英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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15話 忘却の村

 

 

ローゼリアと別れた後、レト達はホテルに戻り。 活動レポートを纏めた後夕食を食べ……明日もまた早いので早めに就寝した。

 

そして夜も更け、誰もが寝静まった深夜。 導力車とは縁遠いセントアーク、騒音しない街中に……街道から届く鈴虫の鳴き声だけが鮮明に聞こえてくる。

 

そんな中レトは1人、トリスタから持ってきていたトランクを持ちながら街を歩き……門が閉まっていたので城壁を飛び越えて南セントアーク街道に出ていた。

 

「ーー来い」

 

アーツを指定せずアークスを駆動し、呼ぶように手を掲げる。 すると……何かが接近する音が聞こえてきた。

 

街道の先から黒い影がレトに向かって近付いて来た。 黒い影は高く跳躍するとレトの前に着地と同時に急ブレーキしながら停止し……

 

「グルルルル……」

 

唸り声を上げてレトを見据える。 月明かりに照らされ現れたのは胴体から2つのアームが生えた機械仕掛けの銀獅子……十三工房製、獅子型人形兵器の最終モデル、ライアットセイバー。

 

その改修発展型のライアットセイバー・セカンド。 装甲と四肢の強化と軽量化、機銃などの遠距離武装の撤去……そしてレトの趣向でYES、NO程度の受け答えが出来る人工知能の取り付け、尻尾が断ち切りばさみではなくワイヤーの先端に剣なのと騎乗が可能になっている。

 

「よろしくね、ウルグラ」

 

「グルル」

 

このライアットセイバーを手に入れたのはある事件の時、偶然レトが起動前のライアットセイバーを見つけた事から始まった。

 

レトはさらに間違えて起動させてしまい、ライアットセイバーはレトをマスターとして認証されてしまった。 レトは消えるし連れて行くのはやぶさかではなかったが……騎乗したいと考え、ルーレに連れて行きかのG・シュミットの手によりセカンドとなった。 帝国中の旅には同行させていたが……学院入学以降は帝都地下、レトの秘密基地に置いて行ったのだ。

 

そして今日、アークスから発した信号で帝都から呼び出し、セントアーク近郊に控えさせていたのをまた呼び出したのだ。 ちなみに名前は、“勇猛の宿命”の意味を持つウルグラと名付けた。

 

「ウルグラ、久しぶりで悪いけど、今日はよろしくね」

 

「グルルルル」

 

ウルグラは気にしてないと唸り、背を向けて腰を下ろした。 レトは苦笑し、飛び乗ってウルグラに付けられた鞍に乗った。 するとウルグラの両脇腹が一部が凹み、そこが鐙となりレトは足を乗せ、獅子の鬣に中に位置する場所にあるスロットルのようなハンドルを握った。

 

「行くよ……」

 

「グルル」

 

ウルグラは吠えたかったが、セントアークの住民に迷惑がかかるので唸って返事をし。 走り出してレトは街道を南下した。

 

途中、現れた魔獣はウルグラが突進しながら吹き飛ばし。 10分ほど走らせ帝国最南端にあるパルムに到着。 だが夜とはいえウルグラを入れる訳にはいかず、レトはパルム手前で右に曲がって街道から逸れ、鉄道線を飛び越え迂回してパルム間道に出た。

 

「……………………」

 

この先リベールがある、レトはそう思いながらも雑念を振り払いウルグラを走らせ、目の前にあったコンテナを飛び越え、軽い坂を登ると……厳重な門を構えている広場に出た。

 

「この先が……」

 

本当なら許可を得ようが得まいが、国や軍が侵入したと知る由もないと思い帰国後直ぐに向かいたかったが……ある2名が手順を踏んでここに訪れたのだから、自分もそうあるべきだ。 そう考えて1年待たされたのだ。

 

レトはウルグラから降り、ここに来る前にハイアームズ卿から受け取っていた鍵を使って錠を外し、厳重に巻かれていた鎖を取り払って門を開けた。 レトは緊張で唇が乾き、持ってきていた水で喉を潤すと……後ろからウルグラが小突いて来た。

