正午ーー
「……………………」
ブリオニア島にある滝によって流れている川の中にレトが瞑想しながら槍を構えて静かに立っていた。レトの周りには川魚が泳いでおり、レトは開眼と同時に目を細めながらキラリと光り……
「——ハアアァ…………でやあっ!!」
呼気をしながら力を集中させ、頭上で槍を振り回し……渾身の一槍を川に向かって突き刺した。 その威力は凄まじく、水が滝より高く打ち上がった。
「獲ったどー!!」
そして打ち上がった水の中からレトが現れ、槍を振り上げた。 その槍の穂の先には黄金に輝く魚……ゴールドサモーナが2匹が連なって突き刺さっていた。
レトは銛突きならぬ槍突きで魚を取っていた。
「……おお……!」
「たくましいなぁ……」
その光景を側の川岸からフィーとエリオットが飛んできた水を焚き火を守りながら見ていた。
「やっぱりレトは凄いね。 槍で魚が取れるなんて」
「ふふーん、まあね」
「ーーそれよりももっと丁寧出来なかったのか?」
褒められて満足気にドヤ顔をするレトに、ラウラが黄緑色のリンゴのような果物を手に歩いてきた。
「もちろん力加減は出来たけど……何だが無性に水を浴びたかったから」
「ならそこで滝行でもするがよい」
「……やめとく」
滝を見ながら断り……神速の速度で槍を突いた。 ほぼ同時に水面に3つの穴を作り……穂先に今度はゴールドサモーナが3匹連なっていた。
「最初からそうすればいいというものを……」
「まあまあ」
「……マキアスは?」
「マキアスなら小屋から調味料を持ってくると言っていたが……」
と、ちょうどその時、上からマキアスが歩いてきた。 手には籠を持っており、恐らくあの中に調味料が入っているのだろう。
「待たせたな。 とりあえず簡単なものだけを持ってきた」
「それだけでも充分だよ。 今の状況だと塩ですら貴重だからね」
それからフィーとレトは5匹のゴールドサモーナに先端を削って尖らせた木の枝を突き刺し、軽めに塩を振って串焼きにした。 今はほぼ無人島生活だが……見た目が金色なのでかなり贅沢している気分になる。
「………………(ゴクリ)」
「凄いな、脂が垂れてきているぞ」
「川魚にしては珍しいな」
「ーーそろそろかな」
頃合いを見て火から上げ、レト達は焼き上がったゴールドサモーナの塩焼きを口にした。
「ん〜! 美味しいねこの魚!」
「ああ、脂が乗っていて本当に旨いな」
「……これなら塩だけでも全然イケる」
「ふむ……しかもいつもより味が強く感じられるな。 余程旨い魚なのだろう」
「あ、それもしかしたらこの景色のおかげじゃない?」
レトは滝の方を向きながらそう言うが、ラウラ達はその意味が分からなかった。
「……確かに凄い光景だけど……それがどうしてご飯が美味しく感じられるの?」
「人は精神状態によって大きく味覚が変化する事があるんだ。 良く綺麗な夜景を眺めながら食事を取るって話を聞くでしょう? 綺麗な場所から食べる食事は美味しく感じられるからそうするんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「逆に、ストレスや落ち込んでいたりすると食欲がない、食事が喉を通らないなんて事……あるよね?」
「……………………」
レトは何気なく言った事だが、心当たりがあるのかマキアスは顔をうつむかせた。
「さらにはこんな言葉もある。 人の不幸は蜜の味……あまりいい趣味とは言えないけど、精神状態と味覚の関係が分かりやすく出ている言葉だね」
「そうだな……大雑把に言えば、この絶景と絶品……我らは2度旨い状況にいるのだろう」
「はは、確かに」
絶景を前に絶品を食べる……これほど贅沢な事はないのかもしれない。レト達はそのまま昼食を平らげ、体力を回復させ午後の実習に臨んだ。
「午前中の内に悪魔の花は一定数以上は討伐したし、食べて元気も出たから今度は討伐魔獣を倒しにいこう」
「確かこの先の集落の周辺にいるって話だったよね?」
レト達は集落方面に向かい、そこから横道に逸れた場所にある広場に向かうと……そこには全長10アージュをほこる二足の恐竜型で結晶のような鬣を持っている魔獣……アーモダイノがいた。
(いた……)
(………………?)
