英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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43話 遊撃士

ラウラの案内で子爵邸に入ると中はとても広く、調度品も一級品が揃っていた。 これを見てA班の中で気後れするのはエマしかいなく、残りのメンバーは普通に屋敷の中を案内された。

 

レト達は男女別の部屋に荷物を置いた後……ラウラが見せたい景色があると邸宅のバルコニーに案内した。

 

「うっわあああ〜っ!」

 

「……凄いな…………」

 

「……綺麗…………」

 

「……見事な光景だな」

 

右手を見ると……霧の中で影として浮かび上がる城があった。

 

「あれって、お城ー!?」

 

「そうですか……あれが」

 

「うむ、槍の聖女が本拠地にしたという古城……ローエングリン城だ」

 

駅前の景色も良かったが、ローエングリン城も入り、高台にあるこの邸宅から見るエベル湖はまた格別だ。

 

「おっと、晴れのローエングリン城は撮ってたけど……(パシャ!)」

 

「これは相当……絵心をくすぐられるな」

 

「はは、撮影するにも写生するにももってこいの場所だな」

 

「……ん? あれなに?」

 

ミリアムが指差したのは右手のローエングリン城から見て左手、エベル湖の中……指差した方角には大きな円形の台のような物があり、その中心は青く光って見えた。

 

「何かが青く光ってるのか?」

 

「灯台……と言うわけでもなさそうだな」

 

「レトさん、もしかして……」

 

「そう、あれが神殿だよ」

 

移動中にレトが話していた神殿……霧も影響しているがここからでは距離があるため青い光しか見えなかった。

 

この景色を見慣れているラウラが背を向けた。

 

「さて、景色は後で存分に堪能してもらうとして。 そろそろ特別実習の課題を受け取りに行くとしよう」

 

「そ、そうでした」

 

「うーん、となると……実習課題はもしかして……」

 

「はい。 レト様の予想通りかと。 ご案内を任せていただいても?」

 

「もちろん。 それじゃあ皆、行こっか」

 

リィン達は何がなんだが分からないが、ラウラだけが理由を知っているようだった。 邸宅を出て課題を受け取りに行く為、街にある遊撃士協会に向かった。

 

「ここが遊撃士協会のレグラム支部……」

 

ギルドの支える籠手の紋章を見上げながらリィン達は疑問に思う。 帝都に限らず、帝国で遊撃士は活動を停止していると聞いていた……しかしレグラムではこうして活動している事を不思議に思った。

 

「レグラム支部は昔と変わらず活動を続けている筈だ。 だから帝都支部の話を聞いて私も意外に思ったのだが……」

 

「この国のどの勢力にせよ、遊撃士は目障りだからね」

 

「そだね。 ミラにも権力にもなびかずに民間人を守るのを第一に動く人達だもん。 そりゃ大義名分さえあれば圧力かけて潰されちゃうかもね」

 

「ミ、ミリアムちゃん……」

 

「身も蓋もないな……もしかして、情報局も一枚噛んでいるんじゃないのか?」

 

(ありえそう……不機嫌そうなサラ教官の顔が思い浮かぶよ)

 

「んー、どっちかっていうよりオジサンの方かな? 直接、帝都支部に乗り込んで大幅な活動制限をしたみたいだし」

 

「そ、そうなのか……」

 

「道理で、サラ教官が宰相閣下に物言いたげな態度だったわけか」

 

帝都での遊撃士の活動が制限されたのは帝国政府の仕業とは知っていたが、まさか宰相閣下直々に制限したとは思ってもみなかった。 政府が遊撃士にかける圧力が窺い知れる。

 

と、その時、支部の中から白いジャケットを羽織った金髪の男性が出てきた。

 

「ったく、さっきから聞いてりゃ色々言ってんなぁ」

 

「!」

 

「あ、やっと出てきた」

 

レトはトヴァルが支部の中で聞く耳を立てていた事に気付いていた。 レトとラウラは知り合いのようだが、どうやらリィンとエマも彼のことを知っていた様子だ。

 

「トヴァル殿、久しいな」

 

「あ……!」

 

「あの時の……」

 

「あれ、2人ともトヴァルさんと知り合いだったの?」

 

