英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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45話 ローエングリン城

レグラムに戻ると……基本静かな町がざわついていた。 気になって町を見回してみると、波止場に船が止まっていた。 その船の周りと町には……数人の領邦軍の兵隊がいた。

 

「あれは領邦軍……貴族派の兵士だったか?」

 

「え、ええ……そうみたいですけど」

 

「白と紫……帝都でも見かけた色だな」

 

「あの色は……ラマール州のものだった筈だよ」

 

「こことは帝都を挟んで反対側……どうして領邦軍がレグラムを訪れるのだ……?」

 

「恐らくーー」

 

「よ、戻って来たみたいだな」

 

と、そこへトヴァルが歩いてきた。 どうやらこの自体について何か知っているようだ。

 

「トヴァルさん……」

 

「その、これは一体……」

 

「どうやら対岸の波止場から定期船を徴発したみたいでな。 サザーランド州じゃなくてラマール州ってのが謎だが……」

 

「謎じゃないですよ。 徴発、ラマール州、領邦軍……そこから出る答えはカイエン公。 目的は子爵閣下の協力を得ることでしょうね」

 

「あー、あり得るかも」

 

顎に手を当てて考え込むレトが答えを出し、カイエン公を知っているミリアムはその答えに納得した。 答えは出たが、リィン達は気になって仕方がなかった。

 

「ま、そんなに気になるなら様子を確かめてきたらどうだ? 街道から戻って来たってことは手配魔獣も退治してきたんだろ?」

 

「ええ、それなんですが……」

 

「その、実はおかしな事が……」

 

先ほど倒した手配魔獣について手短にトヴァルに報告した。 それを聞いたトヴァルは眉を潜める。

 

「機械仕掛けの魔獣……」

 

「ご想像通り、人形兵器でした。 無闇に放たれてはいないようですが……」

 

「そうか……念のため俺の方でもその残骸を調べてみよう」

 

トヴァルはご苦労と言いながら報酬を手渡し、残骸を調べるたエベル街道に向かって歩いて行った。

 

人形兵器について気になったが、それよりも先ずはアルゼイド邸に向かった。 我が物顔でレグラムを闊歩する兵士達に市民が不安の顔が見える中、急いで子爵邸に入ると……

 

(……ぁ……)

 

(あれは……)

 

(やっぱり)

 

もう帰る所だったのか、玄関先で子爵閣下と……派手に着飾っている貴族らしき男性が向かい合っていた。

 

「フフ、そう言わずに考えておいてくれたまえ。 貴公が来てくれれば会合にも箔が付くというものだ」

 

「所詮、片田舎の領主に過ぎぬ身。 さすがに買いかぶりでしょう」

 

話を聞く限り、レトの予想通り子爵閣下を貴族派に入れようとしていた。 それに加えて……正規軍にも手を貸すなとも忠告していた。

 

まだ子爵閣下は答えを出してないがそれで話がついたのか、貴族の男性と護衛であるサングラスをかけた黒服の2人組が降りてきた。 そうなると当然、階下にいたレト達に声をかけてきた。

 

「ラウラ嬢か、久しいな。 む、それに君は……」

 

「……ご無沙汰しております」

 

「——初めまして、カイエン公爵閣下。 ()()()()()……と申します」

 

「!?」

 

レトは礼儀を弁えながら、ワザとらしく名前を強調して男性に名乗った。 それを聞いた男性は動揺し……それからレトの向ける上からの視線に気付き、咳払いをした。

 

(レトさんが本名を……)

 

(ということは、彼が……だが、ラウラの緊張ぶりは)

 

(んー、まさかこんな所に現れるとなんてねー)

 

(四大名門筆頭にして西のラマール州の統括者……海都オルディスを治める大貴族、カイエン公爵……!)

