英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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37話 夏季休暇・魔都

「う〜ん……クロスベル〜〜来たああっ!」

 

8月の始め……学院は短い夏季休暇に入っていた。 レトはその休暇を利用し、朝早くに大陸横断鉄道を使ってクロスベルに来ていた。

 

「さてと、クロスベルに来たらまずは……中央広場の鐘楼だね!」

 

「にゃー」

 

クロスベルに来た理由は勿論、遺跡巡り。 レトは軽やかに中央広場に向かい……興味津々で広場の中央にあるクロスベルのシンボルである鐘楼を観察した。

 

「……ふむふむ……なるほど……(パシャパシャ)」

 

「………………(くぁ〜)」

 

その間、ルーシェは欠伸をしながら暇そうにベンチで寝そべっていた。 と、ルーシェの側に青い犬が近寄って来た。 貫禄のある顔をしているが、首輪をしている事から一応飼われてはいるのだろう。

 

「グルル……ウォン」

 

「! にゃー、ふみゃあ」

 

「ウォン! グルル……」

 

「にゃ、にゃー」

 

ルーシェは犬が話しかけてきた事に、ではなく犬自体を見て驚き……2匹はまるで会話しているように鳴き声を出す。 そこに調べ終えたレトが戻ってきた。

 

「お待たせー……って、誰その子?」

 

「にゃおん」

 

「グルル」

 

「へー、友達になったんだ。 んー……というかこの子、犬? それとも狼?」

 

レトは犬にしては大き過ぎ、狼にしては大人し過ぎると疑問に思い頭をひねった。

 

「あ、ツァイトだー!」

 

「ツァイトだー!」

 

ピンクの髪色をした双子らしき兄妹が犬……ツァイトに駆け寄って抱きついた。 ツァイトは鬱陶しそうな顔をするも力強くで離れようとはせず、その一連を見ていたルーシェは何故か鼻で笑った。

 

レトは微笑ましく思いながらもルーシェを肩に乗せ、その場を後にしようとした。

 

「それじゃね」

 

「みゃー」

 

「ウォン」

 

「あ、猫だ!」

 

「猫ちゃんだー!」

 

まずは星見の塔に向かおうとまた駅前通りの方に歩いて行くと……

 

「ケン、ナナ! 何して……」

 

背後からあの双子の姉らしき叱咤の声が聞こえたが、気にせずレトは歩みを進めウルスラ間道に出た。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

星見の塔に入って早2日……レトはこの塔に住み込んで塔中の書物を読み漁っていた。

 

「ほっ……と」

 

時折襲いかかる魔物を撃退しながらも片時も本を手放さず、少しずつ塔を登っていたが……

 

「うーん……これ歴史書というか何か別の本だね。 読めるは読めるけど理解は出来ないね」

 

「にゃー」

 

すでに夏季休暇の半分は過ぎようとしているが、レトの望む手掛かりはいまだに得られていなかった。

 

「後調べるのは最上階の鐘楼くらいかな…………ん?」

 

今しがた読んでいた古文書に興味深い文章があり、ゆっくりと読み進める。

 

〈遠征から帰ってきた錬金術師の報告により近年、東部では地脈……あちらでは龍脈が少しずつ減衰の一途を辿っている。 その影響で作物は育たず、緑は枯れ始めている。 その結果を聞き、痩せていく大地を救うべく我らの組織の意向に反対していた集団が袂を別つように東部へと向かって行った〉

 

「近年……暗黒時代の近年ということは今はどうなっているんだろう? って、我らの組織? 元々ここはこの地に隠れ棲んでいた錬金術師によって作られた塔とは聞いているけど……」

 

それに、古文書と言う割には内容は報告書に近いが……続けて視線を手元に落とした。

 

