19話 同業者と確執
6月15日ーー
先月の特別実習も終るも、VII組には他のクラスの遅れを取り戻すため忙しい通常授業は待ち構えていた。 そして今日は試験前なので午前中に学院は終わり、HRが終わるとVII組のメンバーは教室の真ん中に集まっていた。
各々が苦手教科を教え合おうと話し合っている中……ラウラがまるでフィーを避けるように一足先に教室を後にした。
「………………」
そんな出来事を頭の隅で思い出しながら、学院の誰もが試験勉強をする中……ある1人の男子生徒はいつも通りだった。
ギムナジウムの練武場で、レトは目隠しをしながら練武場の真ん中で佇んでいた。 その左手には練習用の片手剣が握られ、彼を取り囲むように6つの燭台があり。 燭台の上にはロウソクに火がつけられており……
「ーーシッ!!」
一呼吸で一回転するように剣を振るい……一太刀で6つ全てのロウソクの火を消した。
「ふう……こんなものかな」
目隠しを外して、全てのロウソクの火を消したか事を確認して満足するレト。 その時、練武場の扉が開き……ラウラとアリサが顔を出してきた。
「やはりレトか。 試験が迫っているというのに相変わらずだな」
「やれる事はやったからね。 まあ後でもちろん復習はするけど……今は一汗かいてスッキリさせたいから」
「言っている事は分からなくもないけど……」
後片付けをしながら持論を述べるレトに、アリサは少し困惑しながらも同意する。
「さて、これ以上やると見つかった時が面倒だし……このくらいにしておくかな」
「なら上で一緒に試験対策をしないか? ちょうど美術の――」
3人は他の科目も交えながら試験勉強をするのだった。
◆ ◆ ◆
そして翌日……今日から19日までの4日間をかけて行われる中間試験……学院の生徒達はそれぞれの心境を持ちながらテストに挑んだ。
そしてあっという間に4日は過ぎてしまい……現在は雨の上がった空の下、試験後のHRが行われていた。
「いや~っ、4日間、ホントご苦労様だったわね。ちょうど雨も止んだみたいだし、タイミング良かったんじゃないか。これも空の女神の粋な計らいかしらね」
サラ教官の他人事のような褒め言葉に、VII組のメンバーは心中溜息をつく。数名、若干気疲れしているが、試験の結果は心配していないようだ。 忘れていたいの間違いかもしれないが……
「ま、明日は自由行動日だし、せいぜい鬱憤でも晴らしてきなさい。 それと、試験結果は来週の水曜に返却されるわ。 そうそう、その日の午後には今月の実技テストもあるからね」
「はあ……それがありましたか」
「少しは空気を読んでもらいたいものだな」
「次の特別実習についての発表もあるのですよね?」
「ええ、来週末にはそれぞれ、実習先に向かってもらうから。 ま、その意味でも明日は羽根を伸ばすといいわね」
「…………ふむ……………」
「うーん、久々に部活に出ておこうかしら……」
(…………スピー…………)
半分寝ているレトを余所に、サラ教官は明日用事があって不在になると言い残し……HRを終わりにした。 サラ教官はその野暮用の為なのか、早めに教室を出て行き、すぐ後にフィーも教室を出て行った。
「…………スピー…………」
「レト……って、寝てるし」
「夜遅くまで勉強してたのかな?」
「恐らく、研究に没頭していたんだろう。 真夜中部屋から導力パソコンを打つ音が聞こえたし」
「なんで試験とは関係のないものをやっているんだ……」
「なんでも帝國学術院に提出する論文の期限が迫っているようだ。 その論文も、2年前にリベールで起きた導力停止現象に関係しているらしい」
「確か帝国でもパルムで起きた現象ね。 っていうか、帝国人がリベール王国に入るのって難しいんじゃなかったかしら?」
「色々と謎が多いやつだな」
リィン達が疑問に思う中、ガイウスが座った状態で寝ているレトに近寄った。
「ーーさて、このまま寝かす訳にもいかない。 俺とレトはこの後学院長に呼ばれているんだ」
「学院長に? ガイウス、レトに巻き込まれて何かやったの……?」
「さらりと酷い事言うわね。 まあ、否定できないけど……」
「いや、ただ単に呼ばれただけだ」
ガイウスはレトの肩を揺すり起こそうとするが……一向にレトは目が覚めなかった。
「起きないな……」
「大きな音でも鳴らしてみる?」
「ふむ、それよりも効果的な起こし方があるぞ」
言うや否やギンッと、ラウラの凛々しい表情に険しい眼光が走り、その鋭い目つきに殺気が混じり……
「!!」
すると寝ていたレトが目を見開いて跳ね起き、イスを乱暴に倒してリィン達から距離を取った。 その手には槍があり、いつでも抜けるようにしていた。
「あ、起きた」
「さ、殺気で起こしたのか」
数秒で意識は覚醒し、レトはリィン達の顔を見て、大きく溜息をつきながら脱力した。
