俺は、農業がしたかっただけなのに……!   作:葉川柚介

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番外編 MAV戦術ってのは、二人がかりなら勝てる相手しかいない環境でないと成立しない

「……クランバトル?」

「はい」

 

 その日、エルくんから聞かされた耳慣れない言葉。

 なんとなく類推される意味はまだいいとして、「それを、エルくんが満面の笑みで言ってきた」ことに怖気が走る。

 一体何が起こり、何が破壊されるのか。想像もつかないししたくない。

 

「幻晶騎士2機チーム同士の模擬戦。……それだけなら、普通にあることだよね」

「その通りです。なので『そういう体裁』で開催されているようです。……裏で、勝利チームへの賞金の授与と勝敗予想に基づく賭博をセットにして。どうやら、大陸西方の流行がオーヴィニエ山脈を越えてきたようです」

「山越えしちゃったかー……」

 

 俺たちの住む国、フレメヴィーラ王国はセッテルンド大陸上における人類生存圏のド終端にある。

 オーヴィニエ山脈に隔てられた大陸西方は魔獣の脅威を駆逐して久しく、いつぞやクシェペルカ王国救援のため大西域戦争に首を突っ込むことになったときにも思ったことだが山脈の東西で雰囲気はだいぶ異なっていた。

 ……厳密に言えばフレメヴィーラ王国のさらに先、ボキューズ大森海の奥で生き残ってる人たちはいるのだがひとまず置いといて。

 

 そんな立地上、フレメヴィーラ王国においては対魔獣用のガチ実用品である幻晶騎士も大陸西方においては軍備としての実用に加え、示威のための存在感も求められている。

 そのために、という理屈で幻晶騎士の模擬戦をして見せることもあるとかないとか。

 騎操士の技術向上やらなんやらをという名目の元に行われるそれらが、やる気を出すための褒美まで出るとなればいろいろな意味で盛り上がってしまうのは無理からぬことなわけで。

 

「国王陛下からの命令が下りました。多少は目こぼしするにしても、大規模にならないうちに一叩きして育つ芽を摘んでおきたい、と」

「妥当だね」

 

 この手の話が大きくなると、利害が絡んで始末に困ることになる。

 そうなる前に、そもそも流行りすぎないように手を打つことができるならそれが最良。そのために動かす戦力として、最小規模にして最大戦力であるエルくんを当てる。どうせこういうの、嬉々としてやってくれるだろうし。

 国王陛下のそんな思考が透けて見えるようだ。

 

「というわけで、クランバトルに参戦しようと思います。僕のマブになってください、先輩!!」

「あ、バレたらアディちゃんに狙われる話だったんだ、コレ」

 

 そして、それだけで済むとは思えないのがエルくんに任せたときの難点なのだけれども。

 とりあえず軽く恨みますよ、国王陛下。

 

 

 ちなみに、この一件がアディちゃんにバレることはなかったんだけど、それでも「なんかムカつく」としばらくじっとりした目で見られました。

 ガチで恨みますよ、国王陛下。

 

 

◇◆◇

 

 

「ルールは割と単純だね。幻晶騎士2機のチームを組んで、騎操士は仮の名前を名乗ると」

「騎操士の名ではなく実力を問うため、とのことですね。実態は、この興行がそもそもアンダーグラウンドなので表立って名を出せないからのようですが」

 

 そんなこんなで、やってきましたフレメヴィーラ王国西方の地方都市。

 当然のことながら国王陛下直接のご下命なので下準備の類はされていて、エルくんと俺のチームは割とあっさりクランバトルにエントリーすることができた。

 なので今は、ルールの詳細を確認している。

 ただ幻晶騎士で殴り合うだけなら話は早いのだが、勝ち負けがどう決まるのか、どう立ち回るべきなのかは把握しておかなければならない。

 なんだかんだで国王陛下の耳にも入るくらいにはなっているのだし、守るにせよ破るにせよセオリーというものもあるはずだから。

 

「試合形式はごく普通にアリーナを使っての2対2。勝利条件は相手幻晶騎士の頭部破壊、か。……修理大変そうだなあ」

「全身くまなく損傷するよりはマシ、という判断でしょうか。首から上だけの被害で済むのなら、最悪歩いて帰ることはできますし」

 

