英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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27話 2つの異能

「はあ〜……何が目的で帝都にいたのかはまだしも、何で僕に目くじらを立てたのかなぁ?」

 

分け身で逃走したレトの本体はヘイムダル中央駅に真っ直ぐ向かい、そのまま駆け込むようにトリスタ行きの列車に乗り込んだ。

 

そして日も暮れ始めた頃……レトは先程、デュバリィに目の敵にされた理由が分からず唸っていた。

 

「はあ、野暮用で出てきただけなのに……やっぱり僕って呪われているのかなぁ?」

 

行く先々に問題やトラブルに巻き込まれる事にレトは深刻そうに考え込んだ。 本格的に七耀協会に洗礼でもしてもらおうかと思ったが……

 

「ま、いっか。 さて、帰ったらリィン達に謝っておかないと……」

 

「ーーえ……」

 

レトが何気なく呟いた独り言に、反対側のボックス席に座っていた黒い制服を着た黒髪の少女が反応した。

 

「あの……失礼存じますが、今リィンとおっしゃいましたか?」

 

「え? 確かにリィンって言ったけど……君は?」

 

「失礼しました。 私はエリゼ・シュバルツァー、リィンの妹であります」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「なるほど、それで直接リィンに会いに」

 

列車はトリスタに到着し、レトは案内としてエリゼと並んで歩いていた。

 

そして2人は士官学院に向かっていた。どうやらエリゼは先日届い手紙について、リィン本人に聞きたいことがあるらしい。

 

「はい。 どうしても兄様に聞きたい事がありまして……このような身内ごとに巻き込んで申し訳ありません」

 

「気にしなくていいよ。 それにしてもリィンの妹か……僕も妹はいるんだけど、かれこれ1年も会ってないんだよね」

 

「1年も……それはいったいどうして? えっと……」

 

「あ、僕はレト、レト・イルビスだよ」

 

「!」

 

言い淀んだエリゼに、遅れながらレトは自己紹介をした。 だがエリゼはレトの名を聞くと驚きで目を軽く見開いた。

 

「そうですか……あなたが……」

 

「え……?」

 

「いえ……どうかお気になさらず」

 

エリゼの反応にレトは疑問に思ったが、答える前に2人は正門に到着した。

 

「ちょっと待っていて、今リィンを呼ぶから」

 

正門の横にズレ、レトはアークスを取り出してリィンに連絡を入れた。 すると……着信音が近くで鳴った。

 

レトは驚きながら正門の前に向かうと、そこにはリィン達がいた。

 

「あれ、皆揃ってどうしたの?」

 

「偶然帰りが一緒になってな」

 

「レトこそ、今までどこに行っていたの?」

 

「あはは、ちょっと野暮用で帝都にね」

 

「それより、俺に何かようか? アークスに連絡を入れたのはレトだろう?」

 

「あ、うん。 リィンにお客さんだよ」

 

「え……」

 

レトは視線を横に向けると……レトの背後からエリゼが現れた。 それを見たリィンは驚いた。

 

「……………………」

 

「……女の子?」

 

「あの制服は……」

 

「エリゼ……!? どうしてここに……」

 

リィンはエリゼがここにいるのに驚いたが、リィンのその一言がアリサ達を驚かせた。

 

「えっ……?」

 

「ひょ、ひょっとしてリィンの妹さん!?」

 

「あ、ああ……でもエリゼ、こんな時間にいったいどうして……」

 

「ーーご自分の胸にお聞きになってください」

 

「え゛」

 

エリゼはリィンの対応に半眼になり、半ば呆れながらもアリサ達の方に向き直り、淑女のように両手でスカートを軽く持ち上げて礼をした。

 

「お初にお目にかかります。 リィンの妹、エリゼと申します。 お帰りのところ恐縮ですが……少々、兄を借りて宜しいでしょうか?」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「ねぇやめようよ。 悪趣味にも程があるよ」

 

リィンとエリゼが屋上で話しているのを……影でアリサ達が聞いていた。 特にアリサが聞き耳を立てている。

 