「いや、前にすれ違ったくらいでね。 お久しぶりだ、ラウラお嬢さん。 サラの所で励んでるみたいだな?」

 

彼の……トヴァルの口からサラ教官の名前が出てきた。 つまり彼が遊撃士だという事がわかる。

 

「ということは……」

 

「うん。 サラ教官の元同僚、って所かな」

 

「そういうこと。帝国遊撃士協会所属、トヴァル・ランドナーだ。 よろしく頼むぜ、VII組の諸君」

 

トヴァルの手招きで支部の中に入るレト達。中は以前帝都で宿泊施設として使用させてもらっていた遊撃士協会帝都支部だった建物と似た構造だった。

 

トヴァルはカウンターの中に入ると、リィンは2度目の特別実習の時について聞き出した。

 

「それじゃあ……あの時、すれ違ったのは偶然じゃなかったんですね?」

 

「ああ、サラのヤツからお前さん達の話を聞いてな」

 

「そうだったんですか……本当にありがとうございました」

 

「はは、どういたしまして」

 

「ふむ、そのような縁があの時のA班にあったとは……もしや、あの時我らに地下道の鍵を渡してくれたのも?」

 

「ああ。 そっちはリベールの遊撃士が助け船を出しくれたそうだ。 会ったことはないが銀閃の異名を待ち、あのリベールの異変の解決に貢献した凄腕だとか」

 

「あー、なるほど。 話には聞いてたけど、やっぱりあの時助けてくれたのはシェラさんか」

 

セントアークでの実習時、ラウラから聞いた容姿でもしやとは思っていたようで。 3ヶ月経った今、レトはようやく確信を得て納得した。

 

「ーーしかしトヴァル殿。 ギルドはここ2年ほどで随分状況が変わったそうだな?」

 

「ああ、帝国政府の圧力以来、各地の支部が軒並み休業してね。 サラみたいに再就職したのもいれば他国の支部に移籍したのもいる。

ま、いずれ活動を再開できたら皆戻ってくる話になっててな。 されまでの間、目立たない拠点で細々と食い繋いでいるわけだ」

 

「そ、それは大変そうですね……」

 

「僕とラウラが旅をしていた時はあんまり聞かなかったけど……今思えば当時の帝都は少し活気が無かったような」

 

「しかし規模を縮小したとなると仕事量も膨大になりそうだが?」

 

「うーん、代わりに鉄道憲兵隊が色々とカバーしてるからなぁ。 そこのお嬢ちゃんの知り合いも随分と頑張ってるみたいだし」

 

「クレアのこと? すっごく頼りになるよねー。 いつも忙しそうにしてるから恋人はいないみたいだけどー」

 

失礼ながら、むしろあの氷の乙女に恋人がいる自体が想像し難いが……あまり口外していいものでもないだろう。

 

「あのな、ミリアム……」

 

「もう、プライベートな情報を勝手に話したら駄目ですよ」

 

「ハハ……」

 

(クレアさんが男性と仲良く…………駄目だ、潜入調査している場面しか思い浮かばない)

 

レトはどうしてもクレアと隣にいる男が悪い笑みを浮かべていて、最終的には鉄道憲兵隊に連行される光景しか思い浮かばなかった。

 

「まあ、そんなわけで細々とこの支部で活動を続けているんだ。 子爵閣下のお墨付きもあるから大手を振って看板を上げられるしな」

 

「なるほど……しかし、子爵閣下は随分、ギルドに協力的みたいですね?」

 

「どうも父上の気風に通じる所があるらしくてな。 叶うならギルドに所属して働きたいと前々から仰ってたくらいだ」

 

「そ、それは……」

 

「あはは、いかにも言いそうだね……」

 

「んー、光の剣匠が遊撃士協会入りかぁ……格にしても実力にしても、カシウス・ブライト並みだろうし、いきなりS級に迎えられそうだねー」

 

「カシウス・ブライト……」

 

「ふむ、確かリベール王国の准将にして剣聖だったか」

 

「っていうか、カシウスさん存在はともかく、何で非公式のランクを知っているの。 聞くだけ無駄だろうけど……」

 