(あれは骨が折れそうだな)
確かにそこにはアーモダイノがいたが……レトとフィーは違和感を覚えて眉をひそめる。
(強敵だが……我らなら負ける訳がない)
(…………よし、行こう)
レトとラウラ、マキアスとフィーで戦術リンクを組み、レト達はアーモダイノに向かって飛び出した。
アーモダイノのはレト達の接近に気付くと、大口を開けて轟くような咆哮で威嚇した。
「っ……アークス……駆動!」
「ぐっ……」
その肌にビリビリくるような咆哮にエリオットとマキアスは怯むが……レト、ラウラ、フィーは足を止めずに接近する。
「やっ」
フィーは側面に回り込みながら牽制で双銃を撃つ。だが弾丸はアーモダイノの硬い体表と結晶に弾かれる。
「はあああっ!!」
「せいっ!」
その隙にレトが太い脚の膝裏を薙ぎ払い、膝を曲げさせ体勢を崩し……ラウラが頭上をとり叩きつけせるように大剣を振り下ろし、頭を地面に叩きつけた。
「いかに強靱な脚を持っていたとしても……その巨体を支えるのに二足じゃ足りない!」
「………………」
ラウラは大剣から手に伝わる手応えで、アーモダイノの状態に気が付いた。
アーモダイノはゆっくりと立ち上がり、グアッと声を上げて威嚇する。 すると身を捻り……跳躍して後方にいたエリオットとマキアスに距離詰め、鞭のようしなった尻尾を振り下ろしてきた。
「ーー! ア、アクアブリードッ!!」
「このっ!」
2人は咄嗟に攻撃し、軌道をずらせたが……このままでは直撃してしまう。 その前にレトは移動し、槍を盾に2人の前に出た。
「危ない! ーーくっ……ぐあっ!」
2人を庇ってレトは尻尾を槍で受けたが……余りの威力に足が浮き、後ろに飛ばされてきにぶつかり、その威力で木は折れてしまった。
「つつ……」
「レト!!」
痛がる間も無くアーモダイノは口を開き、兇悪な牙を向けながら襲いかかってきた。 レトは地面を蹴り上げ跳躍して避け、アーモダイノのはレトの背後にあった木に喰らい付き……その強靭な顎で粉砕した。
「うわぁ!?」
「口の中に入ったら一巻の終わりだな……」
ボロボロとこぼれ落ちて行く木片にマキアスは戦慄し、レトは頭を振りながら気を戻し、アークスを駆動して水のアーツで傷を癒した。
「っ……まだまだ修行が足りないな……」
「………………」
「全く、お前は相変わらず己の身を省みるな。 もう少しは我らを信用しろ」
「あはは、性分なものでね」
ラウラに嗜まれて苦笑いのレト。 そんなレトをフィーはそんなジッと見つめる。
「皆! 離れて!」
その時、アークスを駆動していたエリオットの警告を聞き、3人は散開し……マキアスは散弾銃のポンプアクションを起こし、特殊な弾丸を装填する。
「石化弾……リロード! これでも喰らえ!」
「シャドーアポクリフ!!」
散弾銃から発射された弾丸……石化弾がアーモダイノ体表の表面を石化させ、その隙に頭上から時のアーツによる闇色の剣が落下しアーモダイノを貫き、生気を奪い取る。
「今だ!」
「チャンス」
それを見たラウラとフィーは飛び出して接近し、一気に畳み掛けた。
グオオオオッ!!
