俺は、農業がしたかっただけなのに……!   作:葉川柚介

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浮遊大陸って聞いたときから、最終的に落ちそうな気はしてました

「この世界の宇宙はエーテルの海です。……ということはですよ、先輩!」

「エーテルはマナを生む源。それが高濃度どころか純粋なエーテルとしてあるってことは、無尽蔵に等しいエネルギーがある、ってことだね」

 

 テーブルの上にはワインとつまみ。

 グラスを満たした紅い酒を景気よく半分ほど流し込み、酒気を香らせながらエルくんが管を巻く。

 

 

 夜、俺の部屋。

 エルくんが酒を持ってくるということは、二人だけでしょうもない話がしたい、という意味だ。

 

 今日の話のネタは、この世界における宇宙について。

 これまで確認されたいくつかの事象から、この世界の宇宙空間がエーテルに満ち満ちているという仮説はそれなりの説得力を有している。

 そして、この星にはエーテルリアクタがあり、エーテルからマナというエネルギーを取り出す方法がある。

 地上で使っているものをそのまま持ち込むことはできないだろうが、やりようによってはエネルギー問題という概念が消えてなくなる可能性があった。

 

「『生命』とはすなわちエネルギーを使うということです。そして陸皇亀(ベへモス)のような魔獣の例からもわかる通り、エーテルのエネルギーを前提とした生命もこの世界には存在します」

「……ということは、そもそも生命維持に必要な基礎代謝の段階から食料の摂取ではなくエーテルに依存している生物がいても不思議じゃない、か」

「はい。それはおそらく宇宙空間のような高濃度エーテル環境で生きる純エーテル代謝生物、<宇宙怪獣>とでも呼ぶべきでしょうか」

 

 グラスを傾けることで返事の代わりにする。

 純粋なエーテルの中で生まれ、息をするようにそのエネルギーを使う生命体。

 霞を食べて生きる仙人でもあるまいに、存在したとすればどれだけ強大な力を振るうのか、アルコールの回った頭では想像するだに恐ろしく。

 

 エルくんならば、幻晶騎士をもってそれに対することを一切躊躇わないだろう。

 

 

 こうして、ロクに根拠もない半ば妄想でしかない話を肴にエルくんと酒を飲む夜も何度目になるか。

 時に笑い、時に肝が冷える話を酒のせいと受け流しながら、夜が更けていく。

 

 

◇◆◇

 

 

 いつか交わしたそんな妄想話。

 半ば現実のものとして対峙する日が来るなんて、想像したくもなかったなあ。

 

 

◇◆◇

 

 

「さあ、見せてもらいましょうか、あなたたちの生態と力を!」

 

 空の青に、イカルガの蒼が翔ける。

 イズモを飛び出し、飛竜戦艦よりも前へ前へと敵に向かって怯みもせず。

 シルフィアーネ・カササギ三世(サード)と合体したマガツイカルガニシキ形態で。

 シルフィアーネに搭載されたエーテルリアクタは標準型ながら、そもそもイカルガのマナ出力が有り余っている上に、エルくんに加えてアディちゃんが搭乗しているということが強さの理由だ。

 フレメヴィーラ王国の優秀な騎操士を上から2人乗せましたみたいなその構成は、理論上現行の幻晶騎士に可能な全てのことが可能と言っていい。

 

「轟炎の槍は……効きませんか。では、アディ!」

「はーい。『機動法撃端末(カササギ)』ちゃーん、出番ですよー」

 

 たとえば、ミッシレジャベリンのさらなる進化形とか。

 翼のように見えていた可動式追加装甲の一部がざわめき、外れ、変形するとともにマギウスジェットスラスタの炎を吐いて独自に飛ぶ。

 イカルガ本体の操縦をエルくんが担い、手の空いたアディちゃんによる同時複数制御で操られるそれは、銀線神経を引いて敵へと迫る。

 向かう先は、エルくんがいままさに対峙している混成獣。体のところどころから光の尾となった例の魔獣が綻ぶように飛び出て法撃を無力化するそれに対して、すぐさま死角へ回り込み。

 

「行きなさい……インコム!」

「そういう名前じゃないでしょ、それ」

 