「はあ、お嬢ちゃん……ホント情報局の人間なんだな」

 

遊撃士の事情を聞きながらもここに来たのは実習の為、この話は途中で終わりにし。 リィンはトヴァルから課題が入っている封筒を受け取った。 中身を見て、課題の内容を確認する。

 

「へー、特別実習ってこういう感じでやるんだねー」

 

「ああ、基本的にはね」

 

「自分で課題を探して行う事もあるけどね。 トヴァルさん、明日もギルドが課題を出すんですか?」

 

「ああ、それ以外にも幾つか仕事を頼むつもりだ。 何せ人手が足りなくて色々溜まりまくっているからな」

 

「あー……」

 

レトは視線を横に移しながら納得する。 資料の山がそこら中に、カウンターだけではなく後ろのテーブルにも積もっていた。

 

「せいぜい手伝ってもらってラクさせてもらうから頼んだぜ?」

 

「はは、判りました」

 

この資料の山を見るにトヴァルは不真面目そうではなく本当に大変で、恐らく猫の手を借りてでも楽をしたいのだろう。

 

「それじゃあ、早速特別実習を開始しよう」

 

「ふむ、どうやら練武場の依頼は爺からのようだ」

 

「そういえば、邸宅を出る前にそれらしい事を言ってたような……」

 

特別実習を開始してレグラム支部を後にし、レト達は街道に出る前に波止場にある槍の聖女と鉄騎隊の石像を近くで見に来ていた。

 

「………………」

 

「鉄騎隊の彫像……近くで見ると迫力があるな……」

 

「うんうん、かっこいいねー!」

 

「ドライケルス大帝とともに獅子戦役を収めた聖女と我が祖先……まさしくレグラムの誇りだ。 いずれはご先祖様のような……そして聖女サンドロットのような武人を目指したいものだな」

 

「ほえ〜……」

 

「フフ……なんだか目が輝いているな」

 

「ふふっ、ラウラさんの一番の憧れでしょうから」

 

ラウラに限らず、聖女を憧れる女性は多いだろう。 かの音に聞こえし黄金の羅刹もその一人だったりする。

 

「……ん? んんんー?」

 

ミリアムは何かに気付くと、仕切りに首を動かしてレトと槍の聖女の顔を見比べた。

 

「どうかしたの、ミリアムちゃん?」

 

「んー……なんかこの人とレト、似てるね!」

 

「え……」

 

思いがけない指摘にレトは呆けてしまう。 それにつられてリィン達も像とレトを見比べて納得してしまう。

 

「そういえば……どことなく顔立ちが似ているような」

 

「凄い偶然ですね」

 

「……は、あはは……かの槍の聖女と似ているなんて畏れ多くも光栄かな?」

 

「偶然にしては出来過ぎているかもしれないが、あまり気にしなくてもいいだろう」

 

「そうするよ」

 

少し誤魔化すように言いながらも、レト達は街道方面に歩いて行った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

元々深い森に加えて霧もあるので視界が悪く、レトとラウラはともかく霧に慣れてないリィン達は慎重にエベル街道を進み。

 

魔獣除けの街灯を交換しながら必須の魔獣討伐を終えたレト達はレグラムに戻り、もう一つの必須の課題である門下生との手合わせをするためアルゼイド流の練武場を訪れてた。

 

「お嬢様、VII組の皆様、お待ちしておりました。 どうやら滞りなく実習を始められたようですな」

 

依頼を出していたクラウスは門下生を指導つつ、レト達を待っていたようだ。

 

「うん、おかげさまでな。 なにやら、爺からも依頼が出ていたようだが」

 

「なんでもアルゼイド流の門下生と手合わせを希望しているとか?」

 

「ええ、その通りでございます」

 

「あのアルゼイド流と手合わせですか……」

 

「いい鍛錬になりそうではあるな」

 

「でも、私達に務まるのでしょうか?」

 

「その点は問題ないでしょう。 皆様は見たところ、中々の実力者が集まっているご様子。 かの八葉一刀流に、騎馬槍術……そちらのお嬢様がたもそれぞれ不思議な得物をお使いのようですし……」

 

リィン達の使う得物た実力を見抜きながらそこで言葉を切り、次いでレトの方を向いた。

 