だがアーモダイノは咆哮を上げながら大きく身震いを起こして石化を砕き、身体を大きく捻りコマのように回り、尾が鋭くしなり襲いかかった。
「ーーなっ!?」
「ッ……!」
2人は咄嗟に回避したが……回避した先に2人がぶつかり、ラウラとフィーは対面してしまった。 2人は足を止めて衝突を免れたが……そこにアーモダイノが突進してきた。
「ーー疾ッ!!」
レトは槍を投げて、槍はアーモダイノの側面に突き刺さり、アーモダイノの動きは鈍り……その間にレトは一瞬で2人の前に移動し銃剣の銃形態で構えた。
「陣風弾!!」
気力を込めた一発の弾丸は着弾と同時に炸裂し、突風を巻き起こし。 それによりよろけていたアーモダイノを転倒させた。
「アークス駆動……シルバーソーン!!」
一瞬で発動させた幻のアーツでアーモダイノの動きを止め、銃剣を変形させて剣にし……
「背負いし剣! 受け継ぎし剣! 今ここに振りかざす!!」
地を蹴り、己を鼓舞するように叫びながら剣を構え……
「
怒涛の一刀がアーモダイノの身体中を走り抜け……断末魔を上げる間も無く地に倒れ伏した。
ビシッ……!
「あ……」
だが、レトの絶技に剣が耐えられずヒビが入ってしまった。 それを見たレトは大きく落ち込む。
「あーあ……やっぱり耐えきれなかったか。 僕が未熟な事もあるけど、ケルンバイターのようにはいかないな〜」
「あ、剣……壊れちゃったんだ」
「全く、幾ら複数武器を持っているからって雑に扱い過ぎだぞ」
「あはは、ごめんごめん」
「……………………」
「……………………」
エリオットとマキアスがレトと会話する中、ラウラとフィーがお互いに背を向けながら武器を収める。
まるでお互いを視界に入れないようにするように……
「さてと、これで今日の実習は終わりだね」
「ああ。 後は活動レポートを書かないといけないんだが……夕食の準備もしないとな」
去ろうとする中、フィーは力尽きて倒れているアーモダイノに近寄ってしゃがみ込んだ。
「フィー、気付いていたの?」
「……うん、最初に見た時から気付いていたけど……この魔獣、おかしくない?」
「どうしたの、2人とも?」
ついてこなかったレトとフィーにラウラたちが不審に思う中、レトも顎に手を当てて考え込む。
「僕もそう思った。 明らかに傷が多過ぎで……まるで僕達と戦う前に何者かからやられて来たような……」
「……それにこれも」
フィーは銃剣で右脚を軽く刺した、そしたら銃剣に粘着質か糸のようなものが絡まってしまった。
「これは……糸か?」
「なんだかネバネバした糸だね」
「恐らく昆虫型の魔獣の糸だと思う。 魔獣の傷から見て……恐らく蜘蛛の魔獣、しかもかなり大きいね」
レトは広場の出入り口前でしゃがみ込み、地面をジッと見つめた。
「後これを見て。 この不規則な足跡……さっきの魔獣が追い立てられた証拠だよ」
「でも、だったらその蜘蛛の魔獣はどこにいるの? このしまをグルリと回ったけど小蜘蛛すら見なかったし……」
「……………………」
「ふう、考えても仕方ない。 今日の実習は終わった事だし、夕食を確保しないといけない」
「……そろそろお肉が食べたいかも」
「魔獣を狩って肉でも取ってくる?」
レト達はこの件を後回しにし、小屋に帰る途中で肉を出しそうな魔獣を襲……魔獣を狩り、肉を確保しながら帰投した。
◆ ◆ ◆
翌日、深夜ーー
世も寝静まり、静寂が包み込む中月明かりが指すブリオニア島。 そこに……オルディス方面から導力ボートの駆動音が聞こえてきた。 数分後、ボートはブリオニア島に到着し、ボートから2人の男性が島に上陸した。
「ここにあるんだな?」
「ああ、情報が確かならかなりの儲け物だ」
男性達はブリオニア島の山を見上げ、不敵な笑みを浮かべる。 身なりは頑丈で動きやすい服装をしていた。
「……ん? なんだ、誰か小屋にいんのか?」
「なんでも学生がいるらしい。 全く、お勉強でこんな場所まで来れるとはいいご時世になったんのだ」
「ま、俺らにはなんも関係ないがな」
男達は野心に満ちた目をしながら島の闇夜の中に消えて行った。