俺は、農業がしたかっただけなのに……!   作:葉川柚介

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純エーテル代謝生物<宇宙怪獣>……ってコト!?

「紅隼騎士団、出撃準備! トゥエディアーネを起動しろ!」

「上部甲板準備よし! 順次出撃して空中で隊列を整える!」

 

 飛翼母艦「イズモ」。

 エルネスティの要請を受け、フレメヴィーラ王国から浮遊大陸までやって来た銀鳳騎士団の母艦がいま、ここまでの旅路の中で最大の喧騒に揺れていた。

 出撃直前のあわただしさは全乗員に共通で、上部甲板へと次々上げられていったトゥエディアーネがマギウスジェットスラスタの爆音を響かせ出撃していく。

 

 浮遊大陸を覆う嵐が消え去り、藍鷹騎士団と合流を果たした銀鳳騎士団本隊。

 誘導に従って当座の拠点というところまであと少しというところで目撃されたのが、この地に住まう人に近い種族、ハルピュイアの大群だった。

 ただならぬその雰囲気は遠くからでも戦闘中だとわかるもので、ひとまず事態の収束、味方陣営の救援に向かわなければならない。

 

 ……ということを口実として、ここまでがんばって大人しくしていたディートリヒが暴れたがった。

 彼の率いる紅隼騎士団もまた、定期的に血の気を発散しなければ体がはちきれて爆発四散するタイプの猛者揃い。どう考えても穏便に収まりそうな事態でもないしちょうどいいか、というのはエドガー、ヘルヴィ、ダーヴィドたちエルネスティを除く銀鳳騎士団首脳陣にも共通の思考でもある。

 その結論が下った結果、晴れて出撃の許可が下りて慌ただしい出撃の時間と相成った。

 

 作戦目的はイズモの護衛、状況の確認、味方陣営のハルピュイアの救援。

 課題は多い、ように見えてその実やることは「やりすぎない程度に殴る」に尽きる。実に紅隼騎士団向きの任務である。

 

 少なくとも、ディートリヒはそう思うことにした。

 そのくらいの胆力が無ければ銀鳳騎士団の中でやっていけないし、もはや懐かしさすら覚える銀鳳騎士団第二中隊時代からの部下たちを率いていけないのだから仕方ないのだ。

 

 それに、今日はお楽しみもある。

 

「『エスクワイア・ファルコン』、出ます!」

 

 すなわち、新兵器。

 エルネスティ大興奮請け合いのシチュエーション、というやつだった。

 

 航行中のイズモの上部甲板にて、空中戦が予想される状況だというのにディートリヒは近接戦仕様機(ウォーリアスタイル)であるグゥエラリンデに搭乗している。

 強く風が吹きつけてくるこの場、マギウスジェットスラスタを搭載しているとはいえ用途が限定的であるグゥエラリンデの戦場にはふさわしくない……というのが、これまでの常識だ。

 だがエルネスティは、銀鳳騎士団は、いつも常識を塗り替える。

 

 その証明こそが、グゥエラリンデのさらに後方のハッチから姿を現したもう1機の幻晶騎士である。

 

 いや、正しくは「1機」とは言い難いだろう。

 なにせそれは「上半身だけの幻晶騎士」なのだから。

 

「連結用補助腕(サブアーム)展開! 魔導演算機(マギウスエンジン)制御権移譲! 操作お願いします!」

「了解した。……よし、同期完了。強化魔法範囲変更。――合体完了だ」

 

 

 源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の技術を手に入れたエルネスティは、飛翔騎士を作り上げた。

 さらにボキューズ大森海での出来事で開放型源素浮揚器(エーテルリングジェネレータ)を開発するに至り、新しい目標を見出した。

 すなわち、「近接戦仕様機そのものを飛ばす」という課題だ。

 しかも、イカルガのように膨大なマナ出力にものを言わせた強引かつ代替不能な方法ではなく、という条件付きで。

 その検討の果てにたどり着いた結論が、この<エスクワイア>だった。

 

 ベースとなっているのは、カササギ。

 無人の幻晶騎士型追加装備とでもいうべきもので、独立したエーテルリアクタとエーテリックレビテータを持つ、飛行能力を持たせることを目的としている機体だ。

 本体である幻晶騎士と合わせれば余裕のあるマナ出力によってマギウスジェットスラスタも駆使すれば、人型にして飛翔騎士に比肩する飛行能力を有するに至っている。

 

 無論、問題もある。

 新技術もふんだんに搭載されていることにより幻晶騎士1機を新たに建造するのに近い製造コストがかかり、複雑化する操作系統、運用に必要とされる母艦の容積と整備人員が増える点。

 それだけのコストをかけるにふさわしい戦果を期待できる騎士団長クラスにのみ配備されているのが現状で、今後の発展は未知数ながら幻晶騎士に一つの可能性を示すものであることに違いはない。

 

 そんなエスクワイアを託される誇りを胸に、この装備を伴う初陣の空を前にディートリヒは胸を張る。

 

「さて、エルネスティたちの期待に応えるとしようか!」

 

 