 そして、こういう類の奴だと絶対言うだろうなと思っていた名前を叫びながら、側面、背面、上と下へと混成獣を取り囲んだ複数機のカササギから法撃が襲う。

 混成獣に憑りついている魔獣はどういう理屈でか法撃をかき消すとはいえ、範囲と数に限度はあったらしい。

 殺到する法撃のうちいくつかをかき消し、いくつかが着弾し、均衡を失ってしまえばあとはもう総崩れ。イカルガ本体から放たれた轟炎の槍に全身くまなく焼き尽くされ、消し炭になった混成獣だけが残り、そこから飛び出たエーテルの柱産の魔獣はほうほうの体で柱へ向かって逃げて行った。

 

 

 一応様子見がてらガルダウィングつきのグランレオンでついてきた俺の出る幕はどうやらなさそうだ。

 エルくんたちに敵が集中しないよう、こっちを狙ってきた混成獣を適度に引きつけつつ近づきすぎない程度に装備されている法撃をいくつか試してみたがロクに効く物はなく、いい感じに追いかけられつつあしらいつつエルくんとアディちゃんに倒してもらうのを待つばかりだった。

 そのせいか、そこはかとなくシルフィアーネの中からアディちゃんがドヤ顔している気配を感じる。

 エルくんと一緒に戦えてご満悦なんだねヤッター。そうやってご機嫌でいてくれると、俺に対する当たりがキツくならないからすごく助かるんだよね。

 

 そう思いながら、グランレオンの足に食らいつこうとしてきた混成獣を避けるために高度を上げる。

 機首を上げつつマギウスジェットスラスタの推力も上昇。ついでに開放型源素浮揚器も少し出力を上げ。

 

 

「ん?」

「おや」

 

 混成獣はもう役に立たないと仲間たちの様子から学習したのか、一足早く青白い魔獣が飛び出してきた。

 このまま機体に辿り着かれると乗っ取られる危険がある。

 そう悟った俺は開放型源素浮揚器の出力をさらに上げ、エルくんが急いで駆け付けてくれて。

 

 青白い魔獣が妙な動きをした。

 苦手な匂いを突きつけられた犬や猫のような反応。

 蛇のように細長い体を突如折れんばかりに曲げ、慌てたように飛び去って行った。

 

「いまの反応は……?」

「ひとまず覚えておきましょう、先輩。ですがいまはあちらです。僕たちは光の柱に近づいてみます」

「俺はこれ以上近づくとヤバそうだから、周りの様子を見ておくよ。……気を付けて」

「――先輩?」

「二人とも! エルくんとアディちゃんの二人とも気を付けてねって意味だから!!」

 

 そういう動きの検証は後に回すとして、本命の光の柱をより詳しく調べる必要がある。

 イカルガならマナ出力にも余裕がある上にアディちゃんと二人乗りになっているから色々と策を講じる余地があるのに対し、俺の方はマナも手も足りない。

 ならば無理せず後方から状況を把握するのに務めた方がいいだろう。

 ……それだけだよアディちゃん! いつの間にかカササギで俺を取り囲むのはやめてくれアディちゃん!

 

 なんとか説得が通じてカササギを引っ込めてくれたアディちゃんがエルくんと共に光の柱へ近づいていく。

 そこそこ距離を置いているから詳しいことはわからないが、慎重に近づいて行ったイカルガはゆっくりと光の柱を横目に旋回しながら距離を詰めていく。

 

 すると、変化が起きた。

 柱を構成するエーテルの光は常に七色。一秒ごとに変化して違う様相を呈し続けているそれが、うねり、巨大な触手となって伸びてきた。

 それだけならば、さきほど飛竜戦艦で近づいたときにも起きたこと。

 それだけで済んでくれたなら、よかったのだが。

 

「――エルくん! 逃げろ!!」

『!?』

 

 柱が、裂けた。

 

 元々光の糸を束ねてできた柱だった、とでもいうかのように柱がほどけ、どこまでも伸びていたはずの頂点が垂れてくる。

 それは実った麦穂のようでもあり、同時にイカルガを捕らえる檻にも見える。

 

 俺たちは勘違いしていた。

 あれなる光の柱はエーテルの塊。そしてその中に魔獣が潜んでいるのだと。

 だが実際は、あのエーテルこそ、魔獣そのもの(・・・・・・・・・・・・・・・)だったんだ。

 

 垂れ下がるエーテルの触腕は枝や草の類とは違う、明確な意思を感じさせる動きでイカルガに迫る。しかも、図太く飛竜戦艦を締め上げられそうな規模。いかにイカルガとはいえ、幻晶騎士のスケールで絡みつかれればタダでは済まない。

 せめてこちらにも注意を引ければ、と法撃を放ってはみるが案の定接触寸前にかき消されてしまい見向きもされず。

 

――ォォォォォォォオオオオオ!!!

