたようだし、他の騎操士よりも図書館に籠って勉学に励む時間が長かった。
団長のように寝食を忘れて没頭して気付いたら幻晶騎士の設計図に埋もれて意識を失っているようなことはなかったが、あの二人はそういう点もよく似ているかもしれないな。
どうやらそのころから幻晶騎士を農業に応用する、ひいてはそれを辺境にある故郷で行うためにそういった知識も積極的に集めていたようだ。
野営を含んだ行軍訓練でサロドレアにトラブルが起きたとき、皆が真っ先に頼るのはアグリだった。当然鍛冶学科の生徒も随伴していたのだが、同じ騎操士の方が話しやすいというのもあって引っ張りだこになっていたよ。
ディートリヒのように騎操士として華々しい強さがあるわけではないが、部隊に一人いてくれるとそれだけで隊の士気や稼働率が上がる、稀有な人材だった。料理も上手かったしな。野営の時、アグリと同じ班のメンバーは羨ましがられていたものだ。
――アグリさんが銀鳳騎士団に編入されたときはどう思いましたか
ライヒアラの卒業後は村に帰るのだと嬉しそうに言っていたので、銀鳳騎士団に入ることになったときは私も驚いた。……まあ、当人はその数十倍驚いていると思うが。
そして、銀鳳騎士団に入るまでエルネスティの同類とは気付かなかった。グランレオン、ガルダウィング、カルディタンクにその後継機のカルディヘッド。アグリが開発した幻晶騎士もまた、いずれもいい機体だ。
現状のフレメヴィーラ王国はカルディトーレとトゥエディアーネの導入に手一杯でアグリの開発した機体の導入には至っていないが、あれらの機体も正式に採用されれば魔獣退治や国土開発において大きな貢献をすることだろう。いまこの瞬間世間に知られているのはエルネスティの名だが、後世においてはアグリの名もまた長く讃えられることになるかもしれない。友人がそうなってくれるなら、それはとても嬉しいことだ。
――では、最後に。アグリさんは今後、銀鳳騎士団でどのように過ごすと思われますか?
………………………………………………………………まあ、私より早く年季が明けることはないだろう。エルネスティがアグリを手離すとも思えんからな。
◇◆◇
ケース2:ディートリヒ・クーニッツ
――アグリ・ボトルさんについて教えてください
また妙なことを気にするのだね。まあいい、私が知っていることならなんでも答えよう。
――騎操士としてのアグリさんの実力はいかほどでしょう
フム、騎操士としてのアグリ、か。
そうだな、優秀、とは言っていいだろう。物覚えもよく、単騎での行動も部隊としての行軍もそつなくこなす。だが一流と呼ぶには少々足りない。それが、ライヒアラ時代に私が下していた評価だった。
剣は並、槍はそれなり、盾も堅実で杖も及第点。どれも実戦で使うに足るものだったが、仮にアグリが敵に回ったとして脅威に感じるかと問われれば、まあそうでもなかろう。おそらくそれは今でも変わらない。私とアグリがどちらもカルディトーレに乗っての模擬戦を行えば、おそらく10に8は私が勝つ。
…………まあ、学生時代から既にそうしてアレコレ使いこなせる器用さを備えていたことは、よく考えたらなかなかのものなのだがね。あいつはそういうことをあまりにも自然な顔でこなすからわかりづらいんだ。というか、おそらく当人自身気付いていない。
やつの生まれ故郷に先日行ったのだが、その理由が分かった気がした。あんな環境で育てば、そりゃあなんでもこなすようになるさ。
ましてやいまではエルネスティという規格外もそばにいることだしね、磨きがかかっているだろう。
――では、最近のアグリさんの実力は
銀鳳騎士団に入ってから、騎操士としてのアグリは自身で開発した機体の操縦が主になっているな。グランレオン、ガルダウィング、カルディタンク。最近はカルディヘッドになったのだったか。
いずれも既存の幻晶騎士とは大きく勝手が違う。私も何度か試しに操縦してみたことはあるが……乗りこなせ、と言われたらどれか一つだけ、数か月の訓練期間をもらいたいところだ。
私はグゥエラリンデとトゥエディアーネで手一杯だな。操縦系統の異なる機体を当たり前のように、下手をすると戦闘中にさえ乗り換えるなど正気の沙汰ではない。
しれっとそれをこなすアグリとエルネスティは……本当に何者なのか、たまに空恐ろしくなることがあるな、うん。
