英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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36話 帝国解放戦線

「レ、レトさん……! スピードを落として欲しいとは言いませんけど、もっと曲がる時にーー」

 

「次の曲がり角、コーナリングキツイからしっかり掴まってて!」

 

「きゃあああっ!!」

 

「にゃーー!」

 

馬の次は獅子に跨り、レトとエマはまた帝都を疾走していた。 だが今回は競馬場だけではなく帝都中の危機であり、形振り構っていられなかった。

 

そして目的地に到着し、ウルグラが段差を乗り越えると同時にビーストモードに変形し、マーテル公園に入った。 しかし公園内はワニのような、両生類のような魚型の魔獣と近衛兵が入り乱れて交戦していた。

 

「グルル……!」

 

「マーテル公園に到着!」

 

「ううっ……ここも襲撃を受けているようですね……」

 

「にゃにゃ、にゃー!」

 

「ーー分かってる……影蕾(かげつぼみ)!!」

 

レトはルーシェに応えるようにウルグラの左脇腹に懸架していたホルスターから銃剣を引き金を弾きながら居合いのように抜き、銃弾は魔獣達の足元に……陽に照らされて地面に映っていた影に着弾すると、魔獣達は突然金縛りをつけたかのように硬直した。

 

「なっ……!?」

 

「動きが……止まった?」

 

「後は任せました!」

 

近衛兵が動かなくなった魔獣に驚く中、レトは操縦桿を回し……クリスタルガーデンに突入した。

 

「な、何事だ!?」

 

「ーーレーグニッツ知事!」

 

「! き、君達は……!?」

 

「話は後です! アルフィン達は!?」

 

「か、彼女達はテロリストに攫われて……それを先ほどシュバルツァー達が追って……」

 

この場に居合わせたパトリックがレーグニッツ知事を介抱しながら説明し、彼の視線の先には崩落して地下道に繋がっている場所があった。

 

「……どうやらあそこから侵入されて、逃走されたようですね」

 

「では、私達もリィンさん達の後を追います。 皆さんは外の安全が確保でき次第、避難を」

 

「……その機械仕掛けの獅子に加えて、色々と聞きたい事は山ほどあるが……お二人をよろしく頼む」

 

「この子について話すかどうかは別にして……了解しました。 必ずアルフィンとエリゼちゃんを無事に連れて帰ります」

 

レトがアルフィンを呼び捨てにした事にパトリックは不敬だと言うが、ウルグラは踵を返して走り出し、穴の中に飛び込んで地下道を駆け抜ける。

 

しばらくして開けた空間、地下墓所に出ると……リィン達がテロリストと思わしき5人と武装を見せ合いながら対面していた。

 

だが、テロリストの手にはアルフィンとエリゼの姿もあり、気を失っているも外傷ないようだが……レトは歯軋りをする。

 

「ッ……リィン!」

 

「皆さん、ご無事ですか!?」

 

「レト、エマ! 来てくれたんだね!」

 

「だ、だがなんだ……その機械仕掛けの獅子は……」

 

「ウルグラ!? それにルーシェも……レト、連れて来たのか!?」

 

「にゃー♪」

 

「グルル」

 

ラウラは驚きながらもウルグラを撫で、ルーシェもラウラに擦り寄る。

 

「ふん、増援か」

 

「あらあら、可愛らしい子が増えたわね」

 

「ほう……あの獅子に乗っているガキ、かなりやるな」

 

「! あなたは……!」

 

テロリストの会話が聞こえ、レトはそちらの方を向くと……そこには顔に傷のある大男お赤い長髪の女性がいた。 そして、レトはメガネの男を見つけると目を見開いた。

 

あり得ない、そう思いながらもゴクリと嚥下し、恐る恐る口を開き……答えを合わせるように大声を出して言った。

「ーー反理想郷(ディストピア)!!」

 

「え……」

 

「なっ!?」

 

リィン達が武器を構えた時……唐突にレトが叫んだ言葉に、Gは驚愕した。 その反応だけでレトは確信を得た。

 

「……やっぱり……帝國学術院・政治学専攻、ミヒャエル・ギデオン准教授!」

 

