英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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14話 緋い月

 

 

レト達、VII組B班はセントアークでの特別実習を開始し。 先ずは街の中に巣を作っている魔獣の討伐の依頼を受け、依頼を出した住宅街にあるカフェ兼宿のエイプリルに向かった。

 

「ここがセントアークの住宅街かぁ……風が気持ちいいね」

 

「それに花のいい香りも……」

 

「いい風だ……西の街道から吹いているようだな」

 

「セントアークの西は花の群生地が点々としているだ。 その香りが風でここまで運ばれているんだね」

 

住宅街の良さを身に感じながら目的の宿に入った。 そしてカウンターにいたチャラい店主から部屋の場所を聞き、2階にある宿に一室をノックした。

 

出てきたのは若い男性で、中に入れられるとご高齢の老婆がベットに腰掛けていた。 まずはレトが代表し、挨拶をする。

 

「トールズ士官学院、VII組の者です」

 

「待っていたよ。 確か市に出した要請を、君達が受けてくれるんだよね?」

 

「はい。 それで街の中に巣作ってしまった魔獣の退治ですが……その魔獣はどこに?」

 

「この宿の出てすぐにあるアパルトメントだよ。 今そのアパルトメントは誰も入居してなくて……それを狙ってなのか街道の魔獣が住み着いてしまったんだ。 私はそこにいる座っている叔母なんだけど、叔母がアパルトメントのオーナーで、一昨日襲われてしまって……」

 

そう言われてよく老婆を見ると、服の下に包帯を巻いているのが見えた。 レト達はそれを見て遣る瀬無い気持ちになってしまう。

 

「今アパルトメントには誰もいないのですか?」

 

「ああ、今は入居者も誰もいない。 むしろ新しく入居者がいるから、早く魔獣をどうにかしないと何も始まらないんだ」

 

「なるほど……皆、僕はこの依頼を受けたいけど……皆はどうする?」

 

念のためレトはラウラ達に意見を聞いてみるが……愚問と言わんばかりに頷いた。

 

「もちろん、受けさせてもらうよ!」

 

「市民の安全を守るのも、また特別実習だろう」

 

「異論はないわ」

 

「問題はない。 誠心誠意取り組ませてもらおう」

 

「あ、ありがとう! じゃあこれを、これでアパルトメントに入れるよ」

 

男性はお礼を言い、レトにアパルトメントの鍵を渡した。

 

「後、できれば中はなるべく壊さないでもらいたい。 攻撃アーツの使用も出来るだけ控えてくれれば……」

 

「え、ええっ!?」

 

「枷もあれば己を高められるだろう。 それに我らには戦術リンクがある、問題はなかろう」

 

「それは、そうだけど……」

 

男性は無理難題を押し付ける事に謝りながらも、レト達はその難題を了承した。

 

レト達は宿を出て、すぐ目の前……魔獣が住み着いたアパルトメント《ルナクレスト》に向かった。

 

「ここに魔獣が……」

 

「ふ、古いわね……」

 

「築何年だろう?」

 

「外から見てもさほど広くない。 我らと魔獣が入り混じれば苦戦は免れない……」

 

「そこは、戦術リンクの出番だね」

 

突入する前にリンクする相手を決め。 ラウラとアリサ、ガイウスとエリオットの前後衛でリンクを組み。 レトは遊撃となった。

 

「ーーじゃあ、入るよ?」

 

武器やアークスの確認をした後、レトがそう聞くと……ラウラ達は無言で頷いた。 それを確認し、レトは鍵を使いアパルトメントの中に入った。 中は明かりが付いていないので薄暗く、奥から何かが蠢く音が聞こえてくる。

 

「……いるね」

 

「ああ、上の方から風を感じる。 確実に潜んでいるようだ」

 

すると、レト達が訪れたのを検知したのか蠢く音が激しくなった。どうやらレト達の侵入者だと判断したようだ。

 

「来るよ!」

 

「これは……!」

 

天井の上から羽ばたく音が聞こえ、レト達は武器を構える。 すると、羽を散らしながら天井から現れたのは数体の鋭い嘴を持つ海鳥型の魔獣……タイニーフェザーだった。

 

「こいつらがここに巣作っていた魔獣か」

 