で、騎操士としての力量だったか。
正直、ライヒアラ時代よりも今の方がはるかに厄介だ。使っている機体が通常の幻晶騎士ではないということもあるが、グランレオンの機動性、ガルダウィングの三次元機動、カルディヘッドの頑丈さとパワー、どれも既存の対幻晶騎士戦、対魔獣戦のセオリーが通じないからね。
良い仲間、良い騎操士、良い開発者であることは間違いない。間違いないが……どう評価すべきかと言われると、少々困るな。
現状、我が国における幻晶騎士とはカルディトーレをベースとしたエルネスティの開発による新しいスタイルのものを指す。アグリの幻晶獣機やタンクタイプも可能性は感じるのだが、既に一線で活躍している騎操士の戦力を底上げするためには採用し辛い。
だから、100年ほど経って魔獣の脅威がさらに減った時代となったら、作業用幻晶騎士の開発者としてアグリの名前も歴史の表に出てくるのかもしれないな。ハハハ。
――では、今後アグリさんは銀鳳騎士団内でも地位を上げていくでしょうか。
変わらんだろう。エルネスティに引きずり回され、そのストレス解消に畑を作り、うっかり調子に乗って畑を広げ過ぎてヘルヴィに蹴り飛ばされて嘆く。
あれで、今の生活を楽しんでいるのだよ、アグリは。
◇◆◇
ケース3:ヘルヴィ・オーバーリ
――アグリ・ボトルさんについて教えてください
……あいつまさか、今度は街道の方まで畑広げたんじゃないでしょうね!? ちょっと止めに……え、違う? 話を聞きたいだけ? なんだー、それならそうと早く言ってよ。またあのバカが無駄に開墾しようとしたのかと思っちゃったじゃない。
――アグリさんのことで相談があればまずヘルヴィさんに聞け、と銀鳳騎士団内では言われています
まあ、いまので分かる通りどういうわけか私がアイツのストッパーみたいな感じになってるわねえ。
……昔はそうでもなかったのよ。ライヒアラ時代は、普通に騎操士見習いだったの。でも、物覚えは早かったからそれこそ最初のころに幻晶騎士の動かし方を覚えるのは一番早かったのよ。
村のおじさんたちがいろいろ扱いが得意で教えてくれたって言ってたけど、事実なんでしょうねー……。さすがに幻晶騎士の動かし方までは教わってないと思いたいけど、どうかしら。
……そんなだったのに、いまじゃ暴れに暴れてるからわからないものよねー。
一応フォローしておくと、仕方ないところもあるのよ。あいつ、ライヒアラのころはことあるごとに「俺、ここを卒業したら村に帰って畑継ぐんだ……」って言ってたし。それがどういうわけか銀鳳騎士団第二の幻晶騎士開発者になってるし。多分、あいつとしては人生設計狂ったってレベルじゃないんでしょうね。まあ、団長に目を付けられた以上絶対に逃げられないと思うけど。
――ストレスが多いようですね。最近変わった様子はありますか?
元からと言えば元からだけど、ボキューズ大森海から帰って以来ますます畑に執着するようになったわ。最近なんて、森の中に巨人族が動き回れる広場を作ったんだけど、その時ついでに井戸を掘って水路を引いてその周りを畑にしようとしてたし。もちろん私が止めたけど。
グランレオンで森を切り開いて、カルディヘッドで運び出して、他に必要なものがあったらガルダウィングで買い出ししてくるとあっという間に何でもできるのよねー。その辺は、素直にすごいと思うわ。
あいつ、さすがにそろそろあの辺の開拓欲とかその辺を発散させなきゃ暴走しかねないんじゃないかしら。どっかに大きな工事とか転がってるといいんだけど。
――つまり、銀鳳騎士団から飛び出す可能性があるということでしょうか
……ははーん、本当に聞きたかったのはそれね?
心配しなくても、あいつはあいつよ。団長に駆り出されて幻晶騎士を開発して、その憂さ晴らしに畑を作って私にしばき倒される。それは変わらないわ。
なんだかんだ言ってお人よしだから頼られたら嫌とは言えないし、仮に逃げ出したとしても団長が地の果てまで追いかけてでも縋りついて戻るよう頼むだろうし、そんな風に度胸決められるくらいならとっくに飛び出してるもの。
……だから、オルヴェシウス砦がオルヴェシウス農場にならないように注意しなきゃいけないんだけどね。責任重大だわ。
――では、最後に。アグリさんととても仲がよろしいようですが、何かこう……そういったご関係なので?