 

「グルル……」

 

「ウルグラ……そうだね、行こう」

 

再びウルグラに乗り、忘れ去られた廃道を進んだ。 この辺りの魔獣は夜にやると気性が荒くなるのか、見つかる度に襲いかかってきたが……その度にウルグラが撃退し、先に進んだ。

 

「……ぁ……」

 

しばらく廃道を進み……レトは廃村に到着した。 ここはハーメル、レトが帝国を嫌う原因を体現している場所。 民家は焼き払われ、長い月日が経っているが……夜の雰囲気も相まってどこか幻想的な光景になり、レトは思わず写真を撮ってしまう。

 

すぐにハッとなり、写真を消そうとするが……しばらく考え込んだ後、導力カメラの記録結晶を交換し、懐にしまった。

 

「……この先だ、行こう」

 

「グルル……」

 

ウルグラから降り、自分の足でハーメルを歩く。 村の光景に胸を締め付ける感覚に陥りながらも奥へ向かい……崖に面している広場に出た。 その中央には……慰霊碑と呼ぶべきものがあった。

 

「……………………」

 

レトは膝をついて持ってきていた花束を慰霊碑に添え、黙祷した。 そして5分くらいで黙祷を辞め、ウルグラが持っていたトランクを開けた。 中に入っていたのは黄金の剣……かの剣帝が振るっていた魔剣、ケルンバイター。

 

リベールの異変の時、レトは剣帝からこの剣を授けられた。 漆黒の牙ではなく、レトに……

 

「……あなたはロランス・ベルガーの時から僕に目を掛けてくれましたね。 剣の才を見初めたと言っていましたが……僕はあなたの後に継げる程闇は深くないですし、覚悟もありません……この剣、お返しします」

 

ケルンバイターを取り出し、ソッと花束の側に置いた。

 

「力は喪われていませんし、いつか結社の誰が回収に来ると思いますけど……それまでは、どうかご一緒に」

 

役目は終わった……レトは立ち上がり、踵を返してその場を去ろうとすると……

 

「ーー行ってしまわれるのですか?」

 

「!?」

 

突然、背後から声を掛けられ、レトはバッと振り返ると……そこには重鈍な鎧と仮面を身にまとう金髪ロングの女性が凛とした雰囲気を醸し出しながら佇まっていた。

 

「剣帝の意志を継がず、この国の闇を知りながら逃れ続ける気なのですか?」

 

「! その声……影の国で聞いた……結社、身食らう蛇の使徒が第七柱!」

 

声に覚えがあったのか。 レトは槍を取り出し、穂先を女性に突き付けて警戒する。 それに対し女性の挙動に変わりはない。

 

「どうやら私のことはご存知のようですね。 改めまして、《鋼》のアリアンロードです」

 

「……レト・イルビスです。 なぜあなたがここに現れたのかはわからない……ですが、丁度いいです。 ケルンバイターを持って行ってください。 それはあなたが従う盟主の元にあるべきです」

 

「ーーいいえ。 それは違います」

 

レトの言葉を即座に否定し、アリアンロードは慰霊碑に添えられていたケルンバイターを手に取る。

 

「もう一度、聞きましょう。 剣帝の意志を継がず、この国の闇を知りながら逃れ続ける気ですか?」

 

「……………………」

 

2度の同じ問いに……レトは無視しする事はできず、少し考え込んだ後、口を開いた。

 

「僕には……僕には荷が重過ぎます。 ただ剣帝を継ぐだけなら了承してたかもしれない。 けど、僕にはこの村の罪を背負う立場にある! 罪から逃れるつもりはないです、ですが……僕にはレオンハルトさんの意志を、世界に問い掛ける事なんて……」

 

自分と、レオンハルトは違い過ぎる。 レトはこの業を背負う意味がわからない訳ではない……ただ重過ぎるのだ、レトが背負うべきものはそれだけ。

 

アリアンロードはそれを聞き、少しの間の後に……ケルンバイターをレトに向かって投げた。 レトはそれを驚きながらも見切り、回転する剣の柄を掴んで受け止めた。

 

「なっ!?」

 