 なお、余談であるが。

 エスクワイアの技術的な前身がカササギであるのは見た目からも明らかなことであるが、「幻晶騎士の背にドッキングして飛行をサポートする」という思想そのものはアグリのガルダウィングのころから想定されていたものであり、エスクワイアの持つ翼や接続機構にもその知見が生かされていて。

 

 そのことを悟ったアディが「エルくんと先輩の子供みたいでムカつく」と言ってアグリを射殺しそうな目で睨むという一幕もあったりしたが割とどうでもいいので割愛とさせていただこう。

 

 

 カタパルトから飛び出したグゥエラリンデは、翼としての役割と形を与えられた可動式追加装甲で姿勢を安定させつつ加速する。

 エスクワイアの感触は、飛翔騎士の操縦も心得があるディートリヒとしても満足のいく反応が返ってきた。

 そのことに口の端を上げるころには、既に紅隼騎士団の飛翔騎士が隊列を組んで並んでいる。準備は、できた。

 

「ようし、いくぞ君たち! 今回の目的は状況の確認だ、いきなり殴りかかるなよ! 殴っていい相手を見極めてからだからな!」

「ヒャッハー!」

 

 ちゃんとわかってるのかなあ、という不安を抱かないでもなかったが、根は悪い子たちじゃないし大丈夫、と思うことにしながらマギウスジェットスラスタの出力を上げ、さらに加速する。

 隊列を崩すことなく追従してくる部下たちの腕前に対しての信頼と、精神に対する微妙な不安。騎士団長は辛いなあと思いつつも、戦いの空へと翔けていく。

 

 

◇◆◇

 

 

「――なに、キッドが? ……本当にいるじゃないか。何をしているんだ一体」

 

 飛翔からしばらく、進行方向上に同じく村へ向かっていると思しき魔獣、三頭鷲獣(セブルグリフォン)が見える。そのこと自体に不思議はない。ハルピュイアはそういう魔獣と行動を共にする、と事前にノーラから聞かされていた。

 だが、その背に乗っている二人分の人影のうちの一つが今はクシェペルカ王国に出張している銀鳳騎士団の同僚、アーキッド・オルターのものとなれば話は別だ。

 

 とりあえず部下は遠巻きにさせつつ先行して合流することにした。

 この場に揃っている飛翔騎士や新装備はキッドが銀鳳騎士団を離れてから完成したものばかり。最悪の場合敵とみなされて攻撃される可能性があり、そうなったら紅隼騎士団は嬉々として反撃をしかねない。命のやり取りにはならないだろうが、その手前くらいまでならやらかしかねないという信頼が辛い。

 ともあれ近づいてみれば、驚愕の顔を浮かべている騎手は確かにキッドのものだった。

 しかしもう一人、協力関係にあるというハルピュイアと思しき少女の目付きは険しい。初対面となる所属不明の幻晶騎士相手なのだからさもありなんだ。

 となれば、ひとまず声をかけて安心させてやらなければならない。

 

「やはりキッドか! 調子は良さそうだね?」

「ディーさん! なんでグゥエラリンデが飛んでるんだ!? 背中に先輩のガルダウィングみたいなのついてるけど!」

「気にするな、いつも通りエルネスティが張りきって、アグリがそれに付き合わされただけだ!」

「ああ、やっぱり」

「それで納得するのか!? あれだけの空を飛ぶ地の趾を!?」

 

 キッドとの銀鳳騎士団会話に置いて行かれたハルピュイアの反応に新鮮さを感じつつも、ディートリヒは必要な情報を集めていく。旧交を温めるのは「仕事」を終えてから。それが銀鳳騎士団のスタイルなれば。

 

「で、キッド。我々は、誰を斬ればいい(・・・・・・・・・・・)?」

「下にいる幻晶騎士と、共闘してるハルピュイアはこっちの味方! 敵は……<魔王>だ」

 

 魔王。

 エルとアディ、そしてアグリを助けに向かったボキューズ大森海で出くわした巨大な異形。

 強大なあの力の持ち主と同じ名前に、ディートリヒの勘が警戒しろと囁いてくる。

 油断ならない強敵であったことはもちろんのこと、小鬼族(ゴブリン)と呼ばれていた大森伐遠征軍の末裔を統率し、巨人族の傘下で虎視眈々と牙を研ぎ続けたその意思。

 あの執念深さを考えれば、生き残り浮遊大陸まで流れ着いて再起のための力を蓄えていたという話であろうとも、ありえないと断じるには根性がありすぎた。

 ともあれ、状況は大体わかった。少なくとも、紅隼騎士団にとっては十分だ。

 

「わかった。……紅隼騎士団! 最優先目標は小魔導師(パールヴァマーガ)たち味方陣営との合流! それと並行して魔王の捜索と対応をするぞ! それから、1騎は本陣へ『敵は魔王軍』と伝えに行ってくれ」

「ディーさんが突撃しない……だと!? ていうか紅隼騎士団て!?」

「キッド、君ね……。私も色々あったんだよ。いまや、銀鳳騎士団の第二中隊を母体とした騎士団を預かる身なのさ、私も。だが、積もる話はあとにしよう!」

「くっ、めちゃくちゃ気になるけど仕方ない……! そういえば色々あってエルたちにも聞けてなかったしなあ!」

 