 ちなみに言うまでもないことだが、エルくんも俺もこのクランバトルに参加するにあたって乗騎はごく普通のカルディトーレを選んでいる。イカルガとか持ち込んだりしたら、名前云々関係なく一瞬でバレるからね……。

 なので性能的には対戦相手との差はないと言っていい。純粋な実力勝負となるだろう。クランバトルが2対2のチーム戦であればそれ以外の部分は問われない。

 リーグ戦のようにするもよし、トーナメント戦で最強を決めるもよしという緩さで、今回行われるのはトーナメント形式らしい。

 そこそこの参加チームで争い、勝ち上がっていくと最終的にはディフェンディングチャンピオンとの対戦が待っていて、その試合の勝利者は領主様からお言葉と褒美を賜れるのだとか。

 その様子を招待された貴族のお歴々が観戦し、裏ではガッツリ賭博もという隙のないお祭り騒ぎになるという。

 

「さて、それでは用意しましょうか先輩」

「うん……うん?」

 

 そんなクランバトルへ参加するための手続きやらなにやらは既に済んでいるので、あとは実際に参戦して暴れるだけ。

 エルくんにそう促され、ほいと渡された物を手に取り、頷く声が上ずる。

 そうもなるだろう。手の中に湧いた、謎の仮面を目にすれば。

 

「……エルくん、これなに?」

「先輩の言いたいことはわかります。幻晶騎士の操縦に、騎士のような鎧兜は必要ないだろうと。ええそうですまさしくその通り。ですが、今回僕たちが参加するのは半分非合法なクランバトル。れっきとした騎士団に所属する僕たちの正体が万に一つもバレるわけにはいきません。なので、顔を隠すために、これを」

「それはそれとして、別にこんな3倍速そうなマスクじゃなくてよくない?」

 

 こう、なんと言うんだろうね。仮面というか鉄の帽子。ほど良くとがった角のようなパーツが額の部分についていて、目元を隠すマスクじみた部位もある。

 ぶっちゃけて言ってしまおう。赤い人のアレだ。

 フレメヴィーラ王国どころかセッテルンド大陸のどこにもこんな形式の鉄帽はないから、エルくんが今回のために作らせたってことだよね、これ。

 

「必要なんです! 千載一遇の機会なんです!! そう思うでしょう、先輩も!!!」

「……まあ、顔を出したらバレる立場だよね、エルくんは。俺はセーフだと思うけど」

 

 ちょうどいい機会だからここぞとばかりにという魂胆を、理屈と勢いで押し流そうとするエルくんの距離が近い。具体的に言うと、アディちゃんに見られたら身の毛もよだつ威嚇の咆哮とともに引っ剥がされそうなくらい。

 今回の一件、アングラと反社の両方みたいな事案だからとアディちゃんにも知らせずに来てよかった。……帰ったら見抜かれて尋問されそうな気がしなくもないけど。

 

 ともあれ、エルくんが有名人なので顔を隠す必要があるのは最初から考えていたこと。まさかよりによってこんなアホらしいのを持ち出してくるとまでは思っていなかったのだけど、結果は同じなのでよしとしよう。

 

 なんにせよ、必要なのはクランバトルに参戦し、終わらせること。

 今はそれに集中しよう。

 

 

◇◆◇

 

 

 クランバトルの特徴は、先にも述べた通り幻晶騎士2対2のチーム戦であること。これが、なかなかに絶妙だ。

 

 1対1であれば、純粋な実力が物を言う。

 多対多であれば、統率力や士気、その場の勢いに強く影響される。

 

 その点2対2であれば、チームワークで実力差を覆すこともあれば順当に力量の差が浮き出ることもあるし、なによりそれが観客の目にもわかりやすい。

 ほど良く高度で、番狂わせもあり、どこで何が行われているかが素人目にもわかりやすい。そういう意味で、クランバトルは興行としてよくできている。

 

 技量だけでは勝てず、奥が深い戦いが繰り広げられる。……と、賭けを煽るブックメーカーが言っている。

 

 では、逆の視点では。

 そんなクランバトルをぶっ潰して来いと言われたら、どうすればいいか。

 

 

 

 

『エーテルリアクタの甘美な調べ……カルディトーレも喜んでいます♡』

『うおわああああ!? なんだこいつ……強いッ!』

 