「………………」

 

レトはGの正体を知っていたようで、Gは眼鏡を直すとレトと向かい合った。

 

「なるほど……ギデオンだから、Gか……」

 

「……どうやら、准教授としての私の最後の論文を読んだようだね」

 

「どうして……どうして貴方がテロなんて!」

 

「君もあの論文を読んだなら分かるだろう。 汚い手で小王国や自治州を併呑させ、なおも帝国を……世界を吞み込もうとする奴を。 あれは放置してはならない、即刻排除すべき人類の毒だ」

 

「……確かに、オズボーン宰相のやり方はおそらく、ある種の幻想を作り上げることで国家全体を熱狂に巻き込むでしょう。 その熱狂の中において旧勢力は打倒されます。 ですが……一度回り始めた歯車は止まらない、全てを巻き込みながら際限なく大きくなり続けるでしょう」

 

「ほう……」

 

「しかも、宰相はそれを知った上で……あれはもう怪物としか言いようがない人だ。 多くの欺瞞を抱えた、呪われたこの国を……煉獄に落とすかのように」

 

レトは鉄血宰相の化物ぶりを嘘偽りなく、冷や汗を流しながら実体験のように語る。 それを聞いたGは少しだけ、口元を釣り上げる。

 

「それだけ理解しているのなら、あの論文を残した甲斐があったというものだ。 どうだ……君も我々の一員にならないか?」

 

「貴様……言うに事欠いてレトに……!」

 

「いいよ、ラウラ。 ヤバい組織に勧誘されるのは慣れてるから」

 

怒りを露わにするラウラをレトは軽くたしなめ、Gはレトの答えに無反応だった。 元から期待していないようだ。

 

「ーー長話が過ぎたな。 同志S、同志V……ここは引くとしよう」

 

「ええ」

 

「そのつもりだ」

 

テロリストの幹部と思わしき2人が前に出て得物を構えた時……Sが持っていた剣にレトは見覚えがあった。

 

「! それは……法剣(テンプルソード)! なんでテロリストに……」

 

「あら、これを知っているなんて……星杯騎士団と関わりがあるようね」

 

「とあるシスターが使っていたからね」

 

と、そこでSは法剣を見せびらかしながら“あっ”と、何かを思い出したような顔をする。

 

「ああ、それと同志Cも一緒に来ているわよ」

 

「……何?」

 

『……失礼するぞ』

 

Gが目を細めた時、レト達の耳に機械音声が聞こえて来た。 男性と思われる声だが機械を通す事によって加工し、人物が特定出来ないようにしている。

 

そして奥の階段を降りて姿を現したのは……フルフェイス型の黒い仮面をかぶった全身黒づくめの男だった。Cと呼ばれたその男は、悠然とした足取りでG達の元に歩み寄る。

 

「同志C……まさか君まで来るとはな。私の立てた作戦、それほど頼りなく見えたか?」

 

『いや、ほぼ完璧に見えた。しかし作戦というものは常に不確定の要素が入り込む。そこのVII組の諸君のようにな』

 

仮面越しにこちらに目を向けるC。 正体も分からず、逆にこちらの情報も知られている相手にリィン達は警戒を強める。

 

「……くっ……」

 

「僕達の事まで……」

 

「……何者……?」

 

『本作戦の主目的は既に達した』

 

何者なのか問いかけるも……Cは答えずにVII組から視線を外し、同志達に向き直る。

 

『この上、皇族を傷付ける不名誉を負う必要はない……そうではないか?』

 

「……その通りだ。 返してやりたまえ」

 

Cの説得にGは納得し、Gは踵を返してながら部下達に2人を返すように命令し……2人を抱えて前に出た。

 

幹部であるSとVの前に出ると言うことは、本当に返すつもりなのだろう。 しかし、リィン達もすぐに納得出来ずに2人を受け取れなかった。 下手な行動をすればVのガトリングが火を噴くからだ。

 

「くっ……」

 

「エリオット、マキアス……2人を頼む」

 

「うんっ……!」

 

「……ああ……」

 