「レト様も槍術に加え剣術に魔導の拳銃、そしてアレンジしたアルゼイド流を使った大剣……初対面の時から複数の得物を扱う節はありましたが、また幅広くなったようですね」

 

「あはは、やっぱりクラウスさんには敵わないな」

 

「そんなことまで判るんですか……?」

 

「た、戦っている姿をなんて見せたことないはずですけど……」

 

「クラウスさんなら当然かな。 皆の実力は見抜いているだろうし、アガートラムの気配も察している……まあ、実力はともかく得物くらいなら僕も見抜ける自信はあるよ?」

 

「そうなの?」

 

「佇まいや身のこなし、人は歩いているだけでも情報を出しているからね」

 

「な、なるほど……」

 

「確かに、爺ならこの程度は容易だろう」

 

「ふむ、さすがはかのアルゼイド流の師範代といったところか」

 

「フフ、恐れ入ります」

 

「ちなみに、この練武場にいるのは初伝クラスの者達です。手合わせする者同士の力量としては申し分ないでしょう」

 

「なるほど……確かにいい鍛錬になりそうですね」

 

リィンは依頼を引き受けるのを了承した。 準備を整えるとリィン達は舞台に上がり、4人の門下生と対面した。 しかし、相手が4人に対してA班はリィン、ガイウス、エマの3人だけだった。

 

「ちぇー、結局ボクは仲間ハズレかー」

 

「ふふ、あの人形は流石に反則だろう。 私も同門として我慢している。 ここは辛抱するがよい」

 

「ぶぅー……」

 

「あはは、僕なんかは相手から遠慮されたからねー」

 

本当ならレトも手合わせをするはずだったが……門下生の方から強く遠慮された。 どうやら2年前、レトは道場破りのレベルでこの練武場を荒らしたようだった。 門下生達に根強いトラウマを残している。

 

そしてリィン達と門下生達との訓練試合が始まった。 門下生の得物は剣と統一しているが、リィン達は戦術リンクを生かしながら気を抜かず臨機応変に対応していき……

 

「ーーそこまで」

 

リィン達の勝利で決着がついた。 余裕は持てたとはいえ、一歩間違えれば逆転されていたかもしれない。

 

「見事。 戦術リンクのハンデを物ともしない試合だった」

 

「ああ、彼らも私がいない間に一層修練を積んでいたようだ」

 

試合を見てレトとラウラは両者に賞賛する。 だが、もう1人試合を見ていたミリアムは……悔しそうに唸っていた。

 

「……どうした?」

 

「ボクもやりたーーい!」

 

見ているだけでは嫌だったのか、ミリアムは舞台に上がるとアガートラムを出現させた。

 

「ほう……」

 

「お、おいミリアム!?」

 

突然何もない虚空から現れた銀の人形に、存在だけは感知していたクラウスは声を漏らし、門下生達は驚愕して身構える。

 

「あはは、最後まで大人しくできなかったようだね。 まあ当然か」

 

「やっぱり見てるだけじゃつまんない! ラウラだってそう思うでしょ!?」

 

「うん、まあ……確かに否定はしないが」

 

「ラ、ラウラまで……」

 

「ふむ、弱ったな」

 

「さすがにアガートラム君を入れるとハンデが大き過ぎですよね……」

 

「ーーフフ、それならば。 次はわたくしめが代わりにお相手しましょう」

 

「え……」

 

「し、師範代……!」

 

門下生達にアガートラムを相手にするのは流石に気が引け、どうしようか悩んでいると……クラウスが一歩前に出た。 そして腰から剣を抜いて構える。 その間の動きでさえ洗練されている姿に、リィン達は思わず気を引き締めてしまう。

 

「老いさらばえたとはいえ、これでも師範代としてお館様の留守を預かる身。 その銀の傀儡相手でも不足はありますまい」

 

「へええ……!」

 

「こ、これは……」

 

「……なんという隙のない構えだ」

 

「なるほど……そういうことなら。 爺が出るのなら、やはり私も参加しよう」

 

「ラ、ラウラさん?」

 

ここで遠慮していたラウラが前に出て、参加したいと言ってきた。

 