〈渇いていく水源、枯れていく草木、飢えていく生き物達……砂漠が、荒野が無慈悲にも広がろうとも、照り続ける陽の光は、大地に残った僅かな水分すらも、無慈悲に干上がらせていく。 そうやって、ゆっくりと、しかし確かに色褪せていく。 地脈が弱まり、不毛な地が広がるこの現象を我々はこう呼んだ……〉

 

「……《黄昏》、と……」

 

興味深いと思い、古文書を閉じて荷物の中に入れる(決して盗掘ではない……と思う)。

 

「にゃー」

 

「大陸東部に向かった錬金術師か……暗黒時代から今もなお生きていたら会ってみたいな」

 

そしてレトは野宿用のキャンプ道具を片付けると、ルーシェを肩に乗せてそのまま最上階に向かった。

 

あっという間に最上階に出ると……そこにはクロスベルの中央広場と同じ鐘楼があった。

 

「へえ……クロスベルが一望できるよ。 まあ、あの物凄く高い建造中の建物よりは低いけど、これはこれでいいかもね」

 

「にゃおん」

 

「さて、それじゃあ今度は鉱山町方面にでもーー」

 

「アハハ、見つけたあ!」

 

「!?」

 

次の目的地を決めた時……ある人物が笑い声を上げながら階下から登ってきた。 レトは振り返ると、そこには薄着の赤毛の少女が猟犬的な表情をしながら立っていた。

 

「一昨日からこの塔から面白い気配がすると思って来てみれば……お兄さん、かなり強いね?」

 

「……そういう君こそ、噎せ返るような血の匂いがするよ。 まあ、死の予感がしない分、腕は確かなんだろうね」

 

「アハハ、シャーリィは戦いは好きだけど無駄な殺しはあんまり趣味じゃないんだよねー」

 

赤毛の少女……シャーリィは物騒な事を満面の笑みで語る。 ルーシェが隅に隠れるのを確認し、レトは彼女の言動から目的は自分だと思い警戒する。

 

「それで、僕に何の用なの?」

 

「アハハ、先にランディ兄のお仲間がどれくらいやれるのか調べてみたかったけど……」

 

そこで言葉を切り……背中から大型の血のように赤い大剣を取り出した。 しかし、その大剣は機械仕掛けで……先端の刀身は幾つもの刃が連なっているチェーンソー、さらにライフルのような銃口が2つ付いている。

 

「摘み食いしてもいいよね?」

 

「これでも摘める部位が無いと自負しているんだけど……」

 

普通ではない……そう判断したレトは腰のホルスターから銃剣を変形させながら抜いた。

 

「あれ、お兄さんもカッコいい得物を持っているね」

 

「君程じゃないけどね。 それで、僕としては手合わせくらいがいいんだけど……どうやら君はそれを望まないようだね?」

 

「アハハ、シャーリィはねえ……一瞬の隙で命を落とすような、血が沸騰するような戦いがいいなぁっ!!」

 

シャーリィは見た目から猫のような少女だが……その目は明らかに猫を超えた血肉を求める人喰い虎だ。

 

大剣? のチェーンソーを起動させ、片手で軽々と持って構える。 大きさはラウラの大剣と同じサイズだが、機械的な分もありその重量はラウラの大剣を軽く超える……が、シャーリィはまるで重さを感じさせない表情をする。

 

(あの細腕でどうやって……)

 

「ほらほら、ボーッとしてたらザックリやっちゃうよ!」

 

「っと」

 

横から迫ってきたチェーンソーを跳躍して回避、真下を通り抜ける大剣の側面を蹴ってさらに後方にバク転して距離を取る。 その際に銃剣を変形させ、牽制として体勢を崩し欠けているシャーリィを撃つ。

 

「うわっと!」

 

「アークス駆動……」

 

即座に体勢を立て直すシャーリィ、その間にレトはアークスを駆動させ……シャーリィが接近する前に地のアーツであるクレストが発動。 さらにレトは指向性を持たせ、自身にではなく銃剣の刀身にクレストを纏わせた。

 