 キッドが戸惑っているが、戦闘は刻一刻と激しさを増している気配がある。

 とにかく状況の確認と制圧が必要だ。

 エスクワイアの推力を上げ、飛翔騎士たちと陣形を組んで戦端の開かれているハルピュイアたちの巣上空へと飛び込んで行った。

 

 

◇◆◇

 

 

「なるほどなあ……そう来やがったかあ……」

「『魔王』とはな。まさか人生の内でその名を二度聞くとは思わなんだ」

「エルネスティの行くところだから想像の一つや二つ超えてくるとは思ってたけど、いきなりすごいのきたわね」

 

 魔王と交戦中。

 紅隼騎士団からさっそく届けられた情報を受けて、イズモに残っていたダーヴィドたち首脳陣3人はさっそく頭痛に苛まれた。

 浮遊大陸と聞いて、エムリスがさっそく冒険に飛び込んだ。それはいい。人となりを知っていれば納得できる。

 そんなエムリスと、ついでに連れていかれたキッドを追ってクシェペルカ王国へ新婚旅行中だったエルネスティが探しに行った。これもいい。エルネスティならそのくらいのことはする。

 それらの報を受け、「あ、これ絶対銀鳳騎士団の全戦力が必要になるヤツだ」と察してイズモを持ち出した自身らの慧眼を誇らずにいられない。

 

 とはいえ、どうしたものか。

 確かに銀鳳騎士団全戦力の用意があり、必要とあらばどんな相手との交戦も辞さない覚悟はある。

 だが、相手は魔王。かつてボキューズ大森海の奥地では誇張なく山のように巨大な魔獣を使役していた人物であれば、本格的に事を構えるのはエルネスティと合流してからの方がいいかもしれない。一番面白いところでのけ者にされた、とエルネスティが拗ねるかもしれないし。

 

「本格的な攻撃はお待ちください。私にいい考えがあります」

 

 そんな悩める3人に救いの手を差し伸べたのは、意外なことにノーラだった。

 藍鷹騎士団の団員として情報収集と工作に長けた逸材。銀鳳騎士団、ひいてはフレメヴィーラ王国にとってなくてはならない人物ではあるが、こうして作戦行動の内容に口を出すのは珍しい。

 

「何か勝算……いや、情報があるのか?」

「はい。敵は大森海で小王(オベロン)として振る舞っていたのに加え、浮遊大陸で魔王としてハルピュイアの一派を率いているという情報を得ております。――そこに、私たちが得た新たな情報を合わせると、交渉の余地が生まれるかもしれません」

 

 中々に驚くべき話だ。

 強大な力と我の強さ、そしてかつてエルネスティにボコボコにされたという因縁。それらを合わせて考えてなおこちらへの敵対行動を翻させられる可能性がある、と。

 それはそれで空恐ろしく、「新たな情報」とやらはあんまり聞きたくないなあとダーヴィド、エドガー、ヘルヴィの3人は思わずにいられなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

「……小魔導師。あの、魔王の手に捕まっている彼女が協力者かい?」

「……ああ、ハルピュイアのエージロ。友である」

「なるほどな」

 

 キッドと分かれ、戦場に突入した紅隼騎士団。

 飛翔騎士を操る団員たちは混成獣(キュマイラ)相手に奮戦して味方陣営を守り、さらに奥へと踏み込んだディートリヒはそこに敵の首魁と思しき異形、穢れの獣(クレトヴァスティア)を思わせる魔獣を見つけた。

 この状況に置いてそんなものが無関係にうろついているとは思えない。どうあれ斬るべきと判断したディートリヒは、いまのグゥエラリンデが持ち得る最大武装である魔導剣(エンチャンテッドソード)を迷わず抜いた。

 直撃すれば相手が魔王といえど十分に倒しうるだろう威力を秘めるその剣と、やけに気の抜けた様子の隙をつけたこと。勝利は十分にあり得た。

 

 斬撃の直前、グゥエラリンデの前に小魔導師が割り込まなければ。

 

 グゥエラリンデの機体そのものを振り回すようにして攻撃を中断し、小魔導師を回避。

 体勢を立て直したころには既に魔王に気付かれ、不意打ちはできない状況になっていた。

 

 敵に利するような小魔導師ではない。

 そう思いながら改めて魔王の様子を窺えば、幻晶騎士と同等の巨大さを誇る魔獣の手のような部分に捕まれた人影が。

 一見人のようでありつつも、装飾なのか生えているのか羽毛が体のところどころを覆っていることを考えれば、この地に住むというハルピュイアという可能性は十分にあり得た。

 そこまで分かれば、状況の推測は難しくない。

 

 魔王が、人質を取っている。

 

 結果、今の状況に至る。

 小魔導師を隣に、魔王と対峙するグゥエラリンデ。

 振るわれることこそなかったものの、かついだままの魔導剣は発動直前まで集めた大気の層に揺らめき、解放の時を待っている。

 魔王は無造作に片手を突き出し、その気になればいつでもハルピュイアの少女を握りつぶせると示している。

 

「しかし、『魔王』が随分小さくなったものだね?」

「ほぉ? かつての魔王を知っているということはあの戦いの場にもいたか。やれやれ、エルネスティ君は忠犬を飼っているようだね」

「ははは、それは光栄だ。では、忠犬らしく敵を食いちぎろうか?」

「やってみたまえ。そのとき、この風切の雛がどうなっているかは保証しないがね」

 