……う゛えぇ。(報告者注:なんか名状しがたいイヤそうな表情でした)
…………そう思われるのが仕方ない面もあるとは思うけど、応えは「ノー」よ。いやまあ嫌いじゃないし、悪いヤツだとも思ってないけどそういう対象じゃないかなって。多分、弟がいたらあんな感じなんでしょうねえ。放っておけないというか目を離せないというか、何かやらかしたときにしばき倒すのに遠慮がいらないというか。そんな感じ。
だから、「いい友達」なのかしらね。
……というか、一応私には本命がいるんだから間違ってもそういう噂広げたりしないでよ!?
◇◆◇
ケース4:ダーヴィド・ヘプケン
――アグリ・ボトルさんについて教えてください
アグリと? そうさなあ、やつと初めて知り合ったのはまだライヒアラの鍛冶学科にいたころになるか。よくよく考えてみると、銀色坊主よりも付き合い長いな。まあ、エドガー達同期組ほどじゃないとは思うがよ。
鍛冶学科と騎操士学科はどっちも幻晶騎士に関わるんで生徒同士のつながりも強いんだが、あいつの場合は別格だ。
つながりが強いと言っても、鍛冶師は鍛冶師、騎操士は騎操士で当然やることは違う。付き合いは長くても、俺たちは幻晶騎士を作って直す。騎操士はそれを使う。使い方の良し悪しやら調整やら程度で話し込むのが基本なんだが……あいつは、槌を持つようにまでなりやがった。
幻晶騎士の構造についても知っておきたい、とか言っていやがったな。騎操士学科で訓練して、図書室に籠って本を読んで、鍛冶学科に顔を出してパーツを弄る。学生のころはずっとそんな生活してやがったよ。
腕の方は、まあまあってところか。筋は悪くないから、田舎に帰って鍛冶屋をするくらいなら十分だろうが、幻晶騎士の鍛冶師をするなら俺たちドワーフでなきゃ務まらねえ。
ただ、それはそれとしてなんとかしてみようってところは……へっ、まあ悪くなかったさ。
――銀鳳騎士団の同僚となってからはいかがでしょう。
騎士団の所属となってからは、俺たち鍛冶師にとってのアグリは第二の銀色坊主って感じだ。
ちょうどツェンドルグを作ってた頃に合流してきて、それ以降はグランレオンを筆頭に銀色坊主に勝るとも劣らねえ新しい幻晶騎士を作り始めたからな。……まあ、あいつの場合は銀色坊主と国王陛下の命令で仕方なく作ってる面が無きにしも非ずなんだが。
とは言っても、やつは新しい技術を最初に作り出すってわけじゃねえ。四脚にせよ魔導噴流推進器にせよ、銀色坊主が基礎を固めたところで新しい方向性を示してる。
カルディタンクの結晶動軸だって、元になるものはあったわけだしな。
……なのに、どうしてかあいつが作るものはそれこそ銀色坊主の作る幻晶騎士よりも見た目が妙なことになるんだよなあ。どういう頭してるんだ?
――仕事ぶりは問題ない、ということでしょうか。
おう、鍛冶師からの評判もいいぜ。銀色坊主と違って訳の分からないものを一から作らされることがないからな、その点は楽だ。
少々管理がキツいのは難点だがな。とはいえ、その分資材が足りないだの工具の場所がわからねえだのそういうことはなくなるから、他の開発でもアグリのやってる管理の仕方は真似し始めてる。
銀鳳騎士団は普通の工廠と違っていつまでに何をどれだけ作る、ってえ仕事じゃあなく試行錯誤してなんとかかんとか新しいものを作り上げることになるが、だからこそ途中で部品が足りなくなった、なんてことになると他の全てが止まりかねねえ。今何があっていつどれがいくつ足りなくなりそうなのか、把握しておくにはアグリのやり方は便利だぜ。
銀色坊主もその辺は認めてるからな、仲のいいもんさ。工房じゃあ顔を合わせるたびに話し込んで、なんか「ご安全に」とか言って別れてるしな。
――では、今後も銀鳳騎士団で活躍してくれるだろう、と。
……その質問、アグリにはしてやるなよ?