 クランバトルもなんだかんだでそれなりに回数を重ねているらしく、定石とでも呼ぶべき勝ち筋が見出されつつあるらしい。

 すなわち、1対1ではなく、2対2ではなく、戦闘のさなかに一瞬でもいいから2対1の形を作り、速やかに1機を落としてから残りを始末する。きわめて合理的だ。

 もちろん、相手も同じように狙ってくるのでそう上手くいくわけもない。

 いかにして先手を取るか、取られた先手を取り返すか、そこが鍵になる。

 

 

『クランバトルで、私は貴方たちと上手に踊れるでしょうか? 心配だ……けれど、それよりずっと楽しみです♡』

『うおっ、読まれた!? 後ろにも目がついてるのかこいつは!!』

 

 瞬間的にでも戦力の不均衡を相手に押し付け、一瞬で相手の戦力を刈り取って有利を固定する。

 これは必然から収束する論理的な帰結で、おそらく別の世界であろうとも、似たような形式のバトルが繰り広げられればこういう結論に至るだろう。

 その最適解、誰が呼んだかマブ戦術。

 

 であればこそ。

 そんなクランバトルを終わらせて来いと言われたのなら、やるべきこともまた決まりきっていて。

 

 

『スロー♡ スロー♡ クイッククイックスロー♡』

「なんだ、その踊るような動きは!? なのに……当たらない!!」

 

 「相手が2体の幻晶騎士でも、単騎で無双できる騎操士を送り込んで何もかもブチ壊しにする」です。

 

 

 トーナメント形式のクランバトル、いつの間にかディフェンディングチャンピオン戦までたどり着きました。

 ここに至るまでの数試合、クランバトルの形式上それに倍する数の幻晶騎士と相対してきた訳なのですが、それ全部エルくん一人のキルスコアに加算されてます。

 いやまあもちろん殺してないけど。最終的にすぽーんと幻晶騎士の首を飛ばすだけで終わってきたのだけど。

 

 そして俺は、その全てを後方腕組マブ面して、なんなら移動すらほぼせず見てる勢いでした。

 俺の乗るカルディトーレ、杖なんて装備すらしてないし剣はマウント状態から手に取ることもありません。

 それでもエルくんが全勝するんだから恐れ入る。当初は驚愕、続いて歓声へと変わった観客の反応も、既に沈黙と化して久しい。

 周囲をぐるりと客席に囲まれた円形のアリーナが、闘技場ではなく処刑場のあり様になりつつある会場の冷えっ冷え具合、これもう作戦成功してるんじゃないかなって思います。

 

 

 エルくんの強さはイカルガの強さ、ではない。

 イカルガは確かに極めて強力な幻晶騎士だが、エルくんやアディちゃん、あとキッドくんあたり以外ではまともに歩かせることすらできないくらいの演算能力を要求する代物なので、イカルガが強いというか、イカルガを使える騎操士が強いというのがより正しい。

 純粋な魔法技能、幻晶騎士操縦技能はそのことで証明されているし、それ抜きにしてもエルくんは勘が鋭い。

 何らかの魔法による五感強化の類なのか、あるいは幻晶騎士の機構をセンサー的に使ってでもいるのか、はたまたなんかこうこめかみのあたりにキュピピーンとくるのか、背後からの奇襲すら成り立たない。

 

 いやでもね? これでもマシな方だったんだよ。

 もしもエルくんがクランバトルにイカルガなんて持ち込んだ日には、執月之手(ラーフフィスト)を駆使して正面に注意を引きつつ後ろに回り込ませた手と両方から轟炎の槍(ファルコネット)で焼き尽くす、とかいう一人マブ戦術をかましていただろうし。

 

 

 クランバトルが始まっても俺が我関せずの態度でいるのを見て好機と判断した相手チームが前後からエルくんの操るカルディトーレに迫って見せたのは最序盤の2試合。

 1度目はどう考えても前後両方の幻晶騎士の位置と動きを正確に把握していたとしか思えないタイミングでの最小限の回避で同士討ちを誘った。

 2度目はエルくんがむしろ積極的に前に出て、相手の2機が合流する前に目の前の相手を瞬殺。追ってきた残敵の前で悠々と振り返って出迎えた。

 

