6月26日ーー
早朝からB班は寮の1階に集まり、まずは駅に向かおうとしたところ……シャロンから朝食のランチボックスを受け取り、駅に向かった。
「しかし、ブリオニア島か……また辺鄙な場所を選んだものだ」
「実際どんな場所なんだ? 名前しか知らないんだが」
「ブリオニア島は通称遺跡島……はっきり言って遺跡を抜けばただの無人島だよ」
「上陸する目的も観光か参拝くらいだろう。 地元の人間でも訪れる事は少ない」
レト達は乗車券を購入し、列車が来るまで実習先について話していた。
「えっと……レト、ここからブリオニア島までどれくらいかかるの?」
「うーん、列車からボートに乗り換えるし……片道8時間くらいはかかるよ。 シャロンさんからランチボックス貰っておいて良かったね。 でもお昼は自分達で用意しないと、帝都で買うには早いし……ラクウェルのはそんなに美味しくないし、やっぱりオルディスについてから食べるしかないね」
「その間はお預けか……長旅になりそうだ」
オルディスに着いたら何を食べようかと考えていると……ふと、レトは駅に備え付けてあった日付を見た。
(あ、そういえば今日だったかな……)
と、そこへリィン達A班が駅内に入ってきた。
「あ、リィン達!」
「そっちも今から出発?」
「ああ、そうだけど……」
リィンの視線はレト達の背後に向けられる。 そこにいたのはラウラとフィーで、2人はその視線に気付いた。
「……なに?」
「そちらは乗車券を購入しなくていいのか?」
「いや……うん、そうだな」
「今回、帝都までは一緒の列車ですし……」
少しB班を心配しながらもリィン達は乗車券を購入し、レト達と一緒にホーム内に入り帝都行きの路線まで向かうと……そこでちょうど列車が到着するアナウンスが流れた。
「えっと……タイミングが良かったわね」
「ふふっ、そうですね」
「……そうだな」
「……ん」
アリサとエマが何とか間を取り持とうとするも……当の2人は生返事気味だった。
(相変わらずのようだな)
(まあ、こちらの事は心配しないでくれ。 あの2人の事も何とかフォローしてみよう)
(ちょ、ちょっと難しそうな気もするけど……)
(そうか、分かった)
(よろしく頼む)
(うん、任せておいて)
その後すぐに列車は到着し、両班は帝都行きの列車に乗り込み……列車は帝都に向かって出発した。 リィンとレト達はその後すぐにシャロンから貰ったランチボックスを開けた。
「ーーうん。 美味しいね、このサンドイッチ!」
「パンも甘みがあっていい。 さすがだの一言だ」
「ああ、完璧すぎる仕事振りだ」
「うまうま」
ランチボックスの中身は両班同じのようで、レト達は食べ損ねる筈だった朝食を済ませた。 ただ問題があるとすれば……
「……………………」
列車の席は基本左2列と右3列に並んでいる。 今回A班の6人は右3列のボックス席に丁度座っており、B班は対面する左2列の席に座っているのだが……実は1人、人数オーバーで、しかも片方の座席に順番にフィー、レト、ラウラの順で身を寄せ合って座っている。
つまりは、この2人の間に座っているレトはラウラとフィーの妙な威圧に直に当てられ……朝食を味わえられずにいた。
「しかしブリオニア島か……古代文明の遺跡があるらしいが、どういった場所なんだろうな?」
「そういえば僕、海って見るの初めてなんだよね。 レトとラウラとフィーはどうなの?」
「……僕とラウラは旅の途中で一緒に見たよ。 その時にブリオニア島に上陸したんだ」
「レトは以前、リベールで見たと言っていたが……私はあの時が初めてだった」
「私もあるよ。 団の上陸作戦に付いて行った時に」
「……………………」
フィーも悪気があるわけではないが、途端にラウラが無言になる。 何時になくフィーの言動に反応しているようだ。 いつも泰然としているラウラらしくない。
「そ、そういえば、ラウラ。 君の故郷レグラムにも遺跡があるんじゃなかったか?」
「確か……聖女のお城だったっけ?」
(……聖女……)
エリオットの何気ない一言に、あの忘却の村で出会った女性を思い出し……無意識に胸に手を当てる。
「ああ……ローエングリン城だな。 レグラムの街から見える湖に面した壮麗な古城でな。 霧の晴れた日など、あまりの美しさに溜息が出るくらいだ。 な、レト」