 

 それは、きっと声ではなく意思の圧。

 人の知る生命とは根本が異なるものの発する何かが空を駆けぬけ、風になり。

 

「いや違う。本当に風が吹いて……る…………嵐?」

 

 あの魔獣が引き起こした魔法によって変わった空気と風を受け、俺の農民としての勘は「嵐が来る」と叫んだ。

 普通、そんなことはあり得ない。風の魔法はディートリヒのグゥエラリンデに魔導兵装として採用されているが、効果範囲が狭くあまり使いやすくはない。風の魔法ならではの利点はあるが、かなりの空気を圧縮する必要がある上に射程も短くなることは避けられず、有効な場面というのは限られることになる。

 魔獣が使ったのは、ただそれだけの魔法のはずだ。

 

 なのに、嵐が来ると俺は感じる。

 幻晶騎士の中にいるから風の匂いも温度も感じられないが、翼に受ける風の強さと重さ、空の色と雲の流れは農民たる俺の目と感覚にはっきりと嵐の気配を伝えてくる。

 

 ……待てよ、「嵐」?

 

「ね、ねえエルくん。この風……どこまで吹くの?」

 

 最初に気付いたのはアディちゃんだった。

 この大気操作の範囲がどこまでか。

 幻晶騎士を使ってさえ、人間が行使できる魔法の効果範囲はせいぜいが見える範囲まで。

 だが相手はエーテルそのものともいうべき巨大な光の柱であれば、おそらく魔法現象に対する影響力は決闘級魔獣と虫の差と等しく。

 

 

 急に、周囲が暗くなる。

 上昇気流と気圧の低下、コックピットにも伝わる気がするうすら寒さと水気の迫る圧迫感。

 きっと、ある程度離れた位置からは冗談のような早さで入道雲が伸びあがって行く様が見えていただろう。

 

 ばら、ばたばた。

 やたらと粒の大きい雨が降り始める。

 ゴロゴロと不吉な轟きが頭上から聞こえ始めた。

 

「これは……明らかに僕たち人類の魔法とは桁が違いますね。『天候操作級魔法(ハザード・スペル)颱風招来(コーリングタイフーン)』とでも呼びましょうか」

「名前は置いといて! 帰るよエルくん! こうなってくると、俺たちよりもむしろ飛空船が危ない!」

 

 

◇◆◇

 

 

 ひどい目に遭った。

 おそらくそれが、国も生まれも関係なくこの場にいる人全てに共通する感想だったろう。

 

 突如生じた、おそらく例の魔獣が引き起こしたと思しき大嵐。

 万全の戦力を整え飛空船を揃えられるだけ揃えたのが仇となり、流され、ぶつかり、沈んだものもいくつかあった。

 幸か不幸かイズモと飛竜戦艦は戻ってきたエルくんの直接制御によって強引に嵐の範囲を脱したが、他の飛空船は軒並み結構な損傷を負っている。

 ひとまずの調査、というつもりだったのにとんでもないことになった。

 

 それに加えて。

 

「ンッン~~~、いいザマだねぇエルネスティくぅん! 君が無様を晒している姿を見ると、最高にいい気分だよフゥハハハハハハァーー!」

「小王? こんなところでなにしてるんです?」

 

 なんか、小王まで現れた。

 とはいえエルくんを前にしているというのに殺意はなく、命からがら逃げのびてきた事実にご満悦の様子で。

 魔王もそこはかとなくテンション高そうに、中にいる小王の喜びを反映してかわきわきと動いている。何かいいことでもあったのかね?