「爺には今まで散々叩きのめされてきたからな。 久しぶりに成長を見てもらうのも一興だろう」

 

「フフ、いいでしょう。 レト様と旅を通して得た経験……そして士官学院で培ってものの全てをぶつけてくることです」

 

「あはは、アツくなってきたねー!!」

 

依頼である門下生との試合は終わっている。 本来ならクラウスと手合わせをしなくてもよいのだが……盛り上がってきたこの場を止める事は出来なかった。

 

「やれやれ、どう収まりをつければいいのやら……」

 

「……レト様。 あなたとも久方ぶりに剣を是非とも交えたいものです。 2年前と違うその剣……確固たる意志を感じられます。 どうか受けてはもらえませぬか?」

 

「…………………」

 

まさかそこまで見抜かれているとは思ってもいなく、そしてレトはクラウスの願いに……無言で頷いた。

 

「フフ、それでは僭越ながら3名の相手をさせていただき……それをもって今回の依頼、達成とさせていただきましょう」

 

「承知した」

 

リィン達と入れ替わるように舞台に上がり、レト達は得物を構えてクラウスと対面する。

 

「ーーそれでは始めるとしましょう。 老人相手だからといってくれぐれもご遠慮なさらぬよう」

 

「フッ、爺がそんな暇など与えてくれるはずもなかろう」

 

「以前の手合わせは決着がつきませんでしたし……今回は勝利を頂きます」

 

「フフン、遠慮なくいっちゃうよー!」

 

「それではーー始め!」

 

仕合いは開始された。 しかしクラウスを前に3人は動かなかった。

 

「参ります。 そのお手並み、拝見させていただきます」

 

「行くぞ!」

 

「よし!」

 

「おー!」

 

3人は自分を鼓舞し、先ずはラウラが飛び出した。

 

「はあっ!」

 

上段から振り下ろされた大剣、それをクラウスは僅かに横に避けながら剣で受け流し……力が流されて真横に大剣は振り下ろされた。 完全に見切られている。

 

「それー!」

 

ミリアムが後ろから手を前に突き出し、それと連動してアガートラムがクラウスを殴ろうとしたが……衝突した瞬間、剣で受け流しながら自ら後ろに下がって威力を落とし、アガートラムの腕を受け止めた。

 

「なかなかの力です」

 

「うっそー!?」

 

「ふう……はっ!!」

 

「うわあっ!?」

 

絶華衝。 クラウスは極限まで力を溜め……解放と同時に凄まじい突きを放った。 ミリアムは腕を交差させたアガートラムで防いだが、衝撃までは防げず、転がるように吹き飛ばされてしまった。

 

「はっ! やっ!」

 

三段突きからの払い、レトは流れる動作で槍を振るって繰り出す。 その攻撃をクラウスは巧みに受け流す。

 

「はっ!」

 

「っ!」

 

「わあっ!?」

 

風迅剣。 素早く横に剣を構え……振り抜くと同時に高速の斬撃を飛ばし、前方にいたレト、後方にいたミリアムを牽制した。

 

クラウスは2人に接近しようとするが……凄まじい勢いでラウラを中心に光の渦が巻き起こり、クラウスを引き寄せ……

 

「洸円牙ーーせいやあっ!!」

 

回転斬りを放った。 防がれたがこの一撃は聞いたようで、クラウスは剣を持つ腕を下げた。

 

「今の気の扱い……今までのそれとは違う。 何か掴んだようですね?」

 

「う、うん……まあ参考になった経験があってな……」

 

珍しく言い淀むラウラ。 回転ときて、レトは心当たりがありポンと手を叩いた。

 

「あ、もしかしてブリオニア島で蜘蛛の巣にーー」

 

「言うなーーー!!」

 

「あああああっ!?」

 

大声を出しながらラウラの大剣がレトの足元に振り下ろされた。 レトは絶叫を上げながら転ぶように避けた。

 

「ラウラ! 敵はあっち、クラウスさんはあっち!」

 

「ッ〜〜〜〜!!」

 

どうやらブリオニア島での経験で洸円牙を進化させたようだが……その過程が恥ずかしいらしい。

 