 

実質的に貴族派の頂点に立つ者……それが本人自らの足で子爵閣下の元に訪れる事に疑問を感じる。

 

「久闊を叙したくもあるが少しばかり急いでいてな。 また近いうちに、会う機会を設けるとしよう」

 

そういうと踵を返し、出口に向かって歩いていく。 その際、護衛の1人である長身の男性がレト達を見て……納得した。

 

「ハハ、なるほどなぁ。 君らがトールズ士官学院のVII組ってやつか」

 

「……!?」

 

「何故それを……?」

 

制服を見ただけで自分達がトールズの生徒である事に気付いた、それに対して当然の疑問を問いかける。

 

「いやな、縁があって少しばかり調べてたんや。 うん、なかなかええ面構えをしとるわ」

 

「え、えっと……」

 

「……………………」

 

「……閣下がお待ちだ。 そのくらいにしておけ。 それでは失礼する」

 

「ほなな〜」

 

言いたい事だけを言い、2人はカイエン公を追いかけて邸宅を後にした。

 

「何者だ、彼らは……?」

 

「領邦軍の兵士じゃないのは確かなようだが……」

 

「私達のVII組のことを知っていたようですけど……」

 

「……………………」

 

「——恐らくカイエン公が私的に雇っている護衛だろう」

 

そこへ、ヴィクターが階下に降りながら答える。

 

「父上……」

 

「フフ、そんな顔をするでない。 だが……いよいよ、本格的に動き始めたようだな」

 

場所を変えようと言われ、レト達は子爵閣下の執務室に案内され……カイエン公がレグラムを訪れた理由を交えながらある事を説明した。

 

「貴族派が水面下で動き始めている……!?」

 

父から聞かされた言葉にラウラは驚愕する。

 

「うむ、先月あたりから頻繁に動き始めている。 各地で会合が繰り返され、結束を再確認しているようだ。 そちらのお嬢さんは当然知っている情報だろうが」

 

「んー、まあね。 とうとう革新派と本格的にやり合うつもりかって情報局もピリピリしているし」

 

「そうだったのか……」

 

既に情報局でも貴族派の動向を把握しているらしく、ヴィクターの言葉にミリアムは同意する。

 

「でも、カイエン公っていえば貴族派でもリーダー格だよね? わざわざ来るっていうのはさすがにビックリしたよー」

 

「うむ……私も驚いた。 貴族派全体の大規模な会合を近いうちに開くつもりらしくてな。 それに必ず出席するようにこんな辺境まで訪ねてきたらしい」

 

「あ……予想外れた」

 

答えは協力を申し出るではなく、会合に出席せよ……予想が外れたことにレトは少しばかりガッカリした。

 

「で、ですが父上はあくまで貴族派からは……」

 

「……はい。 距離を取っておられます。 さりとて革新派にも近付かず中立を貫いておられますが……」

 

「だが、先方からしてみれば貴族ならば貴族派に所属して当然という理屈なのだろう。 気の進まぬ貴族達にも強引に引き込んでいるという話も聞く」

 

「その流れには他の四大名門も?」

 

「アルバレアはもちろん、ログナーも参加していると聞いている。 ハイアームズは中立を保っているようだ」

 

四大名門がこの流れに乗っていれば大体の戦力は把握出来る。 恐らく現状では帝国貴族の半数以上は貴族派だろう。 と、そこでリィンが恐る恐る子爵閣下に質問した。

 

「その、自分の実家については何かご存知ありませんか?」

 

「フフ……そなたの実家ならば心配は無用だろう。 シュバルツァー卿といえば私以上の頑固者として有名だ。 貴族同士の胡乱な動きに加担するとは到底思えぬ」

 

「そ、そうですか……少しばかり安心しました」

 

実際の父を知るリィンなら心配する必要はないが、実際に子爵閣下の口から聞いて一安心した。 と、そこでリィンの話を聞いてヴィクターが何かを思いついたようだ。 すると唐突に領を留守にするとクラウスに伝える。 当然、ラウラは驚愕する。

 

「ち、父上!?」

 

「あはは、いきなりだねー」

 

「即断即決が信条でな。 各地の中立派の貴族と連絡を取り合うことにする。 貴族派全体の強引な動きに取り込まれる事がないようにな」

 

「あ……」

 

「父上……」

 

「——そういう事なら、俺もお供させてもらいますよ」

 

ドアをノックしないで入って来たのはトヴァルだった。 どうやら街道から戻ってきたからここに来たようだ。

 

「トヴァルさん……」

 

「おお、そなたも来たか」

 

「ええ、こちらに来たのがカイエン公だと聞きまして。 ちなみにバリアハートから来たリムジンに乗って行きましたよ」

 

「バリアハートから……!?」

 