「はぁ〜……またラウラ? この起こし方心臓に悪いって何度も言っているよね?」
「ふふ。 普通に起こしても起きない其方が悪い」
この起こし方が何度も行われていたのか、ラウラは苦笑しながら慰めるように少し不貞腐れるレトの頭を撫でる。
「もう……あ、そうだ……ごめんガイウス、時間を取らせちゃったね」
「問題ない、今から行こうとした所だ」
レトとガイウスは先に寮に帰るリィン達と1階で別れ、学院長室に向かい。 レトは学院長室のドアをノックした。
『入りたまえ』
「失礼します」
「失礼する」
学院長の了承を得て、2人は中に入り。 学院長が座っているデスク前まで歩み寄る。
「呼び立てて済まなかったな」
「いえ、それで僕達に何の要件があって呼び立てのですか?」
「うむ。 2人には先週に発表される特別実習のーー」
学院長がレトとガイウスを呼んだ経緯、そしてあるお願いをされ、2人は驚きながらもそれを了承した。 その後2人は学院を出て一緒に寮に帰る。
「まさか次の実習先がそんな遠くになるなんてねー」
「これも風の導きだろう」
レトとガイウスは写真と絵、互いの趣味について雑談し、途中でフィーとも一緒に寮に帰ると……玄関先にはリィン達が集まっていた。
「あれ? 皆どうしーー」
『ーーもういい! こうなったら……』
質問する前に頭上からアリサの大声が聞こえ、3人は先に顔を上げて事の次第を聞いているリィン達に続いて顔を上げた。
(……アリサの他に誰かいる。 けど何だろう……この気配は……)
「ーーむ? 皆揃って玄関先で何を……」
『と、とにかく認めない! 絶対に認めないんだからあっ!』
先ほどと同様に、ラウラが全員がここに集まっている理由を聞く前に……アリサの大声が分かりやすく響いた。
◆ ◆ ◆
6月20日ーー
長く感じたテストも終わり。 士官学生達は緊迫された空気から解放されて各々が充実した休日を過ごしていた。 そして先日、この第3学生寮の管理人を務める事になったシャロンは全員の為に朝食を用意していた。
「……あれ? そういえばレトは?」
「また部屋にこもっているのだろう」
「はい。 夜中から今までずっと論文を書いていたようです」
「確かシャロンの部屋はレトの隣だったわね。 うるさくはなかった?」
「いえ。 むしろ会長のようなお方だと思いました」
「…………働きづめという部分だけはね…………」
アリサが頭の中でレトと自身の母親を比べていると……そのレトがフラフラしながら食堂に入ってきた。 髪はボサボサしていて制服も上着を着てなくシワが目立ち、顔もかなりどんよりしている。
「お〜は〜よ〜……」
「おはようございます、レト様。 朝食は軽めの物をご用意しますが、いかがなさいますか?」
「あ〜うん……それで〜……」
「かしこまりました」
シャロンの言葉をほとんど頭に入らず聞き流し、レトはゆっくりと席に座った。
「レト……大丈夫?」
「う〜ん……大丈ーー……クー……」
「ね、寝た……」
座ってから数秒で夢の中に旅立つレトに、リィン達は苦笑いするしかなかった。
「これは流石に旧校舎の探索には連れていけないよな……?」
「レトの事だ。 むしろ連れて行かない方が後々面倒になるだろう」
「ありうるな」
その後、リィン達が朝食を食べ終え、それぞれの自由行動日を過ごす中……レトは半ば睡眠状態で朝食を取り、食べ終える頃にはそこそこ目を覚まして自室に戻った。
「………………(カタカタカタ)」
そしてレトは再び自室で導力パソコンと睨み合っていた。 一心不乱に作成しているのは帝國学術院にいる教授に提出する考古学レポートだった。
「……よし。 リベル・アークについての論文はこれでいいとして……一息いれるかなー」
時計を見ると既に正午を過ぎており。 首を左右に動かし、肩筋からコキコキと音を鳴らしてほぐしながら……レトは後ろに意識を向けた。
「ーーそれで、なんのようですか……シャロンさん」
「うふふ、一仕事終えたレト様にお茶をと。 もう正午を過ぎていますし、ご休憩なされてはいかがでしょうか?」
「…………ありがたくいただきます」
ノックも無しに入って来た事よりも、レトはティーポットに入れられた紅茶の香りに誘われた。
彼女はシャロン・クルーガー。 なんでもアリサのメイドで、帝国有数の規模を誇るラインフォルト……通称RFグループのメイドらしい。
「シャロンさん……1つ聞いてもいいですか?」
「何でしょうか?」
「そこはかとなく、シャロンさんからなーんか見覚えのある気配というか……匂いがします。 気のせいですかね?」
「……さあ、どうでしょう?」
シャロンはカップに紅茶を入れながらレトの質問をはぐらかしたが……返答に少し間があった事にレトは気付いた。