「ほっほ、仲睦まじいですな」

 

「ええい、そんなのではない!!」

 

誤魔化すようにラウラはクラウスに斬りかかった。 勢い任せだが剣筋は悪くなく、照れ隠しの猛攻だ。 レトは何がなんだが、ミリアムはとりあえずその勢いに乗りクラウスを追い詰めていく。

 

「はっは、なかなかやるようですな」

 

しかし、あれだけの猛攻を受けながらまだ余裕が見える。 見た目以上に衰えを感じさせず、明らかに剣技が老いを凌駕している。

 

「いっけーー!」

 

アガートラムの右腕にパワーが集まり始め……強烈な一撃が放たれた。 その一撃は受け流す事すら出来ないと判断したクラウスは横に跳んで避けた。 が、その先にレトとラウラが待ち構えていた。

 

「むっ!」

 

「せいっ!」

 

「受けよっ!」

 

ラウラの薙ぎとレトの突きがクラウスを捉えた。それによりとうとう、いや……やっとクラウスの膝を地に付かせる事ができ。 そこで勝敗が決した。

 

「と、届いたか……!」

 

「ふう……フィリップさんといい、なんでご高齢の方はこんなにも元気なんだ」

 

クラウスが膝をついた事に門下生達は驚きをあらわにする。

 

「フフ……さすがで御座いますな。 膝をつかされたのは、2年ぶりでしょうか」

 

(それ、絶対レトだろう……)

 

リィンが内心そう思う中……クラウスはスクッと立ち上がった。 これは老いどころかダメージを受けたのすらも感じさせない。

 

「うわ〜、結構平気そう!?」

 

「さすがはクラウスさん、ですね」

 

「それはレト様も。 一段と……いや、腕が何段も上に上がっておいでで、さすがに度肝を抜かれた思いです。 その銀の傀儡も想像以上でした」

 

「ガーちゃんと生身であそこまで渡り合えるなんてなかなかいないよ? 光の剣匠に至ってはさらに数段上の達人らしいし、世界は広いよねー」

 

「ああ、そうだな」

 

賞賛を受け取りながらレトは銃剣を収める。 その際、クラウスはリィンに何か一言を言っており。 リィンは少し気落ちしていた。

 

「さてと、少し脱線した気もしますが……これで依頼は達成でいいですか?」

 

「ええ、おかげさまで大変有意義な時間を過ごさせて頂きました」

 

「今度は門下生の皆と手合わせをお願いしたいな?」

 

「い、いえ! レトさんが出る程でもないですし!」

 

「お手を煩わせる訳にもいかないッス!」

 

「いくらハンデがあっても勝てる気がしないですし……」

 

「はっきり言うと心が折れそうです!」

 

(も、物凄く遠慮されてるな……)

 

(ふむ? 彼らでは父上とレトには勝てない……しかし何故、ここまで扱いが違うのだ?)

 

手合わせで勝てないのならレトであろうとアルゼイド卿でそれはあろうと変わらない。 しかし何故、門下生達がレトを恐れているのかラウラには分からなかった。

 

疑問に思いながらラウラ達は練武場を後にすると……外は陽の光も落ちかけ夕方になろうとしていた。 霧も少し晴れており、明日の天気は快晴になりそうだ。

 

そして、今日の依頼も全て終え。 レト達はトヴァルに報告しようとレグラム支部に向かう。

 

「ーーただいま戻りました」

 

「はー、面白かったー」

 

「おっと、帰ってきたか」

 

「フフ……タイミングが良かったようだ」

 

「え……」

 

「…………!」

 

「この声は……」

 

トヴァルの声の後に聞こえてきた男性の声、聞き覚えのあるラウラとレトが目にしたのは……

 

「父上……!?」

 

トヴァルの前にいたのは黒髪が印象的で、黄緑色の長いスカーフを首に巻き青いジャケットを羽織った中年くらいの男性だった。

 

そしてその男性をラウラは父と呼び歩み寄る。

 

「父上、いつお戻りに……てっきり此度の実習では会えないものと思っていました」

 

「ははは……所用に一区切り付いたのでな。 ギルドに用事もあったからここで待たせてもらった」

 