「よろしく頼むね」

 

「にゃ……」

 

リィン達が警戒しながらエリオットとマキアスがエリゼとアルフィンを受け取り。 そのまま下がって討伐されたゾロ・アグルーガの骸を壁にして隠れ、レトもウルグラから降り、リィン達の横に並ぶ。

 

『さて、これにて双方が歩み寄れたと思うのだが。 異存は無いかな、VII組の諸君?』

 

「……あるに決まっているだろう」

 

「恐れ多くも殿下達を攫い、薬などで眠らせた事……」

 

「とても帝国人として許せるものじゃ無いな……」

 

「8対6……それにもう1匹と規格外もいるし、大人しく逃げた方がいいよ」

 

「グルル……」

 

「……フィー、僕って規格外なの?」

 

人数はこちらが有利だが、エリゼ達の護衛を入れているため戦力は五分五分……リィン達は警戒を緩めなかった。

 

「くく、中々骨のあるガキ共じゃねえか」

 

「折角だし、相手をしてあげてもいいのだけど……」

 

SとVは無言でCへ視線を移す。2人の視線を受け取ったCは、それが当然のようにレト達の前に出る。

 

『まあ、ここは私が出るのが筋というものだろう』

 

どうやら、Cが彼らのリーダーのようだ。 SとVより実力が上と考えてもいいだろう。

 

『刀使いに大剣使い、双銃剣の使い手……それと可変式の銃剣、でいいのかな?』

 

「……お生憎様」

 

Cの疑問にレトは答え、銃剣を後ろに放り投げた。 テロリスト達がレトの行動が分からない中、飛んで来た銃剣をウルグラがアームで掴み、レトは槍を抜いた。

 

『フフ……失礼、槍使いだったか。来い……相手をしてやろう』

 

「…………!?」

 

「な……」

 

どうやら本当に1人で相手をするようだ。 リィン達は舐められているようで不快な顔をするが、レトはただただその行動の一連を傍観する。

 

『フフ、ただの余興だ。 鉄道憲兵隊が来るまでの一時、その怒りをぶつけてみるがいい』

 

「………………」

 

「面白い……」

 

「……すごい自信」

 

(……執行者レベル、ではなさそうだけど……かなり強いね)

 

『フフ……』

 

リィン達の当然の反応にCは薄ら笑い……一本の短い棒の両端に長い刃が取り付けられた特殊な武器を取り出して構える。

 

「その武具は……!?」

 

「暗黒時代の遺物か……!!」

 

双刃剣(ダブルセイバー)……しかも相当な使い手みたいだね」

 

『ーー我が名はC。それだけ覚えておくがいい……士官学院VII組の力、見せてもらおうか!』

 

Cが己の名を宣言した次の瞬間、レトがブレるように走り出し……分け身で3人になり、それぞれがC、S、Vに向かって行く。

 

「あら?」

 

「なんだ、俺らともやりあう気か?」

 

「当然!/です!」

 

2人のレトが鏡合わせのように槍を構えて突きを放ち、SとVはその場から飛び退いて得物を構え、分け身のレトを迎撃する。

 

だが、レトは真面目に戦う気は無いようで、翻弄するようにヒットアンドアウェイを繰り返す。

 

『まだまだ!』

 

「ちっ、ちょこまかと動きやがって……!」

 

「……まるで煽っているようね……」

 

「はあっ!」

 

「せいやっ!」

 

『…………………』

 

それを仮面越しに横目で見ているC。 本体のレトの剣とラウラの大剣を受け声をかける。

 

『ーー気をつけろ。 そいつは元から勝つ気はない……求めているのは我らの情報だ』

 

「! なるほど……可愛い顔に似合わずエゲツない事を考えているわね」

 

「次に持ち越して、その間に対策を立てる魂胆か。 中々わかってんじゃねえか」

 

「……そりゃどうも」

 

Cはリィンとフィーの波状攻撃を受けながら助言し。 それを受けたSとVの反撃は小技ばかりになり、あからさまに強力な戦技を見せなくなった。

 

「仕方ない……ウルグラ!!」

 