 

 ……あるいは、テンション上げずには耐えられないくらいとんでもないことでも起きているのか。

 

 

◇◆◇

 

 

 調査の結果、得られた結論は。

 状況がさっぱりわからない。これに尽きる。

 となれば、必要なのは試行と検証、整理と推測だった。

 

 元々浮遊大陸についての情報収集を頼まれていたノーラさんとの合流に加え、さらにはエドガーたちの幻晶騎士とついでに飛空船も使って魔獣の反応の確認(ピンポンダッシュ)

 得られた情報をまとめて、浮遊大陸の置かれている状況並びに魔獣の生態についてをある程度把握して。

 

 

「先輩、浮遊大陸は落ちます」

「だろうねえ」

「しかも、セッテルンド大陸に向かって」

「……………………マジ?」

「マジです」

 

 情報収集が一段落したエルくんから呼び出され、聞かされた話には正直眩暈がした。

 浮遊大陸の落着自体は光の柱がエーテルだと予想された時点でほぼ確信できていたことだが、ノーラさんの調査によってそれ以上のこともわかったらしい。

 大陸の形か重心の位置か、風のせいかはたまたエーテルの性質か。いずれにせよ、浮遊大陸のセッテルンド大陸落着という、およそ想像しうる中で最悪の未来へ向かっているようだ。

 

 この大陸は、言ってしまえばその容積より一回りか二回り小さいくらいのエーテライトまたはそれに準じる高濃度エーテルの塊である可能性がそれなりに高い。

 それが、飛空船の登場でエーテライトの需要激増中のセッテルンド大陸にやってくる。

 大陸に近い海上へ落ちてくるならまだマシな方。もし、陸地まで届いてしまったら。

 浮遊大陸は「大陸」というだけあって相当に広い。一つや二つの国を丸ごと押しつぶす、なんて災害になりかねない上に、その後の所有や領有をめぐって地獄の戦争が繰り広げられること、想像に難くない。

 しかも、ハルピュイアと魔王とセッテルンド大陸西方には長らく絶滅状態だった魔獣もトッピングされている。挙句、光の柱の中にいるというか柱そのもののような気配もする魔獣までもがセットになって。

 

「地獄じゃん」

「控えめに言って地獄です。なので、なんとかしましょう。僕はひとまずこの情報をもとに各国の協力を取り付けてきます。先輩はエドガーさんや親方たちと一緒にあの『魔法生物(マギカクレアトゥラ)』の攻略法を見つけてください」

「それしかないか……。小王は浮遊大陸が落ちるのなんて願い下げだろうし、パーヴェルツィークもその話を聞いたら今更撤退なんて言ってられなくなるだろうね」

「ええ、そちらはそれなりに勝算があります。魔法生物への対抗策については……」

「……とりあえず、エーテル関連のアプローチを試してみるよ。普通の魔法や接近戦は効かないことはわかってるし、さっき魔法生物が見せた反応も気になるし」

「僕も同じことを考えていました。ダーヴィド親方とエドガーさんたちに話を通してありますので、試作品の開発と試験をお願いします」

 

 という感じに、話がサクサク進んでいく。

 悩んでいる暇もなければネタに走る余裕もない。

 そのくらいに切羽詰まっていて、その度合いに比例してエルくんのやる気が沸き立っている。

 

 きっとこれから待ち受けているのは世界の命運をかけた戦いで、大陸一つを相手取るには飛龍戦艦と魔王と銀鳳騎士団がいても足りるかどうか。

 だからこそ、やる価値がある。何より雄弁にエルくんの目の輝きがそう語っていた。

 やれやれ、これは相当厳しいことになりそうだ。

 

 ともあれ急がなければ。早足気味にまずはダーヴィド親方に相談しに行こうとして。

 

「――先輩」

「……エルくん?」

 

 袖をつままれ、足を止める。

 エルくんとはなんだかんだで長い付き合いだが、身長差は初めて会ったころから縮まる様子がない。二人とも立っていると、エルくんは俺を見上げるようになる。

 そのせいだろうか。上目遣い気味なその目が少し、不安げに見えたのは。

 

「敵は未知の存在です。気を付けて、くださいね?」

「それはもちろん。畑もないところで死ねないよ」

「……ボキューズ大森海でのこと、忘れたとは言わせませんよ」

「うっ」

 

 その直感は、あながち間違っていなかったらしい。

 そういえばエルくん、大森海で穢れの獣相手に俺が撃墜されたことを大分気にしてたしなあ。再会してしばらくはなかなか離れてくれなかったし、そのせいでアディちゃんに射殺すような目で見られたし。

 ……あれ、もしかして新婚旅行についてこいって言われたのもそのせい? 目を離すと何するかわからないとか思われてる?