「このまま放置すれば市民にとって害になる……駆逐するぞ、1匹残らず!」

 

「ええ!」

 

「B班、気合いを入れて行くよ!」

 

数体のタイニーフェザーは頭上を陣取り、鋭い嘴を向けて一斉に襲いかかってきた。

 

「させぬ!」

 

「やっ!」

 

ラウラは大剣を大きく振り回せないので、襲いかかるタイニーフェザーを払い、上に後退するのをアリサが次々と射抜いて落とし……地に落ちたのをレトがトドメを刺していく。

 

「皆、元気を出して! エコーズビート!」

 

「そこだ!」

 

「ふっ!」

 

エリオットは依頼主の都合により、アーツによる補助でレト達を援護し。 ガイウスとレトが槍で突きと軽い薙ぎで敵の移動経路を狭めていく。

 

だが、後ろにいたタイニーフェザーは風のアーツ、ブレスを使い。 前にいたタイニーフェザーの傷を癒した。

 

「こうも狭いとブレスの効果が強く出る!」

 

「こっちは大技と攻撃アーツを封じられているのに……あっちは御構い無しだしね……」

 

「落ち着いて! 確実に、一体ずつ倒して行こう!」

 

「行くぞ……!」

 

ラウラは大剣を正面に構えると、彼女を中心に光の渦が発生する。 すると複数のタイニーフェザーがラウラに引き寄せられ……

 

「洸円牙……せいやっ!」

 

全てのタイニーフェザーが射程に入ると同時に回転斬り、次々と斬り落として行くが……やはりアパルトメントを気にして全力は出せず、倒しきれなかったものは上に逃げて行く。

 

「上に……!」

 

「ーーはあっ!」

 

レトは一回の跳躍で2階の踊り場に飛び上がり、手摺を蹴り上げてタイニーフェザーの翼を打ち払った。

 

そして落ちて行くタイニーフェザーを足場にして跳躍し……また次のタイニーフェザーを落とす、たまに天井や壁を足場にしながらもそれを流れるようにレトは繰り返した。

 

「見事な身のこなしだ」

 

「もう驚くのはやめたわ……」

 

「あはは……」

 

落ちてきたものはラウラ達がトドメを刺し、ようやく数える位に減ってきた。 すると、最後のタイニーフェザーが2階の窓を破り、街に出てしまった。 外からは戦闘音で集まってしまった市民の悲鳴が聞こえてきた。

 

「しまった!」

 

「魔獣が街に!」

 

「ーー待て!」

 

逃げたタイニーフェザーを追い、レトは破られた窓の縁に足をかけ……2階から飛び出した。

 

「いた……!」

 

宿屋の屋根に飛び乗り、すぐに飛んで逃げるタイニーフェザーを発見した。

 

「逃がさない……!」

 

一気に駆け出し、猛スピードで屋根から屋根へ飛び移り、タイニーフェザーの真横に着くと……

 

(ほど)け……童子切(どうじきり)!」

 

槍を構えて足を曲げて身を縮め、爆発的によって姿がかき消える速度で跳躍し……飛んでいるタイニーフェザーの胴体を刺し貫いた。

 

最後のタイニーフェザーは消滅したが、跳躍して飛んだ高さはセントアークにあるどの建物よりずっと高い。 だがレトは慌てず、石突きを下にして棒を伸ばし、先に石突きを地面に着けて落下速度を落としクルクルと回りながら地上に降り立った。

 

「よっと……」

 

辺りを見回すと、そこは一本道の人気のない場所だった。 そしてその奥に、何かの店があった。

 

「ここは……閉鎖されてる……?」

 

店は門と扉によって硬く閉ざされていたが、店名だけは残っていたのでレトは門のある場所から目を凝らして読んだ。

 

「えっと……Rieveldt & Co.? ……リーヴェルト? それって確か帝都に本社を置く音楽楽器メーカーの名前だったような……」

 

レトは記憶の片隅にある知識を引っ張り出し、なぜセントアークにその閉鎖されたリーヴェルト社があるのか疑問に思った。

 

「あれ? リーヴェルトって確かクレア大尉のーー」

 

「レト!」

 

その時、アパルトメントの方角からラウラが走ってきた。

 

「逃げた魔獣は倒せたようだな」

 