「グオオオオ!!」

 

するとレトはアルフィンとエリゼの護衛に付かせていたウルグラを呼び。 ウルグラはレトの隣に来ると咆哮を上げて威嚇する。

 

「来るか……!」

 

「ふっふっふー……見るがいい! ビーストモード、ドライビングモードに続くウルグラの第3の形態を!」

 

不敵に笑うレト。 彼らはウルグラにこの場を圧倒できる機能が備わっていると思い、警戒を強める。

 

そして、後ろにいたマキアスとエリオットも男心をくすぐられて少しワクワクしてしまう。

 

「変身!」

 

高らかに……レトは右手の拳を天に掲げながら叫び、ウルグラも背を反り返らせて天を見上げ……

 

「ーーとおっ!」

 

『ぬっ!?』

 

何も起こらず、ウルグラは背を反り返らせ状態で固まったままだった。 そして、一瞬で槍を構えたレトがCとの距離を詰めて突きを繰り出す。 ウルグラに警戒していたためCは惑わされながらも槍を受け止める。

 

レトによる奇襲は成功したが……納得出来ない人達もいた。

 

「え、ええっと……?」

 

「って、何もないじゃないか!?」

 

「……戯言だ。 ウルグラにそんな機能はついてない」

 

何故かガッカリする2人に、ラウラはズバッとウルグラに変身機能が無いことを告げる。

 

「ふざけた真似をしやがって……」

 

『フフ、だが達人の域に達した者ほど、戦闘で意味のない行動に隙を突かれる』

 

「ま、そういう事。 2つの組織がいがみ合っている中……どこからともなく空気読めない演奏家が流れて来るようにね……!」

 

(……えっと……それってもしかしてオリヴァルト殿下の事を……)

 

(聞かないほうがいいのだろうか……?)

 

(さ、さあ……?)

 

少し黒いオーラを放ちながら語るレトに、背後にいたエマ達が気圧されながらもコソコソと密談する。

 

だが、レトが過去の嫌な思い出を思い出したせいで分け身のコントロールを誤ってしまい……SとVの相手をしていた分け身が消えてしまった。

 

「! しまっーー」

 

『遅い』

 

分け身が消えてしまった事に動揺し、Cがレトに接近して双刃剣による強烈な一撃を放ち……レトは大きく吹き飛ばされてしまう。

 

咄嗟にレトは防御したが……さらにCにより導力機雷が密接に展開されてしまい、レトは身動きが取れなくなってしまった。

 

「レト!」

 

「しまった……!」

 

『フフ、腕はいいが心はまだまだ未熟だな。 戦いとは心技体揃ってこそ……そこでしばらく頭を冷やすがいい』

 

確かにと、レトは敵ながら納得してしまう。 そして深呼吸しながら頭を冷やし……

 

「はあっ!」

 

槍を地面に突き立て、一呼吸で全方位に衝撃波を放ち、周囲の機雷を飛ばした。 そして機雷は爆発、外回りの機雷にも連鎖して大爆発が起こったが……

 

「けほ、けほっ……」

 

1番近くの機雷を飛ばしたすぐに地のアーツ、アダマスシールドを発動し、レトは爆煙で咳き込む程度で済んだ。

 

だが、その間にリィン達3人は勝てはしなくとも喰いついてきたが……Cはたった1人で翻弄してしまった。

 

「ラウラ、リィン、フィー!」

 

『少し遅かったな』

 

レトは一呼吸で疲弊しているリィン達の前に出てCと対面する。得物を下ろし、一連を後ろで見ていたSとVはCを賞賛する。

 

「ハハ、さすがはC」

 

「うふふ、私達のリーダーを務めてるだけはあるわね」

 

「くっ……ここまでの使い手とは……」

 

「……サラに匹敵するかも」

 

「お前は……お前達は一体……?」

 

『クク……』

 

Cはそれを待っていたかのように笑い、後ろにいた幹部3人の前に一歩踏み出す。

 

『帝国解放戦線……本日よりそう名乗らせてもらう。静かなる怒りの焔を湛え、度し難き独裁者に鉄槌を下す……まあ、そういった集団だ』

 