 くそう、ただでさえヘルヴィの目が厳しいってのに!

 

「忘れてはいないよ。でもやることはやらなきゃならない。……エルくんだって、そうだろう?」

「……」

 

 俺は現地にいなかったから噂で聞いただけである陸皇亀(ベへモス)にほぼ単騎でケンカ売った話に始まり、飛竜戦艦相手の戦争やボキューズ大森海での魔王戦。死線を笑って踏み越えることに定評のあるエルくんだけに、あまり強く言えないという自覚はあるようだ。

 

「なるようになるさ。どう転ぶかはわからないけど、やらなきゃいけないことは決まってる。……だろう?」

「……はい!」

 

 そう、覚悟はもう決まっている。俺もエルくんも、こんなところで終わっていられない。

 エルくんはもっともっと幻晶騎士を作りたいだろうし、俺だってまだまだ畑仕事をやり足りない。

 浮遊大陸がセッテルンド大陸に落着すれば、潰れる国と土地と畑がどれだけになるか、想像の及ばない規模になるだろう。

 なら、事態を解決する以外に、俺たちの取れる道など初めからありはしないんだ。

 

 

「というわけで、親方。とりあえず対魔法生物兵器『源素化兵装(エーテリックアームズ)』の試作品を作るんで協力よろしく。まずは本当にエーテルに効果があるかを調べるためのものだから、とりあえず形になってれば大丈夫なんでさくっと作っちゃおう」

「さくっとなんて、そう簡単に作れるはずが……あるんだよなあ、お前と銀色坊主が本気出したら。俺らドワーフならすぐに作れるレベルの設計図付きで話を持ってきやがる。制御術式はもうできてるし、仮とはいえ構造がおっそろしくシンプルじゃねえか」

「エルくん印だからねえ。……大丈夫だよ、親方。どうせこの試作品の結果をもとに信じられないくらいスゴい兵装作ることになるだろうから」

「間違いなくそうなる、ってぇ確信があるのが嫌で仕方ねえな……」

 

 銀鳳騎士団鍛冶師隊にお通夜じみた空気が一瞬で満ちる。

 たぶん、そのうち死ぬほど難しくてめんどくさい仕事で徹夜がデフォになるんだろーな、という未来がくっきり見える気がした。過去の経験と浮遊大陸で起きている事態からすると、これは確信を通り越して予知に近い。

 

「と、とりあえず作るだけ作って、実際に試すのはディートリヒ辺りにお願いしようか! たぶん、紅隼騎士団もそろそろ暴れたくて仕方なくなってくる頃だろうし!」

「そうだな。一人でも多く巻き込もう」

 

 銀鳳騎士団は大変だ。

 立ち向かうのはあらゆる難題と、人知を超えた強敵。

 

 そしてなにより団長がそういう全てと比べても特にヤバいというこの事実。

 時々意識しては気が遠くなるんだよね!

 

 

◇◆◇

 

 

「あとついでに、せっかくだからグランレオンにも似たような機能を付けておくんでよろしく。こっちは制御術式書き換えるだけで済むと思うから俺がやっておくよ。…………ほんと、マジそれだけっスから。変な農業機能をつけようとかそういうんじゃないんで、睨むのやめてくださいよヘルヴィさん」

「ふーーーん。なら安心しなさい。私は見てるだけだから気にせず作業していいのよ? ほら。さあ。早く」

「……エドガー! どうしてこんなになるまでヘルヴィのことを放っておいたんだ!」

「放っておいたわけではないのだが。まあ、アレだ。ヘルヴィもしばらくアグリと話をできずに寂しかったらしい。付き合ってやってくれ」

「この男は……。今日ばかりは同情するぞ、アグリ。手の施しようがないので助けはしないがね」

「ディートリヒ、お前もか……! ヘルヴィがさっきからこれ見よがしに見たこともない関節技の素振りみたいな動きしてて怖いんだけど!?」

 

 

「私の言うことを復唱できたらやめてあげるわ。『魔法生物が嵐を起こしたのを見て、天気を好きに操れたら農業に便利だななんて全く考えていません』。さんはい」

「…………………………………………」

「言ってみなさいよオラァ!!」

「ギャー! 言うから! 言うから許して! 思わなかったからそんなこと! ……ちょっとしか!」

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