すると、男性はラウラに近寄ると……抱きしめながら頭を撫で始めた。

 

「久しぶりだ、我が娘よ。 どうやらまた一回り大きくなって帰ってきたようだな?」

 

「お、幼子扱いはやめてください。 ……その。 父上、ただいま戻りました」

 

「ああ、おかえり」

 

珍しく恥ずかしがるラウラ、だが最後には嬉しそうに甘んじて受け入れた。

 

(あれが光の剣匠……)

 

(へー、カッコイイお父さんだねー)

 

(ふふ、ラウラさんも嬉しそうですし……)

 

「ふむ、そして彼らが……」

 

「はい、VII組の級友にして共に切磋琢磨する仲間です」

 

「フフ、久しいな。 レト。 初めての者もいるから改めて名乗らせてもらおう」

 

男性は一同を見回し……レトの姿を見つけると苦笑しながら一歩前に出た。

 

「レグラムの領主、ヴィクター・S・アルゼイドだ。 そなた達の事は、娘から手紙で存じ上げている。 よろしく頼むーーVII組の諸君」

 

彼がかの光の剣匠と謳われ、アルゼイド流の筆頭伝承者である。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

夜の帳も下り、レト達はアルゼイド邸で豪華な夕食を食べていた。 その席にはラウラの父であるヴィクターも同席している。

 

「うーん! 久しぶりに食べるけどやっぱり美味しい!」

 

「フフ、気に入ってもらえてなによりだ。 どうやら昼間、クラウスと仕合ったそうだな? それも勝利を収めたとか」

 

「はい……手を抜かれた気もしますが」

 

「フフ、とんでもない。 ご学友共々、若々しき獅子のごとき気合いでした。 先が楽しみでございますな。 ただ……」

 

と、クラウスはそこで言葉を切り、レトの方に視線を向けた。

 

「レト様に関しては手を抜いてないにせよ、本気では無かったでしょう」

 

「あはは……失礼ながら、手合わせで向ける剣は持ち合わせていないので」

 

「はは、構いませぬ。 全力であったことには変わりありますん」

 

「そうか。 娘共々、どうやら良き巡り合わせに会えたようだ、これも女神の導きだろう」

 

「……私もそう思います」

 

「……………………」

 

「ふむ……」

 

と、そこでヴィクターは今まで黙り込んでいるリィンを見て……

 

「ーーリィンと言ったか。 どうやら、そなたの剣には“畏れ”があるようだな」

 

「えーー」

 

「父上……?」

 

昼にクラウスに見抜かれた本質を、ヴィクターにはさらにその奥まで見抜かれてしまった。

 

「剣仙、ユン・カーファイ殿。 そなたの師にして、八葉一刀流を開いたあのご老人とは面識があってな。 何度か手合わせを願ったこともあるくらいだ」

 

「! そうだったんですか………その、失礼ですが勝敗の方はどちらが?」

 

「いや、決着は付かなかった。 互いの理合いが心地よくてな。 存分に斬り結んでいたらいつも時間が過ぎてしまう」

 

「父上と互角……武の世界は広いですね」

 

「……恐れ入りました」

 

何百年の間継がれて来たアルゼイド流と、開かれて数十年の八葉一刀流が互角……ヴィクターが褒め称える八葉の一端が見えた気がする話だ。

 

「フフ、それはともかく。 八葉一刀流……東方剣術の集大成というべき流派だろう。 その理合いの深さと玄妙さ……修めた者が剣聖と呼ばれるようになるのも頷ける。 だがそなたは……“何か”を畏れるあまり足踏みをしているようにも見える」

 

「…………!」

 

リィンの畏れに、レト達は心当たりがあった。レト以外は詳しく知らないと思うが、旧校舎で起きた出来事と関係している事は理解していた。

 

「……参りました。 そこまで見抜かれてとは夢にも思ってませんでした。 ですが……これで覚悟も固まりました」

 

「え……」

 

「ほう……?」

 

迷っていた気持ちをヴィクターの言葉によって決心し、リィンは強い意志を持った目をして……

 

「子爵閣下……いえ、光の剣匠殿。 どうか自分と手合わせをしていただけないでしょうか?」

 

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