「……とても、とても分かりやすいですね」

 

レトはその名前の意味と、彼らに恨みを一点に向けられている人物を頭に浮かべる。

 

「帝国解放戦線……」

 

「それに、独裁者って……」

 

「……同情、してしまいますね」

 

かの者を知っているのならテロリストが出来てしまうのも頷けてしまい、レト達は敵対しているも同情してしまう。

 

「ーーそこまでです!」

 

その時、レト達の背後から聞き覚えのある女性の声が聞こて来た。 すると後ろから数人の鉄道憲兵隊を連れたクレア大尉とサラ教官が駆け付けてくる姿があった。

 

「サラ教官、クレア大尉……!」

 

「間に合ったか……!」

 

『クク……どうやら時間のようだな』

 

鉄道憲兵隊の姿を見て、ここが潮時だとCも悟ったのだろう、腰から一つのリモコンを取り出す。

 

「え……」

 

「まさか……」

 

「ちょっ……!」

 

『それでは諸君……また会おう』

 

そしてCがスイッチを起動する。それと共に大地が大きく揺れ動き、次々と爆発音が響き渡る。

 

「なっ……!?」

 

「ば、爆弾……!?」

 

「クク、あばよ」

 

「それじゃあね、可愛い仔犬ちゃん達」

 

「フン……精々生き延びてみせるがいい」

 

彼らは踵を返して逃走する。

 

「ああもう! ここお気に入りだったのにー!!」

 

「そ、そうなの……!?」

 

「地下墓所がお気に入りとは……趣味の悪い」

 

「ーーそんなのいいから! 崩れるから早くこっちに来なさい!」

 

「リィン! 殿下達をウルグラにーー」

 

レトがウルグラを使って2人を乗せようと時……突然現れた悪魔のような魔獣によって退路を塞がれてしまった。

 

「チッ、邪魔を……!」

 

「一気に決めます!」

 

「ーーリィン、ラウラ! 2人を!」

 

「ああ!」

 

「承知!」

 

サラ教官とクレア大尉が得物を抜く中……アルフィンとエリゼをリィン達に任せ、レトはウルグラの背に乗った。

 

「討滅せよ!」

 

レトはウルグラの左右にあるアームに手を入れると……ウルグラは一気に駆け出し、魔獣に突進するとレトが左右からアームの爪で突き刺し、そのまま退路を駆け抜ける。

 

そしてウルグラは口を開け、導力エネルギーが充填され……

 

「放て!」

 

「グルオオオオオッ!!!」

 

咆哮と同時に、ゼロ距離で砲撃を発射。 アームの手から吹き飛ばされた魔獣は壁に激突する前に消滅し、砲撃の反動でレト達は来た道を逆走してしまった。

 

「ふう……」

 

「一息ついてないで走る!」

 

「は、はい!」

 

少し気を緩めてしまい、サラ教官の声で再び走る。 だが、思っていた以上に崩落が早く……進行方向にある天井が崩落し、先頭を走るリィン達に瓦礫が落ちて来た。

 

「危ない!!」

 

「ッ……せめてエリゼだけでも……!!」

 

「くっーー」

 

手を伸ばそうとしても間に合わない。瓦礫がリィン達を押し潰そうとした、その時……

 

「ーーーーーー!!」

 

崩落による轟音が言葉をかき消すも、レトが手を前に出して何かを叫ぶと……リィンの側の足元から巨大な朱い槍が出現、落盤に突き刺さり、落盤は砕け散った。

 

「なっ!?」

 

「い、今のは……!?」

 

「よくわからないけど助かったわ! 皆、急いで!」

 

「は、はい!」

 

今もなお崩落は続いている、呆けている暇はなく。 急いで崩落の及ばない地点まで駆け抜け……ようやく一息をついた。

 

「ふ〜、まったく。 ヒヤヒヤさせてくれるわね。 でも、全員無事でよかったわ」

 

「お、おかげさまで……」

 

「はあ……さすがに死ぬかと思いましたよ……」

 

「というか、一足遅すぎ」

 