「うん。 他の皆は?」

 

「残存する魔獣がいないかアパルトメントを探し回っている。 我らも手伝うとしよう」

 

レトはリーヴェルト社が気になったが……ラウラの後に続いてアパルトメントに戻った。 そして中を調べ周り、魔獣によって破壊された屋根があっただけで姿は確認出来ず。

 

その後、男性に報告し。 老婆と一緒にレト達にお礼を言った後……新しい入居者の引越しがあるとの事で報酬を受け取ると慌てて出て行ってしまった。

 

レト達は苦笑しながらも、次の依頼……描く絵のモデル探しのため、聖堂広場に向かった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

聖堂広場に到着し、辺りを見回すと……絵を描いていた貴族を見つけ、彼が依頼を出した人物だと確認する。

 

内容を聞くと、彼が希望するモデルを見つけて欲しいらしく。 要望は小柄な女性で金髪、という事だったが……先ほどまでセントアークを回ってもそんな人物はおらず、メンバーの中で要望に1番近いアリサでも小柄ではないので却下された。

 

ラウラは仕方なく時間をもらう事にし、先に北セントアーク街道にいる手配魔獣の討伐の方を優先し……レト達は準備を整えると北セントアーク街道に向かった。

 

「さて、セントアークとドレックノール要塞の中間地点に手配魔獣がいるのよね?」

 

「そのはずだ」

 

「そして、そのままドレックノール要塞のほうに報告する必要がある……」

 

「先ほど依頼は後回しにするとして……準備が整い次第、行くとしよう」

 

やり残した事がないか確認した後、レト達は街道に沿ってドレックノール要塞に向けて出発した。 たまに襲いかかる魔獣を退けながら、途中にあった陸橋を渡ると……直ぐ先にドレックノール要塞が見えてきた。

 

「ここからでも見えるんだ……」

 

「近くで見ると首が痛くなりそうね」

 

「確かにここからでも巌のような風格を感じ取れるが……まずは手配魔獣からだ。 気を引き締めて行くがよい」

 

アリサは遠くにある要塞に少し気圧されながらも、歩みを進める。

 

しばらくして、レト達は街と要塞を繋ぐ街道の中間地点……そこにある手配魔獣がいる脇道に入った。

 

「この先に手配された魔獣がいるようだな」

 

「そのようね」

 

道なりに進み、それからすぐに進行方向から地面を大きく踏み鳴らせす……かなり体重のある足音が聞こえてきた。 レト達は物陰に隠れてそっと先を覗くとそこには……

 

(……な、なにあれ……)

 

(ふーん? 飛び猫の変異種のようだね)

 

(いや、変異種というより……あれはもう別種だから!)

 

エリオットが指差したのは……筋肉質な黒い毛並みで白模様が入った虎のような身体とコウモリのような巨大な羽を持つ魔獣だった。 レトが言うに、飛び猫の変異種らしい。

 

(かなりの強敵みたいだな……)

 

(これは手こずりそうね。 戦術リンクをフル活用していきましょう)

 

気を引きして、レト達は武器を取り出し構える。 凶悪そうな魔獣だが、レト達は苦戦を強いられるかもしれないが……負けないと心中、思っていた。

 

(じゃ……行くよ)

 

(承知!)

 

レトの合図で飛び出し、魔獣……キラータイガーはレト達を視界に入れると……

 

ガアアアアァァッ!!

 

犬歯を剥き出しにし、轟く息吹をはくような咆哮をレト達に向かって放った。

 

「うわっ!?」

 

「咆哮で攻撃ですって!?」

 

「奇襲失敗だね」

 

隙を突いて奇襲したが、思わぬ攻撃により阻止されてしまった。 だがこのまま怯んでもいられず、ラウラは先導して飛び出した。

 

「鉄砕刃ッ!!」

 

先ほどの依頼で全力を出せなかったせいか、溜まっていた分がここで解放され。 いつも以上の気合いで大剣が振り下ろされた。

 

「ふっ……そこだ!」

 

ガイウスはその場から槍を構え、風が十字槍に纏われ……突きを出すと同時に渦巻く烈風となって放たれた。

 

「クリスタルフラッド!!」

 