「……もしかして、アルバレアの?」

 

「ああ、ルーファス卿だったか? あの御曹司が迎えに来てたけど」

 

それを聞いたレトはまた深く考え込む。

 

(徴発した船で来たから別の移動手段で帰るのは分かってたけど……まさかルーファスさんが……)

 

「そうか……カイエン公が訪問するなら彼が出迎えに来てもおかしくはあるまい。 それはともかく……他にも何かあったようだな?」

 

「ええ、お嬢さん達が気になる話を持ってきましてね。 レグラムの街道外れに“機械仕掛けの魔獣”が出ました」

 

それを聞き、ヴィクターは珍しく目を見開いた。 2人だけが分かる内容で話が進み……トヴァルの同行を認めた。 と、その時……ヴィクターは先程からずっと黙って考えて混んでいたレトに声をかけた。

 

「フム……レト、何か考え事か?」

 

「……いえ、先程のカイエン公の護衛についてちょっと」

 

「全く、話を聞かず何を考えていると思ったら……」

 

「それで、何か分かったのか?」

 

「先程、長身の男性がVII組に“縁”があると言いました。 そしてある事を仮定すれば、辻褄が合います」

 

「へー、よくわかんないけど凄いね。 それでそれで?」

 

「——彼らが猟兵である事」

 

考えついた先に至った答えを出すと、ラウラ達はある人物を思い浮かべた。

 

「まさか……!」

 

「そう。 VII組で1番猟兵で縁があるのはフィー。 彼らは……西風の旅団」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

レト達はヴィクターとトヴァルを見送りに駅まで向かい。 トヴァルは去り際に午後の分の依頼を渡し、ギルドの書類整理を頼むと2人は列車に乗り、レグラムを後にした。

 

後に残されたリィン達は依頼をするか支部の資料整理をするか相談していたが……ラウラは依頼書をレトに見せながら指差した。

 

「なあレト。 この幻の魚とは……」

 

「うん。 ちゃんとゴールドサモナーって書いてあるし、そうだろうね」

 

「2人はこの魚を知ってるの?」

 

「うん。 ブリオニア島で実習した時に銛突きで獲ってね。 かなり美味しかったよ」

 

「えー、いいな〜! ボクも食べたーい!」

 

このままでは資料整理の時にうるさくなったしまう……そう思ったレト達は街道から外れた場所にある川に向かった。

 

そこではケルディックで財布を無くしていた貴族の女性、今では色んな意味で成長したアナベルがいたりしたが。 リィンの釣りの腕前でゴールドサモナーを釣り上げ、食した後は予定通り支部で資料整理を行った。

 

トヴァルの置いてあったメモ通りにギルドの書類整理を行っていき……いつの間にか時刻は夕方を迎えようとしていた。

 

「………………(カタカタ)」

 

リィン達がまだ書類を整理している中、とっくに自分の分を終えたレトが人形兵器から取ったクオーツを解析していた。

 

(これで……よし)

 

データを呼び出す事に成功し、出てきた情報に目を通した。

 

(……なるほど、また()()か。 納得できた上に、この手間のかかる作業に意味はなかったって事か……)

 

ガッカリしてため息をつきながらレトは固まった筋を解すため背伸びをする。

 

「何か分かったか?」

 

「いや、何も。 ただ無闇矢鱈に放たれたみたい」

 

「そうか……こちらの仕事もそろそろ終わる、一息入れるがよい」

 

「うん、そうす——」

 

バンッ!!

 

その時、ギルドの扉が強く開け放たれた。 次いで入ってきたのはクロエだった。

 

「す、すみません! 誰かいませんか!」

 

「? クロエか……?」

 

「ああっ、ラウラ様!? あ、あのっ! トヴァルさんはいませんか!?」

 

「トヴァルさんなら今は出かけているけど……」

 

「……何かあったのか?」

 

「ア、アイツらが、帰ってこないんです……」

 

「アイツら?」

 

「——ユリアンとカルノが“お城”から帰ってこないんです!」

 

「そ、それって……」

 

「ローエングリン城のことか!?」

 

「まさか……2人だけで湖に出ていったの!?」

 

クロエが言うには、その2人はボートでエベル湖を挟んだ場所にあるローエングリン城に向かい、今も帰って来てないとのこと。

 