「え……あ、うん。 あんな事した手前、ちょっと複雑だけど……」
「まあ、あれはあれで美しいだろう」
「?」
「よく分からないが……とにかく一度、見てみたいな」
マキアスは少し話が読めず不審に思ったが、意に介さなかったようだ。
「んー……腕のいい狙撃手に陣取られたら厄介そうな場所だね」
「あ、確かに。 基本湖に囲まれているから陸から攻めにくいし……見晴らしもいいから潜入にも向かない。 潜入するとしたら湖の底を泳いで接近するしかないんだよねあれ」
「あー、そうかも」
「………………ハァ………………」
2人の仲をフォローするはずが、レトはむしろフィーに賛同してしまい、ラウラは窓の外を見て溜息をついた。
それから30分後……列車は帝都内に入り、ヘイムダル中央駅に到着した。 早朝なので人数は少ないが、もう1時間もすればここは人で溢れかえるだろう。 と、そこで意気消沈気味のマキアスがリィン達に近寄る。
「……すまない。 何だか自身が無くなってきた」
「ちょ、ちょっと諦めるの早くない?」
「あはは、苦労してるねー」
「君はもっと協力したまえ! 君は一応この班のリーダーだろ!?」
「え、そうなの?」
レトはいつの間にかこの班のリーダーにされていた。 実力云々を考えれば妥当かもしれないが……両班は一旦駅の入り口まで向かい、そこからそれぞれの路線に向かうため向かい合った。
「それじゃあここで暫しのお別れだね」
「B班が向かうのは西……海都オルディス方面の路線か」
「ああ、ラマール本線で先ずはオルディスに向かう」
「俺達A班は北東……鋼都ルーレ方面の路線になるな」
「ガイウスの故郷かぁ……土産話、楽しみにしているから!」
「ああ、そちらこそくれぐれも気をつけてくれ」
「フィーちゃん、ラウラさん。 どうかお気をつけて」
「その、お互いに元気な顔で再開できるようにしましょ」
「……そうだな」
「ん」
両班は背を向け、それぞれの路線に向かって分かれたのだった。 その時……
「え……」
駅の入り口から黒髪の少女が驚いた顔をしてA班が向かった方面を見つめていた。
「………………」
「あら……? どうしたの、エリゼ」
少女の後ろから少女の声がかけられ、黒髪の少女の隣に金髪の少女が寄ってきた。
「ひょっとしてカッコいい男の人でもいた? 貴女のお兄さんみたいな」
「またそんな……その、知り合いに似た人を見かけただけです。 朝早くに帝都にいる訳がないので見間違いだとは思うのですが」
「ふぅん……知り合いねぇ」
フッと、少女を見る目が悪戯心をした目に変わった。
「ーーそれはそうと……ふふっ、否定しないんだ? 貴女のお兄さんがカッコいいって事は♪」
「も、もう……知りません! 全く姫様は……教えるんじゃありませんでした」
「うそうそ、怒らないで。 貴女のお兄さんより……私の
「! そ、そんな事ありません! 兄様の方がもっとーー」
「ふふふ」
「!! も、もう姫様〜!」
揶揄われたとわかると黒髪の少女は少しの怒りと恥ずかしさで身振り手振りでワタワタし、金髪の少女は面白おかしく笑う。
「クスクス……」
と、そこで2人の背後から微笑ましい笑い声が聞こえた。 2人は振り返ると……そこにはクレア・リーヴェルト大尉が笑っていた。
「す、すみません。 クレア大尉……」
「ごめんなさい。 呆れさせてしまったかしら?」
「ふふ、とんでもありません。 まもなく、離宮行きの特別列車が到着いたします。 今日一日、お供させて頂くのでどうかよろしくお願いします」
「ふふっ、こちらこそ」
「よろしくお願いします」
◆ ◆ ◆
レト達、B班はオルディス行きのラマール本線に乗り込み。 少し進んでからレトがブリオニア島についての説明を始めた。
「出発前にも言ったけどブリオニア島はオルディスの沖合いにある絶島……遺跡島と言われているのは遺跡しか見るものがないからで。 後は……四方は海に囲まれて景色はいい方かな」
「むしろそれぐらいしかないと言うのが現状だろう。 強いて言うなら島固有の歯応えのある魔獣が多数生息しているくらいか」
「ほ、本当に何もないんだね……」
「しかしそうなると、今回の実習は問題なさそうだな」
「……そうだといいけど」
本当に問題がないと思いたいと、エリオットとマキアスはフィーとラウラを横目で見ながら心中思った。