 手に力を入れたのだろう。うめき声をあげるハルピュイアのエージロ。

 ディートリヒも紅隼騎士団の団長として相応の腕前を誇り、乗騎グゥエラリンデはマギウスジェットスラスタを搭載しているし、いまはエスクワイアとも合体している。瞬発力は幻晶騎士の中でもかなりの上位に位置するが、それでも彼我の距離と人質の状況と魔王の持つ能力を考慮すると、いかなる手段を用いても人質の救出はできそうにない。

 

「私はいまこのお嬢さんと話し合いの最中なんだ。きみは邪魔だから、とっとと武器を下ろしてどこぞへ失せたまえ」

 

 ならば。

 

 

「いや、それはできない」

 

 

 魔導剣を構え、マギウスジェットスラスタに火を入れながらグゥエラリンデを踏ん張らせてその場にとどまる。

 今この瞬間にも、最大速度、最大火力を叩き込む。そういう姿勢を、崩さない。

 

「なっ……! 話を聞いていなかったのか!? お前が下がらないならこのハルピュイアを殺……」

「殺したならば、その次の瞬間お前を斬ろう」

 

 必殺。

 その意思が幻晶騎士の構えと剣からわずかににじみ出る。溢れはしない。殺意は全て、身の内に貯めてある。

 

 小王は魔王の中でたじろいだ。交渉が、通じない。

 いや、通じはするのだろうが、その土俵に乗ってくる気がないのだ。

 

 一応、小王としてはこのハルピュイアを殺すつもりはあまりない。

 要求を呑ませたうえで解放し、この村のハルピュイア諸共傘下に収めることこそ最良と思っている。

 とはいえただのハッタリだと思われない程度の振る舞いはするつもりでいるが、目の前の相手はその時点でアウトと断じて斬りかかってくる気しかしない。

 小王のような脅しではなく、本気の本気で。そう思わせるだけのスゴみがある。

 

 竜王体を失ったとはいえ、小王が操るのは魔王。幻晶騎士の1騎ごときに後れを取るなどありえない。

 だが、互いに一歩で間合いに入る距離で向かい合った状態では。

 人質を突きつけた魔王と、剣を構えてマギウスジェットスラスタもスタンバイ状態で轟音を響かせているグゥエラリンデ。

 

 一手、後れを取ることは避けられない。

 ハルピュイアを握りつぶすことはできるだろう。あの幻晶騎士を腐食の霧で溶かし潰すことも可能なはずだ。

 だが、あの覚悟。負けたとしても、死んだとしても、魔王を両断せしめるだろうという確信が、剣より鋭く小王の胸を貫いた。

 

「エージロ、と言ったか。突然こんなことになってしまってすまない。もしもの時はすぐ、この命に代えても仇を討つので許してほしい」

「ううん、大丈夫。小魔導師、そうなったら私の羽をホーガラに渡してあげて」

「……任せろ。百眼にかけて誓おう」

「待て待て待て! なにを勝手に覚悟を決めているんだ君たちは!? ここは多少信用できなくとも人質の命を守るために武器を捨てるところだろう!? そりゃあ君たちとは敵対したが、こうまで発言を疑われるようなことまでしてはいなかったと思うぞ!?」

 

 小王の強みは魔王の戦力。

 腐食の霧を含めた絶大な魔力によって繰り出す法撃は並みの幻晶騎士を寄せ付けない。

 そして同時に小さからぬ弱みも持っている。

 

 すなわち、「小王自身の命が何より優先される」という点だ。

 最悪の場合自身が死んでも仲間が、エルネスティが目的を遂げるだろうと信じればその身を投げ出せるディートリヒに対し、小王はその選択肢を死んでも選べない。選べるとしたら、せめてエルネスティを血祭りにあげた後だ。

 そこを補うのが人質だったはずなのだが、なんかハルピュイアの死生観が思った以上にガンギマっていた。これはまずい。人質を抱えている限りあの狂犬に狙われる。むしろ不利になったまであった。

 おのれエルネスティ。半分八つ当たりの怒りが小王の胸で新たに燃える。

 あらゆる手札を検討したうえで腹をくくったディートリヒに代わり、今度は小王が状況打開の策を全力で考えなければならない有様だった。

 

 そのとき。

 

「……む? おい、なんだあの船は! そちらの仲間だろう!?」

銀の鯨(ジルバヴェール)二世? ノーラが来たということか……?」

 

 雲よりも濃く、素早く太陽を遮る影があった。

 見上げればそこには飛空船。銀鳳騎士団の旗艦であるイズモと行動を共にしていたはずの、エルネスティが乗ってきた銀の鯨二世号だった。

 いまあの船を動かしているのは、エルネスティの命を受けた藍鷹騎士団。つまり、ノーラが何かをしに来たということだろうとディートリヒは悟る。

 加勢の可能性は低い。ノーラは頼りになる仲間だが、正面切っての戦闘よりも隠密行動と奇襲を得意とする。

 それがああも目立つ形で姿を見せた。しかも、銀の鯨二世号から飛び降りてきた幻晶甲冑も1騎いる。つまり、何か別の狙いがあるのだろう。

 