「剣を取りなさい。 稽古をしてあげましょう」

 

するとどこからともなく剣を取り出し、静かな威圧がレトに振り返る。

 

「くっ……ウルグラ!」

 

「グルオオオオッ!」

 

その気迫に怯むが、ここで戦っては死者への冒涜になってしまう。 気圧されながらも踵を返してウルグラの背に乗り、村の手前にある広場まで来ると……すでにアリアンロードが立っていた。

 

「いつの間に!」

 

「なるほど、初段は合格ですね。 まあ、レーヴェが見初めたほどの人物……そうでならなくては困ります」

 

「くっ!」

 

逃げる事は出来ない……槍をしまい、走っているウルグラからアリアンロードに向かって飛び降り、走っていた勢いを重ねてケルンバイターを振り下ろした。

 

「……………………」

 

だが、その一振りを片手で鞘に収めた剣で受け止めた。 そこから回転させ、レトを自身の背後に弾いた。

 

「っ……」

 

この一連だけでレトは力量の差を自覚した。 勝てるはずがない……本能がそう判断するが、レトはそれを振り払い剣を握る。 その時……

 

「グルオオオオ!!」

 

アリアンロードの背後でウルグラと……3人の同種の甲冑を身に纏っている女騎士が戦っていた。

 

「あら? いくら十三工房の最終モデルとはいえ、こんなに強かったかしら?」

 

「殲滅天使のもつ人形兵器と同じだろう。 かなりの戦闘経験を積んでいるようだ」

 

「貴方達、機械ごときに遅れを取るのは許しませんよ!」

 

女騎士3人は剣、斧槍、弓……それぞれの武器を構え。 いざウルグラを狩ろうとした時……

 

「ーーウルグラ!!」

 

「グルルッ!?」

 

その前にレトは声を張り上げ、威嚇していたウルグラと共に女騎士3人を制した。

 

「大人しくしていて! 彼女達はウルグラが敵う相手じゃない! この人達の目的はこの僕だ、手を出さなければ安全だから!」

 

「グルルルル……」

 

ウルグラはレトの言葉を聞き入れると、後ろに下がり腰を下ろした。 だが視線はレトからは外さない。 それを確認した女騎士達も邪魔にならぬよう後ろに下がる。

 

「ふふ、利口ね」

 

「いらぬ手間が省けた」

 

「……仕方ありませんね」

 

レトは気を取り直し、目の前の至高の存在を相手にする。 が……力量差は明白、レトは本気で彼女に立ち向かうが、アリアンロード自身は指導剣を振るっていた。

 

「おおっ!」

 

「ーーあなたの剣は型がない。 レオンハルトの剣からここまで再現し、己がものとするのは見事ですが……所詮は模倣!」

 

「うわっ!!」

 

ただの一振り、だがその剣は尋常ではないほど速く鋭く。 レトはケルンバイターの腹で防ぐも……大きく弾き飛ばされてしまう。

 

「作法がなっていません、あなたの剣は天性の才覚によるもの。 そのままでは獣と同意……どうやら脳裏に焼き付いている剣帝の姿で動いているようですね?」

 

「ハア、ハア……はい……ルーアン市での事件、闘技場、グランセル城、ラヴェンヌ廃坑、紅の箱舟、そしてリベールアーク……! 全部、頭の中に入ってます!」

 

ケルンバイターを地に突き立てて立ち上がり、レトは戦う意志をアリアンロードに示す。

 

「……いいでしょう。 かの剣帝も通りし道を教授しましょう、剣を取りなさい」

 

「う、うおおおおっ!!」

 

裂帛の気合いで地を蹴り、最速の剣を振るう。 そしてアリアンロードの剣をその身で受け、自身に何が足りないのか、どうするべきなのかを頭の中で考え抜く。

 

「記憶にある剣帝を己がものとして取り込みなさい。 剣を振るうのは“己”の魂と意志ーーさあ、あなたの剣、見せてみなさい!」

 

「はい!」

 

既にレトの頭の中にアリアンロードが結社の一員である事など忘れ。 素直に剣を受け、記憶の中の剣と写し合わせ、ものすごい勢いで己が者として吸収していく。

 