これは放っては置けないと判断したリィン達は捜索に協力、先ずは町を手分けした探したが2人の姿はなく……次第に騒ぎが大きくなるに連れて夜になってしまった。

 

「やっぱり、男の子達は町のどこにもいないか……」

 

「穏やかで波も立っていないから転覆の心配はなさそうだが……」

 

「クロエの言った通り、湖に出たまま城にいるようだね」

 

「かの鉄騎隊の本拠地、ローエングリン城……アルゼイド家で管理しているとはいえ、滅多に足を踏み入れない場所だ。 何があったのか……心配だな」

 

あの城には魔獣除けの街灯もない上、断崖の上に建てられていて落下の危険もある……ラウラはそんな事が起きないか心配であった。

 

「……親御さん達もかなり心配しているみたいです。 今は家の方で帰りを待ってもらっていますけど……」

 

「とにかく行くしかないね。 ボートの手配はアルゼイド流の門下生達が用意してくれているはずだよ」

 

「少々霧が出始めているのが気がかりではあるが……」

 

「……今は波止場に向かおう。 最低限の準備をしてから行くとしよう」

 

「ああ、急ぐとしよう」

 

準備を整えたてからレト達は支部を出ると……外ではクロエと、彼女より年上の女子、セリアとシンディがオロオロしながら待っていた。

 

「あ、お姉様!」

 

3人は出てきたラウラに駆け寄る。

 

「お姉様自身が向かわれるなんて……迷惑をかけてすみません」

 

「小生意気な奴らですから、見つけたら1発お願いします」

 

「あいつらを叱ってやって下さい!」

 

「……相変わらずだね。 こんな時でもそんな事が言えるなんて……」

 

3人の物言いにレトが反応して煽るような事を言った。 当然聴こえてたので怒りだす。

 

「な、何ですって!?」

 

「自分の考えを一方的に言って……彼らにも非があるかもしれないが、それが今回の事態を招いたんだ」

 

「あ……」

 

「そもそも、一体君達はラウラの為に何をしたの? 悪い男を払った? 身勝手な丑の刻参りをして、自分の考えを他人に押し付けて、結局は自分達は何もしてない」

 

「そ、そんな事は……!」

 

「ならなんで、強くなろうとしない? ラウラが大切ならどうして剣の1つもとらない」

 

「そ、それは……」

 

「既にラウラが強いから、やらなかったって? そんなのいい訳にもならない。 所詮、君達は願望を押し付けているに過ぎないんだよ。 口だけで信念も何もない……乾き切っているだけ。 僕が一番大っ嫌いな“欺瞞”だらけだ……!」

 

もう反論する気力もないようだ。 リィン達は突然の事に状況が飲み込めなかったが……ラウラは何も言わず、傍観していた。

 

「はっきり言って、最初の時から僕は君達が嫌いだ。 ただ気に食わないからって吠える君達が。 そんな雨も降らない荒地、ラウラがいるべき場所じゃない」

 

『………………』

 

それだけを一方的に言ったが反論する事は出来ず、今は男の子達の捜索を優先して波止場に向かった。

 

「ごめん皆、変な事になって……」

 

「いや、気にするでない。 いずれ、私も指摘しようとしていた事だ。 彼女達は我が強い、あのままではな……」

 

「んー?」

 

「………………」

 

波止場に到着すると導力ボートの用意が出来ております、レト達はボートに乗り込んでラウラの運転でローエングリン城に向かった。

 

導力ボートに揺られて進む中、ミリアムは上機嫌だった。

 

「一体あのお城に何が待っているのかな〜?」

 

「ふふ、ミリアムは相変わらずだね」

 

「あのな、ミリアム……遊びじゃないんだぞ?」

 

「分かってる分かってる♪ ガーちゃんもいるし、さっさと片付けて探検したいな〜。 あ、アレってレトが言ってた神殿!? キレーだねー!」

 

「あ、あはは……」

 

今にも湖に落ちそうな勢いで身を乗り出すミリアムにレト達は呆れながらも苦笑する。

 

「ふう、緊張感がないものだ」

 

「このぐらいがむしろ丁度いいかもね」

 