エリオットも不満が溜まっていたのか、容赦なく強力なアーツを発動。 エリオットから氷の道がキラータイガーに向かって走り凍らせ、砕け散って全体に衝撃を走らせた。

 

だが、キラータイガーは怯まず。 背中の羽を大きく羽ばたかせ、跳躍すると……腕を振り上げながら急降下してきた。

 

「くっ!」

 

「何という威力だ……!」

 

「なかなかすごいね!」

 

振り下ろされた腕は地面を砕き、衝撃と瓦礫が前衛にいたレト達を襲う。

 

「皆、頑張って!」

 

すかさず、アリサがレト達の頭上に矢を放ち。 破裂すると癒しの光が降り注ぎレト達の傷を癒し、活力を与えた。

 

「すまない、感謝する」

 

「! 2人とも、気をつけて!」

 

だがそれによりキラータイガーは後方のエリオットとアリサの方を向いた。 すると殴るように地面に向かって腕を出し、地面を削って巨岩を飛ばしてきた。

 

「エリオット! アリサ!」

 

「避けろ!」

 

「っ!!」

 

咄嗟のことで2人は動けなかった。 すぐさまレトが地面を蹴って高速で移動し……2人の前に出て巨岩を受け止め……

 

「っ……でやっ!」

 

気合いを入れて上に持ち上げ、背後に落とした。

 

「レト!」

 

「大丈夫、問題ないよ……って、ラウラ、前!」

 

「なっ!?」

 

心配して意識が後ろに向いた隙を狙い、ラウラに向かってキラータイガーが襲いかかった。 咄嗟にレトの警告で大剣の腹で防御するが……あまりの威力に足が浮き、手から大剣が弾かれて吹き飛ばされてしまう。

 

「ラウラ!」

 

レトは槍を軽く上に投げて投擲の構えに持ち直し、牽制として槍を投擲してキラータイガーを後退させる。 そして飛んできたラウラを両手で受け止めた。

 

「大丈夫?」

 

「くっ……不覚を取った……」

 

大した怪我をしてない事にホッとするが、鈍い音が聞こえて前を見ると……ガイウスが1人でキラータイガーを抑えていた。

 

「しまった……ラウラ、ちょっと借りるよ!」

 

「お、おい!」

 

ラウラを地面に置き、一気に駆け出す。 キラータイガーに向かいながら、途中で弾かれている地面に刺さっていた大剣を左手で持ち……抜き取った。

 

レトは片手でラウラの大剣を持ち、具合を確かめるように走りながら軽く振るい……キラータイガーの横腹を斬り裂いた。

 

「大丈夫、ガイウス!?」

 

「助かった。 だがその剣は……」

 

「話は後! 一気に決めるよ!」

 

レトはキラータイガーの両腕によるプレスを避け、衝撃で髪が靡きながらも接近し。 キラータイガーの右脚を蹴って体勢を崩し、そのまま懐に入り……

 

「ーー偽・洸凰剣!!」

 

ものすごい速度で大剣を振るい、3つの軌跡を描いて斬撃を叩き込んだ。 それによりキラータイガーは致命傷を負い、苦悶の断末魔を鳴きながら地に倒れ伏した。

 

「ふう……やっと倒した。 って、イテテ……」

 

額に着いた汗を拭い、一息ついた。 だがレトは顔をしかめて左腕を抑える。 片手剣と大剣では勝手が違く、腕を軽く酷使したようだ。 と、そこでラウラ達もレトに近寄ってきた。

 

「レト、今のは……」

 

「あ、うん。 いまのは一度、子爵閣下に手合わせした時の模倣だよ。 大剣もそうだけど、勝手に使っちゃダメだったかな……?」

 

「……いや、構わぬ。 大剣を手放してしまったのも私の未熟ゆえに……アルゼイドの剣技を使ったのも含め、気にするでない」

 

「そっかぁ、よかった……」

 

それを聞いて一安心し、レトは胸を撫で下ろした。

 

「でも凄いよ! 」

 

「ああ、見事な剣技だった」

 

エリオットとガイウスも賞賛する中……アリサが疑問に思っていたことを口にする。

 

「……サラ教官と戦った時から疑問だったんだけど……あなたはどうして剣を使わないの?」

 

「え……」

 