それをレトは窘めるが、ふと2人の会話が聞こえてきた。 妹の顔を見る時間すら割けないと……

 

(……僕も……いや、僕は避けているのか。 あの人に着いて行ってリベールに行った、その日から……)

 

「レト?」

 

「……僕は先に帰るよ」

 

「いや、でも今屋上の出入り口使ったらバレーー」

 

レトは踵を返して屋上の右端に向かい……そのまま飛び降りた。 アリサ達はリィン達に気付かれないに驚くが、レトはそんな事気にせず学生会館に入った。

 

「はあっ〜……」

 

レトはため息をつきながらテーブルに座った。 そもそも、今日レトが帝都に向かったのはその妹のため。 貴重な糸をドレスに仕立て上げたのも妹のため……しかし1年も会っていないのに物だけ渡されるのは余りにも失礼に思えてきていた。

 

(結社やこの帝都で頭がいっぱいだったけど……いい加減、向かいあった方がいいかもね)

 

突き放しているのはいつも自分……それが辛く、自責の念で胸がキリキリと痛み出す。

 

「ーーレト」

 

「……ラウラ」

 

その時、学生会館に入ってきたラウラがレトに気付いて歩み寄ってきた。

 

「ちょうど良かった。 旧校舎について異変があったから報告しに来たのだが……何かあったのか?」

 

「……いやちょっとね」

 

レトは手を振って誤魔化し、ラウラは気にしながらも続けて懐から導力カメラを取り出した。

 

「先の旧校舎の探索で変化があったのだ。 最奥にいる魔獣を倒したと同時に昇降機前の広場で赤い扉が現れたのだ」

 

「……つまり、もう半分くらい進んだって事だね」

 

ラウラはコクリと頷く。 恐らくこの導力カメラでその赤い扉を撮ったのだろうが……ラウラが持っているのはレトが前に使っていたお古のカメラ、導力ネットワークとリンクはしているが今すぐに画像は見る事は出来ない。

 

ラウラは恐る恐る導力カメラから記録クオーツを抜き取り、レトに手渡した。

 

「私は生徒会長に呼ばれているので、また寮でな」

 

「うん。 ありがとうね」

 

お礼を言い、ラウラは二階に上がっていった。

 

(生徒会長……今更だけど、ルーシーさんが言っていたサボりの生徒会長じゃないといいけど)

 

リベールでの出来事を思い出し笑いをする事で、ほんの少し重荷が軽くなった気がした。

 

「……ん?」

 

その時、ガラス越しに、黒い影が少し見えた。 その影はそこはかとなくエリゼに似ていた。

 

「今のは……」

 

レトは立ち上がり、学生会館を出て右手を見た。 すると旧校舎に続く道にパトリックがおり、そのまま旧校舎に走って行ってしまった。

 

不審に思い、レトは旧校舎に向かった。 旧校舎は相変わらず木々に囲まれていて薄暗く、その前にパトリックが誰かを探しているようにキョロキョロしていた。

 

「パトリック」

 

「! お前は、VII組の……」

 

「…………こんな所で何を? もしかしてエリゼちゃんを探しに?」

 

名前すら覚えてもらえない事に少しガッカリするも、とりあえず自分がここに来た目的を言ってみた。

 

「あ、ああそうだ。 見ての通りどこにも見当たらなくてな、もしかして建物に入ったのかもしれないが……」

 

「ーーパトリック……!」

 

その時、学院の方からリィンと、先輩であるクロウが走って来たが……リィンのその表情は後悔、そして怒りの色が映っていた。

 

「お、お前……」

 

「おい、エリゼはどうしたの!? まさか俺の時みたいに絡んで恐がらせたんじゃないだろうな!?」

 

パトリックの言葉も待たずに、いつもなら流しているはずのリィンが大声を上げて責め立てる。

 

その人が変わったかのような変化にパトリックは驚愕し、萎縮する。

 

「そ、そんな事はしていない! 僕はただ、彼女が涙ぐんでいたからどうしたかと声をかけただけで……そしたらこっちに走って行ったので心配になって追いかけてきただけだ!」

 

「くっ……」

 