「ゴメンゴメン……って、こりゃあ追跡は無理っぽいわね」

 

サラは謝りながら、先程通った瓦礫に塞がれた通路を見て嘆息する。 つられてリィン達も通路を見ると同じようになる。

 

「……そのようですね……」

 

「帝国解放戦線か……」

 

「ーーぐうっ……!」

 

その時、ウルグラに跨っていたレトが苦しそうに胸元を抑えていた。 その額からは脂汗を流しており、苦悶の表情を見せていた。

 

「ど、どうしたんだ!?」

 

「レト、大丈夫か!?」

 

「はあはあ……大丈夫、もう収まってきたから。 少し()を無理させたみたい……」

 

(……なんだ……?)

 

「……ん……」

 

リィンは不審に思っていると……2人が抱えていたアルフィンとエリゼが目を覚ました。

 

「皇女殿下……エリゼも……!」

 

「よかった……妙な薬ではなかったか」

 

「す、すみません……ッ! こ、これは……!」

 

「グルル……」

 

目を覚ましたエリゼは自分が機械仕掛けの獅子に乗せられていることに驚愕しながら気付いた。

 

「わたくしは……どうして……」

 

「ご無事ですか、殿下?」

 

「にゃー」

 

「あ……ルーシェ」

 

ルーシェがアルフィンの頬を舐め、アルフィンは不安そうな顔を綻ばせながらルーシェを撫で返した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

7月29日ーー

 

夏至祭初日のテロから何事もなく3日が過ぎ。 今日、VII組は帝都を後にするのだったが……その前にオリヴァルト皇子の計らいでバルフレイム宮に呼ばれていた。

 

「いや、君達には本当にお世話になってしまった。 兄弟共々、士官学院に足を向けて眠れなくなってしまったくらいさ」

 

「いえ、そんな……!」

 

「その、あまりにも畏れ多いお言葉かと……」

 

「そえそう、大袈裟だって」

 

オリヴァルトの言葉にリィン達は押され、レトはあっけらかんとするが、アルフィンは少し仰々しいように首を横に振るう。

 

「いいえ、いいえ。 わたくしとエリゼなどあのまま連れ去られていたらどんな運命が待ち受けていたか……本当に、何度お礼を言っても足りないくらいの気分です」

 

「……わたくしからも、改めてお礼を言わせてください。 本当にありがとうございました」

 

「エリゼ……」

 

「えへへ……本当に無事で良かった」

 

アルフィンに続いてエリゼも礼をしてお礼を言い、リィン達は素直にそのお礼を受け取った。

 

「私とセドリックの方もB班の働きには助けられたよ。 市内の混乱の収拾に、大聖堂での魔獣の襲撃……改めて礼を言わせてもらおう」

 

「勿体ないお言葉」

 

「ふふっ……お役に立てて光栄です」

 

「レミィもご苦労だったね。 ただ妹が心配なのは分かるが……彼を出したのはいささか早急ではなかったかな?」

 

「あ、あの時は急を要したからね。 導力車もすぐに来られそうになかったし、すぐに足が必要だったんだよ。 ね、ルーシェ?」

 

「にゃー……」

 

(……シスコン)

 

レトは誤魔化すように肩に乗っていたルーシェに聞き、ルーシェはどうでもいいように鳴いた。

 

「フフ、VII組設立のお礼をやっとお返しできたみたいですね。 それにしても……帝国解放戦線ですか」

 

少しだけ真剣な声音を含ませて、サラ教官はその名前を口にする。 それを聞いたレト達も気を引き締めて真剣な表情を見せる。

 

「ああ……ノルド高原での一件、そしてケルディックを始めとした帝国各地の幾つかの事件。 今までにも暗躍の気配はあったが……今回、遂にその名前を明らかにした。 Cをリーダーとする数名の幹部達に率いられた純然たる恐怖主義者(テロリスト)達。 現在、情報局でメンバーの洗い出しを行っている最中らしい」

 

「その1人はレトが知っていたため既に情報部が探りを入れているけど……足取りはまだ掴めそうに無いわね」

 