『新しいご友人! さあ、楽しみましょう♡』

「すみませんね、うちのマブが様子のおかしい人で」

 

 以降の対戦相手は、エルくんの試合を見て研究してはいたのだろう。

 付け焼刃とは思えないほどに、様々な対策を練ってきた。

 

 ……練ってきた程度で越えられるなら、良かったんだけどね。マジでそう思うよ。

 

 

 なおほぼ余談になるのだが、クランバトルにおいて幻晶騎士の拡声機能は使用を禁止されていない。

 有効に使うチームもあれば、あえて封印して意思疎通を相手に悟らせないように立ち回るチームもある。

 通常と異なる特徴としては、出力される音声から身元がバレないよう、ちょっとした音声変換の加工がされていることだろうか。

 エルくんの声がかなり低い美声になってたのには驚いたね。

 ……低くても、根底にとんでもないヤバさを秘めてそうないつもの声色ではあるので、俺としてはめっちゃ頭が混乱するんだけども。

 

 

 そうして辿り着いた最終戦でも、エルくんの圧倒的な優勢は変わることがなかった。

 今度の対戦相手はさすがにディフェンディングチャンピオンなだけあって実力も連携も十分以上。

 剣を振り回して豪快に立ち回りつつもそつがない1機と、攻め気は相棒に負けていないもののサポートに回ることにしているのか槍の扱いが極めて鋭いもう1機。正直、俺は1対1なら真正面から戦いたくないくらいの実力者だ。

 

 それでも、エルくんに敵う道理はない。

 速いだけでなく、強いだけでなく、上手いだけでなく。

 幻晶騎士の扱いと立ち回りと技のキレ、全てが上回り順当に剣を持つ方の首を刈り取った。

 

 そうして残るは1機。さすがにこれ以上まともに戦っても勝てる気はしなくなったのだろうが、それでも一矢報いようという意思は感じられる慎重さで俺とエルくん双方の動きを窺っている。

 その様はまるで手負いの獣。迂闊に踏み込めばただでは済まない済まさない、とばかりの圧をむしろ増して。

 

『……!』

「……えー」

 

 そんな相手幻晶騎士の向こう側で、エルくんの乗るカルディトーレが片腕を掲げてぶんぶん振り回す。

 何をするのか相手に悟られないようにするためだろう無言なのに、やりたいことがわかってしまう自分が悲しい。

 

 まあ実際、悪い手ではないしね。

 相手は残り1機。多少のリスクを冒してでも勝てるのならば十分に取りうる選択肢だし、どう考えても相手の想像の埒外な技であれば、最悪俺の側は返り討ちを食らったとしても勝利は得られるだろうから。

 そもそもこのクランバトル、片方が全く何もしてないに等しい状態だとさすがにケチもつくかもしれないしということで、俺もエルくんに乗ることにした。

 

『……くっ!? いったい、何を……!』

 

 変換が入っているが、声の感じからすると相手の騎操士は男性だろうか。

 戸惑いつつも芯に落ち着きを感じるので、長く幻晶騎士に乗り続けて年季の入った人なのかもしれない。

 

 そんなことを考えながらも、俺はエルくんと同じようにカルディトーレの腕を掲げさせる。

 軽くひじを曲げるのがコツで、何より重要なのは速度、勢い。

 小細工など必要がない、持ちうるパワーと自分の機体を信じることがこの技の真骨頂だと、ヘルヴィあたりが言っていた気がする。

 

 俺とエルくんに挟まれていては逃げ場もない相手の幻晶騎士。

 じりじりと最終的に追い込まれたのはこれ見よがしにもほどがあるアリーナ中央で、油断なく、しかし余裕もまたなく俺とエルくんに注意を払い続け。

 

 そんなもの関係あるかと、俺とエルくんの乗るカルディトーレが駆け出す。

 瞬く間に迫る距離。動きはじめる瞬間を読めていれば離脱することもできただろうがエルくんがそんなことを許すはずもなく、迫りくる上下のアギトにとらえられた獲物のごとし。

 これが最後のあがきとばかりに突き出した槍が、エルくんの方に向いていたのはきっと意地によるもので、こんな状況でもそれを失わない相手に敬意を抱く。

 