「リィン、落ち着いて。 僕も彼がエリゼちゃんを恐がらせたとは思わない」

 

「どうやらこっちの方に来たのは間違いなさそうだな。 一応旧校舎の方はどうなんだ?」

 

慌てて弁解するパトリックに、リィンは歯ぎしりをしながら苦悶の表情を見せる。 レトとクロウは落ち着かせるようにエリゼを探す事に話を戻す。

 

「ちょうど先ほど施錠したばかりですが……」

 

「念の為、確認してみよう」

 

リィンはまさかと思いつつも旧校舎に近付いて扉に手を掛ける。 すると……鍵がかかっていたはずの扉はいとも簡単に開かれてしまった。

 

リィンはしっかり施錠したと思っていた。 だが現に鍵は開いている……だがその事について話し合っている暇はなく、レト達は旧校舎に足を踏み入れた。

 

「エリゼ……どこだ!?」

 

「んー……ここにはいねぇのか?」

 

「まったく、どうして僕が……」

 

「奥に行ったのかもしれない、早くーー」

 

レトが奥に向かおうとした時……扉の先から少女の悲鳴が響いてきた。 リィンはその悲鳴がすぐにエリゼのものだと気づいた。

 

「エリゼ!?」

 

「悲鳴……!?」

 

「奥だ!」

 

(くっ……まさか、試しが!)

 

4人は急いで奥の昇降機のある部屋に向かい……そこにはエリゼの姿がなく、昇降機が降りている状態だった。

 

「下から……!?」

 

「な、なんだここは!?」

 

「へえ、噂には聞いていたがこんな風になってたのか」

 

「確か、今の最下層は第四階層までだったね。 恐らくそこに……」

 

ちょうどそこに下に降りていた昇降機が到着し、リィンは迷わず昇降機に乗り移った。

 

「俺たちも行くぞ!」

 

「はい!」

 

「くっ……」

 

リィンの後に続い3人は急いで昇降機に乗る。 そして昇降機は下に下がり出し……第一層、第二層、第三層と進み、そして第四層に差し掛かった所でレト達が目にしたのは……

 

「!?」

 

「な、なんだありゃあ!?」

 

「きょ、巨大な甲冑ッ……!?」

 

「暗黒時代の産物……あ!」

 

閉じていた筈の赤い扉……それが開かれており、巨大な動く甲冑が巨大な大剣を握ってそこに立っていた。

 

そして、その甲冑の目の前で意識を失って倒れているエリゼがいた。

 

「エリゼえええええっ!!」

 

我を失ったように声を張り上げ、太刀を手に取るが……それよりも前に甲冑はエリゼの前まで歩き、剣を振り上げる。

 

それを見たリィンの視界は……真っ赤になった。

 

「!?」

 

レトは悪寒がし、隣を見るとリィンが胸を押さえて顔を俯かせていた。

 

「リィーー」

 

「オオオオオオオオッッッッ!!!」

 

天に向かって叫び、胸に渦巻いていた力がリィンの身体中を飲み込み……髪を白く染め、開かれた双眸は血のような赤い色をしていた。

 

「こ、こいつは……」

 

「ひいっ……!?」

 

「(ドクンッ!)うっ……この力は……」

 

「ッシャアアアアアアアッ!!!!」

 

クロウとパトリックがリィンの変貌に驚く中、レトも胸に疼きを覚えて胸を抑え込む。

 

そしてリィンは何も言わずに太刀を抜き、叫び声に似た咆哮を上げながら一歩で……一瞬で甲冑の懐に潜り込み、振り下ろされた剣を弾き返し、その払いの余りの威力に甲冑は体勢を崩す。

 

「な、何なんだあれは!?」

 

「やろう、こんなもん抱え込んでいたのかよ」

 

「ッ……僕は加勢します、2人は隙を見てエリゼちゃんを!」

 

「あ、おい!」

 

変異したリィンは甲冑……オル・ガディアと激戦を繰り広げる。 その中をレトはケルンバイターを掴みながら飛び出した。

 

「はあっ!!」

 

「ッ!!」

 