「はっ!」

 

「ッ……でやっ!」

 

今度はレトから接近し、チェーンソーと銃剣の刀身が衝突し激しく火花を散らす。

 

「アハハ! アーツの駆動も早い上に面白い使い方をするねえ! まさかテスタロッサでも切れないなんて!」

 

「! へえ……なんて偶然……」

 

「んー?」

 

「こっちの話っ!」

 

レトは鍔迫り合いしながら銃剣を下段に構え……シャーリィの武器、テスタロッサを切り上げるように弾き返した。

 

「まだまだ行くよおっ!!」

 

テスタロッサを両手で持ち、トリガーに手をかける。 レトはまたアサルトライフルからの乱射と警戒したが……全く別の高熱の炎が吹き出してきた。

 

「ッ……!」

 

回避は間に合わず、左腕に力を込めながら銃剣を掲げ……一呼吸で振り下ろし、剣圧で火炎を切り裂いた。

 

「チェーンソーにアサルトライフル、それに火炎放射器が搭載されているなんてね……」

 

「アハハ、シャーリィとしては剣から銃に変形する方がカッコいいと思うよ。 殲滅戦には向かないけど、どんな戦況でも使えるからかなりバランスが良いよ。 でもまだ、まだ足りないよ!!」

 

まだ満足してないようで、シャーリィは再び火炎を放った時……

 

「ーー見つけたぞ、レト!」

 

突然、背後にあった階下から青髪のポニーテールの女子……ラウラが息を荒げながら登ってきた。

 

「ラ、ラウラ!?」

 

「全く、夏季休暇とはいえ何の音沙汰もなくクロスベルにーー」

 

「ッ!」

 

もう眼前までに火炎放射が迫っており、説教を言わせる前にレトはラウラに近寄って腰を抱き、跳躍して火炎放射を避けた。

 

「なっ!?」

 

「説教は後でたっぷりと聞くから……後にしてくれる?」

 

「あれー? うーん、お姉さんもそこそこ強そうだけど、まだまだ足り無いかなぁ? ねえお兄さん……もっとだよ、もっとシャーリィを熱くさせてよね!!」

 

構えられたテスタロッサから火炎が放射。 だがその勢いは先程より弱かったが、それと同時にチェーンソーが周り……チェーンソーに炎が纏われる。

 

「ラウラ、巻き込んで悪いとは思っているけど……構えて」

 

「承知。それに謝罪も不要だ。 レトと共に行くと決めてからこの程度の壁、覚悟はしていた。 お前といれば私はさらに高みを目指せる」

 

2人はクスリと笑い、戦術リンクを繋いだ。 それを見たシャーリィは軽く驚きを見せる。

 

「へぇ……なかなか面白そうじゃん」

 

「はああああっ!!」

 

「うわっと……」

 

2人は同時に飛び出し、流れるような隙間ない連携でシャーリィを追い詰める。 チェーンソーにはレトが対応し、その隙にラウラが攻める……まるで熟練の連携だとシャーリィは思うが、連携のネタはオーブメントだと気付いた。

 

「ふうん……? 噂でエニグマIIとは別の第四世代の戦術オーブメントがあるって聞いていたけど……かなり実戦的みたいだね? お姉さん、お兄さんに合わせてかなりいい動きしてるよ」

 

「……それは光栄だな」

 

だが、とラウラはシャーリィに大剣を向けながら続けて言う。

 

「しかし、なにゆえレトに剣を向ける。 レトを見るに、どうやら戦う理由が無いように見えるが……」

 

「アハハ、そんなの楽しいからだよ。 赤い星座にいてもこんなご馳走、滅多に味わえないからね!」

 

「! その名は……!」

 

シャーリィが口にした赤い星座という名にラウラは反応した。 そしてシャーリィは炎を纏ったチェーンソーを振り回してレト達を斬りつける。

 

「アハハハ!!」

 

「ッ……なんて荒々しい……!」

 