「お初にお目にかかります、魔王……あるいは小王。フレメヴィーラ王国藍鷹騎士団所属、ノーラ・フリュクバリと申します」

「ほぉ……つまり、またエルネスティ君のお仲間か。やれやれ、次から次へと」

 

 その幻晶甲冑の腕は翼のような形をして、滑空が可能だった。

 魔王の前、グゥエラリンデとの中間にふわりと着地して恭しく名乗り、小王との交渉の場に乗り込んできた形になる。

 

「我々はエルネスティ様よりこの地の情報を集めるよう仰せつかっております。……そうして得られた欠片の一つ、知らねばあなたは後悔することになると思い馳せ参じた次第です」

「……………………かつてないほどに聞きたくないねえ」

 

 エルネスティの部下という、それだけで絞め殺したくなるような身分。

 知らねば後悔するという、この浮遊大陸に関する情報。

 人質を取っていながら激突寸前のド真ん中へ飛び降りてくるに足るという自信、確信。

 

 この話を聞いたとき、きっと自分は死ぬほどイヤな思いをするだろう。

 小王がノーラのうっすらとした笑みを見て抱いた予知に近い直感は、ほどなく現実のものとなる宿命だった。

 

 

◇◆◇

 

 

「……いやはや、想像以上ですね。エーテルの専門家としての意見を聞かせてもらえますか、オラシオさん」

 

 エルくんのその言葉が、沈黙に満ちた飛竜戦艦の環境に久々に響いた声だった。

 修理の成った飛竜戦艦でたどり着いた、光の柱の近く。

 地から溢れ、天へと逆巻く虹色に揺らめくエーテル光。

 飛空船の実用化からこっち、俄かに注目され研究も進みつつあるエーテルだが、こんな現象は見たことも聞いたこともない。

 目で見てわかるくらい高濃度のエーテルが、飛竜戦艦を飲み込みそうな太さで地中から流れ出し続けているなんて。

 

「最悪、の一言ですねえ。ああして流れ出しているのは見ての通りエーテルですし、すさまじい量で絶えず溢れ続けているとなると、これまでどれだけ出たのか、このあとどれだけ出続けるのかわかったものじゃありません。この大陸がレビテートフィールドで浮いていることはこれで証明されたわけですが……あと何時間ですかぁ?」

「元の量次第ですね」

「ですよねえ」

「卿ら、我らにもわかるように話せ」

 

 光の柱から目をそらさず、早口でまくし立てるオラシオさんと普通に返事するエルくん。

 それに痺れをきらした王女殿下がいよいよ頭を押さえつつ問いかけるが、オラシオさんは今もブツブツとつぶやきながら思案中。エルくんも窓にへばりついて観察を続けている。あれー、これってもしかして王女殿下が放置されるヤツ?

 

「失礼、私から。この浮遊大陸は今、エーテリックレビテータに穴が開いた飛空船と同じということです。このままあの光の柱からエーテルが流失し続ければ……」

「……落ちる。しかも、いつまで浮いていられるかわからない、と」

 

 パーヴェルツィークの人たちが息を飲む。

 「戦略物資ドバドバの新天地を飛竜戦艦でほぼほぼ支配したと思ったら、全部消えてなくなりそうです」と言われたのだからそうもなろう。

 これまで費やした資源と費用、その他諸々のつり合いが取れるかどうか、かなり怪しいことになっていると見える。

 

「とりあえず、もう少し近づいてみましょう。できればエーテルの噴出を止めたいところですが、根元を見ないことには何とも言えませんしね」

「案の定、ハルピュイアの言うところの『禁じの地』だな、ここは。イグナーツ、以前この地を調べたときは何があった?」

「はっ、巨大なエーテライト塊です。地面から生えるようにして、見える部分だけでも飛竜戦艦を収められるような大きさでした」

「つまり、それが何らかの理由でなくなった、と。元々それだけのものが露出していたというのなら溶けて消えたわけでもないでしょう。意外と近くに落ちてるんじゃないですかねえ?」

「なるほど、じゃあそれをあの穴に突っ込んで蓋してみましょうか!」

 

 エルくんなら飛竜戦艦でそういうこともできそうな気がするけど今すぐやるのはやめてくれ、という王女殿下の意見もあり、まずは普通に調査することになった。

 浮遊大陸の落下はこのままだと確実だが、いつになるかはわからず、防ぐ方法もわからない。とにかく調べなければ何一つ進まない、まだそういう状況だった。

 

 そう、この現象は初めて遭遇するもので。

 

 

「……ん? 今、光の中に何か……!?」

 

 

 人類は今日、未知に出会う。

 

 

 

 

「操縦権、いただきます! 全力で回避するので、皆さん掴まって!」

 

 飛竜戦艦の艦橋において、持ち場がなく窓際で外の様子をうかがっていたのは、主にエルくんとオラシオさんと俺の3人。

 だから、異変に真っ先に気付いたのも行動に出たのもエルくんだった。

 