両者の間に割って入り、オル・ガディアを吹き飛ばし、リィン鍔迫り合いとなる。

 

だがレトは今まで感じた事ない力を前に徐々に押され始める。

 

「っ……リィン、落ち着いて!」

 

レトは必死になって呼び掛け、太刀を弾き返した。 すると言葉が通じたのかリィンは胸に手を当て力を抑え込み始めた。

 

「グッ……オオオオオッッ……!」

 

「な、なんだ……!?」

 

「力を……抑えようとしてんのか!?」

 

苦悶の表情を見せながらも次第に力の奔流が収まり……リィンは元の姿に戻ったが、息を荒げておりかなり消耗していた。

 

「ぐうっ……はあっ、はあっ……」

 

「良かった。 元に戻って……」

 

レトは大事ないことに一安心したが……当面の危機はまだ背後にいた。

 

「っと、そうだった。 リィン、下がってて」

 

「くっ……すまない、レト……」

 

レトはゆっくりと振り返る。 オル・ガディアは2人の元に歩み、大剣を振り下ろそうと掲げる。レトは消耗しているリィンの前に出てケルンバイターを構えた瞬間……銃声が轟き、甲冑が金属音を鳴らしながらオル・ガディアは一歩後退する。 背後を見ると、そこには二丁拳銃を構えたクロウがいた。

 

「加勢するぜ、後輩ッ! パトリック坊や嬢ちゃんを頼んだからな!」

 

「ぼ、坊やは止めろ!」

 

クロウが軽口を叩きながら2人の隣に向かい、その隙にパトリックは外回りでエリゼの元に向かい安全を確保する。

 

「すみません、先輩!」

 

「援護、お願いします!」

 

「おうよッ! アークスの戦術リンクも試すぞ!」

 

クロウはアークスを取り出し、リィンと戦術リンクを組む。 3人はエリゼとパトリックに気を配りながら戦い、オル・ガディアの質量が物を言う攻撃のお陰で攻防一体の戦況を繰り返した。

 

そして、オル・ガディアは勢いよく地を踏みしめ、一気に走り出した。 その超重力の一歩一歩が地鳴りを起こし、リィン達の前で地を抉って制動をかけながら大剣を薙ぎ……

 

「ッーーー!!」

 

「レト!!」

 

レトが薙ぎ払われた重鈍な剣を受け止める。 だが、歯を食いしばって声にならない苦悶を漏らしながらレトは受け止めた事に疑問を覚えた。

 

(斬れない……決して物凄く硬い訳でも無いのに……! まだ僕が完全にケルンバイターを御しきれていないから……本来の力が……!)

 

本来のケルンバイターの力であればこの程度の硬さなど抵抗なく斬れるだろう。 だがレトがその力を引き出せてないため鍔迫り合いとなっている。

 

レトは息を整えて剣を弾き、距離を取って右手をケルンバイターの刀身にそえる。

 

「力を示せ……ケルンバイター!!」

 

意識を手元に集中させ、それに応えるようにケルンバイターの宝珠が光りを放つ。

 

「ッ……!? 凄い力……気を抜けば一気に持っていかれそうだけど……!」

 

レトは心を沈め無になりがら集中し、ケルンバイターの力を静かに緩やかに制御する。 すると……レトの身体の一部に変化が現れた。

 

「!?」

 

「レト!?」

 

「これならいける!」

 

その変化にリィンとクロウが驚愕しているが、レトは周りの事など気にしてはいられず……光を放たず輝いているケルバイターを肩に担ぎ……

 

「せいっ!!」

 

一瞬で懐に入り、跳躍と同時にオル・ガディアを切り上げてその巨体を浮かせ、剣筋が逆さまの星型を描き……

 

逆星(さかぼし)ッ!!」

 

両腕、両脚、そして胴体の上に逆さの星が重なり……四肢と胴体を切り落とした。

 

「ふうっ、流石。 何でも斬れるって言われるだけはあるね」

 

レトは賞賛しながらケルンバイターを軽く払ってからポンポンと肩に担ぐ。

 

と、そこで緊張が解けたのか、2人は膝をついて乱れた息を整える。

 