「……ラウラ、下がるよ」

 

「……! 承知……」

 

笑い声を上げながら襲いかかるシャーリィのチェーンソーを避け、少しずつ塔の端に追いやられていく。 その際、レトは懐から何かを取り出して床に転がした。

 

「アハハ!」

 

「ふう……」

 

狩猟的な目は2人しか捉えてなく、レトは軽く一息をついていると……シャーリィが何かを思い出したかのようにレト達に話した。

 

「後でマインツに行ってみるといいよ。 面白いものが見られると思うから」

 

「マインツ……? それって鉱山町のこと?」

 

「さあ、どうだろうね? それじゃあ……第2ラウンドと行こうかな!」

 

「くっ……これがフィーのいた《西風の旅団》と対を成す《赤い星座》か!」

 

「アハハハハ!!」

 

シャーリィはテスタロッサの下段の銃口から火炎を放射し……

 

「ーー行くよ、ラウラ、ルーシェ!」

 

「にゃっ!」

 

「っ……!」

 

それと同時にレトはラウラを抱えて踵を返し、ルーシェがレトの肩に飛び乗ると同時に……塔から飛び降りた。

 

「なっ!?」

 

さすがのシャーリィもその行動には驚いたが、すぐに異変を感じて当たりを見回す。 するとシャーリィの足元には……火炎放射で導火線に火が付いている無数のダイナマイトが。

 

「ッ!!」

 

すぐさまシャーリィは階下に飛び降り、導火線の長さがゼロになると……

 

ドオオオオオンッ!!

 

「おっととおっ!?」

 

「にゃーーー!」

 

「くっ……!」

 

爆風で煽られながらも姿勢を正し、ラウラは懐から1枚の布を取り出して両手で広げると……強い制動がかかり2人と1匹はゆっくりと落下する。

 

「ふう……ラウラがいなかったら危なかったよ」

 

「まったく……行く先々で面倒に巻き込まれるよって……」

 

「仕方ないでしょう。 でも、そう言いながらも心配してくれるんだね。 僕を追ってクロスベルまで迎えに来てくれたんだし」

 

「………………」

 

レトはそう言い、ラウラは半眼になりながらレトを見つめ……掴んでいた手を離した。 レトはギョッとなって落下し……慌ててラウラの足を掴んだ。

 

「うわっ!? 落ちる落ちるーー!」

 

「ええい、お前なんて馬に蹴られて死ぬがよい! ッ!? 上を向くでない!!」

 

「痛い痛い!! 蹴らないでよ!!」

 

「にゃー……」

 

両手が塞がっているラウラは顔を真っ赤にしながらレトを足蹴にし……ルーシェがラウラの肩の上で溜息を吐きながら2人は風に流されて湖畔に着陸した。

 

「はあはあ……死ぬかと思った」

 

「ふん!」

 

別の意味で命からがらレトは生き長らえ、ラウラはスカートを直しながらソッポを向いた。

 

「それにしても……パラショール、まだ持っていてくれたんだね」

 

「と、当然だ。 そなたからの……は、初めての贈り物だからな……」

 

レトが持つ冒険7つの道具の一つ……パラショール、ただの布よようにみえるが、これはとても強い制動力を出す事ができる。 冒険とは常に落下がつきもの、それなら鉤爪ロープでも充分のように思えるが……充分に思えるからレトはラウラにパラショールを譲ったりする。

 

「さて……先ずはクロスベルに戻るにしても……」

 

「やはり、あの者が言ったマインツが気になるな。 当然、行くのだろう?」

 

「もちろん。 罠には慣れてる、でしょう?」

 

「うん。 本来、ここ(クロスベル)に来たのはお前を連れて帰るためだが……私もあの者の言葉が気になる、付き合うとしよう」

 

「ナァー!」

 

ルーシェもその気になり、まずレトとラウラは街道を北上してクロスベルに向かって行った。

 


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