 光の柱はエーテル特有の虹色に揺らめく不思議な見た目をしていたが、その一部に極端な色の偏りが起き、こちらへ向かって触手のように伸びてきた。

 それがただの現象ではなく、なんらかの意思による行動に見えたのはフレメヴィーラ王国で普段から魔獣相手に切った張ったをしているからか。半ば本能的に敵の襲撃だと悟ったエルくんは舵に飛びつき、俺は窓際にしがみついて観察を続けた。

 

 直後、飛竜戦艦はエルくんの発した命に従いマギウスジェットスラスタを最大噴射。半ば空中に浮いているだけだった状態からの急加速で、こちらへのびてくる得体のしれない触手を躱す。

 ちなみに、艦橋にいた人たちと多分他の場所で働いてた人たちは軒並み慣性に襲われて壁にぶち当たったりとかしてたことだろう。

 飛竜戦艦をかすめた光の触手。だがそれは1本ではなく、柱の中から次々と伸びてきた。

 光の柱へ向かっている状態で加速せざるを得なかった飛竜戦艦にとっては死地に飛び込むのと同じだ。

 

「エルくん! 右側の包囲が薄い! ロールしつつ突っ込んで、速度このまま!」

「了解です!」

 

 だから、せめて少しでも安全そうなルートを選び、伝える。

 エルくんの操縦技量は飛竜戦艦に対しても十全に発揮される。

 飛竜戦艦の機体をしならせながら的確に触手の少ないコースを取り、柱から漏れるエーテルの光を浴びつつ離脱コースを取る。

 だが、触手は思った以上に良く伸びる。意外なほどの執念深さを発揮して、増えた触手の全てがさらに追ってきた。

 

「鬱陶しいですね……! 少し痛い目を見なければわかりませんか!」

 

 そして、そういう敵対者に対してエルくんはいつも怒涛の反撃(熱烈な歓迎)をするものだ。

 飛竜戦艦各部に接続された法撃戦仕様機が遠隔で操作され、完全に同期した動きで後方に照準を向け、火炎魔法がぶちまけられる。

 エーテルの虹色を塗り替える炎の赤。見ているだけで火傷しそうな業火は全て触手に直撃して。

 

「……だめだ、触手に効果なし。無傷だよ」

「そうなるんじゃないかとは思っていましたが、まさか本当に効かないとは……」

 

 全くの無駄に終わったとわかる頃には、しかし飛竜戦艦は光の柱から十分な距離を取れていたようだ。

 触手にもさすがに射程距離の限界があるらしく、追撃をやめて柱の中へと戻っていく。ひとまず、窮地は脱したと言っていいだろう。

 

「エチェバルリア卿! ……いや、エチェバルリア卿は何を言っているからわからないからアグリ・ボトル、説明しろ! なんだあれは!?」

「えっ、俺!? ……あー、いや、失礼しました。詳細は不明ですが、高濃度エーテルの中で生きる、我々とは体系の異なる生き物。魔獣の一種かと思われます」

「加えて言うならば、あの魔獣の存在と光の柱は無関係ではないでしょう」

「……つまり、あれを始末すればエーテルの噴出を止められるってことですかねえ?」

 

 そうなれば、次は分析と対策だ。

 光の柱の中に住む、正体不明の魔獣。今回の一件と関係がない、とはどう考えても思えない。

 しかも、あの魔獣の活動にエーテルが反応しているように見えた。ということは、なんらかの相互作用があると見て良い。

 排除できるなら排除しておくに越したことがないだろう。

 

「王女殿下、そうとなれば遠距離から最大火力をもって挑むべきです。竜炎撃咆(インシニレイトフレイム)使用の承認をお願いいたします」

「……乱発が利くものではないのだがな。通常の法撃が通じないのならば仕方ないか。……許す、投射準備」

「はっ! 竜炎撃咆、用意!」

 

 そして話が決まれば、船員たちが定められた通りに動き始める。

 

 

竜炎撃咆(インシニレイトフレイム)モードへ移行!」

「マナライン、全段直結!」

「強化魔法、アイゼン、ロック!」

顎門(あぎと)内、正常加圧中!」

「制御魔法陣、回転開始!」

 

「ふふふふふ……撃たれるのも楽しかったですが、この手で撃つというのもワクワクしますねえ」

「てーか、本当にこういう点呼しながら準備してたんだ」

 

「――撃てます!」

 

「了解しました。では僭越ながら……総員、対ショック対閃光防御!」

「なにを言っているのだエチェバルリア卿」

「そういう兵器じゃねえからこれ」

 

 とまあエルくんが大変興奮し、無駄に銃杖で照準をつけつつぶっ放した飛竜戦艦最大の魔力法撃は、回避などしようもない固定目標である光の柱へ向けて極大火炎となって浴びせられ。

 

「……ねえエルくん。あの光の柱って確か高濃度のエーテル、だよね?」

「……言われてみれば、そのはずですね。濃度や総量は不明ですが、あれだけの規模です。単純に考えて、噴出量が飛竜戦艦のエーテルリアクタ出力を下回ることはないでしょうね」

「ってことは、撃っても無駄ってことじゃないですかねえ!? 中止中止! 投射中止ですよぉ!」

 

 それすらなんの効果もないという現実を目の当たりにするに至り、根本的な認識を改めざるを得なかった。

 俺たちが来た場所は、対峙している相手は、これまでの常識の一切が通じない未知の存在なのだと。

 