そしてそれが数時間にも及び……とうとう日が昇ってしまった。 それでもレトは剣を振るい、貪欲にアリアンロードに剣技を喰らい、自分の血肉にしていく。

 

「はあ!」

 

「っ!」

 

仮面に隠れたアリアンロードの表情に変化があった。

 

「ふふ、一から十、全ての剣の作法を教えたつもりが……百になって返ってきました。 レオンハルトがあなたを見初めた理由の一端、わかった気がします」

 

「でやあああっ!!」

 

接近しながら剣を投げ、後ろに弾かれるも一瞬で背後に回ってキャッチし、一転してアリアンロードの剣を弾いた。 アリアンロードは後ろに弾かれ、レトはそれを勝機と見て飛びした瞬間……

 

「!」

 

レトは頭の中に何が流れ込んでくる感覚に陥る。 脳裏に映し出されたのは……1人の青年が鍛錬のため剣を振るい、その光景を優しい女性と男の子が見守っていた。

 

「っ!!」

 

レトはそれに驚愕しながらも地を蹴り……アリアンロードの背後を取り、仮面に向かって神速の一刀を振り下ろした。 が……

 

「ガハッ!!」

 

アリアンロードは後ろを振り返らずに剣を背中に回して受け止めて……流れるように拳が峰打ちが鳩尾に入り、レトは激痛と苦悶の声を漏らし地に倒れ伏し、気絶してしまった。

 

「……………………」

 

アリアンロードは剣を振り払い鞘に納め、レトを見下ろす。

 

「気絶してもなお、剣を手放しませんか……」

 

「グルルルル……」

 

倒れたレトにこれ以上手を出させない為にか、ウルグラがレトの前に出て来てアリアンロードを威嚇する。

 

「心配せずともこれ以上、あなたの主人には手を出しません」

 

「ーーマスター」

 

続いて後ろに控えていた3人の女騎士がアリアンロードの元に向かい、敬うように跪いた。

 

「マスター、なぜこのような事を? この者を剣帝の後を継がせ、結社に向かい入れるならまだしも……ただの指導剣など」

 

「確かに見惚れるほどの才はあるでしょう。 マスターが気にかけるのも頷ける」

 

「このまま、結社にお連れにならないのですか?」

 

「……彼にその意思があれば連れて行きましたが、今の彼はまだ芽生えたばかりの蕾。 今は咲き誇るのを待つとしましょう」

 

すると、彼女達の足元に光り輝く陣のようなようなものが展開され……

 

「また会える日を楽しみにしてますよ……レミィ」

 

「え……」

 

アリアンロードが去り際に何かを呟き、女騎士の1人がそれを聞き取り唖然とすると……彼女達はどこかに飛ばされるように消えていった。

 

「グルル……」

 

その場に残された気絶したレトとウルグラ。 ウルグラは少し唸ると、アームを使ってケルンバイターをトランクに仕舞い。 続いてレトを背中に乗せ……駆け出し、忘却の村を後にした。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「ーーう……う〜ん……」

 

レトは逆光で目を覆いながら目を覚ました。 まず見えたのは少しずつ青みが増していく大空……そして、揺られながら移動していた。

 

「ここは……? 僕は……一体なにを……」

 

「ーーグルル」

 

「!」

 

どうやらレトはウルグラの背に寝ていたようだ。 ウルグラはセントアークに向かい、レトを起こさぬようにゆっくり街道を北上していた。

 

「ウルグラ……! 痛ッ……」

 

驚愕とともに勢いよく起き上がると、全身の節々が痛みを主張した。 レトは痛みに耐えながら呼吸を整え、心を落ち着かせる。

 

「……そうか、確かハーメル村で……蛇の使徒に剣を教えられて……それから……」

 

レトは昨晩の出来事を思い返す。 そしてウルグラが持っているトランクを見る。 本来ならケルンバイターはこの場にないはずなのだが……致し方なしとレトは苦笑した。

 

「ウルグラ。 お前が僕をここまで?」

 

「グルル」

 

「……そう……ありがとう」

 