「そう、ですか……こう言っては何ですが不思議な人達でしたね。 わたくし達を連れ去りながら悪意を余り見せる事はなく……それでいて内に秘めた激情に取り憑かれているかのようでした」

 

「…………はい。 勿論、姫様を攫った事は許される事ではありませんが……」

 

「内に秘めた激情……」

 

「……そんな感じはしたかも」

 

彼らは誰かに対して怨みの焔を持っているが、向けるべき相手がアルフィンとエリゼではなかった……つまりはそういう事だろう。

 

「『静かなる怒りの焔を称え、度し難き独裁者に鉄槌を下す……』彼等のリーダーの言葉です」

 

「確かにそう言ってたな……」

 

「フン……また露骨な言葉だな」

 

「『静かなる怒りの焔』……そして『度し難き独裁者』」

 

「まあ、何を示しているのかは明らかではあるが……」

 

「この国の大きさ並みに恨まれてるねえ」

 

「……言えてるかも」

 

「皆さん……!」

 

と、話が重くなって行く中、この重苦しい空気を晴らしてくれる少年の声が聞こえてくる。 レト達が奥の方へと視線を向けると、セドリックとレーグニッツ知事がいた。

 

(あ……)

 

(も、もしかして……)

 

(父さんも……)

 

2人はオリヴァルトらの隣にまで歩き、VII組と向かい合う。

 

「セドリック……何とか間に合ったわね」

 

「フフ、良いタイミングだ」

 

「皇太子殿下……」

 

「わざわざお見送りに来ていただいたのですか」

 

「ええ、お世話になったからにはこのくらい当然ですから。 あ……こちらの方々がVII組のもう一班なんですね」

 

A班は初顔だったので、セドリックはA班の面々を見渡すと改めて自己紹介を行う。

 

「初めまして皆さん。 セドリック・ライゼ・アルノールです。 この度は自分共々、姉の危機を救っていただき、本当にありがとうございました。 心よりお礼を言わせてもらいます」

 

「……勿体ないお言葉」

 

「あわわっ……光栄です!」

 

「ありがとうございます、殿下」

 

「皇太子……想像してたより可愛いし、なんかレトに似てるかも」

 

「こ、こらフィー」

 

「あはは……まあ、似てるって言われて悪い気はしないかな。帝国男子と言われれば少し心配だけど」

 

「あはは……そうかも……」

 

セドリックはレト以上に線が細く、見た目からでは逞しそうには見えない。 心配するのは無理ないかもしれない。 エリオットも同じ考えなのか愛想笑いをする。

 

「ふふっ、兄様(あにさま)のようにもっと逞しくなってくれればわたくしも安心なのですけど」

 

「ちょ、ちょっとアルフィン……レミィ兄様くらいってハードル高いよ。 まあ、オリヴァルト兄様よりはマシだけど」

 

「お二方……失礼ですよ」

 

「フフ、まだ15歳だし、君達はこれからだろう。 しかし、我が弟妹にディスられるとは……兄は嬉しいよ」

 

「散れ、変態皇子」

 

「アアッ! 良い!」

 

レトは辛辣にオリヴァルトを罵倒した。 だが、オリヴァルトはとてもいい笑顔で震え上がった。

 

「コホン……セドリックが来た所で、レミィに言わなくてはいけない事がある。 もう分かっていると思うが……帝国市民が皇族、レミスルトの存在を噂であるも多少認知されてしまった」

 

「それは……」

 

「………………」

 

「そりゃあまあ、セドリックが衆善の面前でレミィに抱き着いて兄と呼べば……否が応でも噂になってしまう」

 

レトが伏せられているとはいえ皇族である以上、これは避けられない運命だったのかもしれない。

 

「ご、ごめんなさい兄様……僕が軽率な行動をしたばかりに……」

 

「気にして無いよ。 噂になった所で僕に辿り着く事はないだろし。 セドリックが気に病む必要はないよ」

 

「あ……ありがとうございます、兄様」

 

「あ! セドリックだけずるいわ!」

 

「はいはい」

 