なんだかんだで銀色坊主のお気に入りで、どんなに村に帰って農業したいと思っても放してもらえるとは思えねえんだからよ。
ま、オレとしてはその方がありがてえな。あいつの作る機体も、なんだかんだでおもしれえ。銀色坊主とアグリがいれば、鍛冶師は退屈しねえさ。
ケース5:アデルトルート・オルター
――アグリ・ボトルさんについて教えてください
先輩のこと?
そうねえ、なんだかんだでそれなりに長い付き合いな気もするけど、私とキッドが先輩と知り合ったのはちょうどツェンちゃんを作ってた時だったわね。
エルくんから頼まれて、最初のころ複座式だったツェンちゃんの操縦系統のシステムを組んでるときに、参考になることを知ってるからってエルくんが連れて来たの。
……つまりそれ以前から先輩はエルくんと放課後の図書室で仲良くしてたってことなのよねぇ……! 羨ましい……!
――あ、あの。
ああ、ごめんなさい。先輩とエルくんが夕焼けの図書室で一つの本を寄り添って覗き込んでたり、そのとき指先が触れ合ったりしてるのを想像しちゃって、つい。私もそういうのしたかったなーって思ったから。
えーと、まあそんな感じで引き合わされて、ツェンちゃんのシステム構築を手伝ってもらったの。すごかったよー、先輩。元々四脚幻晶騎士の制御系について先輩自身研究してたらしくって、先輩が持ってきたシステムはそのときにはもうある程度形になってたの。それと……エルくんが構築した術式の理解がすごく早かったわね。
「うーん、オブジェクト指向」って、なんのことだったのか正直今でもわからないけど、まるでエルくんのシステムの組み方をはじめから知ってたみたいだった。
――騎士団内におけるアグリさんの仕事や働きぶりはいかがでしょう。
よくヘルヴィ先輩にしばかれてるわね。
大体、製図してるか畑作ってるか鍛冶師のみんなと話し込んでるかエルくんにしがみつかれてるか畑作ってるかヘルヴィ先輩に蹴り飛ばされてるか、だと思う。
お仕事はしっかりしてるみたい。よくエルくんと夜遅くまで話し合ってるし。ぐぬぬ……!
先輩が作る幻晶騎士は、うーん、私はよくわからないかなあ。
グランレオンなんかはツェンちゃんと近い部分もあるんだけど、やっぱり人型部分がないから操縦感覚は大分違ってくるし、歩いたり走ったりくらいは出来ても、飛んだり跳ねたり戦ったりは無理だと思う。
うーん、やっぱり先輩ってエルくんとよく似てるのかも。自分の好きなことに一生懸命だし、幻晶騎士の使い方がなんか変だけど強いし。
――では、今後もアグリさんは銀鳳騎士団で活躍してくれるだろう、と
うん、それは間違いないと思う。というか、エルくん的には先輩も幻晶騎士枠のような気がするのよねー。……でも、エルくんのことを一番好きなのは私だから! そこは譲らないから!
◇◆◇
ケース6:エルネスティ・エチェバルリア
――アグリ・ボトルさんについてお話を聞かせてください
先輩のことですか!? ええもういくらでも! 初めて出会ったのはライヒアラに入学してすぐ! 図書室で幻晶騎士に調べていた時に見かけた同好の士こそが(以下、数時間に及ぶ熱弁の圧によって筆記不可)
――え、えーと、お話はよくわかりました。つまりアグリさんとエルネスティ団長は公私ともに親しい間柄だと
はい、大体そんな感じです。新しい幻晶騎士を作るとなったとき、ダーヴィド親方やバトソン、エドガーさんたちの意見ももちろん重要ですけど、やっぱり最初は先輩と話をしてイメージを膨らませるのが楽しくて楽しくて。
ボキューズ大森海に行く前にシルフィアーネを作ったときも、まずは先輩とのブレーンストーミングでしたねえ。「とりあえず、エーテリックレビテータに過剰なくらいエーテル突っ込んで光の翼が出るようにしてですね」「それは後継機でやりなさい」的なやり取りをしました。
……はぁ、やっぱりいいですねえ。先輩と次の新型機のお話したくなってきました。
先輩の発想は、僕にはない物ばかりです。僕はこう見えて幻晶騎士が、それも人型の幻晶騎士が大好きなものでして。でも先輩はその辺りにこだわりがないみたいです。より大きなパワーが必要で、そのためには機体を安定させなきゃいけない、となったら迷わず多脚やタンク脚を採用するくらいに。そうやって作られる機体がまたいいんですよねー。
僕は先輩の一番のファンですから。銀鳳騎士団の中でも、いえこのフレメヴィーラ王国の中でもトップであるつもりです!