頭を撫で、ここまで連れて来てくれたお礼を言う。 だが、ここでゆっくりしてもいられない。 そろそろラウラ達も目覚める頃だ……

 

「まだ6時前……急げば多分間に合う。 バレないぐらい、隠れながら急ぐよ!」

 

「グルル!」

 

レトはウルグラの鞍に乗り直し、街道の横道に隠れながらセントアークに向かった。 ラウラとガイウスが早起きなので手遅れかもしれないが……とにかく急いだ。

 

数分で到着すると、林の中にウルグラを隠し門を通ってセントアークに入った。 そしてホテルに戻り、割り当てられた部屋の前に立った。

 

(……お、おはようございま〜す……)

 

扉を開けながら小声で挨拶し、音を立てないようにゆっくりと部屋の中に入る。 キョロキョロと部屋を見回すと……ガイウスとエリオットがまだベットの中にいた。

 

(ソロ〜リ、ソロ〜リっと……)

 

抜き足差し足……レトは物音一つ立てずに部屋に入り、荷物をゆっくりと置いた。 そして自分が寝るはずだったベットの掛け布団をめくり上げ、今起きたと装った。

 

今度は普通に音を立てて歩き、汚れと疲れを落とすため、眠気を覚ますためを装いシャワーを浴びた。

 

「ふう……」

 

「あ、レト」

 

レトはシャワー室から出ると、エリオットとガイウスはすでに起床していた。

 

「おはよう、2人とも」

 

「ああ……いい朝だな」

 

「朝にシャワーなんて珍しいね」

 

「ちょっと寝汗をかいちゃってね。 フカフカ過ぎて逆に緊張したのかもしれない」

 

「あ、あはは……確かに」

 

自分もそうだったのか、レトの言葉に同意する。

 

「2人もそろそろ起きているだろうし、僕達も行こうか」

 

「分かった。 先に行っててくれ」

 

「うん」

 

エリオットは部屋を後にし、レトは制服に着替えようとすると……ガイウスが声をかけてきた。

 

「……それでレト。 昨夜はどこに行っていた?」

 

「えっ……何のこと?」

 

「音を立てずに静かに出たようだが……風は誤魔化せない」

 

それはただ単にドアの開閉するときに通る風を感じただけなのだが……バレた事には変わりはない。

 

「ええっと……実習中に勝手に外出したのは悪かったけど。 今回だけ、見逃してくれないかな?」

 

「……昨日とレトが纏う風が変わった。 以前はどこか影に隠れた風が吹いていたが……今はとても澄んでいる。 どうやら己と向き合い、苦難を乗り越えたようだな」

 

「! ……そうだね。 今まで渦巻いていた疑念を……ようやく認めて、自分の血肉に出来たんだと思う」

 

どういった原理なのか分からないが、ガイウスのその慧眼にレトはテーブルに置いてあったトランクの表面に手を這わせ、驚きつつも頷いた。

 

「なら、俺から言える事は何もない。 今はただレトが壁を乗り越えた事を喜ぶとしよう」

 

「あはは、そんな大層なものでもないけどね」

 

照れ臭そうに頭をかき、着替え終えたレトはガイウスと部屋を出てフロントに向かった。 そこには既にエリオットの他に、ラウラとアリサも待っていた。

 

レト達は朝の挨拶をしながらテーブルに座り、豪華な朝食を食べ……支配人から受け取った特別実習2日目の依頼が入った封筒を開けた。

 

「……必須がイストミア大森林の魔獣討伐。 そして同じくイストミア大森林で薬草の採取……この2つだけみたいだね」

 

「ふむ……バランスよくまとめられてあるな。 確かこの依頼はハイアームズ侯爵が出しているのだったな?」

 

「うん、そうらしいよ」

 

「まあ、それはともかく、実習も2日目。 この調子で頑張っていくとしよう」

 

「ええ」

 

「明日にはここを発つ。 最後まで全力で挑むとしよう」

 

レトは痛む身体を誤魔化し、普通を装いながらホテルを出た。 だが、ラウラは疑うような目でレトの背を見ていた。

 

 


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