ミリアムを見て肩に乗っていた力が抜け、緊張が解れて丁度よかったかもしれない。その時……突然ローエングリン城の方からゴーンゴーンっと鐘の音が聞こえてきた。 それと同時に城自体が青白く光り始めた。

 

レト達は奇怪な現象に眉をひそめる中、ローエングリン城に到着。 男の子達が乗ってきたであろうボートを発見、ここにいる事を確認して崖を登り始めた。

 

「これがローエングリン城……」

 

城の入り口に到着し、レト達は城を見上げる。 歴史ある城に見えるが、薄気味悪く青白く光りを放っていた。

 

「な、なんかボ〜っと青白く光ってない!?」

 

「私も以前から何度か訪れたことはあるが、こんな状況は初めてだ。 何かいるな……」

 

「……何か、妙な風を感じる気がするな。 魔獣ではなさそうだが……」

 

「……俺もだ。 何が蠢いているような……そんな気配を感じる」

 

「な、何かってナニ〜!?」

 

(“生きてない気配”……魔物がいる。 けど……)

 

(やはり、幽界(かくりょ)の気配……)

 

それぞれが妙な気配を城の中から感じ取る中、レトとエマだけは違う視点から何かを感じ取っていた。

 

「委員長……?」

 

「……いえ、とにかく気をつけて入りましょう」

 

「ああ、何が起こるのか分かったものではない。 念入りに装備を確かめてから足を踏み入れるとしよう」

 

準備を整えた後、レト達は警戒しながら城の中に入った。 城の中は一際不気味な雰囲気が煙のように立ちこもっており、そのまま奥に進もうとすると……

 

ガシャン!!

 

「ひゃあっ!?」

 

全員が中に入った所で独りでに扉が動き、城の中に閉じられてしまった。 慌ててリィンが門に駆け寄って手をかけて引っ張るが……

 

「くっ……開かない!」

 

「勝手にしまったのか!?」

 

「こ、このぉ〜っ!!」

 

アガートラムを出現させ、閉じられた門を殴ったが……一瞬、幾何学模様の陣が浮かび上がると破壊するどころかビクともしなかった。

 

(今のは……)

 

「な、なんでぇ〜……?」

 

「アガートラムでも破壊できないなんて……」

 

「——どうやら、結界が働いているみたいですね」

 

その言葉はレトに聞いた事があったが、それがエマの口から聞かされる事にリィン達は不振に思った。

 

「結界……レトから聞いていた神殿にも作用していると言っていた、さっき一瞬だけ見えた不思議な文様のことか?」

 

「でも委員長、どうしてそんなことが判るんだ?」

 

「その、実は昔から霊感はある方で……目には見えないものとか、不思議なものが何となく判るんです」

 

「レ、レイカンって……」

 

「ふむ……興味深いな」

 

「へぇ、そうだったんだ。 まあそれはともかく、結界が作用しているのは間違いないよ。 流れが上から感じる」

 

レトは上を見上げながら答える。 ラウラは慣れているようだったが、リィン達は少しだけ困惑する。

 

「レ、レトもレイカンがあるの〜!?」

 

「血筋の影響でね。 それよりも……霊圧が上がってる、来るよ」

 

「! 左右から来ます……!」

 

レトとエマが叫ぶと同時にまた鐘楼の音が響き渡り大広間の方に視線を向けると……空間が歪み、2体の青い炎を纏った2つの角を持つ赤い骨のような何かが叫びながら現れた。

 

(霊魂が可視化されてる……!)

 

「あれは、魔物か……!」

 

「——迎え撃つぞ!!」

 

戦闘態勢に入り、それぞれの得物を抜き魔物……シャドウスピリッツと向かい合う。 そんな中、ミリアムだけがビビってレトの背後に隠れていた。

 

「ちょ、ちょっとミリアム……」

 

「い、いっけー! ガーちゃん!!」

 

ほぼヤケクソ気味にミリアムはアガートラムを動かして拳を振るわせる。 シャドウスピリッツはどういう原理なのか、実体はあるようでアガートラムの拳を受けて飛ばされる。

 

「さ、触れた……」

 

「斬れるのなら……恐れることは何もない!」

 

攻撃が通ると分かるや否や一気に攻め……2体だったこともあり短い時間で倒す事が出来た。

 

「ふう……」

 

「あわわ……」

 