「はあっ……」

 

「……ったく……こういう修羅場は半年前に卒業してるっつーのに……」

 

「2人共、大丈夫?」

 

「ああ、本当に助かったよ」

 

フーッと、息を吐きながら呼吸を整え、レトはリィン達に声をかける。 レト達はクロウが愚痴のようにアークスの前のテスターであった事を聞きながら、クロウはレトとリィンを見回した。

 

「ーーそれよりもどうなってんだよ。 ()()()2()()、揃いも揃ってバケやがって」

 

「………………」

 

「あはは……確かにリィンのアレは……って、2人?」

 

クロウの言葉にリィンは無言になるが、レトはその意味が分からず首を傾げる。

 

「なんだ気付いてねえのかよ。 その髪だよ」

 

「え……」

 

そう言われてレトは一纏めにした背中までの長さがある一房を眼前に持ってきた。 その一房の色は……橙色ではなく、光に反射して白い光りを反射する金髪だった。

 

「え、ええっ!? な、なんで……」

 

レトは思いがけない事に動揺し、手からケルバイターを落とすと……髪の色は元の橙色に戻った。

 

「あ、戻った。 ケルンバイターの所為だったのか、びっくりしたぁ……」

 

「いやびっくりしたのはこっちだわ」

 

「はは……」

 

元に戻った髪をイジりながらホッと安心すると……不意に、エリゼのか細い声が聞こえてきた。 まだ横たわっているが目を覚ましたようだ。

 

「エリゼ……! 大丈夫か!? どこか痛む所はないか!?」

 

「ええ……地響きに足を取られて転んでしまっただけで……」

 

リィンは痛む身体を無理に動かすも、急いで彼女の元に歩み寄り、上半身を起き上がらせる。

 

エリゼも目立った外傷はなく、レトとクロウは微笑ましく兄妹を見ていた。

 

「はは、微笑ましい兄妹愛なこった」

 

「ええ。 本当に、羨ましいですね……」

 

と、そこにいつの間にか上がっていた昇降機が遅れながらサラ教官とトワ達、他のVII組の面々を連れて降りてきた。

 

彼らはリィン達を心配する中、横に倒れていたオル・ガディアの残骸を見て驚愕する。

 

「こ、これは……」

 

「巨大な甲冑……?」

 

「……暗黒時代の魔導の産物のようだが」

 

「……見事にバラバラにされているね」

 

「この切り筋……レトの仕業か」

 

残骸がこの場所で激戦が起きていた事を示していた。

 

リィンとエリゼが事の次第を説明しようとする中、エマが鋭い目をして頭上を睨んでいたのに気付いた。

 

「委員長、どうかしたの?」

 

「ーーえ!? い、いえ何でも……っ!?」

 

レトに声をかけられてワタワタと動揺するエマだが……レトを見た瞬間、目を見開いてレトを見つめた。

 

「? 委員長ーー」

 

「レトさん、ちょっと失礼します!」

 

有無言わさずエマは両手でレトの頭を掴み眼前に引き寄せ、ジッとレトの頭を見つめた。

 

「……これは変化の魔術……しかも、この魔術はおばあちゃんの……」

 

「あ、あの……エマ? こ、これはその……皆が見ているから……っていうか、息苦しい……」

 

「え……」

 

レトの身長はエマより少し高く、エマはレトの頭を見るために胸元に引き寄せた。 結果、レトはエマの大きな胸にうずくまっていた。

 

それに気付いたエマは顔を真っ赤にしながらバッと離れた。

 

「こ、これはその……」

 

「……エマってレトに気があるの? しかも見た目によらず大胆」

 

「おうおう、見せてくれるねぇ」

 

「くっ、私のエマ君のたわわに実った果実に顔を突っ込ませるとは……許すまじ」

 

「アン、落ち着いて。 エマ君は君のものじゃないよ」

 

「レ・ト?」

 

『ひいっ!?』

 

猛獣のような目をしながら睨んでくるラウラにレトとエマは恐怖に震え上がり……それを頭上で見ていた黒猫が溜息をついた。

 


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