 だがそれをなお避けて見せるのがエルくんの戦闘勘と反応速度と操縦技術であり、迫る3機の幻晶騎士は、激突する。

 

 

 クランバトルトーナメント、決勝。

 決まり手は幻晶騎士2機の二の腕部分で前後から相手の首を狩り潰すがごとき大技、クロスボンバーでありましたとさ。

 

 

◇◆◇

 

 

 言ってしまってはなんだけど、その後はほぼ蛇足だった。

 クランバトルに優勝し、俺とエルくんは幻晶騎士を降りて仮面にマントというアホみたいに怪しい格好で主催者である貴族様の元へ行き、お褒めの言葉と賞金を賜ることになるという流れ。

 なのだが、そりゃーまーこれまでのクランバトルの常識を覆す上にこれもう勝てるヤツいないんじゃね? みたいな興行と賭博ぶち壊し沙汰だったので、観戦に来ていた他多数の貴族様含めて謁見会場の空気は冷えっ冷え。

 しかも、ついでに。

 

「こちらが褒賞になります」

「アッハイ」

 

 そんな貴族様の隣に控えて褒美を手渡してくれる人の顔に見覚えがあるのなら、返事も棒読みになろうというもの。

 お疲れ様ですノーラさん。あなたがそこにいるってことは藍鷹騎士団も動いてて、裏からもきっちりシメてるってことですね。

 そんな感情が仮面で隠れていてもにじみ出ていただろう俺の顔を見て、ノーラさんは無言でにっこりと笑う。それは肯定だと判断しますよ?

 

 ともあれ。

 俺と……というかほぼほぼエルくん一人によるクランバトル参加はこれで終わった。

 ついでにクランバトルも終わった。

 

 なにがマブ戦術じゃ結局幻晶騎士も騎操士のカラテが全てじゃろがいという風潮が、裏で誰か糸引いてるんだろうなというくらいの勢いで蔓延して興行どころじゃなくなり自然消滅したらしい。

 それはそれでどうなんだろうマブ戦術も悪くないんじゃないかなと思わなくもないのだけど、まあ賭博が絡んでしまえばそうもなる。

 俺としては、比較的体を張らずに済んだ今回の一件は割と楽に済んだ話として解決したのだからむしろ平和でよかったよ。

 

 

 なお、後日。

 

「いつつ……。くそう、まだ痛む」

「お怪我ですか、エムリス殿下?」

 

 よくあることと言えばよくあること。

 銀鳳騎士団のアジトであるオルヴェシウス砦に遊びに来たエムリス殿下が、体のあちこち痛そうにしていた。

 エムリス殿下は王族ながら分厚い体にゴツい筋肉を備え、考えるより先に体が動くタイプの人なのでちょっとしたケガやら何やらをしているのはよくあることだ。

 痛そうにしている部位からするに、大方幻晶騎士で大立ち回りをして操縦席ががっくんがっくんしたのだろう。

 エムリス殿下は大西域戦争の時の大立ち回りを筆頭に幻晶騎士で暴れまわることも多いので特におかしいことではない。

 

「おぉ、ちょっとな。じいちゃんと……あー、ちょっとした幻晶騎士の模擬戦をしたんだが、相手がとんでもなく強かった。じいちゃんなんかこう、前後から首をやられてたぞ」

「……………………へー、さようですか」

 

 自分の声が、ものっそい平坦になっていたという自覚はあった。

 エムリス殿下のがっつり太い腕が真横に掲げられ、ぶおんと振りぬかれる。

 まるで、二の腕から肘にかけてで相手の首元を殴り倒すような、なんとなくつい最近見たことのあるような動き。

 「前後から首を」という言葉。

 

 

 ……うん、忘れよう!!

 俺は脱法賭博潰しのために変な模擬戦に参加することもなかったし、その決勝戦で猪突猛進なごり押し騎操士と老練な槍使いの騎操士と戦ったことなんてなかった!

 そんな記録はどこにもない! そういうことにしとこうね!!!

 

 

◇◆◇

 

 

「悪者をなぎ倒した幻晶騎士がいたとして。その操縦席から出てきた先王陛下が『余の顔を見忘れたか』とか言い出したら怖いよね」

「急にどうしたんですか、先輩? ……まあ、先王陛下ならありえないでもない話とは思いますが」

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