戦闘が終わると同時に気が抜けたのか、ミリアムはペタンと地面に座り込んだ。

 

「ミリアムちゃん、大丈夫ですか?」

 

「うう、今のなんだったの〜……?」

 

「旅の途中で何度か相手にした事がある。 魔物……その名が1番当てはまるだろう。 この前もクロスベルで似たようなものと戦った」

 

「ああ、そう言えばいたね」

 

「……夏季休暇の時に何があったんだ?」

 

もちろんリィン達はレトが夏季休暇の時にクロスベルに行っていた事は知っていたが、そこで何をしていたのかは漠然とした知らなかった。

 

「あはは……それと上位属性も働いていたみたいです。 おそらくこの古城全体に作用しているんだと思います」

 

「ああ……確かにそのように感じたな。 さっきの鐘の音はよく分からないが……」

 

「結界で閉じ込められた以上、力強くでは突破できない。 結界を展開している核をどうにかしない限りはね……」

 

「それは、あの神殿にある青い逆三角形の宝石のような?」

 

「うん。 そんな感じで間違いないよ」

 

方針が決まり、レト達は脱出方法を探しながら男の子達の捜索を始めた。 置いてきぼりにならないようにミリアムはレトの背にピタリとくっつきながら歩き、レトは苦笑しながらも強く離そうとはしなかった。

 

流石に城の構造までは変わっていないようで、レトとラウラの案内によって迷うことなく城の中を探索していく。 時折エマが意味深長な事を言いながらも、道中で出現した魔物を倒して城の中を進んで行く。

 

「あ、あそこに宝珠があるよ」

 

「あそこの梯子から降りられそうだ」

 

「——よっと……」

 

先に進むための宝珠を取るために梯子で下に降りようとすると、レトは何のためらいもなく飛び降り、平気そうに手を振る。

 

「ほら皆、早くー」

 

「あ、あの高さから落ちても平気だなんて……」

 

「はっ!」

 

続いてラウラも飛び降り……普通に着地した。 それを見ていたリィン達は……

 

「……俺が可笑しいのか?」

 

「ち、違うと思います……」

 

「凄いねー」

 

「見事だ」

 

戦慄していた。 気を取り直し、取ってきた宝珠を使って先に進むと……進行方向に魔物の大群がいた。 その大群は、2人の男の子を取り囲んでいた。

 

「——まずい!」

 

今にも襲い掛かりそうな魔物、そして……

 

「——邪魔だよ!」

 

「下がるがよい!」

 

魔物の命令するようにラウラとレトは飛び出す。 レトが跳躍して魔物を飛び越えて2人の前に立ち、ラウラは中心に飛び込み魔物を引き寄せながら回転斬りを放ち、道を開いた。

 

「ラ、ラウラ姉さん!?」

 

「レトさんも!」

 

「よかった、無事のようだな」

 

「最後までよく頑張ったね」

 

「は、はい……!」

 

「レト、子ども達を最優先に守ってくれ!」

 

「了解!」

 

「ううっ……ぶっ飛ばすよガーちゃん!」

 

魔物は数が多いも既に戦闘パターンが割れているシャドウスピリッツ……レトが子ども達の護衛を優先してくれたため、リィン達は一気にシャドウスピリッツを殲滅した。

 

「よし……!」

 

「倒せたようだな」

 

倒した後もしばらく周囲を警戒し……次に子ども達の安全を確認した。

 

「2人とも、お怪我はありませんか?」

 

「は、はい……!」

 

「す、すげ〜……! 姉さん達、めちゃくちゃ強えーな!! まるで昔話の鉄騎隊みたいだったぜ!!」

 

「全く、人の気を知らないで……」

 

「はは……ひとまず無事でよかったよ」

 

エマが2人に怪我が無いかどうか質問するが、腕白そうな男の子……ユリアンは先ほどの戦いを見て興奮気味のようで、リィン達は苦笑した。

 

が、ラウラは笑う事はなく、静かに声をかけた。

 

「いやその前に……2人とも、言う事があるだろう?」

 

「へっ……」

 

「え、えっと……」

 

「……! あ、そうだお礼! ありがとな、姉さん達!」

 