「あの時見せた事から、剣を嫌っているわけじゃない。 確かに槍も凄い腕だけど……どうして最初から剣を使わないのかしら?」

 

アリサの疑問は最もだ。 槍よりも剣の方が強い……それなら剣を使った方がいい。 人ならより使いやすいものを、より優れたものを手に取る……当然の選択だ。 だがレトはそれを拒んでいた。

 

「……………………」

 

「ーーわからないわね。 凄い力を持っているのにそれを使おうとしない……それじゃあ、何のための力ってなっちゃうじゃない」

 

「……アリサ、それぐらいにしてやれ。 レトにも事情がある」

 

「いいんだ。 アリサの疑問も最もだし、僕が厳として剣を使わないとは言わないから。 ただ、ちょっとね……」

 

言い淀むレトに、アリサは眉を釣り上げるが……それ以上追求はしなかった。 少し空気が悪くなる中、ラウラがレトから大剣を受け取り、手を叩いて話を変えた。

 

「では、小休止したら報告をしにドレックノール要塞に行こう」

 

「そ、それがあったね……」

 

「もう一息だ。 頑張ってくれ」

 

小休止しした後、少し疲労が蓄積された身体で再び街道に戻って北上し、しばらく進むとドレックノール要塞と帝都方面に繋がる三叉路に出た。

 

「三叉路だ……ここを左みたいだね」

 

「後もう一息だな」

 

三叉路を左折し、それからすぐに見上げるほど巨大な鉄の城壁……ドレックノール要塞に到着した。

 

「ドレックノール要塞……やっと着いたね」

 

「ここが……サザーランド州の治安を守る正規軍の拠点の一つか」

 

「以前に父上も何度か武術指南で訪れたそうだが……」

 

レト達は陸橋前で要塞を見上げ、忌憚のない感想を述べた。 だが、ここでただ上を見上げているわけにもいかない。

 

「……それじゃあ、さっそく行ってみよう。 確か門衛の人に報告すればいいんだよね?」

 

「そうだよ。 早く報告して、日が暮れる前には帰ろう」

 

陸橋を渡り、城壁の目の前に向かい……レト達は先ほどよりさらに首を上に向け、さらに上半身を少し逸らして見上げる。

 

「近くで見ると本当に大きいな……」

 

「ああ、聞きしに勝る威容だ」

 

「帝国が誇る二大要塞だからね」

 

「ーー君達、ここに何か用かい?」

 

門前にいた正規軍の兵士2人がレト達に気付き、近付いてきた。

 

「その制服は……そういえば報告にあったーー」

 

「自分達はトールズ士官学院、VII組の者です」

 

「こちらで出した魔獣退治の報告に寄らせてもらった」

 

「ああ、君達が。 かなりの強敵だったが……どうやら無事のようだな?」

 

「はい。 先ほど、指定された魔獣は退治しました。 この場で報告をする形で構いませんか?」

 

アリサの質問に正規軍兵士は了承し、報告を終え報酬を受け取り。 兵士達はまた門の前に戻って行った。

 

「ーーこれで依頼は達成した。 セントアークに戻るとしよう」

 

「ええ、そろそろ夕方になりそうだし」

 

「では、戻るとしよう」

 

「あの距離をまた歩くのかぁ……」

 

「ちょっと憂鬱になるわね……」

 

アリサとエリオットが弱気になりながらも来た道を引き返し……日が暮れる頃、レト達はようやく夕焼けに照らされるセントアークに戻ってきた。

 

「や、やっと戻ってきたぁ……」

 

「もう脚がパンパンよ……」

 

「休むのはまだ早いぞ。 後一つ、依頼が残っている」

 

「また一から探すとなると、時間がかかりそうだな」

 

「とはいえ、小柄で金髪の女の子なんてそうーー」

 

「ふむ? 主らは……」

 

その時、レト達の目の前に……小柄で地面に着きそうなほど長い金髪で、どこか妙齢な雰囲気を放つ女の子が歩いてきた。

 

「いた……っていうか、ロゼ婆様!?」

 

「お? おお、おお。 誰かと思うたらレトとラウラではないか、久しいのぉ」

 

「ローゼリアの婆様。 誠、お久しぶりです」

 

レトは驚愕し、ラウラは恭しく女の子……ローゼリアに礼をした。

 