 

◇◆◇

 

 

「……状況を報告してくれ、エチェバルリア卿、アグリ・ボトル」

「まとめましょう。あのエーテルの柱の中には、魔獣がいます。おそらく尋常ならざる高濃度エーテル環境下に生息する、既存の魔獣とは生命の根本からして異なるものです。柱の中にいるのが本体で、青白い糸のような分体あるいは一部を飛ばしてきて魔法術式の中に潜りこみ、制御を奪います。近づかれれば、触られれば終わりと思っていただくべきかと」

「数も多いようですね。限りがないかもしれません。魔獣そのものは柱を離れられないようですが、魔王軍の混成獣の中に潜りこんだ場合はその限りでもないようです」

「どうやら、エーテルあるいはマナにこそ近い存在のようですねえ。私たちからすると、そもそも触れる手段すらないようなものですよぉ、あれは」

 

 人類と、件のエーテル内に潜む魔獣との接触からわずか数分。恐ろしいほどの情報量が浴びせかけられた。

 飛竜戦艦の艦橋の中は疲労と困惑で半ば機能不全に陥り、こんな状況でもめげないエルくんがいなければどうなっていたことやら。

 インシニレイトフレイム投射後、柱から飛び出てきた小型の魔獣に対して法撃以外の手段ということでエルくんが格闘用竜脚を叩きつけてみたはいいが、ロクに効果がなく飛竜戦艦の中に潜りこまれる、などということをされた。

 そういう性質を持つということを知るための代償は竜脚1本の喪失。命あるだけマシ、とでも思っておくべきだろうか。

 しかも、小型の魔獣は「潜り込む」。その対象は飛竜戦艦のみに限った話ではなく、生物に対しても有効らしい。

 

 光の柱は魔王軍の元本拠地から生えている。ということは、魔王軍の主戦力である混成獣の残りも近くにいるわけで、小型魔獣は混成獣の体に潜り込んで乗っ取り、ぴろぴろと青白い光の尾みたいにはみ出ながら向かってきた。ちょっと近づいただけなのに殺意高すぎない!?

 これらの積み重なった情報から明らかになったのは「近づくだけでもアウト」という絶望的な事実であって、現状のままだとエーテルの噴出をどうにかする、という当初の目的達成の目途が消えてなくなった。

 誰も口にはしなかったが、「人間も乗っ取られる」という可能性も十分にある。

 戦う、どころか近づく時点でアウトになりかねない、尋常ならざる脅威だ。

 

「というわけで王女殿下、撤退を進言します!」

「貴様ッ!? 我らが飛竜戦艦を好き放題扱った挙句、おめおめと逃げ帰れだと!?」

「…………言葉が足りんぞ、エチェバルリア卿。アグリ・ボトル、意味を説明してくれ」

「アッハイ」

 

 またしてもエルくんの言うことの通訳をしろ、みたいなことを言われたんですが。

 驚く俺と、なに当たり前のことでびっくりしてるんだはよ喋れ、とばかりの目を向けてくるパーヴェルツィークのみなさん。

 なんか、本格的にエルくんと他の人との間に立つ通訳にされたような気がする! 銀鳳騎士団でも大体そんな感じの立ち位置なんだけど、なぜ他国の人たちとの間でも同じようなことに!?

 

「あー、えー。簡単に説明いたしますと、相性の問題です。あの魔獣に対して、現在我々が有する手段では有効な干渉ができません。鋭い鎌は麦を収穫するのには向いていますが、芋を掘るのには適さないのと同じことです」

「なるほど。たとえはよくわからぬが、飛竜戦艦があれば万事解決というわけではないことは理解した。……ならば、改めて対抗策を講じなければならないか」

 

 混成獣は例の魔物が生えているせいで法撃こそ効かないが、実体はある。

 正面をふさごうとしていた一団は黄金の鬣号のミッシレジャベリンという物理攻撃を叩きつけることで道を切り開くことができたが、事態は進んだようでいて振り出しに戻っている。

 いや、むしろなんとかして振り出しに戻らなければならない状況だ。このまま無限に追いかけられるようなことになれば、対策の検討も準備もしようがない。

 

 しかし、こうなってくると少々分が悪い。飛竜戦艦のメインウェポンは、この巨体が有する莫大なマナ出力にものを言わせた法撃だ。

 物理的な攻撃を、それも接触時に乗っ取られないほどの速度で繰り出す必要があるが、その手段に乏しい。竜闘騎を出せばできないことはないかもしれないが、小回りが利くとはいえ小型の飛竜戦艦のようなもの。分が悪いし、万が一乗っ取られたら下手な魔獣よりも脅威になる。

 割と真剣に手詰まりじゃね?