それから数時間列車に揺られ……峡谷地帯を抜け、途中で止まった駅に彼らの目を引いた。
「ここは……」
「歓楽都市ラクウェル。 簡単に言えば娯楽都市だね。 昼より夜が盛んな街……毎日ミラを求める亡者が蔓延っているよ♪」
「……全然洒落にならないね」
「あ、ここ前に来たことある。 よく団長がここでミラを擦っていたっけ」
「……………………」
また同じ事の繰り返しで、2人の仲は段々と複雑になっていく。
「ま、まあ僕とラウラもここに来た時は年齢詐称して旅の資金を稼いじゃって……出禁になっちゃんたんだけどねー、あはは!」
「何をやっているんだ君は! 未成年が賭け事をするじゃない!」
「いやー、スロット、ルーレット、ポーカー、ブラックジャック……常にベットは有り金全部でやって面白かったよー」
「……止めなかったの?」
フィーは思わずラウラに聞いた。
「……深夜の内に楽しんだようでな。 目覚めた時には……争ったような格好をしながら抱えきれないミラを持っていた」
「帰りに襲われたんだね」
「あれだけのミラを見せびらかしていれば当然だ。 全く、資金調達などそこらの魔獣を倒してセピスを換金すればいいものを……」
「コホン……まあとにかく、ここに降りることはまずないよ。 僕はお宝に興味はあるけどミラに興味はないから。 その時取ったミラはだいたい学院の学費に使ってるし」
「今の話を聞いてそうは思えないんだが……」
「っていうか、出禁を喰らうほどって……どれくらいのミラを荒稼ぎしたの?」
「聞きたい?」
「いや……いいよ……」
目眩がしたのかエリオットは額に手を当て、否定の意があってかもう片方の手を軽くレトの前に出した。
そしてラクウェルから小1時間半ほど走り、列車はオルディスが見える地点まで走って来た。
「ここが……」
「そう。 ラマール州都にして西部沿海州の海港都市ーー《紺碧の海都》オルディス」
「ふむ、いつ見ても美しい街だ」
それからすぐに列車は駅に停車し。 レト達は列車を降りると駅を出ると商業地区に出た。 そこから海から吹いて来る潮風に目を細める。
「うーん……! ずっと座りっぱなしで疲れたよ」
「ああ、これは慣れないと後が辛そうだ」
「……それよりも……お腹……すいた……」
グウゥと、腹部を抑えながらフィーの腹の音が鳴った。 時刻は既に午後の2時……レト達年長者はともかく、育ち盛りのフィーには少しキツかったらしい。
「もうお昼はとうに過ぎたからね。 先ずは遅めの昼食としよう。 ちょうどオルディス湾に飲食店があるんだ。 今の時期なら屋台もいいかもしれないけど……結構割高だからね」
「……さっきは儲かっている話ししてたのに、レトみみっちい」
「じゃあ食べてみる? ボリューム満点だよ?」
「…………いい」
近くにあった縦に重ねた肉を焼いている……いわゆるケバブの屋台を指差すと、フィーは首を横に振った。 レト達は空腹を感じながら港に向かい、そこにある船員酒場《ミランダ》に入った。
「ここの特性パエリアは美味しいって評判なんだ。 以前は別の店で食べたから……今日初めて食べるかな」
「それは楽しみだね」
「……まあ、消しゴムみたいな戦闘レーションよりはいいか」
「……………………」
もうこの流れも慣れたものだが……レト達は慣れていけない事は分かっていながらも流されるしかなかった。
「そ、そういえばなんか街がお祭騒ぎになってないか? ここに来る途中に結構屋台も並んでいたし」
「オルディスは帝都より夏至祭が1カ月早いんだ。 祭の最終日の夜には湾内で大量の篝火を焚いて流す風習もあって……まさに海に輝く星って感じなんだ」
「実習最終日、もしかしたら見られるかもしれんな」
「ーーあ、そうだマキアス。 ここも一応貴族の街……というか貴族派の本拠地だから、あまり目立った行動はしないでよね?」
「わ、分かっている! 前回の二の舞いにはなりたくないし、それくらい弁えている!」
マキアスは前回の実習でかなり身に染みたようだ。 と、そこで店員が出来立てのパエリアを運んできた。
「お待たせしました! 漁師風パエリアです!」
「お、これは美味しそうだ」
「さっそくいただくとしよう」
熱々のパエリアを小皿に分け、レト達は空腹の為かいつもより早いくらいの速度で食べ……おかわりもいただき、満腹になって店を出た。