レトはセドリックを慰めるように頭を撫でるとアルフィンが頬を膨らませ、レトは両手で双子の頭を撫でる。

 

「しかし、セドリックと貴方が一緒というのも珍しいね……?」

 

「はは……恐縮です。 折角なので彼らをこのまま見送らせてもらおうと思いまして」

 

「父さん……傷の方は大丈夫なのか?」

 

カール知事はG達との交戦によって肩に銃弾を受けた。 マキアスは心配するが、知事は撃たれた箇所ポンポンと叩いて問題ないと答える。

 

「ああ、大事には至っていない。 まだ少し痛むが、じきに完治してくれるだろう」

 

「そうか……」

 

「知事閣下、お疲れ様でした」

 

「ああ、ありがとう……かなり変則的ではあったが無事、今回の特別実習も終了した。 士官学院の理事として、まずはお疲れ様と言っておこうか」

 

「……恐縮です」

 

「ありがとうございます」

 

「VII組の運用、そして立場の異なる3人の理事。 色々思う所はあるだろうが……君達には、君達にしか出来ない学生生活を送って欲しいと思っている。それについては他の2人も同じだろう」

 

「父さん……」

 

「………………」

 

「……そう言って頂けると」

 

「その点に関しては殿下もどうかご安心ください」

 

「はは……分かった。 元より、貴方については私も信頼しているつもりだ。 だが……」

 

「ーーどうやらお揃いのようですな」

 

その時、背後から艶のある男性の声が聞こえて来た。

 

「あ……」

 

「……まさか……」

 

『………………』

 

「オズボーン宰相」

 

「……実は、先程まで共に陛下への拝謁を賜っておりまして」

 

そこには黒髪に一部白いメッシュが入っている男……ギリアス・オズボーンだった。

 

「アルフィン殿下におかれましてはご無事で何よりでした。 これも女神の導きでありましょう」

 

「ありがとうございます、宰相」

 

「オリヴァルト殿下も……帝国解放戦線に関しては既に全土に手配を出しております。 背景の洗い出しも進んでいますのでどうかご安心ください」

 

「……やれやれ、手回しの良い事だ。 これは来月の通商会議も安心ということかな?」

 

「ええ、万事お任せあれ……」

 

会話は穏やかのように見えるが、両者の間には対立という名の壁がある……内心は穏やかそうではない。 と、そこでオズボーン宰相はVII組に目を向ける。

 

「ーー失礼。 諸君への挨拶がまだだったな。 帝国政府代表、ギリアス・オズボーンだ。 鉄血宰相という名前の方が通りがいいだろうがね」

 

「あ……」

 

「は、初めまして、閣下」

 

「そ、その……お噂はかねがね」

 

初対面とは言え、初めて会った人物にこんな困惑した顔をしないだろう。 だがリィン達はかの宰相から滲み出る圧力にほんの僅かだが気圧されてしまっている。

 

「フフ、私も君達の噂は少しばかり耳にしている。 帝国全土を叉に掛けての特別実習、非常に興味深い試みだ。 これからも頑張るといいだろう」

 

「……恐縮です」

 

「……ども」

 

「精進させていただきます」

 

「それと……」

 

オズボーン宰相は顔を横に動かし、次にレトに視線を向けた。

 

「ーーお久しぶりです、レミスルト殿下。 いえ、今はレト・イルビスとお呼びした方がよろしいでしょうか?」

 

「……どうぞお好きにお呼びください。 閣下とはリベールであなたがグランセル城に乗り込んだ時以来でしょうか」

 

「ええ。 あの時は碌に挨拶も出来ず申し訳なかった」

 

「いえ、それはお互い様という事で」

 

レトが皇族であるならオズボーン宰相とも顔見知りなのは当然かもしれないが……オリヴァルト同様に、仲は良さそうではない。 そして……

 

「では、諸君らも……どうか健やかに、強き絆を育み、鉄の意思と鋼の強さと肉体を養って欲しい……これからの激動の時代に備えてな」

 

ただ話しているだけなのにまるで圧を放っているかのように、最後に宰相は予言のような言葉を口にした。

 

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