「よいよい、ここに来たのはただの散歩じゃ。 そう堅苦しくせんでもよい」

 

「そうだよラウラ。 婆様は基本ダラしないんだから」

 

「お主はもっと女子(おなご)に対して慎みを持たんか!」

 

ローゼリアは思いっきり足を振り上げ、レトの右足を強く踏みつけた。

 

「痛ッ〜〜〜たああぁぁ!!」

 

「やれやれ……」

 

「全く……この傍若無人っぷりにでりかしーの無さ、誰に似たのやら……」

 

「えっと、レト? もしかして知り合い?」

 

「へ、変な喋り方をするわね……」

 

「……この風は……」

 

エリオット達は女の子がレトとラウラの知人なのは分かったが……どこか女の子から不思議な雰囲気を感じ取っていた。

 

「イタタタ……しょ、紹介するよ。 この人はローゼリアの婆様、見た目に反してご高齢だから敬うように」

 

「フン!」

 

「今度は反対側〜〜!!??」

 

ローゼリアに容赦なく左足を踏みつけられ、レトは地面に倒れて悶え苦しむ。 代わりにラウラが紹介をした。

 

「このお方はレトとの旅の途中でお会いしたのだ。 進むべき道や助言を授けて下さったり、我々にとって師のような方だ」

 

「改めて、ローゼリアじゃ。 それとラウラよ、妾は大した事はしておらん。 少しばかりひんとを言っただけで、後はお主達が導き出しだけの事だ」

 

「そ、それでも……そのヒントが無かったら謎を解くのに時間がかかりました……」

 

「恩師には違いありません」

 

レトはヨロヨロと立ち上がり、ラウラと共にお礼を言う、 と、そこでアリサは依頼の件を思い出した。

 

「そ、そうだわ。 この人にモデルをお願いしたらいいんじゃないかしら?」

 

「あ! そうだね!」

 

「依頼人の要望にも一致している。 問題はないだろう」

 

「? なんの話じゃ?」

 

「えっと……婆様、お願いがあるのですが……」

 

レトは恐る恐る、ローゼリアに絵のモデルの件について説明し、モデルになってもらえないかお願いした。

 

「ふむ……妾の絵を描きたいと申すのか」

 

「は、はい。 もちろん無理にとは言わないですけど……」

 

「……いいじゃろう。 興が乗った」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「うむ、ないすばでぃでないのが悔やまれるが……一枚くらい残してもよかろう」

 

ローゼリアから了承をもらい、レト達は聖堂広場にいた貴族にローゼリアを紹介した。 すると貴族の画家はインスピレーションに来たのか、教会を背景にしローゼリアを道の少し脇に置いて素早く絵を仕上げた。

 

「ーー完成だ!」

 

待つ事数分、完成の声とともにレト達は絵を覗き込むと……

 

「ふむ、以前にも感じたものと似たような心境じゃが……まあ、悪くはない」

 

「いやぁ、ありがとう。 君がいてくれて助かったよ」

 

画家の男性はレト達にお礼の品を渡すと……荷物を手早くまとめて、絵を持って駆け足で貴族街の方へ走っていった。

 

「さて……妾も行くとするか」

 

「お付き合い、ありがとうございました」

 

「婆様、また次の機会に」

 

「うむ、ではな。 2()()によろしく言って置いてくれ」

 

そう言い残し、ローゼリアは住宅街の方に歩いて行った。

 

(2人……?)

 

「……改めて聞きたいんだけど、ローゼリアさんって何者なの?」

 

『知らない/知らぬ』

 

アリサの疑問に、レトとラウラは声を揃えて知らないと即答した。

 

「えええっ!?」

 

「婆様とは偶然出会って、それから度々現れては助言を言って消える……神出鬼没な人なんだ」

 

「歳を聞いて驚いたものだ……只ならぬお方だが、優しいお方だ。 そう気にせずともよいだろう」

 

「そういうものなのか……」

 

「……ラウラも大概レトに感化されているわね……」

 

「そうかなぁ?」

 

「ふむ、そうであろうか?」

 

首を傾げる2人に、アリサはガックシと項垂れ。 エリオットは苦笑、ガイウスはなるほどと納得しながら頷いた。

 

 

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