あと、先輩はうちの家族とも仲良くしてくれてます。
先日も先輩が育ててる野菜をたくさん家に持ってきてくれて母様が大喜びでした。そのあとは母様に誘われた先輩と家族一緒に食事しましたし。
そういうやり取りはちょくちょくありまして、今では先輩と母様は食材やレシピを交換し合う仲です。母様の料理はもちろんおいしいですけど、先輩の料理もいいんですよねー。野営の時に作ってくれるものももちろんですが、ちゃんとした料理もおいしいんですよ!
――よくわかりました。これからもお二人は銀鳳騎士団での機体開発を続けていくのですね
はい、それが僕のライフワークですから。
先輩についても、とりあえずボキューズ大森海からの「おみやげ」を使えるようにしてあげて、任せようと思っています。
ぐふぐふふ、きっといいもの作ってくれるんでしょうねえ。あ、でもアレを使うとなると普通の幻晶騎士開発設備じゃ広さが足りないかもしれませんね。先輩に頼んで、いまのうちにレビテートシップの建造も可能なドックを作ってもらいましょうか。グランレオンたちがあれば割とさっくり作ってくれますし。
――では、最後に。今後アグリさんを銀鳳騎士団内でどのように遇するつもりかお聞かせいただけるでしょうか
先輩の扱いですか? 特にこれまでと大きく変える予定はないです。なので、基本は新型機の開発を手伝ってもらうことになりますね。
正直、僕としては先輩に銀鳳騎士団内で一部隊を預かってもらってもいいと思っているんですが、ヘルヴィさんからやめといたほうがいいと言われてまして……。
その辺の事情もあるので、少なくとも今後しばらくの間は僕の直属という形で幻晶騎士開発、新型機のテスト対応、新施設の建造・整備をお願いすることになると思います。
……楽しみですね。先輩と一緒にまだ見ぬ幻晶騎士を開発するのって、本当に!
だから先輩とは、これからもずーっとずーっと一緒です!!
――ありがとうございました
◇◆◇
結論。
アグリ・ボトルは身辺調査も含めて総合的に問題のない人物であると判断できる。
出身はフレメヴィーラ王国内。経歴にも諸外国との思想的な繋がりや影響はなく、銀鳳騎士団内での信頼も厚く、しかしごく一部からは適度に警戒もされている。
話す内容の端々に理解不能なナニカが混じることもあるようだが、その辺りはエルネスティ・エチェバルリア団長もよく発しているようなので問題はない。
恐らく手綱を放してしまえば辺り一面畑に変えるか、あるいは故郷の村までの道を畑に変えながら帰ろうとするだろうが、銀鳳騎士団第三中隊長ヘルヴィ・オーバーリがその動きを完全に掣肘できるのでこちらも問題にはならない。
唯一の懸念事項は、至極まともに取り組んでいるその職務が暴走しないかどうか。
アグリ・ボトル自身にその意図がなかったとしても、エルネスティ団長麾下でよくあることそのままに、なんかまた得体のしれない幻晶騎士を開発してしまう可能性が考えられる。
特に、エルネスティ団長の言っていた「ボキューズ大森海からのおみやげ」なるものが一体何なのか、そしてどのように扱われるか、注意が必要と思われる。
しかし、なんかもうどうあっても銀鳳騎士団からは逃げられない感が漂っているので、警戒は最小限とすべきである。
多分こいつはずっとエルネスティ団長のお付きとなるだろう。
~藍鷹騎士団編纂、銀鳳騎士団調査録より抜粋~
◇◆◇
「うひぃっ!?」
「なによアグリ、風邪でも引いた?」
「……いや、なんかこう、急にめのまえがまっくらになった、というか未来が闇で閉ざされた気がするというか、エルくんのお母さんにネガティブウェーブくらって明日への希望を奪われた気がするというか。いかんいかん、こういう不安を紛らわすには農業に限る! 巨人族の人たちにもフレメヴィーラの作物を食べて欲しいし、ますます畑広げなきゃ!」
「あの人たちは基本魔獣を狩って食べてるんだから必要ないでしょ! 変な口実見つけた気になってんじゃないわよ!?」