「……けぷ、お腹いっぱい」
「ちょっと食べ過ぎちゃったね」
「さて、腹も膨れた事だ……さっそくそこにある埠頭に向かうとしよう」
「確かそこの受付でボートを借りてブリオニア島に向かう手筈だよな?」
「うん。 島まで小型艇で30分ほど……ちょっとした船旅気分にはなるね」
レト達は受付で実習でブリオニア島に上陸すると説明し、鉄道と同じように既に学院側から手配されており簡単に小型艇を借りられた。
班の中で運転できる者はいないため、ボートの操縦を案内人に頼みレト達は港を出港した。 海風に煽られ、海鳥の鳴く声を聞きながらレト達はボートに揺られる。
「ブリオニア島は海都の沖合い150セルジュ……ちょうど湾の外側になるよ。 ちょっとした観光に行くにはもってこいな距離だね」
「海も荒れてないし、快適な船旅になって良かったよ」
「少し、A班に悪いことしたかもな」
「それはお互い様だろう。 我々もノルド高原が見られなかったのだから」
「……………………」
『……………………』
フィーがボーッと海を眺めて会話に参加しないため、そこで話が途切れてしまい、潮風に混じって異様な空気が流れてしまう。
「ーー皆さん、ご歓談中申し訳ないが島に近付いて来ましたぜ」
「あ……」
そこで運転手に話しかけられ、レト達は進行方向の先を見る。 そこには山が目立つ島があった。 それからすぐにボートは小型艇がつけるくらいの小さな埠頭で止まった。
レト達は船を降りてブリオニア島に上陸し、運転手がこの2日間の特別実習の依頼が入った封筒と宿泊小屋の鍵を渡すと……2日後に迎えに来ると言い残してオルディスに向かって帰っていった。 無人島に残されたレト達はこの島で独特な雰囲気を放つ山を見上げる。
「……ここがブリオニア島……」
「なんか、すっごく雰囲気のある場所だね……」
「この地は精霊信仰の対象で祭壇などもある。 夏至祭が終わった後くらいに参拝客が訪れる事もあるそうだ」
「で、あれがこの3日間お世話になる宿泊小屋。 話はついているから衣食住の準備は整っているはずだよ。 今日はもう遅いし、宿が機能しているか確認したら早めの夕食を取って休もう」
この島に着く頃には日も沈み始め、実習は翌日から行うとして先ずレト達は渡された小屋の鍵を使って中に入った。
小屋の中はつい最近人が使っていた跡があり、レトの言う通り事前に準備されていたようだ。
エリオットとマキアスに夕食の準備を任せ、残りの3人は就寝するために2階の部屋でベットメイクを行った。
「ふう……」
「む? レト、シーツがズレているぞ。 もっと丁寧に出来ないのか?」
「あ、ごめん。 こういうのはいつやっても慣れないんだよね」
レトはラウラに指摘された通り、シーツを整え……ふと、レトはラウラに質問した。
「……ねえラウラ。 フィーとは……分かり合えない?」
「……………………」
「仲直りとかじゃないよ。 互いを認め合う事……ラウラとフィーはそれが出来ていないからギクシャクしている」
「…………分かっている」
理解はしているが、改めてレトに指摘された為かラウラは少し不機嫌になる。
「僕達が旅を通して……この世界は必ずしも正しいとは限らないと思い知らされた。 人が剣を取る理由が数多あるように、生きる意味も、その方法もまた数多ある……」
「分かっている。 だが、しかし……」
「ーーうわっ!?」
その時、階下からエリオットの驚いたような声が聞こえてきた。 それに気付いたレトとラウラは下に向かい、途中でフィーと一緒にエリオットとマキアスの元に向かった。
「エリオット、マキアス、どうかした?」
「こ、これ……」
食料がある保管庫に向かうと……保管庫の中は荒れ放題だった。 壁や扉などに切傷があり、床にも穴が空いてある事から魔獣の仕業と考えられる。
「荒らされている……」
「ふむ、どうやら我々が来る前に……恐らくこの小屋を用意した後に魔獣に襲われたようだな」
「導力源も壊されている……これじゃあ火はおろか明かりすら使えない。 辛うじて水は無事だが食料は手当たり次第食い散らかされている……」
「……えっと……つまりそれって……」
「……いきなり無人島生活?」
レト達は実習が始まる前から問題が発生してしまった。 そしてレトは思った……
(今日の夕飯……どうしよう……)