2人は静かに怒っているラウラに気圧されつつも、助けてくれた礼を言ったが……ラウラは彼らの前まで歩き、その礼を否定する左右に首を振った。

 

「そうではない。 大人達に黙って勝手にボートを出して、こんなところに入り込んで……私達が助けに来なかったらどうするつもりだったのだ? そなた達の家族や町の皆が、どれだけ心配したと思っている!?」

 

ラウラの怒号に2人は身を竦ませる。

 

「ぐすっ、ごめんなさい……」

 

「……ごめん、なさい……」

 

「分かればいい」

 

半分泣きながらも自分達の誤ちを謝り、反省しているその姿を見てラウラも安堵したようにユリアンの頭を撫でる。

 

「さて、後はここから脱出するだけだけど……エマ、結界の要はどこにあると思う?」

 

「そうですね……やはり最上階でしょうか。 そこから力の奔流を感じられます」

 

「そうか……手掛かりはそれしかない。 先ずはそこを目指そう」

 

レトに流されるように次第にエマも隠そうとはしなくなっていたが、今はそれどころではない。2人を護衛しながら最上階に向かうと……最上階の広間、そこに不気味に光る宝珠があった。 その周囲には赤い霧のようなものが確認でき、内側から青白い焔が揺らめいでいるように見える。

 

「……あれからだね」

 

「はい……きっと、この異変の元凶だと思います」

 

「あんなもの、以前には無かったはず……」

 

「それにしてもでっけ〜……!!」

 

「結構綺麗かも……」

 

ユリアンとカルノも宝珠を見て忌憚の無い感想を漏らす。

 

「明らかに“何かの力”みたいなものが感じられるな」

 

「あれが原因なら、壊せば何とかなるのか?」

 

「よし。 早速僕がケルンバイターで——」

 

「——僕に任せて! ガーちゃん!」

 

「……え」

 

外の理で作られた剣で破壊しようとすると、早く終わらせたかったのかミリアムはアガートラムを呼び出した。

 

「ちょっと、ミリアムちゃん……!?」

 

「ヘーキヘーキ! ガーちゃんにかかればこれくらい一撃だって! さっさと片付けて、こんなオバケ屋敷からおさらばしよ〜よ!」

 

「ちょ、ちょっと、それじゃあ入り口の時の二の舞に!」

 

「いっけー! ガーちゃん!」

 

止める間もなくアガートラムが拳を球体へと叩き付け……正門の時と同じようにそれを弾かれて吹き飛ばされてミリアムの身体に衝突し、そのまま倒されてしまった。

 

「にゃあああっ!?」

 

「ミリアム!?」

 

アガートラムに押し潰されたように見えたが寸での所で消えた事で大事には至ってないようだ。 フワフワ浮いているから分かりづらいが、もしかしたら軽いのかもしれない。

 

「大丈夫か?」

 

「う〜……結界のこと忘れてた……」

 

「……だから言ったのに。 この宝珠を壊すには外の理で作られた剣、万物を斬り裂く事が出来るケルンバイターじゃないと」

 

「いや、言ってないだろう」

 

「……待て、何か様子がおかしい……!」

 

ガイウスが異常に気付きながら宝珠を見上げ、次いで異変を感じ取ったレト達も顔を上げる。 すると……宝珠から凄まじい力の奔流が引き起こされ、1体の魔物を呼び出した。

 

現れたのはローブをまとい、錫杖をもった巨大な青白い髑髏の姿をもつ半透明な魔物……

 

「あ、あれは……!」

 

「ド、ドクロの魔物……?」

 

不死の王(ノスフェラトゥ)……!? こんなものまで顕現するなんて!!」

 

「あれが伝承にも出ていた……気を付けて、下手したら命を持っていかれるよ!」

 

「今までの魔物とは段違いのようだ……! ユリアン、カルノ、離れていろ!」

 

「ひゃああっ!?」

 

「わああ〜っ!」

 

危険と判断したラウラが叫び、2人が逃げるように走り出す。 ノスフェラトゥに対峙する六人はそれぞれの得物を取り出し、ここから出る為にその戦いを始めた。

 

リィンとラウラが先陣を切ろうとした時……ノスフェラトゥが杖を振るうと、数体のシャドウスピリッツが呼び出された。

 

「なっ!?」

 

「く……仲間を呼んだか!?」

 