 

 

「ぜっ、前方! 巨大飛空船接近中!」

「なにっ!? 所属は!」

「あ、僕のところの『イズモ』ですね。本隊とようやく合流できました」

「貴様のかぁ!」

 

 騎士団長のグスタフさんがまたキレている。

 この状況での増援は嬉しいところなのだが、目の前に突如現れた飛竜戦艦より少しだけ小さいくらいの飛空船までエルくんのものだと言われればそうもなろう。こうしてみると本当にデカいな、イズモ……。

 

「とはいえ、ちょうどいいですね。あちらには僕の機体もありますので、それであの魔獣をなんとかしましょう」

「待て、エチェバルリア卿の機体は魔王との戦いで吹き飛んだはずだろう」

「すみません、王女殿下。あれはあくまでうちの団長が故あって作った臨時の間に合わせで、もっと強い本当の専用機があるんですよ」

「アレより、強いのか……?」

 

 おそらく、竜の王を相手に直接殴りかかったその場に居合わせた記憶がフラッシュバックしているのだろう。呆然とした表情で玉座にずぶずぶと埋もれていくフリーデグント王女の姿がいたわしい。

 だが、これは好機だ。柱の中から出てきた魔獣の詳しい性質はいまだ不明のままだが、飛竜戦艦が有する装備では相性が悪いというのは既に思い知らされたこと。

 その点、イズモと銀鳳騎士団本隊の戦力なら他の選択肢もいろいろと使えるようになる。あるいは、その中に有効打があるかもしれないし……なにより、イカルガがいる。

 

「さーて、発光信号で連絡もしましたし、さっそくイズモと連結しましょうか!」

「イズモがめっちゃ動揺してるっぽいからお手柔らかにしてあげてね?」

 

 そして何より、エルくんがもう我慢の限界だ。イカルガと離れすぎて禁断症状とか出てるのかもしれない。

 そのせいか、エルくんはなんと飛竜戦艦によるイズモへの直接着艦を選択。多分これが一番早いと思います。

 サイズ的にはむしろ飛竜戦艦の方が大きいかもしれないくらいなのだけど、その程度のことを気にするようなエルくんではない。

 流れるように進行方向と相対速度を合わせ、格闘用竜脚を器用に使ってイズモの船体を掴んだ。

 艦橋内で本日何度目になるかわからない「マジかよこいつ……」みたいな目を向けられているが、エルくんにそれを気にする様子はない。

 

 だが仕方ない。そうもなるだろう。

 良い機体だったとはいえ、トイボックスにはマナ容量その他諸々制限も多かった。その全てから解き放たれるに等しい、愛機イカルガとの再会。興奮に上気するエルくんの顔を見ているだけで、こっちもドキドキと心臓が高鳴ってくる。

 ……だって、どう考えてもこれまで以上にヤバいことになるからね!

 

 

◇◆◇

 

 

 飛竜戦艦の舵をパーヴェルツィークの人たちに任せ、飛竜戦艦を飛び出していったエルくん。

 この状況で一人艦橋にいるのは怖いので、俺もしれっと飛竜戦艦を出て黄金の鬣号まで戻ってきた。

 格納庫には、主に俺が運用しているグランレオン、ガルダウィング、カルディヘッドの3機が出撃可能な状態で準備されている。さすが若旦那、準備がいい。

 ここへ来るまでアディちゃんの姿を見なかったところから察するに、やはりエルくんについていったということか。

 ならばきっと、エルくんはさっそくマガツイカルガで出るだろう。文句なしの全力出撃だ。たしかに、それが必要な状況であることに異論はない。

 

「……ということは、アレも使うことになるのかもしれないな」

 

 目の前の3機を順番に眺めながら、これからのことを考える。

 とりあえず、直近のところでは俺も出撃して様子見と可能ならば援護をするとして。

 

 その先。

 何が起こるかわからないのなら、何かが起きたときになんとかできそうな手段が必要になる。

 そして俺は、俺の機体には、その「手段」の心当たりが、なくもない。

 

 これまで一度として使うことのなかったその手段。使う必要が出たなら躊躇うつもりは全くないが、使うとなったらそれなりの覚悟を決める必要があるんだよなあ……。

 

「狙われないといいなあ…………エルくんに」

 

 そしてその覚悟、俺の場合は大体のケースにおいてエルくん関連で必要とされるんだから、困ったものだ。

 可能な限り使わなくていい未来を願いつつ、でもうっすらと覚悟を決めて。

 俺は、とりあえずグランレオンとガルダウィングの合体形態で行くべく機体に乗り込んだ。

 

 

◇◆◇

 

 

「坊主のやつ、まさか今度は飛竜戦艦まで乗り回しやがるとはな……」

「いずれ飛竜戦艦のようなものを作るのではと思っていたが、まさか他国のものを乗り回すとは思わなかった」

「そして、そこにエルネスティがいるってことはアグリもいるってことね。……どうやら畑は作ってないようだから、今回はまあ許してあげるわ」

「……よかったな、アグリ。どうやら君は命拾いしたようだぞ」

 

 頭上を飛竜戦艦に覆われてうっすら薄暗くなったイズモの艦橋に揃った銀鳳騎士団首脳部4人は、思わず天井を見上げながら呟く。

 エムリスが浮遊大陸に向けて飛び出したので捕まえに行く。出動の理由として知らされたその話だけで既にロクなことにならないだろうと分かってはいたが、そもそもエルネスティと合流する前に意外な再会が多すぎた。

 この様子だと、また何か新しいものを作り、新しいことをやらかしかねない。その確信がいつもの通り膨れ上がって行くのを胸中で感じるダーヴィドたちだった。

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