「……まあ、僕の予想が当たっていたとしても、その人物達はありとあらゆる自由が認められています。 何かする訳でもないなら……僕は特に関与しません」
「お気遣い感謝します、レト様」
シャロンはお辞儀をすると部屋を後にした。 レトはゆっくりと振り返ると……足の踏み場も無かった部屋に床ができていた。 どうやらあの間に片付けたらしい。 書類も種類別に綺麗に分けられて棚の上に置かれている。
「いつの間に。 あ……美味しい」
驚きつつもレトは紅茶を飲むと……予想外の味に驚きの声をもらす。
「……そういえばウルグラはちゃんと秘密基地に帰ったかなぁ?」
半月たって今頃ウルグラの心配をし、導力パソコンを操作してウルグラの位置を確認する。 画面に表示されたのは帝都ヘイムダルの地図で、その都市の真ん中に赤い信号が発せられていた。
「うん、問題なさそうだね。 とはいえ、そろそろメンテナンスをした方がいいし……」
ピリリリリリ♪
不意にパソコン脇に置いていたアークスが着信音を鳴らした。 レトは左手は作業の手を休めずに右手でアークスを取り通話に出た。
「はい、レトです」
『……レト?』
「その声はフィー? どうかしたの?」
『ん……ちょっとね。 今から会える?』
「それは別にいいけど……」
タンっと、キーボードのエンターキーを押しながら問題ないと言い、レトは上着を着て寮を出た。 学院の中庭のベンチにフィーは座っていた。
「おまたせ、少し遅れたかな?」
「ううん。 ついさっきまで園芸部にいたから」
フィーは気にしてないとフルフルと首を振り、そのままレトはフィーの隣に座った。
「レトはリィンに旧校舎探索に誘われてないの?」
「朝があれだったからね、遠慮されたんだと思う。 そういうフィーは?」
「……………………」
その質問にフィーは答えられず無言のままだった。 数分前にフィーはリィンに誘われて旧校舎に向かったが……先にラウラがいて気まずくなり、やっぱり用事があると言い半ば逃げるように旧校舎を出て、ふとレトと連絡したのだ。
「ねえレト。 ラウラとは付き合い長いんだよね?」
「VII組の皆と比べたらね。 まあ、出会った当初は結構険悪だったけど」
「そうなの? 全然想像できない」
「旅の最初に、僕はレグラムに行って子爵閣下にローエングリン城に行かせてもらえないかと頼んでね。 それを一緒にいたラウラが“無礼者!!”って言って大剣を抜いて切りかかってきて……それから何やかんやでラウラが旅に同行にする事になったんだ」
「飛ばし過ぎ」
レトは笑って誤魔化す。 フィーはあまり過程を喋りたくないようにも聞こえたのでそれ以上は追求しなかった。
「まあ結局僕が言いたいことはね、ソリの合わない2人でも仲良くなる事は出来るって事。 最初の僕とラウラは仲が良くなかったけど敵ではなかった……今のような関係になる事だってできた」
「……私とラウラも?」
「そうだよ。 マキアスとユーシスだって、ぶつかったからこそ近づく事が出来た。 分かり合える方法は何も手と手を取り合うだけじゃないって事」
「……でも、私は……」
自分には出来ないようにフィーは顔を俯かせる。
「……多分フィーだけじゃないよ。 ラウラも、VII組の皆は何かを抱えている……そんな感じがするんだ」
「……レトも?」
「そうだね。 この剣とか関係なく……もっと根本的なヤツがね……」
左手を前に突き出し、手の中に黄金の剣……ケルンバイターを出現させ、クルクルと手の中で回す。
「ラウラとフィーがすれ違っている理由は予想がつく。 今の2人の状況が……まさに昔の僕とラウラと同じだからね。 でも、きっと分かり合える。 たとえフィーが猟兵でも、絶対にね。 僕もこんなのとか持っていてもラウラは変わらず接してくれるし」
剣を頭上に放り投げ、落ちてきた剣の柄を掴もうとした瞬間……剣は消えて握られた手は空気を掴んだ。
「僕の冒険の道具、ダイナマイトを使った時もフィーと同じような感じだったし」
「なんでそんなの持っているの?」
「遺跡の探索で脆い岩盤を壊すのに持ってこいだから。 武器にも使えて一石二鳥。 通れない道は取り敢えず爆破するに限るからね」
「確かに」
妙な所で気が合い、レトとフィーはクスッと苦笑した。
「そうそう。 フィーは落ち込んでいるより笑顔の方が可愛いよ。 いつもみたいにマイペースでね」
「ヤー」
と、そこでレトは空を見上げた。 いつのまに日が暮れかけていた。
「さてと……そろそろ寮に帰ろうか。 夕食くらいはシャロンさんの料理をしっかり味わいたいからね」
「同感」
フィーは少しスッキリした顔をし、レトと並んで寮に帰るのだったが……途中で何度も寄り道して、寮に帰ったのは日が落ちた頃だった。
ラウラとフィーのすれ違いが早い気がするけど……そこはレトがいるからと納得しておく。