「邪魔だよ!」

 

レトは左手にケルンバイターを出現させて掴み、2人を追い抜いて道を塞ぐシャドウスピリッツを斬り払った。

 

「そこだっ!」

 

「アークス駆動……アルテアカノン!」

 

道が開けるとそこへガイウスが風を纏った突きを放ち、次いでエマが空のアーツを発動。 天からの光線がノスフェラトゥに降り注ぐ。

 

「地裂斬……でやあああっ!!」

 

跳躍、一回転しながら大剣を地面に叩きつけ、前方に進行する衝撃がノスフェラトゥに直撃した。

 

しかし、またシャドウスピリッツの増援が呼ばれるが、それらはアガートラムから照射された光線で薙ぎ払った。

 

「今だよ、リィン!」

 

「ああっ!」

 

リィンは納刀しながら接近し、抜刀で胴体を斬った。 それによりノスフェラトゥは咆哮を上げる。 続けてレトが斬りかかった時……ノスフェラトゥは両手を広げてその身を開けてきた。

 

「な——」

 

すると突如としてノスフェラトゥに向かって力が流れ、レトが吸い込まれて行き取り込まれてしまった。 するとノスフェラトゥの力が増し、放たれた衝撃でラウラ達は深いダメージを負ってしまう。

 

「ぐあっ!」

 

「ッ……!?」

 

「レトッーー!!」

 

「あのままでは生気を全て吸い取られてしまいます! 早く助けないと!!」

 

「だったら思いっきりブン殴って吐き出させて——」

 

助け出そうとアガートラムの右拳に力が込められていくと……突然、ノスフェラトゥの腹から剣が飛び出てきた。

 

「な……!?」

 

「あれは……ケルンバイター!」

 

腹から飛び出ていたのは黄金の剣、ケルンバイター。 それが上に斬り上げられ……腹を捌きながら顔をごと斬り裂き、ノスフェラトゥは消滅した。 消滅した後に残っていたのはケルンバイターを頭上に振り上げているレトだった。 かなり不快そうな顔をしている。

 

「うぇ……気持ち悪い……」

 

「くっ……はあっ、はあっ……や、やった、のか……?」

 

「無事のようだな。 しかし凄まじい相手だった……」

 

「……そっか、これって……」

 

「……! 気を抜かないで、来るよ!」

 

「え……!?」

 

脅威を倒したのもつかの間、突如宝珠から異質な力の溢れ出してきた。

 

「ーーまずい!」

 

次の瞬間……レト達は強烈な重圧に押し潰されるてしまう。 後方にいたガイウスは逃れる事が出来たが、衝撃を受けてダメージを負ってしまった。

 

「ぐっ!?」

 

「ひゃあああ!?」

 

「し、しまった……!!」

 

「迂闊でした……! まだこんな力が残っていたなんて……!」

 

「くっ、皆……!」

 

「ラ、ラウラ姉さん!」

 

「レトさぁん!」

 

心配の声がかけられるもどうする事も出来ず、より一層呪縛の力が強まっていく。

 

「あぅっ……!」

 

「ヤバいかも……!? ガーちゃんまで、動けない、なんてっ……!」

 

「——ッ……目覚めよケルンバイター!!」

 

レトは手に持つケルンバイターの力を解放し、形なき呪縛を断ち切った。

 

「レトッ!!」

 

「いい加減に眠れ——」

 

ケルンバイターを宝珠に振り抜き、砕こうとした時……どこからともなく高速で飛来して来たランスが宝珠を貫いた。

 

「……なっ……」

 

「へっ……!?」

 

「……なん、だ……!?」

 

「今のは!!」

 

宝珠にヒビが走り……砕け散ると無数の閃光が飛び散り、展望台のある一箇所に集まって行く。

 

「——!!」

 

レトは光が集まって行く中心にいた人物を目にし、目を見開くと……

 

「待ってください——()()!!」

 

「え……」

 

地面を蹴って跳躍、ラウラ達を置いてレトは去り行く人物を追いかけて行った。

 




プレイした時から額に怒りマークが浮き出そうになった記憶のある、ラウラ好きの三人娘。 後悔はない。

梯子の上から飛び降りる……IIIになれば全員できる。 それが早まっただけのこと?
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